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5章 東の地

第215話 見た目は野盗、心は紳士

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「今アザル兵士長は領主館に篭っているんだよね?中で何をしているのかな?」

『カザン様達の捜索の報告を受ける時以外は......殆ど書斎で調べ事をしているようです。』

「それってカザン君のお父さんの書斎だよね?何を調べているの?」

聞いている限り、あまり自分で調べ物をするタイプって感じでは無さそうだけど......調べ物が上手くいっていないから余計にイライラしているって線もあるか?
刃傷沙汰が絶えないって言っていたし。
本当に普段から特に理由もなくそんな状態の人は......流石にいないよね?

『調べているのはグラニダに関する事よりも領主が個人的に残している手記です。恐らくカザン様達の情報を少しでも得ようとしているのだと思います。』

「なるほど......カザン君達の事を成功例って言う意味を調べたい所だね。アザル兵士長の所属している組織が何を考えているのか、それが分かれば今後カザン君達が狙われない様にする方法も分かるかもしれない。」

『承知致しました。調べます。』

ファラは二つ返事で引き受けてくれたけど......相当難しそうだよね。
まず相手の狙い云々の前に組織の事が何も分かっていないのだから初めに組織の事を調べることになるはずだ。
ファラは当然アザル兵士長の繋がりから組織の事を調べる筈......いや、そもそも組織の事をファラが今まで調べずに放置するはずがない。
だが現時点で組織についてはファラもまだ把握できていないということだし、おそらく領都にはアザル兵士長達以外に組織の関係者はいないのだと思う。
無理難題を押し付けているよなぁ......。
とは言え......今は話を続けさせてもらうか......今度ファラにはまた全力でお礼をしないとな......前はいいチーズとグルーミングだったっけ?

「レギさん達は気になることはありますか?」

「そうだな......その組織の人間はグラニダににどのくらいの人数が入り込んでいるんだ?」

『現在把握できている組織の関係者は八人です。全てが元傭兵団に所属していた者達ですが、傭兵団に所属していた者全てがその組織の者と言う訳ではないようです。』

「あまり多くは無いようだな。」

ファラの返答を聞き、レギさんが呟く。
確かに大がかりな計画のように感じられたから、もっと大勢いるのかと思ったけど思いのほか少ないな。
まぁ潜伏するような感じだから、人数が多過ぎればぼろが出るとかかな?

「その人数でグラニダの各地にある開拓村を襲うのは難しくないか?」

『そちらは調べがついています。グラニダの領内の治安はいいと言ってもやはり野盗に身をやつすものは少なくありません。その者たちにグラニダ兵の鎧を与え襲撃させていたようです。』

「毎回領主が率いていたというのは?」

『軽く変装をしていたようですが......開拓民は領主の顔を直接は知りませんので......野盗に領主と呼ぶように厳守させていたみたいです。』

なるほど......単純な手だね。
仙狐さまの幻惑魔法とかで姿を変えて見せているとかじゃなくって良かった。
幻術系の魔法は偽装や陰謀なんかとは相性が抜群のはずだ......仙狐様にはちょっと悪いと思うけど、そういう使い方の方がすぐに思いつく。

「なるほどな。だが野盗を率いていたというのなら練度についてはどうなっている?襲撃の際、警備の巡回兵を避けることは内通がいるのだから問題ないだろうが......追跡を躱すにはかなりの練度や統率が必要になるだろ?たかが野盗にそれは不可能だと思うんだが......そんなことが出来るなら野盗なんかしなくても働き口はいくらでもある。」

レギさんが次の疑問を口にする。

『一度襲撃を行った野盗は、襲撃後全て処分されています。』

「処分って......それはつまり......。」

『はい、お察しの通り......全ての者が殺されています。』

また随分と......酷い話が出てきたな。
使えそうだからと利用して、使い終わったら足が付かない様に皆殺しね......。
野盗と言うからには犯罪者なのだろうけど......その人を人と思わないやり口は本当に気分が悪くなるな。

「襲撃をした兵を見つけることが出来なかったのは使い捨てられていたせいか......。」

レギさんが不快そうに呟く。
襲撃を行った野盗を殺して......死体は開拓村の犠牲者と一緒に転がしておけば、処分は調査に来た人達が勝手にやってくれるとかって所かな?

