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7章 西への旅路

第357話 誰が見つけるか

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「さて、ハヌエラの部隊が集めた情報によると、この辺り一帯の動植物が採取されておったようじゃが......レギ殿、痕跡とか分かるかの?」

ワイアードさんが村の猟師から教えてもらった情報と騎士団の方々が探索した情報をもとに、俺達は森の入り口に来ていた。
入口と言ってもここから先が森ってだけで、道があるわけじゃないけど。

「あぁ、大丈夫だ。森の浅い部分だけあってまだ分かりやすい。とは言え、騎士が森に入っちまってるからな......どちらの痕跡なのかは判断が付きにくいところではあるが......。」

ナレアさんの質問に、屈みこんで草木の状態を確認していたレギさんが顔を上げ返事をする。

「妾はこういった依頼を受けたことがないのでのう......あまり力になれぬかもしれぬが、手伝えることがあったら教えて欲しいのじゃ。」

ナレアさんが頬を指で掻きながら申し訳なさそうにレギさんに言う。
しかし、俺も決して他人事ではない。
俺も森での仕事なんてやったことはない。
一応母さんから森での戦闘や狩り、追跡術なんかは習っているけど......正直、成績的にはあまりよくなかったと言わざるを得ない。

「まぁ、こういうのは経験だからな。魔物を討伐するような依頼で探し回らないといけない類のやつは、とにかく時間と根気が必要だからな......いやでも覚えるってもんだぜ。」

「妾は基本的に依頼を殆ど受けないからのう......余程切羽詰まった時くらいじゃろうか?」

「あはは、ナレアちゃんは色々とお金を稼ぐ手段がありそうだからねぇ。冒険者としてはかなり特殊だろうねー。普通駆け出しの頃って人が嫌がる仕事をお金の為にやらなきゃいけない事って多いから。」

「やはりその手の依頼は人気がないのですね。」

皆の話を聞き俺が感想を漏らすと、地面の状態に目を凝らしていたレギさんが苦笑しながら言う。

「まぁな、相手によっちゃぁ報酬は悪くないが......基本的に長期に渡ることは多いし精神的な疲労も多い、前にも話したことはあると思うが......通りすがりの冒険者に討伐されたりしてた日にはもう......。」

トラウマを刺激されたのかレギさんの目から光が消えていく。
確かかなり前にそんな話を聞いたことがあったっけ......その時は一か月くらい魔物を追っていたとかなんとか......。

「まぁ今はそれはいい。ところでケイ。ファラはもうこの森に入っているんだろ?」

「はい。今は配下を増やしながら探索を進めて行ってくれています。」

「そうか、まぁこちらも手を抜くわけじゃないが、ファラが調べてくれているなら探索もなんとかなりそうだな。」

「そうだねー。いくら賢くて警戒心が強いゴブリンでも、ファラちゃん達の目を掻い潜れるとは到底思えないよね。」

「うむ、相手がこの森にいるのであれば発見は時間の問題じゃろうな。」

皆がファラを手放しで信頼して褒めてくれるのを見ると嬉しくなってくるね。
まぁ、ファラ達に比べて自分が全然役に立てないのは歯がゆく感じないでもないけど......まぁそれはそれこれはこれだ。
俺が一瞬の葛藤にケリをつけていると、しゃがみ込んでいたレギさんが立ち上がって俺達の方を見る。

「よし、とりあえず騎士団とは別の動きをしている痕跡があったからそれを追ってみるとするか。ナレア、俺達が発する音、足音や布ずれの音、話声あたりを外に漏らさない様にって出来るか?」

「問題ないのじゃ。一切の音が消えてしまうと不自然かもしれぬから、風によって発生する音や虫の音なんかはそのまま通す様にしておくがそれでもいいかの?」

「あぁ、十分過ぎる程だ。頼む。」

「了解じゃ。」

ナレアさんがいとも簡単に無茶苦茶なことを言っている気がするけど......カザン君の家の中庭で凄い事やってたからなぁ......ナレアさんにとっては簡単な事なのだろう......。

「これで妾達が発する音は妾達以外には聞こえないのじゃ。姿も隠すことは出来るが、ファラがこちらを見つけることが出来なくなってしまうかもしれぬからのぅ。こちらからファラを見つけることも難しいじゃろうし......とりあえず姿はこのままでいくが良いかの?」

