【完結】運命の番と別れる方法

ivy

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17話

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店内の様子を伺うようにゆっくりとドアを開けた途端、中からぐっとドアを引かれ三葉はたたらを踏んで店の中に飛び込む形になった。

「自分から入ってくるなんて勇気あるなあ」

聞き覚えのある声に恐々顔を上げるといつも浩太と一緒にいた男が笑いながら見下ろしている。
そして店の中に向かって三葉の肩を軽く押すと後ろ手でドアに鍵をかけた。
店内には五、六人の見知った男達と一番奥に見覚えのない中年の男が椅子に踏ん反り返っている。
「浩太は?」
声が震えないように腹に力を入れてそう聞くと来ないとあっさり言われる。

来ない?
何言ってる。
なんの為にこんなとこまで来たと思ってるんだ。

「浩太に会わせろ!」

そう叫ぶが目の前の男は何も言わずに三葉の腕を掴んで引きずるように中年男の前に連れていく。
そして頭を押さえつけ跪かせてから髪を乱暴に掴むと顔がよく見えるよう男の方に向かせた。

「どうですか?上玉でしょう?」

媚びるような言い方にこの中年男がそこそこの立場の人間だと分かった。

「確かに綺麗な顔だな。髪の色も目の色も好みだ。あの小僧の噛み跡が首に付いてるのが気にいらないがな」

中年男はフンと鼻を鳴らして三葉の顎に手をかける。

「本当に貰っていいのか?」
「勿論浩太からの贈り物です」
「まああいつには重要な役目を任せてやったからな」


なに?
どういう事だ?

「浩太は?!」

だめだ!
浩太に会わなきゃいけないのに!

「うるさいな。運命の番ってのはそんなにいいもんなのか?だが今日からお前は私のものだ。おい早く薬を打って静かにさせろ」
「はい」

言われた通りに浩太の仲間が注射器を取り出す。
以前の記憶が蘇り心臓が潰れそうに鼓動が早まった。

こんな所で浩太も殺せず
健斗の為に何もしてやれず
ただ薬を打たれて見ず知らずの男の慰み者になるのか。
俺はなんの為にここまで来たんだ。


ポケットには海に貰ったブザーがある。
でも・・・。

逡巡している間にも注射器に薬を含ませた男は三葉の腕を掴み服の袖を捲り上げる。

「やめろっ!!」

なんとか逃げようともがいていると入口の方からガチャリと音がして鍵がかかっていたはずのドアが開く。
驚いてそちらを見ると店のオーナーらしき男が入って来た。

「明石さん!今日は貸切って言ったでしょ」
注射器を後ろにさっと隠した男が不機嫌に言うと明石と呼ばれた男は焦ったようにドアの前から退く。
その後ろから恰幅のいい初老の男が店内に入って来た。

あ、この人・・。

滅多にテレビを見ない三葉だが以前何かの番組に出ていたこの男に見覚えがあった。
確かお偉い政治家かなんかじゃなかっただろうか。
その人がなんでこんなところに?

今の自分の状況も忘れあっけに取られて見守っていると男は三葉の前を素通りし中年男の前に立って放心状態の男を睨め付けた。

「おいこんなところで何をしてる」
「ひっ・・。なぜ先生がこんなところに」

驚きのあまり立ち上がれない中年男の胸ぐらを掴んだ政治家はそのまま凄い力で男を殴り倒す。
「詳しい話は聞いた。さっさと洗いざらい吐いて罪を償え」
「そんな!違うんです!私は何も・・。今日だってあの男どもに脅されてここに連れてて来られただけなんです!」

そう言って床を這いずり足に縋りつく中年男を初老の男は足蹴にし、なおも男を声を荒げて叱責している。
浩太の仲間達はまずいとばかりに黙り込み居心地悪そうになりゆきを見守っていた。

三葉は唖然としながらもひとまず最悪の状態は回避出来たと息を吐く。
そんな中店内に駆け込んできた海が座り込んだままの三葉に走り寄った。

「お前なんでブザー鳴らさないんだよ。まあ使わないだろうとは思ったけどな」
そう言って三葉の腕を掴んで立ち上がらせた海に三葉は浩太が来なかった事を伝えた。

「知ってる。聞こえてた」
「え?」
「さっきのブザー、盗聴器が付いてんだ。しかも録音機能付き」
「えっ?!海がそんな用意周到なとこ初めて見た」
「あ?馬鹿にすんなよ。俺だってやるときはやるんだよ。・・と言いたいとこだけど全部あの人の指示通り動いただけだ」
「あの人?」

海がついと視線を動かすのにつられてそちらを向いた三葉は神経が焼け付くほど驚嘆した。


ドアの前にいたのは一番会いたくて一番会いたくなかった人。
桜宮その人だった。

「どうして・・」


桜宮は三葉と目を合わせゆるりと破顔し、大丈夫だとでも言うように軽く頷き政治家の元に歩み寄る。
「先生、ここではそのくらいになさって下さい。そろそろ警察が到着します」

その言葉に反応するのは浩太の仲間達の方が早かった。我先にとドアに向かうが屈強なスーツ姿の男たちに行手を阻まれ腕をねじり上げられて悪態をついている。

そんな騒がしい店内にいても三葉の意識が追いかけるのは桜宮ただ1人だった。

嫌われ呆れられただろうか。
覚悟して桜宮の家を出たはずなのにそう思うと震えるほど怖い。
なんと謝れば落胆させずに済むだろうか。
自分の浅慮な行動をどう説明すれば・・

そんな視線に気付いたのか桜宮は三葉に向かって歩いてくる。
どうしよう。
パニックになりかけたその時、目の前に立った桜宮は三葉に向かって突然頭を下げた。

「来るのが遅くなって悪かった」

そう言って顔を上げた桜宮は困ったように形のいい眉を下げて三葉を見つめた。どうしてそんな顔をするんだろう。怒られるのは自分の方なのに。
桜宮は泣きそうな顔で立ち尽くす三葉に触れようと伸ばした手をハッと思い出したように握り込み下に下ろす。
そんな思いやりさえ三葉の胸を抉った。

「ごめんなさい・・」
涙と一緒に思いが溢れる。

「もう大丈夫だ。一緒に帰ろう」
「・・はい」

小さいその声を桜宮はちゃんと掬い取り両手で掴んでくれた。
悔しさも嬉しさも悲しさも全部共に引き受けると言われたようで三葉は帰路につきながらいつまでも目の前の景色を滲ませていた。



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