パーティを庇って死んだ少年、10年後に蘇生され溺愛される~男の子だと思ってた仲間は過保護なお姉さんになっていました~

おさない

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第8話 少年が死んだ日(ベルーダ視点)

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 比較的安全な下級の迷宮である『大猿の森』にて薬草採取を行っていたベルーダ達の前に現れたのは、見た事もない魔物だった。

「ア、ア、アアアアア」

 それは不自然なほど長い手足で不安定に四足歩行する、体毛のない人型の化け物である。

 肌は不気味なほどに白く、顔だけが肉を引き剥がされたかのように赤い。

 そしてその全長は、この森の木々よりも遥かに大きく見えた。

 迷宮に住まう温厚な魔猿《まえん》たちとは大きくかけ離れた姿をしていて、異様な殺気を放っている。

「――早く逃げろっ! 死にたいのかっ!」

 その時、フィルはベルーダに対して初めて大きな声で怒鳴った。

 足元には魔物の一撃で重傷を負ったライカが血を流しながら倒れていて、その近くにフィルが背負っていた背嚢《はいのう》が投げ渡されている。

 今この状況でベルーダが何をすべきかは明白であった。

「で、でも――」
「ギィィイイアアアアアアアァァアッ!」

 震えながら発したベルーダの言葉は魔物の咆哮によってかき消される。

「動けないなら足手まといだって言ってるんだッ! 早くしろばかっ!」

 フィルは間違いなく後の行動に支障が出るほどの膨大な魔力を解放しながら、ベルーダに向かって叫んだ。

「ぅ、あ……!」

 ――全面的にフィルが正しかった。

 魔物が未だに動かないのは、フィルの命を削った威嚇が効いているからだ。

 皆を守る役割を担っておきながら、傷ついたライカと悍ましい魔物の姿を見て怖気づき、腰を抜かして立ち上がることすらできなくなったベルーダがすべきなのは――今すぐ街へ帰還して助けを呼ぶことである。

 帰還の巻物はフィルが投げ渡してくれた背嚢の中に人数分入っていた。

 これを使用すると一切の魔力操作が利かなくなることによって、魔術師や神官は魔法が使えなくなり、武闘家や剣士は魔力による身体の強化ができなくなってしまう。

 つまり、帰還魔法が発動するまでの時間は非常に無防備な状態になるということだ。

 おまけに発動中に外部からの攻撃を受けると魔法そのものが完全に停止し、帰還に失敗してしまう。

 従って、この状況から離脱するためには眼前の魔物を引き受ける囮役が必要だった。

 フィルは誰よりも早くパーティが置かれた絶望的な状況を理解し、自身が囮を引き受ける判断を下したのである。

「う、あ、うあぁあ……っ!」

 ベルーダは悲鳴と嗚咽が混じったような情けない声をもらしながら地べたを這いずり、震える手で帰還の巻物を取り出す。

 そして、躊躇しながらもそれを自身とライカに使用した。

「フィルっ! すぐに助けを呼ぶからっ! それまで……待ってろっ!」

 ――絶対に間に合うはずがない。

 ベルーダはそんな考えを無理やり頭から追い出し、フィルの背中に向かって必死で叫ぶ。

「……ごめん、ベルーダ」

 帰還魔法が発動する直前、フィルが震えた声でそう言った。

 *

 次にフィルと再会できたのは、冒険者ギルドの地下に存在する、された冒険者の一時保管場の中だ。

 血の付いた布に包まれたフィルの姿は余りにも悲惨で、を確認したベルーダとライカは耐え切れずに嘔吐した。

「残念ながら、あの子の蘇生は不可能です。時間をかければ綺麗に修復してあげることは可能ですが……内部の損傷が激しくて」
「……ああ……分かってる」
「だからせめて――迷わず神の元へ逝けるよう、お祈りを捧げました。どうかあなた達も、あの子の魂の平穏を祈ってあげてください。残された者にできることはそれだけです」
「………………」

 フィルの治療に当たった神官の男性は、部屋の隅で膝を抱えて座っていた二人にそう告げ、沈痛な面持ちで去っていった。

「すごいよ、あの子は。アタシらでも手こずるような化け物を、たった一人で引き付けて……キミ達を逃したんだ。本当なら……三人とも死んでた」
「……ああ」
「だけど……どんなに実力があっても、才能があっても、今回みたいに運が悪けりゃあっさり死んじまうのが冒険者ってやつだ」

 報告を受け魔物の討伐に向かい、その過程でフィルを回収したBランクパーティの一人である魔術師の女性は、やつれた顔でそう話す。

「……やめるなら今のうちだよ。キミらみたいなガキが……好き好んでやるような仕事じゃない」
「………………」
「冒険者になったのが間違いだったね」

 ――ごめん、ベルーダ。

 フィルが最期に言い放ったあの言葉は、自身を冒険者に誘ったことに対する謝罪だったのかもしれない。

「ふざけんなよ……」
「…………?」
「フィルは……間違ってなんかない……!」
「ふん。……続けるつもりなら――仲間の死が無駄にならないよう、まあせいぜい頑張りな」

 そして最後にそんな忠告をして立ち去った。

「ボクの……せいだ……」

 未だに傷が癒えず、手足に包帯を巻いた痛々しい姿のライカが、頭を抱えながら呟く。

「ごめんねフィル……フィルぅっ……! うあぁ……っ!」

 普段の明るさからは想像できないくらい憔悴しきっている様子だった。

 もしかしたら、ライカはもう駄目かもしれない。

「まだだ……」
「え……?」

 そうだったとしても――独りでもやり遂げるべきことがある。

「迷宮には……何でもあるんだろ? だったら……フィルを生き返らせる方法だって……どこかで見つかるかもしれない」
「なに、言ってるの……ベルーダ……?」
「オレが……フィルを生き返らせる方法を見つけ出す」

 ベルーダは拳を固く握りしめ、地面を叩き付ける。

「一生……かけてでもッ!」

 そうしてあの日、血が滴る拳の痛みに誓ったのだった。
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