それを証明するかの如く、あっさりと遮音出来たと報告してくるナレアさん。
音を完全に消すくらいなら俺にもできるけど......森の中でそれは逆に不自然なのだろうね。

「あぁ、音を消してもらっているだけで充分だ。もし姿も消す必要が出た場合はその時に頼む。」

そういってレギさんが先導して森の奥へと足を進める。
俺達は周辺を見渡しながらレギさんの後を着いていく。

「シャル。周囲に魔物は?」

『私の感知範囲には何匹かいます。群れではないようですし、一匹一匹もあまり強い魔物はいないようです。案内いたしますか?』

「レギさん。この辺りの魔物をシャルが感知出来ているみたいなのですが、向かいますか?」

「それは助かるな。相手に気付かれない様に近づけるか?」

『私とケイ様であれば問題ありません。全員となると......。』

音は消しているけど、姿は見えているし、臭いや魔力なんかでも気づかれるのかもしれない。
後は蛇みたいに熱源感知みたいな能力を持っている魔物もいるかもしれないし、気づかれない様にってのは難しいか。
俺とシャルならって言うのは......どういうことだろうか......?
俺一人くらいならシャルがサポートできるってことかな?

「......この人数で気づかれない様にと言うのは少し難しそうですね。相手の魔物の特性も分からないので......。」

「まぁ、それはそうだな。無理を言ってすまねぇ。」

「ふむ......全力で認識できない様にするかの?恐らく出来ると思うが......いや、魔力視を誤魔化すことがまだ厳しいのう。ただの魔力視なら問題ないのじゃがケイ達からの隠蔽は難しいのう。」

「まぁ、僕達と同じことを出来る魔物が居ないとは限りませんが......今回誤魔化すのは僕達じゃありませんからね?」

「......その内越えてやるのじゃ。」

いや、今は対抗意識を燃やさないでください。
というか、ナレアさんの幻を見破れるように俺も研鑽を積まないといけない気がする。

「......いや、今はそれはいいだろ?何二人して決意固めた感じになっているんだよ。」

「仲良いねー。」

俺とナレアさんのやり取りを見たレギさんが呆れたように、リィリさんは少し嬉しそうにコメントする。

「まぁ、ケイを突破するのはさておき......魔物にある程度近づいたら妾とケイだけで魔物を確認してくると言うのはどうじゃ?二人ならば不測の事態が起きたとしても問題なかろう。」

「そうですね、分かりました。ところでレギさん、魔物を発見した場合討伐しなくてもいいのですか?」

「まぁ、別に討伐する必要は無いと思うぞ?騎士団がどうしたいかはさておき、ここは人里から少し離れた森の中だからな。村に害を及ぼしているわけでもないし、俺達が襲われたわけでもない。魔物と言っても静かに暮らしているだけだからな。」

「なるほど、それはそうですね。」

森の中で平和に暮らしているだけの魔物を狩る必要性は何処にもない......というかこちらの方から住処に乗り込んで殺すって、自分で言っておいてなんだけど押し込み強盗的な感じがするよね。
生活の為に狩るって言うのとも違うしね。

「では、いらぬ虐殺をしなくていいように、こっそりと調べに行くとするかの。」

「......了解です。シャル、案内をお願いして......あ、その前にレギさん、もしシャルの案内する先がレギさんの見つけた痕跡からズレていく場合はどうします?」

「そうだな......その場合は俺とリィリは痕跡から逸れる場所で待とう。魔物の確認が終わったら戻って来てくれ。森の中だが、戻ってこれるよな?」

「シャル達が居るので大丈夫です。合流は問題ありません。」

俺がそう言いながらシャルの方を見ると問題ないと言うように頷く。

「よし、じゃぁそういう塩梅でいこう。一応言っておくが、危険を感じたらすぐに戻ってこいよ?」

「分かりました。じゃぁ、シャル改めてよろしく。」

「承知いたしました。」

レギさんの方針に従って森の探索を進めていく。
でも正直に言って、ファラより先にターゲットを発見出来ると微塵も思っていなかった。

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