5 / 10
僕と大地の女神様
夢の中で
しおりを挟む
声がする。夢の中のことだ。
水の中を漂うような感覚の中でありながら息苦しさも冷たさもない。魚でも海藻でもない自分が水の中で冷たさや苦しさを感じないハズがないからだ。
「ここはどこだろう」
夢の中ならもっと楽しい事を想像してもいいのに辺りは海の底のように薄暗くて重苦しい。
そう考えていた時、不意に周囲の温度が変わった。
「?」
お湯の中のような、暖かい感触。そして掬い上げられる感覚とともに視界が開けた。
『大地の揺りかごへようこそ、人の子』
僕の体を掬い上げたのは巨大な手だった。前後左右を見渡して指の形を認めることができてようやくわかるくらいの大きさの手だ。
「大地・・・もしかしてアシェート様・・・?」
神話では空を支えるとも言われるその姿ならこの大きさも納得だ。
『ふふ、ご名答』
「わっ?!」
脇の下に手を入れて持ち上げられる。いつの間にか現れた女性が
まるで子供にするように僕を持ち上げて微笑んでいた。
『此処へ呼ばれた理由はわかる?』
なんのことかわからない。トール様と関係があるのだろうか?
正直に答えるべきなんだろうか?
「えっと、あの・・・」
『嘘、つかないでね?』
情報量に戸惑っているとアシェート様の瞳が僕を捉えた。
その瞬間、まるで空が覆い被さったような圧が僕にかかる。声が出ない、息ができない、体がぴくりとも動かない。
「えあ、あぁぁ・・・」
まるで宝石のように無機質な瞳、そこには恐怖に震える僕の姿が映っている。死ぬ、どうなるかはわからないが、このまま死ぬ。そう観念して視界が滲み出した時に漸く圧が消えた。
『ごめんなさい、怖がらせてしまったわね。人の子と話すのは久しぶりだから』
「ひっ、う、あぁぁ」
抱き締められていると気付くのに結構時間がかかった。圧力が消えた瞬間に泣き出してしまい落ち着くのにも。
死を感じた。はっきりと、その感触に包まれたのだ。
『あぁ、本当にごめんなさいね。私の子達はこうしないと皆反省しない子ばかりだから・・・』
「ひっく、う・・・ぐすっ」
『ごめんなさい、これではなんのために呼び出したのかわからないわね』
掌の上に僕を下ろし、アシェート様は申し訳なさそうに眉尻を下げた。その間になんとか気持ちを整えて、どうにか震える足と嗚咽を堪える。
「トール様、に・・・加護を、いただきました」
『雷の息吹はそこね、体の変化は?』
「ウェヌス様・・・って、トール様が」
『困った子、あの二人は本当に・・・』
なんとか体験したことを話すとアシェート様は頭痛を堪えるように額に手を当て、ため息をついた。
『昔からトールは戦士に、ウェヌスは坊やのような人の子に甘かったわ・・・徒に加護を与えては戦士や佳人を苛烈な運命に導いて・・・』
「加護をもらうのに何故ですか?」
『天が与える才能はその人の運命を決める重要なもの、それに抗って自ら切り開く事ができる人は一握り・・・大抵はその才能が呼び込む運命に翻弄されるものなのよ』
一般人には一般人の才能が、それは退屈なようで穏やかで健やかなせせらぎにも似た運命。対する天が与えた英雄の才能は刺激的で魅力的な反面、破滅と退廃が常に寄り添う茨の道。
『持って生まれた才能を元に人は育つわ、例外もたくさんあるけどそれは周囲の才能が影響を及ぼした結果であったり・・・でもそれは人としての生き方なの』
「どう違うのですか?」
『戦いの才能は戦いを、行き過ぎた美はこれもまた争いを産むわ、戦乱の世ならば英雄になるかも。でも今は戦乱どころか武の神と対になれるような英傑すらあなたの国にはいないのよ』
あまりにも不釣り合いなものを手に入れてしまった。そうアシェート様は言っている。でも、それでも
『そして、神から後天的に与えられた才能はあなたの元々の才能と反発する。親から子に受け継がれる一部の例外を除いてね』
そんな僕の思考を遮るようにアシェート様は続けた。
『あなたの家族の僧侶から聞いたでしょう?強く神の加護を受けた者は早死にする・・・それは才能があなたの中で反発するから。反発した才能は命を蝕むの。あなたは特に才能を親からも受け継いでいるから・・・』
そう言いかけたところでアシェート様は目を瞬かせた。そして怪訝そうに僕の顔をまじまじと見つめる。
『へ、変ね・・・あなたにも才能が、あら、あらあら?』
「?」
『な、ないわ・・・そんなはずは・・・』
口元を押さえてアシェート様は戸惑った様子で僕の頭に手を置いた。
『な、無い・・・まさかそんな・・・』
「何が無いんですか?」
手から動揺が伝わってくる。何が無いのか。なんとなく予想はついたが。
『どういうこと・・・私達が与えたはずの才能がない!』
「えっ」
てっきり剣や戦いに関する才能かと思いきや・・・。
アシェート様はあたふたしながら僕の顔をぺたぺたと触り続ける。
水の中を漂うような感覚の中でありながら息苦しさも冷たさもない。魚でも海藻でもない自分が水の中で冷たさや苦しさを感じないハズがないからだ。
「ここはどこだろう」
