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獣人と建国の章

テルミットのお話と企業改革!その3

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闘技場では入場すると外にでることが出来なくなる為中にも飲食店や闘士用や従業員用、お客用に宿や酒場が完備されている。それゆえに総じて闘技場内は大抵人で溢れており、一回の入場から外に出るのは数週間ぶりなんていう猛者もいるとかなんとか。

 「人が沢山居るから外に出なくても人を探すには困らないか」

 掛け金は良心的な物で欲張らなければ一般人にも気楽に遊べるレベルの料金である。そして夜間には闘技場で賭けでヒトヤマ当てた連中が酒場や料理店へ向かい、そうでなくても馬車を乗り過ごすほどに熱中して仕方なく泊まる客やらもいる。
 外も店が沢山賑わっているが闘技場内はまるで繁華街が一つ収まったかのような状態である。そして優遇措置として闘士や従業員は割り引きらしい、こんな事なら客としてもっと利用しとくんだったな。

 「ギランは何処にいるんだ?」
 「オランは酒場にいるのではと言っていました」

これだけごった返していると一人だけを見つけるのは難しい。だがそういえばオランは酒場で飲んだくれてるとか言ってたか。人ごみの中を二人で歩を進めるとテルミットが遅れ始める。
アウロラ達はこういう時余り遅れないがテルミットはどうもこういう人ごみを歩いた経験は少ないようだ。普段どれだけ執務室に篭っているのかわからんなこれは。

 「テルミット、ほら」
 「え?」
 「逸れたら事だ、手を繋ぐぞ」

 振り返って手を差し出すとぽかんとした後に顔を赤くして恐る恐る俺の手を握る。

 「恥ずかしがる様なことじゃないだろ?」
 「そ、そんなことないですよ・・・恥ずかしいです」
 「頼まれても止めないがな、恥ずかしそうな顔を見るとなんだか俺は嬉しいからな」
 「なんでですか、意地悪です・・・」

 気付かんのか、照れてる顔が可愛らしい事に。本当にこいつは・・・。繋ぐまではモジモジしてたがいざ繋ぐとなると指を絡める恋人つなぎでも反応しないんだからなぁ。

 「天然だからなのかもな・・・」
 「なんですか?」
 「なんでもない、それより酒場を探すぞ、何処にある?」

ごった返している人ごみの中いくつかそれっぽい建物はあるがどうなんだろうか。

 「そうですね、それじゃあ一番収益を上げている店に行ってみましょう」

どうやら闘技場で一番人気の店に連れて行ってくれるらしい。人気と言わず収益と言う辺りに彼女の残念さが滲んでいるがもはや気にしない。
わいわいと賑わう闘技場を歩きながらテルミットの案内を受けて収益の高いと言う酒場へと向かう。

 「ここか・・・高そうな店だな」

いかにも高級志向といった店が目の前にあった。入り口は他の店と違って階段になっていて外国の図書館や博物館のような仰々しい造りになっており、足元の石畳も石の材質からして違う。心なしか店の前で立っている警備の人間も上品な感じすらする。

 「収益を上げているって・・・つまり客単価が高いって事か?」
 「そうなります」
 「個人的な感想なんだがこういう店で飲んだくれることってできるのか?」

 上品な感じのする店で酔っ払いが管を巻くような真似してたら叩き出されそうな気がするんだが。飲んだくれてるって言うからもっと居酒屋みたいな場所にいるんじゃないのか?

 「えっと、ここではドレスコードが・・・」
 「じゃあ駄目じゃねえか、こんなところで職にあぶれてる奴は来ないし、こんなとこ来る奴は金になんか困ってねえだろ」

 貸衣装屋なんかあるわけもなく、ドレスコードがあるって事は最初からそういった服装が用意できる人間しか入れないってことだ。つまり、此処で働きたくなるような連中が此処に集まるわけもなく・・・そうなると従業員探しをしているギランが此処にくるわけもない。

 「しっかりしろ、デートに来たんじゃないぞ?」
 「すみません・・・」
 「もっとこう大衆向けの店だ、次行くぞ」

エルフ達はどういうわけか世間ずれしているところがある。ダークエルフ達と違い市井に溶け込めていないのだろうか。長らく日陰者だったのは両者同じだろうがテルミットといい、隠密のエルフ達といい、そういったところで鈍い。此処まで発展できたのは一重にテルミットの人徳と脇を固める人間達の努力によるものなのだろう。エルフ達は長く生きる、中には知らず知らずの内に子々孫々と世話になっているんだろう。そういう目に見えない徳が彼女達に備わっているのかもしれない。

 「かくいう俺も彼女達の為に働いてるしな・・・」

 思わず苦笑してしまう。昔は人の事なんぞ考える事もなかった。けれど今の人生が始まってからは他人のためにあちこち走り回っている。考えてみれば自分自身に余裕が無かったからかもしれない。
しかし今は無限に近い寿命と強靭な肉体の元、思うままに動ける。そうなると途端に周りを歩く人達が気になるようになった。我ながら現金なものだ。
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