【完結】俺の番には大切な人がいる

ivy

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俺の番には大切な人がいる㉓ 〜直人視点〜

街が夕焼けに染まる頃
匠から会いたいとメッセージが来た。

ユキくんが伝えてくれたんだろう。
怯えさせて自らの手で身体を傷付けるような真似をさせたのに

ずっと違う名前、それも匠にとって一番聞きたくない名前で呼ばれて側にいるのもつらかっただろうに

匠は俺に会いたいと言ってくれた。

謝っても謝りきれない。
償う方法なんて考えつかない。






もう十分だと思った。






俺の記憶ははっきりしている。
正確に言えば不審な物音に気付いて匠の部屋を開けた時。

むせかえる血の匂いと死んだように動かない身体を見て事故を思い出した。

揺さぶっても目を覚さない様子に慌てて救急車を呼び電話の相手の指示通りに傷より上をタオルできつく止血する。


救急車が到着するまでの時間は永遠に感じるくらい長かった。

その間に混乱した頭の中を少しずつ整理すると今まで不自然に感じつつ見ないふりをしていた事の辻褄が全て合い


俺はずっと匠のことを優斗だと思いこもうとしていた事に気が付いた。



なんという酷いことをしたんだろう。
匠にもそして優斗にも。

優斗の死を受け入れられず
匠を優斗と呼んでのうのうと生きていた。


その頬に涙の粒をはらはらと零しながら自分を捨ててくれと言った優斗に何があっても側にいると誓ったのに・・・。











優斗と初めて会ったのはまだお互い中学に上がったばかりの頃。

αの中でも最上級の力を持つ俺は家柄の格式と相まって同級生からも恐れられ近づいてくるのは権力目当ての奴ばかりで人付き合いを一切しない人間だった。

そんな俺を見かねて夏休みに大久保が優斗を遊び相手にと連れて来たのだ。


優斗は気が強く俺にも平気で説教をするような奴だったけどそれが面白くて俺はどんどん奴に魅かれていったことを覚えている。

そして大学を卒業する頃には一生を誓い合う仲になっていた。


あの頃は幸せだった。
お互いがお互いだけを見ていれば良かった。

けれど大人になり社会に出ればそれだけでは生きていけない事を知る。

2人の仲を家族に認めてもらう事は難しく
散々争い家を出る覚悟までした時
優斗に病気が見つかった。

その難病は治療方法が無く長い時間をかけて身体を蝕んでいくもので高額な治療費がかかる。

それはなんの後ろ盾もない若い2人には到底払える額ではなく
俺たちは親父の条件であるΩと結婚して子供を作る事を受け入れた。



優斗はずっと匠を気にしていた。
寂しい思いをさせるなとよく怒られた。
本当に不安で寂しかったのは自分の方なのに。

その証拠に匠と結婚後、優斗はΩに変化した。

滅多に起こる事ではない。
現にどういったメカニズムで後天的に第二性変化が起こるのか解明されていない。

けれどαを愛し愛されて心からΩになりたいと望んだベータに後天性の変化が多いという事はΩであれば俺の子供を産めたのではという儚い想いが原因ではないだろうか。

ただその性変化は優斗の体に負担をかけ病気を更に進行させる結果になった。


後天的Ωは子供ができるわけでもないのに
それでも性変化するほどに俺の側にいる事を望んだ優斗。

事故がなくてももう長くは生きられなかった彼を


心弱い俺は裏切ったんだ。



ちゃんと優斗に会って謝ろう。

ごく自然にそんな風に考えて立ち上がり
部屋の鍵を手にしたところで

もうこの世のどこにも優斗はいないんだ
2度と謝ることも会うことも出来ないんだと

唐突に気付かされて




初めて
死んだ優斗を想いただひたすら泣いた。









次の日の朝

俺は約束の時間に間に合うように匠の病院に着いた。
病室の場所を聞くためにナースステーションに寄ると手術室で会った看護師がいた。

声をかけると向こうも覚えていたようでにこやかに対応してくれる。

「面会が終わったら声かけて頂けますか?ご夫婦揃って聞いて頂きたい話があるんです」

「なんの話ですか?」

今後の治療方針か?

「お腹のお子さんの話です。まだ3ヶ月ですが今でも出来る検査があるので」

お腹の?子供?

俺は曖昧な返事をして病室に向かって歩き出した。

子供・・3ヶ月?

匠が家を出てからもう5ヶ月近く経つ。
一緒に暮らすようになってからも2人の間に体の関係は無かった。

では誰の・・

そこまで考えて匠が入院した夜のことを思い出した。

「匠は俺の運命の相手です」

確かに晃くんはそう言った。
匠を幸せにしたいとも・・。

では2人は。

とっくに戸籍上は他人だ。
そんなことになっていても不思議はない。


こんな状態でも一途に俺を好きだと言う匠を今度こそ人生をかけて幸せにしようと思っていた。

けれどもう必要ないのかもしれない。
俺は踵を返し元来た道を戻る。





最後に匠に償いをしよう。
そう考えながら。





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