夢の中ならもっと楽しい事を想像してもいいのに辺りは海の底のように薄暗くて重苦しい。
そう考えていた時、不意に周囲の温度が変わった。
「?」
お湯の中のような、暖かい感触。そして掬い上げられる感覚とともに視界が開けた。
『大地の揺りかごへようこそ、人の子』
僕の体を掬い上げたのは巨大な手だった。前後左右を見渡して指の形を認めることができてようやくわかるくらいの大きさの手だ。
「大地・・・もしかしてアシェート様・・・?」
神話では空を支えるとも言われるその姿ならこの大きさも納得だ。
『ふふ、ご名答』
「わっ?!」
脇の下に手を入れて持ち上げられる。いつの間にか現れた女性が
まるで子供にするように僕を持ち上げて微笑んでいた。
『此処へ呼ばれた理由はわかる?』
なんのことかわからない。トール様と関係があるのだろうか?
正直に答えるべきなんだろうか?
「えっと、あの・・・」
『嘘、つかないでね?』
情報量に戸惑っているとアシェート様の瞳が僕を捉えた。
その瞬間、まるで空が覆い被さったような圧が僕にかかる。声が出ない、息ができない、体がぴくりとも動かない。
「えあ、あぁぁ・・・」
まるで宝石のように無機質な瞳、そこには恐怖に震える僕の姿が映っている。死ぬ、どうなるかはわからないが、このまま死ぬ。そう観念して視界が滲み出した時に漸く圧が消えた。
『ごめんなさい、怖がらせてしまったわね。人の子と話すのは久しぶりだから』
「ひっ、う、あぁぁ」
抱き締められていると気付くのに結構時間がかかった。圧力が消えた瞬間に泣き出してしまい落ち着くのにも。
死を感じた。はっきりと、その感触に包まれたのだ。
『あぁ、本当にごめんなさいね。私の子達はこうしないと皆反省しない子ばかりだから・・・』
「ひっく、う・・・ぐすっ」
『ごめんなさい、これではなんのために呼び出したのかわからないわね』
掌の上に僕を下ろし、アシェート様は申し訳なさそうに眉尻を下げた。その間になんとか気持ちを整えて、どうにか震える足と嗚咽を堪える。
「トール様、に・・・加護を、いただきました」
『雷の息吹はそこね、体の変化は?』
「ウェヌス様・・・って、トール様が」
『困った子、あの二人は本当に・・・』
なんとか体験したことを話すとアシェート様は頭痛を堪えるように額に手を当て、ため息をついた。
『昔からトールは戦士に、ウェヌスは坊やのような人の子に甘かったわ・・・徒に加護を与えては戦士や佳人を苛烈な運命に導いて・・・』
「加護をもらうのに何故ですか?」
『天が与える才能はその人の運命を決める重要なもの、それに抗って自ら切り開く事ができる人は一握り・・・大抵はその才能が呼び込む運命に翻弄されるものなのよ』
一般人には一般人の才能が、それは退屈なようで穏やかで健やかなせせらぎにも似た運命。対する天が与えた英雄の才能は刺激的で魅力的な反面、破滅と退廃が常に寄り添う茨の道。
『持って生まれた才能を元に人は育つわ、例外もたくさんあるけどそれは周囲の才能が影響を及ぼした結果であったり・・・でもそれは人としての生き方なの』
「どう違うのですか?」
『戦いの才能は戦いを、行き過ぎた美はこれもまた争いを産むわ、戦乱の世ならば英雄になるかも。でも今は戦乱どころか武の神と対になれるような英傑すらあなたの国にはいないのよ』
あまりにも不釣り合いなものを手に入れてしまった。そうアシェート様は言っている。でも、それでも
『そして、神から後天的に与えられた才能はあなたの元々の才能と反発する。親から子に受け継がれる一部の例外を除いてね』
そんな僕の思考を遮るようにアシェート様は続けた。
『あなたの家族の僧侶から聞いたでしょう?強く神の加護を受けた者は早死にする・・・それは才能があなたの中で反発するから。反発した才能は命を蝕むの。あなたは特に才能を親からも受け継いでいるから・・・』
そう言いかけたところでアシェート様は目を瞬かせた。そして怪訝そうに僕の顔をまじまじと見つめる。
『へ、変ね・・・あなたにも才能が、あら、あらあら?』
「?」
『な、ないわ・・・そんなはずは・・・』
口元を押さえてアシェート様は戸惑った様子で僕の頭に手を置いた。
『な、無い・・・まさかそんな・・・』
「何が無いんですか?」
手から動揺が伝わってくる。何が無いのか。なんとなく予想はついたが。
『どういうこと・・・私達が与えたはずの才能がない!』
「えっ」
てっきり剣や戦いに関する才能かと思いきや・・・。
アシェート様はあたふたしながら僕の顔をぺたぺたと触り続ける。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します
namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。
マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。
その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。
