人質の花嫁は獣人王と恋がしたい

ivy

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二人の夜

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「スウ様お疲れになったでしょう?少しお休みになって下さい。夜はテオドア王がこちらに来られますからお支度の時間になったらお声をかけますね」

テオドアがここに?お支度?
ああ、初夜という奴かな?
僕には興味は無さそうだけど後継は必要だもんね。

スウは女官長に分かったと返事をしてベッドに横になった。


ニア国にいた時は兄王子とチェスをしたり庭師とバラの様子を見たり城の砦に登り街を見て過ごした。
そんな日常を今度はテオドアと過ごせると思っていたけどさっきの態度でそれは難しいのだと知った。

何か嫌われるような事をしたんだろうか。
それとも人質と仲良くなる気なんてないのだろうか。

もやもやと考えても答えは出ない。
自分は今自分に出来る事をしよう。

そう思い一眠りしようと目を閉じた途端、ドアノックの音がした。

「ラウラ?どうしたの?」

ドアから覗かせた黒い耳が遠慮がちに部屋に入って来る。

「テオドアからの言伝で」

ラウラにしては珍しく何やら言いにくそうにしていた。

「その、テオドアが忙しくて今夜は来られないと」

「ああ・・」

そうなんだ。
でも仕方ない。

「分かった。ありがとうラウラ」

これで心置きなくゆっくり休める。
そう思わないと辛すぎる。

初めての夜に着るはずだった夜着が部屋の端にかけられていた。
絹のように繊細な糸で編んだ真珠色で光沢のある少し透けたとても綺麗な着物だ。
襟元にはニア国とマノイ国の旗の色が刺繍されていた。

あれを着る日はもう来ないかもしれない。
そう思いながら眠ろうとした時、ラウラがベッドに近づいてきた。

「どうしたの?」

「スウに話がある」

「なに?」

「きつい事を言うかもしれないけど後で他の人から耳に入ったら余計につらいと思うから」

「うん?」

「テオドアは戴冠した時に後宮を充てがわれてて世界中から集めた美姫達がいる」

「・・うん」

それは仕方ない。
王には後継が必要だから。
でもそれなら僕の存在に理由はなくなる。
結局人質としてしか扱われないって事だ。

「だから、これからもここに来る事は無いかもしれないとだけ言っておく。待つのはつらいから」

「ありがとうラウラ」


もうあまり悲しくはない。
心が麻痺してしまったようにやっぱりなと言う思いだけだ。

「スウ・・」

「ごめん眠いから一人にして」

「・・分かった」

スウは薄暗くなった部屋で一人、目を閉じる。
眠気など全くない。
それでも何とか眠ってしまえば目が覚めた時にニア国にいるかもしれない。

それならああ、夢だったのかと、父王に笑って話せる。

それだけを希望にスウは僅かに垣間見えた眠りの淵を必死で捕まえようと足掻いた。










「スウが?」

テオドアは側近の言葉に振り返った。

「今夜は来るなと言うことか?そんなに体調が悪いのか」

今日はスウときちんと話をして自分の気持ちを伝えようと思っていたのに。

「そのようです。気疲れされたのかもしれません」

それは自分のせいではないだろうか。
テオドアは婚礼の時の自分の態度を猛烈に後悔した。
油断した時に触れたスウの柔らかい手。
自分の鋭い爪や硬い毛で傷付けなかったかと背筋が凍った。
そのせいで咄嗟に振り払ってしまったが嫌な思いをさせただろうか。
スウは式の間中泣きそうな硬い笑顔を顔に貼り付けていた。

俺は何をしてもスウを傷付けてしまう。
ため息をついて窓の外を見た。

この間見かけたスウはラウラの前でとても楽しそうに笑っていた。
思わず見惚れるほどの笑顔に嫉妬と諦めが混じり息をするのもつらかった。
スウはきっと自分よりラウラに惹かれている。
それを認める事も苦しかった。


そう思い悩んでいると気持ちが昂り背中がむず痒くなる。

どうせ今夜はスウの所には行けない。
獣の姿になって庭を散歩しよう。
テオドアは服を脱ぎ唸り声を上げて獣の姿に変化すると窓から庭に飛び出した。





どこからか遠吠えのような声が聞こえた。
スウはベッドからそろりと起き上がる。
この前助けてくれた狼の声に似ていた気がしたのだ。
上着を羽織り庭に出る。
夜は夜で咲く花がある。
それらを見ながら気持ちを癒していると目の前に狼がいた。

こちらをじっと見ている。
とても大きな狼。
不思議と怖くないのはしっぽがパタパタと揺れているからかもしれない。

スウは嬉しくて狼に駆け寄った。

狼はスウを見上げると鼻を寄せて頭をスウに擦り付ける。
まるで撫ででくれと言うかのように。

スウは太い首を抱きしめ背中を撫でながらこの前のお礼を言った。
人の言葉がわかるのか狼は大きな尻尾をゆさゆさと振りスウの足に巻き付ける。

暖かい。

この国に来て初めて暖かいものに触れた。
スウは嬉しくてその目から涙を溢れさせる。
そんなスウの顔を大きな舌でペロリと舐めた狼は暖かい毛皮で抱き締めるようにスウをすっぽりと包んだ。

スウは何も言わない。
もちろん狼も。

それでも二人は黙って抱き合い、いつまでも星空を眺めていた。









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