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ワタシの秘密がギャルにバレた
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「空奈ちゃん、おはよう~」
「おはよう。咲良」
私の朝は早い。
学校の玄関で、私は親友と挨拶を交わす。彼女の名前は有栖川咲良。腰まであるボリューミーな白い髪がとても目立つ、可愛らしい少女。
私とは格の違う、れっきとしたお嬢様だ。
しかし、そんなお嬢様でも私には親しく接してくれる。
「空奈ちゃん、今日もカッコいいですね!」
「そう? ありがとう。咲良も可愛いわよ」
「えへへ」
咲良の言葉に、私はいつも通りクールに返す。
私たちは教室へと、歩き出す。
するとチラチラと周囲の視線がする。いつものことで慣れてきたが、変に気が抜けない。
「あれは……っ!」「影山さんですわ」「立ち姿も凛々しい」「放ってるオーラが違いますわ」「咲良様も今日も可愛いですね」「ええ、癒しですわ」「恋人とかいるのかしら」「こら、下世話な話はやめなさい穢れてしまうわ」
あちこちから聞こえる黄色い声援。
ほんと、噂話が好きよねこのお嬢様学校は……。芸能界やら政界はそういう話でいっぱいなのだろうか。
色々言われているが、気にしない。それは目立つものの宿命だから。
私、影山空奈は学校の中でちょっとした有名人だ。運動神経抜群、成績優秀。一年生にして生徒会へと入った秀才。
いつかは生徒会長になるとまでされる少女。それが私だ。
一部では「氷の才女」だとか呼ばれているらしい。そんな漫画みたいな異名、一度も聞いた事がないのだが、いったいどこの誰が言い始めたのだろうか。
隣では、周りの声を一切聞いていない咲良が、ニコニコして話しかけてくる。
「空奈ちゃん、この間のテスト、何点でした?」
「えっとね……全部90点は超えてたよ」
「凄いです!」
「それでもないわよ。……で、咲良は何点だったの?」
「えーっと……実は再テストでして」
「なんの再テストがあるの?」
「5教科全部です!」
「は?」
おい大丈夫かそれ。
おっと危ない素が一瞬出てしまった。
コホンと、誤魔化しの咳をして話を続ける。
「テストの日休んでいたの?」
「ちゃんと居ましたよ。全部赤点でした! えへへ」
なんでそんな笑顔なのかしらこの子……。可愛いけれど。
「あ、そう……。分かった。喜んで教えてあげる。今後一切、再テストにならないようみっちりね」
「お手柔らかお願いしますね???」
「ええ、もちろん」
「笑顔が怖いです空奈ちゃん!!」
和気藹々と会話しながら、教室につく。時計を見ると、始業まで30分。まだ時間はあるな。
私は、咲良に耳打ちをする。
「咲良。ごめん、私ちょっと行く所あるから」
「生徒会ですか?」
「えっと、まあ。そんな所」
「じゃあ、頑張ってきてください!」
「ええ、ありがとう」
私は咲良と別れると、目立たないようにしながら目的地へ向かう。
人気のない、別棟。そこの階段を上がっていく。
こんなところに、生徒会の用事などはない。
向かうは屋上。本来は立ち入り禁止なのだが、生徒会メンバーの私は裏ルートで鍵を入手していた。
ガチャリと、鍵を開けて屋上へと出る。私一人だけの空間。屋上の空気は、とても澄んでいた。
ここには、誰もいない。たとえどんな事をしてもバレはしないし、好感度も下がらない。校内のボーナスステージ。
「はぁ……猫かぶってると、疲れるのよね……」
私は、大きなため息をつきながら呟く。
「やっぱり、私にクールキャラとか…………無理ゲー」
