人質の花嫁は獣人王と恋がしたい

ivy

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テオドアとスウの結婚式

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「たちの悪い冗談はやめて下さい」

スウはそう言ってラウラの厚みのある胸板をぐいと押した。
そうだなと笑いながら背中に回っていた腕が離れていく。

「全く、言っていい事と悪い事があります」

スウが怒りながらそう言うとラウラは笑顔のままヘラヘラと謝る。

この人は初めて会った時から随分と印象が変わった。
確かに騎士団長で腕は確かだし頼りになるが何というか遊び慣れてる感じで反応にとても困る。
けれど記憶の中の人がラウラなら自分にとって何らかの大事な人に違いない。

なるべく早くニア国に帰って父王に話を聞いてみよう。
そう考えているとドアがノックされ、女官長が部屋に来た。



「スウ様、失礼します。・・まあ!ラウラ様、またスウ様のお部屋に。いくら警護と言ってもそのうち王様にやきもち妬かれますよ?」

冗談めかして小言をいう女官長にスウは心の中でそんな事あるはずないと自嘲気味に苦笑する。

「ついスウが可愛くてね。でも気をつけるよ」

ラウラも軽い調子でそう返す。
本当にこの人はどこまで本気か分からない。

女官長は笑って頷いてからスウの方に向き直り話の続きを始めた。

「お食事の支度が整いましたがこちらにお持ちして宜しいですか?それとも気分転換に庭で召し上がります?」

スウは先ほど庭で見た見事な花たちと迷惑そうなテオドアの眼差しを思い出す。

「庭で食べたいけど・・一人は寂しいな。ラウラも女官長も一緒に食べようよ」

「まあ光栄です。でも叱られてしまうのでラウラ様とお二人分ご用意しますね」

ふふふと笑って女官長が部屋を後にする。

その様子にこの国では使用人と食卓を共に出来ないのだと知りスウは少し寂しく思った。
ニア国では世話係とお茶を飲んだり庭師とおにぎりを食べたりしていたのだ。
だがこれだけ大きな国になると身分によって付き合い方を変えないといけないのだろう。

そんな風に考えているとラウラがそっとスウの肩に触れた。

先ほどの言葉を思い出しスウはびくりと身を引く。

「あー怖がらせちゃったかな?ごめん。王の花嫁に不埒な事はしないよ」

そう言って肩に付いていた花びらを見せた。

「あ、ありがとうございます」

考え過ぎていた自分が少し恥ずかしくなり顔が赤くなる。
それを見てラウラまで照れたように苦笑した。



「まだ支度に時間がかかるだろう。少し庭を見て回ろうか」

「はい」

先に地面に降りたラウラがスウに向かって手を差し伸べる。

その手を取って庭に降り立ちながら本当ならこんな風に過ごすのはテオドアであるはずなのにと彼の美しい銀のたてがみを思い出しながら詫びしさに長い睫毛を伏せた。





「さあお召し上がりくださいな」

女官長が昼食を準備してくれたのは先程テオドアが居た東屋だった。

スウは割れた鉢は無いかとキョロキョロするが特に変わった所はなくホッとする。

「テオドア様のお屋敷とスウ様のお屋敷はこの中庭で繋がってるんです。テオドア様もたまにここでお茶を飲んでのんびりされてますよ」

「そうですか。じゃあまたお会いできますね」

スウがそう言うと女官長は嬉しそうに笑った。
きっと僕たちが上手く行くようにと色々考えてくれてるんだろうなとスウも嬉しくなる。

頑張ろう。
結婚式を挙げてちゃんと夫婦になればもっと一緒の時間も増えるはずだ。
もっとテオドアと話をしてみたい。

そんな事を考えながらラウラと食事をする。
ラウラは城であった面白い話をしてスウたちを笑わせてくれた。

綺麗な花を愛でながら久しぶりに声を上げて笑い、美味しい食事が出来てスウの気持ちは随分軽くなった。

そのすぐ側でテオドアが彼らを見ていた事などまるで気付かずに。














スウがマノイの城に到着してから半月。
いよいよ延期されていた結婚式が執り行われる事になった。
テオドアの父王が先日崩御したばかりなので国外から来賓は呼ばず神官の前で誓いを立て国民にお披露目をするだけにとどまる。
スウの両親も呼べないので式が終わってしばらくしたらニア国に里帰りしても良いと言われていた。

当日は朝から皆が目の回る忙しさで控えの間で全ての支度を整えられ待つだけのスウは退屈で仕方が無かった。

衣装は真っ白で丈が足首まであるニア国の正装だ。
細く華奢な腰には斜めに色味の綺麗な細い帯を巻き短い髪は後ろに流して宝石の髪飾りがふんだんに付けられている。

その上から白いレースで作ったベールが薄化粧の顔を隠していた。



「スウ!もう少し準備がかかるって・・」

ぼんやりしていたスウはノックも無しに突然入ってきたラウラに飛び上がるほど驚いた。

「ラウラ!心臓止まっちゃうよ!」

そう抗議するスウをラウラは穴が開くほど見つめている。

「え?なに?変?」

「いや、本当に綺麗だなと思って」

「何言ってんの!」

もう!と言いながら怒ってみせるスウだがニア国の正装を褒められて内心嬉しい。

テオドアもラウラのように綺麗だと言ってくれるだろうか。





しばらくすると女官長が迎えに来て式が始まると伝えてくれた。
神官に先導され式場である大広間に着く。

中央には既にテオドアが待っていた。

テオドアも真っ白な正装で肩に赤いマントが揺れていた。
腰に下げた剣は大きな宝石が沢山ついていてとても重そうだ。
たてがみは整えられ姿勢良く立つ姿はとても美しくスウの心臓はゴトゴトやかましく鳴り出す。
けれどテオドアはスウなどまるでいないかのようにチラリともこちらを見なかった。

スウが黙ってテオドアの隣に立つと神官が祈りと誓約の言葉を唱え出した。

首を垂れて言霊を受けこれを持って夫婦となるとの神官長からの言葉を待って二人で手を重ねて誓いの言葉を口にする事になっている。

いよいよだと思いテオドアの手に自分の手を重ねようとした時、思わぬ力で拒絶された。

「え?」

驚いてテオドアを見ると気まずそうに目を逸らす。

神官が咳払いして先を促したので手は重ねずそのまま誓いの言葉を二人でぎこちなく口にした。

この後は城の周りに集まった国民に二人が夫婦になった事を知らせに行く。
さっさとバルコニーに向かって歩くテオドアの後をやりきれない思いで追いかけた。





触れられるのも嫌なら僕はこれからどうやってここで過ごせばいいんだろう。




バルコニーにから見下ろす人々は皆口々に祝いの言葉を叫んでいる。
広場に花びらの雨が降り注ぐ中、スウは泣きそうになるのを懸命に堪えて笑顔を作り皆に向かって手を振った。


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