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スウの諦め
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マノイ国に来て一ヶ月。
ラウラの言った通りテオドアがスウの元を訪れる事は無かった。
そんなスウを気遣ってかラウラはスウを城の様々な場所に案内した。
それは歴史のある図書館であったり針子達が働く縫製室だったり料理を作る厨房まで多岐に渡った。
今日は珍しい花が咲いている温室に案内すると初めて通る廊下を歩いている。
銀のたてがみの狼はあれから二度ほど見かけたがラウラに「あの狼は気性が荒いので近づかないように」と言われ、会っても遠くから眺めるのみだ。
そんな風には見えなかったしもう一度あの毛皮に包まれたいと思ったが近づくなと言われれば守るしかない。
ここは自分の生まれ育った国では無いのだから。
廊下を抜け小径を少し歩き辿り着いた温室はとても素晴らしく、塞ぎがちだったスウの心を優しく宥めた。
外気に晒されずマノイ国の特徴である昼の時間が長いと言う利点もあり気温の高い国の植物が植えられていて初めて見るものばかりだ。
ゆるゆる歩いていると奥まった場所に果物の植っている別の温室があった。
外から見るだけでも美味しそうな果実が鈴なりになっていてとても興味を惹かれたが悪戯避けなのか鍵が掛かっており中には入れない。
がっかりと外から眺めるスウを見てラウラは笑いながら鍵を取って来ると城に戻って行った。
申し訳ないと思いながらも瑞々しい果実の誘惑には勝てない。
ラウラが戻るまで他の花を見ていようと庭に一歩踏み出した所で目の前に大きな影が立ちはだかった。
「テオドア・・」
驚きに目をまんまるに見開くスウと無表情のテオドア。
最初に沈黙を破ったのはテオドアの方だった。
「・・体調はもういいのか」
「・・?はい、元気ですけど」
「なら何故・・」
何かを言いかけたテオドアは言葉を飲み込み頭を振った。
立派な尻尾はだらりと垂れ全く動かない。
「こんな所で何を?」
「ラウラに温室を案内してもらってました」
「・・そうか」
興味なさそうにそう言ったきり黙ってしまったテオドアの横に綺麗な女性が寄り添っている事にスウはその時気が付いた。
「テオドア様もういいでしょう?早くお部屋に行きましょう?」
色っぽい声でそう囁かれるとテオドアはスウにはもう目もくれずその場から立ち去ってしまう。
やはりラウラの言ったことは本当だったんだ。
後宮には沢山の美姫がいてスウなどお呼びではない。
振り向いてスウを見た姫の勝ち誇ったような顔がその証拠だ。
今から二人は夫婦のように愛を交わすのだろう。
それはスウには一生与えられないもの。
スウはこれからここでずっと一人で生きていく。
何不自由のない柔らかな檻のようなその場所で自分は何のために生きるのだろうと悲しい気持ちになりながら立ち尽くした。
スウだ。
久しぶりにあんな近くでスウに会えた。
テオドアは少年のように気持ちを浮き立たせた。
思いがけず顔を見られた喜びとやはり体調が悪いと言うのは嘘でラウラと一緒にいたいだけだったと思い知らされた絶望と。
けれどやはりスウは可愛らしい。
驚いた顔も愛らしくて笑ってしまいそうだった。
せめて獣の姿であれば側に居られるかと思ったが最近は近づいてもくれなくなった。
あれは自分だと気付いたからなのか。
二人で見た月はとても美しかった。
あのまま時が止まればと心から願ったがもうあんな日は来ないのだろうか。
「テオドア様」
物思いに耽っていると隣にいたセツ姫から咎めるように名前を呼ばれた。
「テオドア様、私といる時は私のことだけ考えて下さい」
そう言って肩に寄りかかり甘える。
「・・セツ姫歩きにくい。離れてくれ」
そう言うと姫はムッとしたように渋々体を離した。
「セツ姫、何度も言っているが私はあなたと情を交わすつもりはない。男性であるスウを正妻にしたので世継ぎのために大臣達が勝手に後宮を作っただけだ。」
「わかってます!」
キッとテオドアを睨むその顔は悔しそうに歪んでいる。
本来であれば正妻として迎えられるべき身分の自分が後宮に降りたばかりか寵愛を貰えない事に酷く自尊心を傷つけられているのだろう。
それは分かる。
分かるが自分はスウしか愛せないしスウしかいらない。
テオドアはため息をつきセツ姫を後宮まで送り届けて自室に戻った。
中庭を見渡せるバルコニーに出てみるとスウとラウラが楽しそうに部屋に戻るのが見えた。
胸がズキリと,痛む。
少しでいいこちらを見て欲しい。
そんな願いが聞き届けられたのか不意にスウが空を見上げ、テオドアと視線が絡んだ。
突然のことに心臓が弾けたように高鳴る。
けれどスウは一瞥しただけですぐ視線を逸らし見えなくなってしまった。
その横には人間に近い容姿のラウラが寄り添っている。