私、影山空奈は学校ではクールビューティーな少女として、一定の支持を得ている。
成績優秀、運動神経抜群、生徒会役員と文武両道で優秀な生徒を演じている。
が、それは高校デビューと同時に作り上げた仮の姿。お嬢様だらけの、この学校で生きる上での処世術。
そして、ここからが、本当の私だ。
とことん目に焼き付けろ、クールな私のイメージが崩壊する時だ。
「咲良ちゃん……可愛すぎかよ」
「んんんんんんんんーーー!!! 咲良ちゃん可愛すぎ!!愛らしい!!好き好き好き好きーー!! しゅきーー!!!!!」
屋上で、一人でジタバタと身体をゆらしながら咲良への愛を語る。聞き手などいない。ただ、溜め込んでいた感想を爆発させる。
ここには私一人なのだ。学校での、クールでビューティーなキャラを演じていなくても良い。
「何あの可愛い生き物!? 天使!? 天使なのかな??? きっと天使なんだよ、うん。はぁーー永久保存したい~!! あんな澄んだ目で見られたら尊すぎて成仏するわ~。なんであの年まであの純粋さを保てるの? お姫様なのかな? 私なんかが関わった汚れちゃうよダメだ邪な考えしちゃ嫌われる……」
「咲良ちゃん大好き! あー、会えて良かった、きっと運命。これが宿命。きっと神のくれたプレゼント。 こんな天使をくれてありがとう神様! ……あ、でも咲良ちゃんはまだ私のものじゃないしな……。あれは人間国宝だよ、うん。絶対汚しては行けない。神聖なものなんだよ。……………………でも、私の手でめちゃくちゃにしてぇなぁ」
もし聞かれたらドン引き不可避だが、そんな心配はないので私は本音で語る。
口に出すのは良いことだ。抑えた気持ちの解放。それだけで心は安定する。
「……………………はぁ。スッキリした」
私は、うーんと背伸びをする。
みんなの前では見せない、裏の姿。それは、クールビューティーとはかけ離れた、有栖川咲良を溺愛する姿だった。
初めて会った時、私は咲良に一目惚れをした。美しく整った顔、長いまつげに二重。あの笑顔を見た瞬間、私の心は彼女に掴まれた。
それからというもの、私は必死に努力して、親友という現在の地位を築き上げてきた。常にクールで秀才で、咲良ちゃんから「カッコいい」と憧れられる存在として、私は今存在している。
でも、常にその状態では息が切れてしまう。だからこそ、定期的に息抜きが必要だ。朝、昼、夕方、夜と最低4回。咲良への愛を叫び発散する事で、日常生活を送ることが出来ている。
それが私、影山空奈という人間の正体だった。
「さーて、教室に戻ろうかな」
ニヤけた顔をぺちぺちと叩いて普段の表情に戻しながら、屋上の扉に手をかけようとしたその時。
ガチャ。
扉が開く。
え、待って人がいる? ここ、普段誰もいないはずだけど?
もしかして聞かれた?
まずい。
そしてそこに現れたのは1人の生徒。
派手な金髪に、派手なネイル。もうこの時点で校則違反だが、加えて第二ボタンまで外したブラウスに、下着が見えそうで見えないギリギリの短さのスカートの少女。
品行方正なこの学校にしては珍しい格好だ。
「あ、ちわーす」
お嬢様学校の生徒には珍しい、とても砕けた挨拶。
この生徒のことは知っている。同じクラスだ。
しかも生徒会室で、問題のある生徒としてなの上がったことのある。
松木美流子。
「……松木美流子さん、ですよね」
「あたしの事、知ってるんですか?」
「ええ。色々と有名ですしね」
遅刻、サボりの常習犯であるが、親がこの学校の関係者で強く言えない面倒な相手。そして、モデルとしても活躍しているとか。
速攻、普段のクールモードに切り替え対応する。
「あれ、もしかして影山さんっすか?」
「あ、私のことはご存じなんですね」
「有名人じゃないっすか。一般人上がりなのに、一年生の時から生徒会当選の才女でしょ? この学校じゃ知らない人はいないっすよ」
「それは嬉しいですね」
「わー! モノホンだー! サイン欲しい~」
「サインなんてないですよ」
「えー、サインくらいはみんな持ってますよ」
「それはあなたたちみたいな芸能人だけですよ」
「えー、そうなんかな?」
私は、こんな感じのノリというか空気感が苦手だ。過去の陰キャラであった時のトラウマが疼いて仕方がない。
そしてこのギャル、松木美流子が色々言っているが私はそれどころではなかった。頭の中は、一つのことでいっぱい。
……さっきの発言が聞かれていないかどうか。
ここは教室のある棟とは離れているので多少大きな声を出してもバレはしないが、もし屋上のそばで聞いていたら話は別だ。
聞かれていたら、私の学校生活はジエンド。
『え、影山さんって実は欲望にまみれたヘンタイなんだって』『話すと、毒牙に掛けられるらしいよ』『有栖川さんは狙われてるんだってさ』『えー、クールビューティーは演技だったんだぁ』『有栖川さんも同じらしいよ』
想像するだけで胸が痛い。嫌だ。最悪だ。泣けてくる。頑張って積み上げた私のイメージが……。
私にダメージが来るのは良いが、咲良にも影響が出てしまう。それだけは避けないと……。
私は、それとなく会話を進める。
「松木さんは、なんでここにいるんですか? ここは関係者以外立ち入り禁止ですけど」
「サボろうと思って。……私のおじいちゃん、ここの会長だし実質関係者じゃね?」
そう、彼女はこの学校の会長の孫なのだ。だから強く言えない。
この親の七光りが……!
とは言えないので、穏便に。
「まあ、関係者だろうとサボりは見過ごせませんね」
「というか、影山さんはなにやってたん?」
ギクッ。鋭い目つきで睨まれる。
ギャル怖い……。
「生徒会の仕事です」
「へー、どんな?」
「あなたに関係あります?」
「あたし生徒会に興味あってさー」
「嘘ですよねそれ」
こう言うタイプは雰囲気で生きてるものだ。
「バレちった? ……というか、言えない事なの? 仕事を公開するのは公平で健全な生徒会運営には必要なんじゃないの?」
「うっ……」
口の回る面倒なギャルだ。でも、この様子じゃ私の発言は聞こえていなさそうだ。危なかった。
「……見回りですよ。こういう屋上でサボろうとしてる人がいないか確認してたんです」
「そんな奴がいるんすねー」
「…………」
「屋上以外もサボる場所あるから別に良いけど」
「サボりは見逃しませんよ?」
「今日は見逃してくれない?」
「ダメです」
「えー、…………じゃあ」
あっ。と、怪しい笑みを浮かべる。
嫌な予感がした。
「有栖川さんへの愛の告白、聞かなかった事にしてあげるから」
はい終わったーーーー!!!!
聞かれてましたーー!!!ダメでした!!
土に帰りたい……。
「だから、有栖川さんへの愛の告白を……」
「身に覚えがありませんよ」
「さっき叫んでたじゃん」
「聞き間違いじゃないですか?」
やばいやばいやばいやばい聞かれてた聞かれてた。冷や汗が止まらない。脳をフル回転させ考える。
どうしよう。
で、でも証拠なんか残ってないし問題児の言うことなんて誰も信じないし放置でもいいのでは?
そんな私の心を見透かしてか、ギャルはニヤリと笑う。
え、なに怖い。
『咲良ちゃん……可愛すぎかよ』
「は?」
聞こえたのは、私の声。ギャルの手には、小さな機械。……もしかして、ボイスレコーダー?
