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8章 魔道国

第405話 落ち着いた

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「......なるほど。先代の魔王様でしたか。」

「む......その反応はちと微妙じゃのう。」

俺の反応が薄いことにナレアさんが不満を漏らす。

「まぁ、その......すみません。その前に散々驚いてしまったので......そこは流石に予想出来てしまっていたと言いますか......。」

「ちっ......髭のせいで、妾が長い事温めて来た秘密が微妙な反応になってしまったのじゃ。」

「母上!お待ちを、なんだか先程から不自然な程の強風で吹き飛ばされまくっているのですが!?」

ナレアさんが、起き上がって来たルーシエルさんに手を翳そうとしたところで待ったが入る。
そう言えば、テンパりまくっていたせいで色々と忘れていたけどルーシエルさんが居たのだっけ。
ってちゃんと挨拶しないと。

「ルーシエル様。ナレアさんにはいつもお世話になっています。ナレアさんの幅広い知識と優しさにはいつも助けられています。」

「......優し......?いえ、年甲斐も無く傍若無人に振舞って迷惑をかけていないかとしんぱにゅ!」

変な悲鳴を上げながら、もう何度目か分からないけどルーシエルさんが吹き飛ばされる。

「髭、いい加減にせんと、そろそろ温厚で優しい妾も本気でしつけをせねばならぬのじゃが?」

「......先ほども言いましたが、その攻撃は何なのですか?一体どんな魔道具を作ったのですか?」

「ほほ、お主には妾が魔道具を使っているように見えるのかの?」

ナレアさんがそう言った瞬間、ルーシエルさんの目がスゥっと細くなる。

「確かに......魔道具を使っている様には見えません。一体それは......?」

「うむ。無論、教える気は全くないが。」

「ばばぁ!てめぇ!いい加減にしろよ!」

「......今代の魔王は随分と短い在位じゃったな。死因の希望はあるかの?」

「はっ!どこぞのばばぁみてぇに百年も二百年もこんな仕事やってられっか!むざむざ殺られたりはしねぇが......万が一俺が死んだら、次の魔王はてめぇだ!ばばぁ!」

「ほほ、お主が死んだらちゃんと髭からゾンビとして蘇生してやるのじゃ!当然魔王もゾンビのままやらせてやるわい!」

なんかギャーギャーと言い合う親子だが......。

「......二百年?」

「......あ。ち、ち、違うのじゃ!ケイ!あやつまだ六歳じゃから数がちゃんと数えられんのじゃ!妾は......二年くらいしかやっていないのじゃ!妾はまだ十六じゃ!」

俺の呟きに反応したナレアさんが、捲し立てる様に言ってくるけど......いや、あの......それは流石に嘘だと分かりますよ......?

「いえ、ナレアさん。僕はそういうのは特に......。」

気にしていないと伝えようとした所、ルーシエルさんが疑問符を浮かべながらナレアさんに問いかける。

「あの、母上?先程から様子が......何か企んでいる......と言うよりも......その、何と言いますか......。」

「な、なんじゃ......気色悪いのう。」

「い、いや、その......気のせいかもしれないのですが......えっと、ケイ殿と......何か、ございましたか?」

「な、何かって何じゃ!?何もないじょ!」

「ま、まさか......母上......こんな若い方を騙して......!?」

「人聞きの悪い事を言うでないわ!」

この二人はずっと喧嘩しているな......。
いや、まぁ俺が原因な気もするけど。
俺はあまり内容を耳に入れない様にしていたが、二人の言い合いは暫く続いた。

「......はぁ、不毛じゃ。一先ずやめぬかの?」

「し、しかしですね!?」

若干息切れをしている二人だが、ナレアさんが止めようと声を掛ける。
ルーシエルさんの方はまだ言い足りない様だけど......。

「ルル。お主が来たせいで色々と予定が狂ってしまったが......妾は真剣じゃ。」

「......すみません、母上。」

真剣な表情で二人が見つめ合ったあと、ルーシエルさんがソファから立ち上がる。

「ケイ殿、突然飛び込んできた上お見苦しい所お見せしました。今更ではありますが、私は少し席を外そうと思います。また後程、お話をさせて頂きたいと思います。」

「あ、はい。分かりました。」

意識して会話の内容を聞かない様にしていたので少し反応が遅れたが、挨拶を返すとルーシエルさんは部屋を出ていく。
その姿を見送った後、ナレアさんがこちらに向き直り申し訳なさそうな表情になる。

「その......ケイよ。色々とすまなかったのじゃ。本当はもう少し段階を踏んで説明しようと思っておったのじゃが......。」

「いえ、まぁ、驚きましたけど......。」

「ふぅ......本当は養子がいる事を先に伝えて......と考えておったのじゃが。まぁ、すっかり忘れておって、伝えねばと思ったのはつい先ほどの会議中なのじゃが。」

ルーシエルさんが突然話を切り上げたみたいなことを最初言っていたけど......もしかしてそれが原因?

「まぁ、お子さんがいらっしゃった事の衝撃が強すぎて、他の事への反応が薄くなってしまいましたね。」

「無念じゃ......正直そこはどうでも良かったのじゃが。」

横に座るナレアさんがしょんぼりと肩を落とす。

「えっと、お子さんがいらっしゃったことは、そんなにどうでもいいことでは無いと思うのですが......。」

「養子と言っても妾が育てたわけではないからのう。まぁ、子供の頃から知ってはおるがの。」

「そうだったのですね。えっと......六歳じゃないですよね?」

「う、うむ......まぁ、もうちと上だと思うのじゃ。正確には......覚えておらぬが。」

「お母さんがそんなことでいいのですか......?」

「ま、まぁ、養子に取った時には既に成人しておったしのう。」

ナレアさんが頬を書きながら答える。

「何故養子に?」

「魔王を継がせる為じゃ。あやつは、妾の従妹の子供でな。養子にせずとも別に良かったと思うのじゃが......まぁ色々と面倒が多い立場じゃったのでな。」

魔王は世襲制ってことだろうか?

「そうだったのですか。あの、ナレアさんの他のご家族の方は?」

「ほほ、妾の血縁で未だ存命なのはあの髭と後はその娘くらいじゃな。」

「それは......すみません。」

「ほほ、気にしなくて良いのじゃ。もう随分昔の話じゃし、皆しっかりと天寿を全うしたからな。」

そう言いながら柔らかく微笑むナレアさんだったが、その後少しだけ気まずそうな表情に変わる。

「あー、その......ケイよ。じ、実はの?......その......。」

何かを物凄く言いづらそうにしているけど......何だろうか?

「ナレアさん?」

「う、うむ......御母堂の聖域でした話の事なのじゃが。」

ナレアさんがそう口にした瞬間、体の中に氷が突き刺されたような......ヒヤッとした感覚に陥る。

「あ......はい。」

一瞬にして口の中がカラカラになる。
この部屋で一人待っていた時の緊張が何でもない様な事のように感じる。
あの程度の緊張で俺は何を参っていたんだ......!

「あの時......妾は答えを保留させてもらっていたが、一応理由が二つ程あっての......?妾が元魔王と伝えずに答えを言うのは良くないと思ったのが一つ。まぁ、こっちは驚かせたいというのもあったがの......。それともう一つなのじゃが......。」

ナレアさんが深刻な表情で言葉を続ける。
それは酷く怯えているようにも見えて......そんなにつらいのなら言わなくてもいいです、と言いたかったのだが、それはナレアさんの身振りで止められる。

「じ、実は......妾が......じゅ......十六歳というのは......嘘じゃ。」

......ん?

「......。」

「......?」

「......。」

「......えっと......?それがどうかしましたか?」

「い、いや!その!実はかなりの高齢なのじゃ!妾は魔族の中でも殊更長命で......。」

「母さんと同じくらいですか?」

「高齢過ぎじゃ!十分の一もいっておらぬわ!」

「あ、すみません。ところで、その......それが何故保留の理由に?」

「いや、年齢は大事じゃろ!?それを偽っておったのじゃぞ!?」

「え?いや、特に気になりませんが......そもそも僕なんて年齢があってないようなものですし......。」

年齢が問題だというなら、俺が世界で一番アウトなんじゃないだろうか?
あ、違うか。
たかが年齢の事とは言え、嘘をついていたことを引け目に感じていたってことか。

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