「襲撃を行った兵の展開速度と足取りが掴めなかった理由はそういうことか......兵を現地調達しているなら移動するのは指揮を執る数人で済む。組織の者が八人もいるのなら各地に展開することも可能だな。」

「ですが......その野盗を数人で処分するのに一人も逃がさずにって出来るものでしょうか?」

「出来ないことはないんじゃないか?別に正面から戦う必要は無いんだ。野盗が襲撃をしたら......戦利品で飲み食いするんじゃないか?そこに毒でも混ぜればあっという間だろ。」

あぁ、そっか......そういう方法もあるのか。
まぁ毒物って陰謀なんかには付き物なのかな。

「まぁ、野盗にも色々といるが......犯罪者には違い無いからのう。理由があろうと他人から奪って生きていた者達じゃ。殺されたところで文句を言える筋合いはなかろう。毒で死ぬのも剣で死ぬのも、裁かれて処刑されるのも同じ死じゃ。」

陰謀に利用されて用済みになれば殺されるのも同じ死か......。
ナレアさんの死生観......サバサバしているとも言えるけど......。

「妾はどう死んだかよりも、どう生きたかを大事にしたいと考えておる。特に妾達は長い時を生きるからのう。」

そう言って笑みを浮かべるナレアさん。
普段は意識していないけど、俺も神子となって寿命がなくなっている......長い時を生きると言う意味ではこの場にいる誰よりも生きることになりそうだし......生き様か......。

「まぁ、難しいことでは無いのじゃ。死後の世界と言うものが本当にあったとして、先に逝った者達に気持ちよく会えるように生きればいいだけじゃ。」

死後の世界があったとして......元の世界にいる両親に会えるのはそこしかないかもしれないけど......異世界に来てしまっている俺にとっては、異世界の死後の世界なのか......元の世界の死後の世界なのか......興味深くはある。

「まぁ、人生何があるか分からないからねぇ。レギにぃなんて見た目は既に完全に野盗だし、明日にも街道を往く馬車を襲ってもおかしくないよね。」

「誰が野盗だ!」

リィリさんの軽口にレギさんが乗る。
場が一気に明るくなった気がするな。
あまり意識しないようにしていたけど、例え野盗であったとしても殺す殺されるみたいな話は......気分が重くなるね。

「まぁレギさんの見た目については置いておいて......他に気になる所ってありますか?」

レギさんがものすごい表情でこちらを睨んでいるけど......最初に言ったのは俺じゃないので勘弁してくれませんかね?
とりあえずレギさんはさておき......ナレアさんとリィリさんは少し考えるそぶりを見せた後、首を横に振る。

「じゃぁ......今後の方針ですが、とりあえずファラが集めてくれた情報をセンザにいるカザン君達に伝える必要がありますね。」

「そうだな。」

少し憮然とした表情ながらレギさんが相槌をうってくれる。

「マナスから伝えてもらうことも可能ですが......内容が内容なので僕達が直接伝えた方がいいと思います。幸いシャル達ならのんびり移動しても二日もあればセンザまでは戻れますし......急げば一日で戻れますね。」

俺がそう言うとシャルが肩の上で頷く。

「ファラにはアザル兵士長の所属する組織の事、そして何故カザン君達を捕らえようとしているのかを調べて貰います。勿論アザル兵士長の監視は継続して行ってもらうとして、他に調べておいた方がいい情報ってありますかね?」

「そうじゃな......今回の件とは関係ないのじゃが......領主館の書庫にあるらしい黒土の森の情報は......確認できたのかの?」

『......はい、確認しております。』

「ふむ、であれば依頼料の取りっぱぐれは無さそうじゃな。あぁ、ファラよ、内容は言わなくてもいいのじゃ。ケイも聞きたくないじゃろ?」

「そうですね、先に依頼料を貰うのはちょっと問題ですね。それはこの依頼を果たしてから正式にカザン君に貰いたいです。」

俺がそう言うとナレアさん達が頷く。

「それじゃぁ、一度センザに戻るとして......その前に一度くらいは相手の、アザル兵士長の顔を見ておきたいですね。」

センザに戻る前に敵の顔はしっかりと見ておきたい。
チャンスがあればいつでもぶん殴れるようにね。

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