『んんんんんんんんーーー!!! 咲良ちゃん可愛すぎ!!愛らしい!!好き好き好き好きーー!! しゅきーー!!!!!』
「……………………」
「影山さん、なんかイメージと違うんだね笑」
フッと、ギャルは笑う。
……あ、終わった。
入学式から、約3ヶ月。
私の作り上げた完璧な人物像は、とうとう1人のギャルにバレてしまった。
私の学校生活、一体どうなってしまうのだろうか。
先に軽くネタバレしておくと。
私とギャルは、奇妙な関係を構築していくことになる。
◇
一方その頃、教室では。
「空奈ちゃん生徒会のお仕事して偉いなぁ……私も、生徒会に入れるくらい頑張らないと!」
咲良は、空奈を見習いやる気を上げた。
「おはよう。咲良」
私の朝は早い。
学校の玄関で、私は親友と挨拶を交わす。彼女の名前は有栖川咲良。腰まであるボリューミーな白い髪がとても目立つ、可愛らしい少女。
私とは格の違う、れっきとしたお嬢様だ。
しかし、そんなお嬢様でも私には親しく接してくれる。
「空奈ちゃん、今日もカッコいいですね!」
「そう? ありがとう。咲良も可愛いわよ」
「えへへ」
咲良の言葉に、私はいつも通りクールに返す。
私たちは教室へと、歩き出す。
するとチラチラと周囲の視線がする。いつものことで慣れてきたが、変に気が抜けない。
「あれは……っ!」「影山さんですわ」「立ち姿も凛々しい」「放ってるオーラが違いますわ」「咲良様も今日も可愛いですね」「ええ、癒しですわ」「恋人とかいるのかしら」「こら、下世話な話はやめなさい穢れてしまうわ」
あちこちから聞こえる黄色い声援。
ほんと、噂話が好きよねこのお嬢様学校は……。芸能界やら政界はそういう話でいっぱいなのだろうか。
色々言われているが、気にしない。それは目立つものの宿命だから。
私、影山空奈は学校の中でちょっとした有名人だ。運動神経抜群、成績優秀。一年生にして生徒会へと入った秀才。
いつかは生徒会長になるとまでされる少女。それが私だ。
一部では「氷の才女」だとか呼ばれているらしい。そんな漫画みたいな異名、一度も聞いた事がないのだが、いったいどこの誰が言い始めたのだろうか。
隣では、周りの声を一切聞いていない咲良が、ニコニコして話しかけてくる。
「空奈ちゃん、この間のテスト、何点でした?」
「えっとね……全部90点は超えてたよ」
「凄いです!」
「それでもないわよ。……で、咲良は何点だったの?」
「えーっと……実は再テストでして」
「なんの再テストがあるの?」
「5教科全部です!」
「は?」
おい大丈夫かそれ。
おっと危ない素が一瞬出てしまった。
コホンと、誤魔化しの咳をして話を続ける。
「テストの日休んでいたの?」
「ちゃんと居ましたよ。全部赤点でした! えへへ」
なんでそんな笑顔なのかしらこの子……。可愛いけれど。
「あ、そう……。分かった。喜んで教えてあげる。今後一切、再テストにならないようみっちりね」
「お手柔らかお願いしますね???」
「ええ、もちろん」
「笑顔が怖いです空奈ちゃん!!」
和気藹々と会話しながら、教室につく。時計を見ると、始業まで30分。まだ時間はあるな。
私は、咲良に耳打ちをする。
「咲良。ごめん、私ちょっと行く所あるから」
「生徒会ですか?」
「えっと、まあ。そんな所」
「じゃあ、頑張ってきてください!」
「ええ、ありがとう」
私は咲良と別れると、目立たないようにしながら目的地へ向かう。
人気のない、別棟。そこの階段を上がっていく。
こんなところに、生徒会の用事などはない。
向かうは屋上。本来は立ち入り禁止なのだが、生徒会メンバーの私は裏ルートで鍵を入手していた。
ガチャリと、鍵を開けて屋上へと出る。私一人だけの空間。屋上の空気は、とても澄んでいた。
ここには、誰もいない。たとえどんな事をしてもバレはしないし、好感度も下がらない。校内のボーナスステージ。
「はぁ……猫かぶってると、疲れるのよね……」
私は、大きなため息をつきながら呟く。
「やっぱり、私にクールキャラとか…………無理ゲー」
私、影山空奈は学校ではクールビューティーな少女として、一定の支持を得ている。
成績優秀、運動神経抜群、生徒会役員と文武両道で優秀な生徒を演じている。
が、それは高校デビューと同時に作り上げた仮の姿。お嬢様だらけの、この学校で生きる上での処世術。
そして、ここからが、本当の私だ。
とことん目に焼き付けろ、クールな私のイメージが崩壊する時だ。
「咲良ちゃん……可愛すぎかよ」
「んんんんんんんんーーー!!! 咲良ちゃん可愛すぎ!!愛らしい!!好き好き好き好きーー!! しゅきーー!!!!!」
屋上で、一人でジタバタと身体をゆらしながら咲良への愛を語る。聞き手などいない。ただ、溜め込んでいた感想を爆発させる。
ここには私一人なのだ。学校での、クールでビューティーなキャラを演じていなくても良い。
「何あの可愛い生き物!? 天使!? 天使なのかな??? きっと天使なんだよ、うん。はぁーー永久保存したい~!! あんな澄んだ目で見られたら尊すぎて成仏するわ~。なんであの年まであの純粋さを保てるの? お姫様なのかな? 私なんかが関わった汚れちゃうよダメだ邪な考えしちゃ嫌われる……」
「咲良ちゃん大好き! あー、会えて良かった、きっと運命。これが宿命。きっと神のくれたプレゼント。 こんな天使をくれてありがとう神様! ……あ、でも咲良ちゃんはまだ私のものじゃないしな……。あれは人間国宝だよ、うん。絶対汚しては行けない。神聖なものなんだよ。……………………でも、私の手でめちゃくちゃにしてぇなぁ」
もし聞かれたらドン引き不可避だが、そんな心配はないので私は本音で語る。
口に出すのは良いことだ。抑えた気持ちの解放。それだけで心は安定する。
「……………………はぁ。スッキリした」
私は、うーんと背伸びをする。
みんなの前では見せない、裏の姿。それは、クールビューティーとはかけ離れた、有栖川咲良を溺愛する姿だった。
初めて会った時、私は咲良に一目惚れをした。美しく整った顔、長いまつげに二重。あの笑顔を見た瞬間、私の心は彼女に掴まれた。
それからというもの、私は必死に努力して、親友という現在の地位を築き上げてきた。常にクールで秀才で、咲良ちゃんから「カッコいい」と憧れられる存在として、私は今存在している。
でも、常にその状態では息が切れてしまう。だからこそ、定期的に息抜きが必要だ。朝、昼、夕方、夜と最低4回。咲良への愛を叫び発散する事で、日常生活を送ることが出来ている。
それが私、影山空奈という人間の正体だった。
「さーて、教室に戻ろうかな」
ニヤけた顔をぺちぺちと叩いて普段の表情に戻しながら、屋上の扉に手をかけようとしたその時。
ガチャ。
扉が開く。
え、待って人がいる? ここ、普段誰もいないはずだけど?
もしかして聞かれた?
まずい。
そしてそこに現れたのは1人の生徒。
派手な金髪に、派手なネイル。もうこの時点で校則違反だが、加えて第二ボタンまで外したブラウスに、下着が見えそうで見えないギリギリの短さのスカートの少女。
品行方正なこの学校にしては珍しい格好だ。
「あ、ちわーす」
お嬢様学校の生徒には珍しい、とても砕けた挨拶。
この生徒のことは知っている。同じクラスだ。
しかも生徒会室で、問題のある生徒としてなの上がったことのある。
松木美流子。
「……松木美流子さん、ですよね」
「あたしの事、知ってるんですか?」
「ええ。色々と有名ですしね」
遅刻、サボりの常習犯であるが、親がこの学校の関係者で強く言えない面倒な相手。そして、モデルとしても活躍しているとか。
速攻、普段のクールモードに切り替え対応する。
「あれ、もしかして影山さんっすか?」
「あ、私のことはご存じなんですね」
「有名人じゃないっすか。一般人上がりなのに、一年生の時から生徒会当選の才女でしょ? この学校じゃ知らない人はいないっすよ」
「それは嬉しいですね」
「わー! モノホンだー! サイン欲しい~」
「サインなんてないですよ」
「えー、サインくらいはみんな持ってますよ」
「それはあなたたちみたいな芸能人だけですよ」
「えー、そうなんかな?」
私は、こんな感じのノリというか空気感が苦手だ。過去の陰キャラであった時のトラウマが疼いて仕方がない。
そしてこのギャル、松木美流子が色々言っているが私はそれどころではなかった。頭の中は、一つのことでいっぱい。
……さっきの発言が聞かれていないかどうか。
ここは教室のある棟とは離れているので多少大きな声を出してもバレはしないが、もし屋上のそばで聞いていたら話は別だ。
聞かれていたら、私の学校生活はジエンド。
『え、影山さんって実は欲望にまみれたヘンタイなんだって』『話すと、毒牙に掛けられるらしいよ』『有栖川さんは狙われてるんだってさ』『えー、クールビューティーは演技だったんだぁ』『有栖川さんも同じらしいよ』
想像するだけで胸が痛い。嫌だ。最悪だ。泣けてくる。頑張って積み上げた私のイメージが……。
私にダメージが来るのは良いが、咲良にも影響が出てしまう。それだけは避けないと……。
私は、それとなく会話を進める。
「松木さんは、なんでここにいるんですか? ここは関係者以外立ち入り禁止ですけど」
「サボろうと思って。……私のおじいちゃん、ここの会長だし実質関係者じゃね?」
そう、彼女はこの学校の会長の孫なのだ。だから強く言えない。
この親の七光りが……!
とは言えないので、穏便に。
「まあ、関係者だろうとサボりは見過ごせませんね」
「というか、影山さんはなにやってたん?」
ギクッ。鋭い目つきで睨まれる。
ギャル怖い……。
「生徒会の仕事です」
「へー、どんな?」
「あなたに関係あります?」
「あたし生徒会に興味あってさー」
「嘘ですよねそれ」
こう言うタイプは雰囲気で生きてるものだ。
「バレちった? ……というか、言えない事なの? 仕事を公開するのは公平で健全な生徒会運営には必要なんじゃないの?」
「うっ……」
口の回る面倒なギャルだ。でも、この様子じゃ私の発言は聞こえていなさそうだ。危なかった。
「……見回りですよ。こういう屋上でサボろうとしてる人がいないか確認してたんです」
「そんな奴がいるんすねー」
「…………」
「屋上以外もサボる場所あるから別に良いけど」
「サボりは見逃しませんよ?」
「今日は見逃してくれない?」
「ダメです」
「えー、…………じゃあ」
あっ。と、怪しい笑みを浮かべる。
嫌な予感がした。
「有栖川さんへの愛の告白、聞かなかった事にしてあげるから」
はい終わったーーーー!!!!
聞かれてましたーー!!!ダメでした!!
土に帰りたい……。
「だから、有栖川さんへの愛の告白を……」
「身に覚えがありませんよ」
「さっき叫んでたじゃん」
「聞き間違いじゃないですか?」
やばいやばいやばいやばい聞かれてた聞かれてた。冷や汗が止まらない。脳をフル回転させ考える。
どうしよう。
で、でも証拠なんか残ってないし問題児の言うことなんて誰も信じないし放置でもいいのでは?
そんな私の心を見透かしてか、ギャルはニヤリと笑う。
え、なに怖い。
『咲良ちゃん……可愛すぎかよ』
「は?」
聞こえたのは、私の声。ギャルの手には、小さな機械。……もしかして、ボイスレコーダー?
『んんんんんんんんーーー!!! 咲良ちゃん可愛すぎ!!愛らしい!!好き好き好き好きーー!! しゅきーー!!!!!』
「……………………」
「影山さん、なんかイメージと違うんだね笑」
フッと、ギャルは笑う。
……あ、終わった。
入学式から、約3ヶ月。
私の作り上げた完璧な人物像は、とうとう1人のギャルにバレてしまった。
私の学校生活、一体どうなってしまうのだろうか。
先に軽くネタバレしておくと。
私とギャルは、奇妙な関係を構築していくことになる。
◇
一方その頃、教室では。
「空奈ちゃん生徒会のお仕事して偉いなぁ……私も、生徒会に入れるくらい頑張らないと!」
咲良は、空奈を見習いやる気を上げた。
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