転生したら主人公を裏切ってパーティを離脱する味方ヅラ悪役貴族だった~破滅回避のために強くなりすぎた結果、シナリオが完全崩壊しました~

おさない

文字の大きさ
41 / 43

第41話 不審者VS不審者

しおりを挟む
【不審者side】

「おかしいですねぇ……アナタは私と同じく……『神に仕える者』だと思ったのですが」

 屋敷の中から連れ出される道中、同業者であることを否定されたルナティックは首をかしげながらそう言った。

「いいえ、あなたが信じているものは神ではありません。……人の心を持たない魔物です」
「おやおや……」
「――そしてあなたも、もはや人間ではない」

 屋敷の門を通り森の中へとやって来たサリアは、その場で立ち止まってルナティックの背を睨みつける。

「ここへ来た時からその醜悪な邪念を感じ取っていたアランは、さぞ怖かったことでしょう……! 一体……どれほどの罪なき子らを手にかければそうなるのですか……!」

 その目からは涙が零れ落ちていた。ちなみに、アランがルナティックの気配を感じ取っていたというのは彼女の勘違いである。

「――我が主に代わって、私が裁きを下します」

 彼女はそう宣言しながら所持していた聖典を天に掲げた。

 対するルナティックは、不気味な笑みを浮かべたまま懐から魔導書を取り出し振り返る。

「幼い子供が最も輝く瞬間は……恐怖のあまり顔を歪めて泣き叫ぶときなのです! 私と同じでありながら……アナタにはなぜそれが分からないのですか?」
「少年少女の笑顔はこの世で最も尊い宝です。それを奪おうなどと考えるあなたは、言葉の通じぬけだものと変わりありません。――これ以上の問答は不要でしょう」

 冷たい声で言い放ち、聖典のページを開くサリア。

「……たった今、同じことを思いました。どうやら……アナタとは根本から相容れないようだ」

 ルナティックも魔導書を開き、迎え撃つ体勢に入る。

「偉大なる我が主よ、どうかこの者の罪過ざいかに報いをお与えください――完全回復フルヒール
「治癒魔法……?」

 しかし、サリアが詠唱したのは治癒魔法だった。ルナティックの頭上に光が降り注ぎ、全身に完全回復フルヒールがかかる。

「……ぐぅッ?!」

 刹那、胸を押さえて苦しみ始め、その場に膝をつくルナティック。

「これで分かったでしょう。あなたはもう人ではないのです――悔い改めなさい」

 サリアのように修練を積んだ聖女の治癒魔法は、重い罪を背負った者や魔物に対してはそのまま攻撃魔法として作用するのだ。

「心なき者の手にかかった罪なき子らの御霊みたまに、永遠の安らぎがあらんことを……」

 聖典を胸に当て、その場で祈りを捧げるサリア。

「な、なるほど……随分と狂った神を……信仰しておられるようだ……!」
「……歪んだ目を通してみれば何もかもが歪んで見えるものです。あなたの見え透いた挑発が私に届くことはありません」
「まるで……お話になりませんねぇ……」

 次の瞬間、ルナティックの持つ魔導書の瘴気がひときわ強まる。

「偉大なる……我が主よ……」
「――完全回復フルヒールッ!」

 サリアは治癒魔法を重ねて詠唱するが、それでも止まらない。

「ぐッ……がはぁッ! ……どうか……罪深きヒトの子に永遠の安らぎを――死の指先ブライニクル

 ルナティックが血を吐き出しながら詠唱を済ませると、サリアの心臓の辺りを流れる血液が凍結し、氷柱つららとなって彼女自身の胸を貫いた。

「…………っ!」
「おやおや……もう、お終いですか……?」

 血の氷柱は一瞬にして溶け落ち、辺りが鮮血で染まる。サリアの胸には大きな穴が空いていた。

「あなたには……必ず……」

 左手で苦しそうに胸を押さえながら何かを言おうとするサリアだったが、もはや手遅れである。

「うぐっ……」

 やがて彼女の目は光を失い、聖典を落としてその場へ倒れ伏した。

「悲鳴すらないとは……張り合いのない……」

 ルナティックは満身創痍の身体を引きずってサリアの元へ歩み寄り、血に染まった聖典を拾い上げる。

「どうやら、間違っていたのはアナタの神だったようですねぇ……?」

 勝ち誇った表情で言い放ち、蔑むような目でサリアの聖典を開くルナティック。

「………………はぁ?」

 ――そこに記されていたのは、サリアが信仰する神の言葉ではなかった。

 ニナ、プリシラ、アランを含む様々な子供たちが、こちらへ向かってほほ笑みかけている。『記憶の魔導書』の中でも選りすぐりの一枚を切り抜いて納めているのだ。

「な、なんだこれは……?!」

 うろたえるルナティックだったが、本当の恐怖はここからだった。

「サリアせんせー、がんばって!」「サリアせんせいだいすきー!」「どこか痛いの? じゃあ……よしよし、してあげるねサリア先生!」

 聖典の中の子供達が動き始め、倒れているサリアを応援し始めたのである。

「もうっ! そんな所で寝てちゃだめじゃないサリア!」「まったく。世話の焼ける姉だなぁ……わたしがおんぶしてやろうか?」

 ……もちろん、聖典の中には幼少期のメリアとダリアも切り抜かれている。二人もサリアのことを応援しているようだ。

「私はやればできる子です! 今日も頑張りましょう!」

 さらに恐ろしいことに、そこには幼少期のサリア自身の姿もあった。おそらく、彼女にとっては子供の頃の自分自身も尊い存在なのだろう。

「意味が分からない……!」
「私の……大切な思い出です」
「ッ?!」

 いつの間にかサリアは起き上がっていた。胸に空いた穴は跡形もなく消え去り、自身の血で染まっていたはずの身体も全て綺麗になっている。

「な、なぜ生きているッ!」
「……心の中の皆さんが応援してくれる限り……私が悪を前にたおれることはありません! みんなの笑顔が私にとっての治癒魔法なのです!」

 詳しい原理はおそらく本人も理解していないが、どうやらサリアは聖典の中で子供たちとの幸福な記憶(※空想を含む)を再現し、皆に応援してもらうことで自らの聖なる力を高めているようだった。

 切り抜かれた子供たち一人一人がサリアの魔力と記憶によって再現された人工精霊のような存在であり、彼女自身の生命と繋がっているのだ。

「サリア様……どうか、みんなを救ってあげてください……っ!」「僕たちの無念を……晴らして……っ!」

 ――そしてルナティックは、自分が手にかけた子供達の顔がページに浮かび上がってくるのを見て激しく取り乱した。

 これも詳しい原理は不明だが、聖典にはサリアが弔った子供たちが加わることもある。

 おそらく、この世を彷徨っていた霊魂の一部が彼女の優しい心に触れて力を貸してくれるのだろう。

「く、狂ってる……」

 ルナティックは震える声でそう呟いた後、聖典を取り落として後ずさる。

「皆さんを乱暴に扱わないでください!」

 サリアは物凄い早さでそれを拾い上げ、埃を払って抱き締めた。

「オマエは……一体なんなんだぁッ!」
「サリア・フォルテル――神に代わってあなたに裁きを下す者ですっ!」

 次の瞬間、天からまばゆい光の矢が降り注ぎ、ルナティックを貫くのだった。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件

さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。 数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、 今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、 わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。 彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。 それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。 今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。   「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」 「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」 「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」 「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」   命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!? 順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場―― ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。   これは―― 【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と 【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、 “甘くて逃げ場のない生活”の物語。   ――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。 ※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。

【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます

まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。 貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。 そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。 ☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。 ☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。

国外追放だ!と言われたので従ってみた

れぷ
ファンタジー
 良いの?君達死ぬよ?

大好きな幼なじみが超イケメンの彼女になったので諦めたって話

家紋武範
青春
大好きな幼なじみの奈都(なつ)。 高校に入ったら告白してラブラブカップルになる予定だったのに、超イケメンのサッカー部の柊斗(シュート)の彼女になっちまった。 全く勝ち目がないこの恋。 潔く諦めることにした。

距離を置きたい女子たちを助けてしまった結果、正体バレして迫られる

歩く魚
恋愛
 かつて、命を懸けて誰かを助けた日があった。  だがその記憶は、頭を打った衝撃とともに、綺麗さっぱり失われていた。  それは気にしてない。俺は深入りする気はない。  人間は好きだ。けれど、近づきすぎると嫌いになる。  だがそんな俺に、思いもよらぬ刺客が現れる。  ――あの日、俺が助けたのは、できれば関わりたくなかった――距離を置きたい女子たちだったらしい。

美人四天王の妹とシテいるけど、僕は学校を卒業するまでモブに徹する、はずだった

ぐうのすけ
恋愛
【カクヨムでラブコメ週間2位】ありがとうございます! 僕【山田集】は高校3年生のモブとして何事もなく高校を卒業するはずだった。でも、義理の妹である【山田芽以】とシテいる現場をお母さんに目撃され、家族会議が開かれた。家族会議の結果隠蔽し、何事も無く高校を卒業する事が決まる。ある時学校の美人四天王の一角である【夏空日葵】に僕と芽以がベッドでシテいる所を目撃されたところからドタバタが始まる。僕の完璧なモブメッキは剥がれ、ヒマリに観察され、他の美人四天王にもメッキを剥され、何かを嗅ぎつけられていく。僕は、平穏無事に学校を卒業できるのだろうか? 『この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません』

断罪現場に遭遇したので悪役令嬢を擁護してみました

ララ
恋愛
3話完結です。 大好きなゲーム世界のモブですらない人に転生した主人公。 それでも直接この目でゲームの世界を見たくてゲームの舞台に留学する。 そこで見たのはまさにゲームの世界。 主人公も攻略対象も悪役令嬢も揃っている。 そしてゲームは終盤へ。 最後のイベントといえば断罪。 悪役令嬢が断罪されてハッピーエンド。 でもおかしいじゃない? このゲームは悪役令嬢が大したこともしていないのに断罪されてしまう。 ゲームとしてなら多少無理のある設定でも楽しめたけど現実でもこうなるとねぇ。 納得いかない。 それなら私が悪役令嬢を擁護してもいいかしら?

うちの冷蔵庫がダンジョンになった

空志戸レミ
ファンタジー
一二三大賞3:コミカライズ賞受賞 ある日の事、突然世界中にモンスターの跋扈するダンジョンが現れたことで人々は戦慄。 そんななかしがないサラリーマンの住むアパートに置かれた古びた2ドア冷蔵庫もまた、なぜかダンジョンと繋がってしまう。部屋の借主である男は酷く困惑しつつもその魔性に惹かれ、このひとりしか知らないダンジョンの攻略に乗り出すのだった…。

処理中です...