とてもお似合いの二人に見えた。
テオドアは部屋に戻り窓を閉め厚いカーテンを引いた。
ラウラの言った通りテオドアがスウの元を訪れる事は無かった。
そんなスウを気遣ってかラウラはスウを城の様々な場所に案内した。
それは歴史のある図書館であったり針子達が働く縫製室だったり料理を作る厨房まで多岐に渡った。
今日は珍しい花が咲いている温室に案内すると初めて通る廊下を歩いている。
銀のたてがみの狼はあれから二度ほど見かけたがラウラに「あの狼は気性が荒いので近づかないように」と言われ、会っても遠くから眺めるのみだ。
そんな風には見えなかったしもう一度あの毛皮に包まれたいと思ったが近づくなと言われれば守るしかない。
ここは自分の生まれ育った国では無いのだから。
廊下を抜け小径を少し歩き辿り着いた温室はとても素晴らしく、塞ぎがちだったスウの心を優しく宥めた。
外気に晒されずマノイ国の特徴である昼の時間が長いと言う利点もあり気温の高い国の植物が植えられていて初めて見るものばかりだ。
ゆるゆる歩いていると奥まった場所に果物の植っている別の温室があった。
外から見るだけでも美味しそうな果実が鈴なりになっていてとても興味を惹かれたが悪戯避けなのか鍵が掛かっており中には入れない。
がっかりと外から眺めるスウを見てラウラは笑いながら鍵を取って来ると城に戻って行った。
申し訳ないと思いながらも瑞々しい果実の誘惑には勝てない。
ラウラが戻るまで他の花を見ていようと庭に一歩踏み出した所で目の前に大きな影が立ちはだかった。
「テオドア・・」
驚きに目をまんまるに見開くスウと無表情のテオドア。
最初に沈黙を破ったのはテオドアの方だった。
「・・体調はもういいのか」
「・・?はい、元気ですけど」
「なら何故・・」
何かを言いかけたテオドアは言葉を飲み込み頭を振った。
立派な尻尾はだらりと垂れ全く動かない。
「こんな所で何を?」
「ラウラに温室を案内してもらってました」
「・・そうか」
興味なさそうにそう言ったきり黙ってしまったテオドアの横に綺麗な女性が寄り添っている事にスウはその時気が付いた。
「テオドア様もういいでしょう?早くお部屋に行きましょう?」
色っぽい声でそう囁かれるとテオドアはスウにはもう目もくれずその場から立ち去ってしまう。
やはりラウラの言ったことは本当だったんだ。
後宮には沢山の美姫がいてスウなどお呼びではない。
振り向いてスウを見た姫の勝ち誇ったような顔がその証拠だ。
今から二人は夫婦のように愛を交わすのだろう。
それはスウには一生与えられないもの。
スウはこれからここでずっと一人で生きていく。
何不自由のない柔らかな檻のようなその場所で自分は何のために生きるのだろうと悲しい気持ちになりながら立ち尽くした。
スウだ。
久しぶりにあんな近くでスウに会えた。
テオドアは少年のように気持ちを浮き立たせた。
思いがけず顔を見られた喜びとやはり体調が悪いと言うのは嘘でラウラと一緒にいたいだけだったと思い知らされた絶望と。
けれどやはりスウは可愛らしい。
驚いた顔も愛らしくて笑ってしまいそうだった。
せめて獣の姿であれば側に居られるかと思ったが最近は近づいてもくれなくなった。
あれは自分だと気付いたからなのか。
二人で見た月はとても美しかった。
あのまま時が止まればと心から願ったがもうあんな日は来ないのだろうか。
「テオドア様」
物思いに耽っていると隣にいたセツ姫から咎めるように名前を呼ばれた。
「テオドア様、私といる時は私のことだけ考えて下さい」
そう言って肩に寄りかかり甘える。
「・・セツ姫歩きにくい。離れてくれ」
そう言うと姫はムッとしたように渋々体を離した。
「セツ姫、何度も言っているが私はあなたと情を交わすつもりはない。男性であるスウを正妻にしたので世継ぎのために大臣達が勝手に後宮を作っただけだ。」
「わかってます!」
キッとテオドアを睨むその顔は悔しそうに歪んでいる。
本来であれば正妻として迎えられるべき身分の自分が後宮に降りたばかりか寵愛を貰えない事に酷く自尊心を傷つけられているのだろう。
それは分かる。
分かるが自分はスウしか愛せないしスウしかいらない。
テオドアはため息をつきセツ姫を後宮まで送り届けて自室に戻った。
中庭を見渡せるバルコニーに出てみるとスウとラウラが楽しそうに部屋に戻るのが見えた。
胸がズキリと,痛む。
少しでいいこちらを見て欲しい。
そんな願いが聞き届けられたのか不意にスウが空を見上げ、テオドアと視線が絡んだ。
突然のことに心臓が弾けたように高鳴る。
けれどスウは一瞥しただけですぐ視線を逸らし見えなくなってしまった。
その横には人間に近い容姿のラウラが寄り添っている。
とてもお似合いの二人に見えた。
テオドアは部屋に戻り窓を閉め厚いカーテンを引いた。
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