「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。
しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。
「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」
公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。
前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。
これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。
最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。
MP
ファンタジー
高校2年の夏。
高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。
地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。
しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。
クラス転移したら種族が変化してたけどとりあえず生きる
アルカス
ファンタジー
16歳になったばかりの高校2年の主人公。
でも、主人公は昔から体が弱くなかなか学校に通えなかった。
でも学校には、行っても俺に声をかけてくれる親友はいた。
その日も体の調子が良くなり、親友と久しぶりの学校に行きHRが終わり先生が出ていったとき、クラスが眩しい光に包まれた。
そして僕は一人、違う場所に飛ばされいた。
真祖竜に転生したけど、怠け者の世界最強種とか性に合わないんで、人間のふりして旅に出ます
難波一
ファンタジー
"『第18回ファンタジー小説大賞【奨励賞】受賞!』"
ブラック企業勤めのサラリーマン、橘隆也(たちばな・りゅうや)、28歳。
社畜生活に疲れ果て、ある日ついに階段から足を滑らせてあっさりゲームオーバー……
……と思いきや、目覚めたらなんと、伝説の存在・“真祖竜”として異世界に転生していた!?
ところがその竜社会、価値観がヤバすぎた。
「努力は未熟の証、夢は竜の尊厳を損なう」
「強者たるもの怠惰であれ」がスローガンの“七大怠惰戒律”を掲げる、まさかのぐうたら最強種族!
「何それ意味わかんない。強く生まれたからこそ、努力してもっと強くなるのが楽しいんじゃん。」
かくして、生まれながらにして世界最強クラスのポテンシャルを持つ幼竜・アルドラクスは、
竜社会の常識をぶっちぎりで踏み倒し、独学で魔法と技術を学び、人間の姿へと変身。
「世界を見たい。自分の力がどこまで通じるか、試してみたい——」
人間のふりをして旅に出た彼は、貴族の令嬢や竜の少女、巨大な犬といった仲間たちと出会い、
やがて“魔王”と呼ばれる世界級の脅威や、世界の秘密に巻き込まれていくことになる。
——これは、“怠惰が美徳”な最強種族に生まれてしまった元社畜が、
「自分らしく、全力で生きる」ことを選んだ物語。
世界を知り、仲間と出会い、規格外の強さで冒険と成長を繰り広げる、
最強幼竜の“成り上がり×異端×ほのぼの冒険ファンタジー”開幕!
※小説家になろう様にも掲載しています。
追放された味噌カス第7王子の異種族たちと,のんびり辺境地開発
ハーフのクロエ
ファンタジー
アテナ王国の末っ子の第7王子に産まれたルーファスは魔力が0で無能者と言われ、大陸の妖精族や亜人やモンスターの多い大陸から離れた無人島に追放される。だが前世は万能スキル持ちで魔王を倒し英雄と呼ばれていたのを隠し生まれ変わってスローライフを送る為に無能者を装っていたのだ。そんなルーファスはスローライフを送るつもりが、無人島には人間族以外の種族の独自に進化した先住民がおり、周りの人たちが勝手に動いて気が付けば豊かで平和な強国を起こしていく物語です。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
大ッ嫌いな英雄様達に告ぐ
鮭とば
ファンタジー
剣があって、魔法があって、けれども機械はない世界。妖魔族、俗に言う魔族と人間族の、原因は最早誰にもわからない、終わらない小競り合いに、いつからあらわれたのかは皆わからないが、一旦の終止符をねじ込んだ聖女様と、それを守る5人の英雄様。
それが約50年前。
聖女様はそれから2回代替わりをし、数年前に3回目の代替わりをしたばかりで、英雄様は数え切れないぐらい替わってる。
英雄の座は常に5つで、基本的にどこから英雄を選ぶかは決まってる。
俺は、なんとしても、聖女様のすぐ隣に居たい。
でも…英雄は5人もいらないな。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる