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5章 東の地

第241話 カザンへの報告

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『皆さん、聞こえますか?』

食事が終わり一息ついたところで、魔道具からカザン君の声が聞こえてきた。

「聞こえているよ。おはよう、カザン君。」

『おはようございます。朝早くに申し訳ありません。今大丈夫でしょうか?』

「うん、大丈夫だよ。今丁度食事が終わったところで皆ここにいるよ。」

流石にまだ日が出たばかりと言った時間なので食堂もやっておらず、俺達は夜の間に用意していた軽食を俺の部屋に集まって食べていたのだ。

『ありがとうございます。それで、その......皆さんご無事でしょうか?』

「うん......大丈夫だよ。トールキン衛士長の部下の方が少し怪我をしたみたいだけど、俺達には傷一つないよ。」

『流石ですね......それでその......作戦も無事に?』

「うん、予定通りアザル兵士長の相手は俺が。その部下も全員レギさん達が捕まえたよ。」

『本当にありがとうございます。皆さんのおかげで後顧の憂いを立つ事が出来ました。』

「依頼だからね。気にしなくてもいいよ。それに個人的にも思う所があった相手だし、寧ろやらせてもらって感謝しているくらいだよ。」

『......ありがとうございます。彼は......どうでしたか?』

「レギさん達にも話したんだけどさ、すっごい罵倒されたよ。予想以上に口が悪かったね。」

『あはは、やっぱりそうなりましたか。』

「どこまで本気で言っているのか分からないけどね。後は......聞いていたよりも冷静って感じたくらいかな?印象としては。」

『冷静、ですか。私は彼が戦っている所を見たことがなく、普段の不機嫌そうにしている姿しか知らないので......。』

「普段からあの感じなら......カザン君が言っていた印象も間違ってないのかもね。」

『軍部には慕っている者もいたというのは、強さだけでなくそういう所に気付いているからかもしれませんね。』

少しだけトーンが下がったカザン君の声が聞こえてくる。

「まぁ、第一印象とは少し違うけど、別にいい人物ってわけじゃないけどね。やっぱり人間は多かれ少なかれ強さにあこがれる部分はあるし、軍人ともなればそういう傾向が強いんじゃないかな?」

「上に立つ人間に求められるのは人格だと俺は思うぞ。強くて人格者であれば言うことはないがな......そういう国の顔になる様な将がいると周りを抑えやすいしな。」

『国の顔となる様な将ですか......。』

レギさんの言葉に考え込むような声でカザン君が呟く。
国の顔......三国志とか史記とか戦国時代ものとかには色々いたなぁ......えっと......例えば......あれとか......。
いや、今はそれはいい......決して名前が出てこなかったわけではない。
そういう人か......俺が知っているグラニダの人はトールキン衛士長を除けば皆文官......いや、セラン卿は現役を退いたとは言っていたけど、レギさんにも見劣りしない立派な体格だったし元兵士長って言ってたっけ。
でも新しい体制になって、いきなり引退した人を引っ張り出すって言うのも微妙なのかな?
現在全力で働いている人に向かって言う台詞でもないか......でもなんとなくセラン卿が表立って働くのはカザン君の体制が安定するまでって感じがするんだよね。

「まぁ人材の育成、発掘は政権を取り戻してからの話だな。」

『......そうですね。それで、先ほどの話に戻りますが......。』

「あぁ、ごめん。アザル兵士長だったね。とりあえず情報通り領主館の書斎にいたからおびき出して......街の外まで引っ張っていったよ。」

『街の外まで行ったのですか......。』

「うん、相手も罠とか伏兵は警戒していたみたいだけどね。まぁ別にどっちも仕掛けていなかったわけだけど。」

最初街の外で足を止めた時、アザル兵士長は拍子抜けって表情していたしね。

『グラニダの人間でアザル兵士長の実力を知らない人間は皆無と言ってもいいですからね。ダンジョンを攻略した際に大々的に祭り上げましたし......。』

......あの時のお祭りみたいな感じの事をグラニダでもやったのかな?
あれは緊張したなぁ......。

「ダンジョン攻略と言えば......あまりグラニダには戦闘用の魔道具が普及しておらなんだかの?」

ナレアさんがふと思い出したという感じにカザン君に質問をする。

『そうですね、魔術師が少ないと言うこともありますが......父の方針で、まずは民の暮らしの為に魔晶石は使うべきという感じでしたので。辺境軍には外勢力の対応の為にそれなりに配備されていますが、領内を守る兵にはあまり配備されていませんね。』

「なるほどのう。あぁ、すまぬ。話の腰を折ってしまったのじゃ。」

「いえ、それでアザル兵士長との戦闘だけど......。」

俺はアザル兵士長との戦闘について話した。
序盤の様子見から一転してボディ狙い......そしてマナスの暴れっぷりと。

「「......。」」

何故か皆が顔を顰めている。
そんな顔をされる程酷いことをしたとは思わなかったのだけど......。

「聞いているだけでお腹が痛くなってくるのじゃ。」

「うんうん、それになんだか息苦しいかも。」

「頭を打たれるのとは違って意識を失えるわけじゃないからな......相当な苦しさだったと思うぞ。」

口々に苦しさを訴えてくる三人。
まぁ......俺もマナスが殴っている時は似たようなことを考えたので気持ちは分かるけど。

「ケイは思っていたよりも陰湿じゃなぁ。」

「う......。」

それも我がことながら思いましたけど......。

「ケイ君には恨まれない様にしないとねぇ。」

「ひたすら悶絶を狙ってくるからな。きっと悶絶した相手を見下ろしながらにやにやしていたんだぜ。」

「いやいや!そんなことないですよ!」

何故かディスられ始めた。

『生きている方が辛いことってありますよね。』

そこまで!?
そこまでひどいことはしていない......よね?
ショックを受ける俺を他所に、リィリさんが俺の肩に乗っているマナスに手を伸ばす。

「マナスちゃんも、あんまりケイ君の真似しちゃダメだからね。」

そう言ってマナスを手の中でムニムニするリィリさん。
いや、確かにマナス達の教育に悪いなぁとは考えていたけど......なんかこう......他の人に言われると納得しがたいというか......。
そんな憮然とした表情を読み取ったのかナレアさんがこちらを見てニヤニヤしている。
よし......とりあえずこの話を終わらせよう。

「まぁとりあえず、そんな感じでアザル兵士長は特に問題なく制圧。武装解除してトールキン兵士長の部下の方に引き渡したよ。」

『ありがとうございます。私も直接アザル兵士長と対峙する気はなかったと言えば嘘になりますが......ケイさんが代わりにアザル兵士長の相手をしてくれたのは嬉しかったです。』

「カザン君の希望に沿えたかは分からないけど、カザン君の分って思いながらねじ込ませてもらったよ。勿論ノーラちゃんの分もね」

『......ありがとうございます。きっと私が一撃入れるよりもどぎつい一撃だったと思います。』

カザン君が苦笑するような声で言ってくる。

「まぁ、アザル兵士長に関してはそんな所だね。後は尋問で有益な情報を得られれば文句無しって感じかな。」
俺はそう言って話を締めくくった後、思い出したように言葉を続ける。

「そう言えば、ナレアさんがアザル兵士長の部下の人に愛を囁かれたらしいよ。」

「気色悪いことを言う出ないわ!」

俺だけディスられるのは納得がいかないし、面白ネタは共有するべきだ。

『あ......愛をですか?』

「変わった人もいるもんだよね。」

『そのような人物がいたのですか......。』

「......ケイよ。それは妾に愛を囁く人間は変わっていると言っておるのじゃな?」

......ナレアさんから未だかつて感じた事のない怒りのようなものを感じる。

「いえ!違います!そんなわけないじゃないですか!」

「カザン......妾にそのようなことを告げる人物がいるのが珍しいのかの?」

『勿論そういう意味ではありません!戦闘中にそのようなことを言える精神性を私は言いましたが......ナレアさんはとても美しい方ですから、例え戦闘中で対峙している相手であったとしても口に出してしまったのかもしれませんね!』

しまった!
カザン君のリカバリーが上手い!
このままだと......!

「ふむ、まぁいいじゃろう。それでケイは一体どういうつもりで言ったのかのう?」

「そ......それは勿論......な、ナレアさんはとてもか、可愛いですから。その......仕方ないかなぁと。」

俺はナレアさんの冷ややかな視線を受けつつ、しどろもどろになりながらなんとか言い訳を続けた。
何故俺が仕返しを企むと毎回こうなってしまうのだろうか......?

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