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第21話 女の子同士だからお風呂に入っても大丈夫
しおりを挟む「お兄ちゃんにかかったの……女の子になるポーションだ……!」
メノは自身のローブの内側を確認しながら、青ざめた顔で言った。
「え、あ……っ?!」
衝撃的な事実を聞かされたフィルは、目をまん丸と見開く。
女の子になるという言葉が、彼の脳内で何度もこだましていた。
「お、女の子になるって……どういうことですかっ!?」
一方、セレスは未だに理解が追いついていない様子である。
「お兄ちゃんちょっとごめんねっ! 触診するからっ!」
メノはそう言って、フィルの大切な場所をぽんぽんと触った。本人としてはあくまで医療行為のつもりらしい。
「ひゃぅっ?!」
突然のことに驚き、小さな悲鳴をあげて内股になるフィル。顔は恥ずかしさで真っ赤になっていた。
「何てことをするのですかっ!? あなたという人は……っ! もう許せませんっ! 然るべき裁きを受けてもらいます!」
「今それどころじゃないから待って!」
怒るセレスを無視し、フィルの体を隅々まで調査するメノ。
「もう少し我慢しててねお兄ちゃん……!」
「うっ、あぅっ、ひゃぁっ……!」
やがて、触診を終えたメノが自身の手を見つめながらこう呟いた。
「やっぱり……!」
「ぼ、ぼく……女の子に、なっちゃったの……?」
涙で目を潤ませながら問いかけるフィル。
メノは静かに頷いた。
「そんなにいっぱい触って調べる必要……あった……?」
メノは静かに頷いた。
「それはつまり……お兄さまが……お姉さまになってしまわれたということですか……?」
メノは静かに頷いた。
「そんな……」
あまりの喪失感に立っていられなくなり、その場にへたり込んでしまうフィル。座り方も自然な女の子座りであった。
「これじゃあ僕……もうお嫁に行くしかないよぉっ!」
彼――もとい彼女は泣きながら叫ぶ。
「わ、私はお兄さまがお姉さまでお嫁さんだったとしても受け入れますっ!」
あたふたしながら意味のわからない慰めをする聖女様。
「だ、大丈夫! 直接体内に注入したわけじゃないから、時間が経てば元に戻る……と思うわ」
「本当に……?」
「たぶん! きっと! そのうち!」
「うぅぅっ……!」
自信満々に曖昧な返事をされ、不安でむせび泣くフィル。
「立ち振る舞いまで可愛らしい乙女なのは……薬の効果でしょうか?」
「わかんない! お兄ちゃんは素直で影響されやすいから……気持ちの問題かも!」
メノの考察がフィルの男の子としてのプライドを傷つける。
「でも、見かけは特に変わりませんね」
「お兄ちゃんは元々女の子みたいだから影響が少なかったのかも」
「なるほど。確かにお兄さまには中性的な可愛らしさがありますからね!」
「お兄ちゃん、一緒に遊んでた村の男の子達からも明らかによくない目で見られてたし……私そういうのわかるの」
ある意味では、それがフィルにとって一番残酷な事実であった。
「僕……もう何も信じられない」
冒険者の仲間たちに続き、村の幼馴染たちとの友情も破壊され、死んだような目で呟くフィル。
「とにかく、まずは体に付いたポーションを洗い流しましょう。そうしたら元に戻るまでの時間も短くなるかもしれないわ」
「そ、そういうことは早く言ってよっ!」
フィルは大慌てで立ち上がり、部屋を出て風呂場へ駆け込むのだった。
*
「おちつかない……」
体についたポーションを洗い流すため、下を向きながらシャワーを浴びていたフィルは、ぼそりとそんなことを呟く。
彼女の視界には、お風呂に入った時にいつも見えるはずのものが映っていなかった。
それによって、十一年間苦楽を共にした相棒が消失してしまったという事実をはっきりと突きつけられる。
「胸は……平べったいままで良かった……」
不幸中の幸いは、体の変化がそれほど大きくなかったことだろう。
もっと女の子らしい体つきになっていた場合、彼女の中の何かが危なかった可能性がある。
「はぁ……」
自身に起きた変化を一時的なものとして受け入れ、ほっと一息ついたその時――
「ちゃんと綺麗に洗い流さなきゃダメよ、お兄ちゃん?」
「きゃっ?!」
突如として背後から白い腕が出現し、フィルの体に巻き付く。
いつの間にか風呂場へ入ってきていた妹のメノの仕業だった。
「私が洗い方を教えてあげるから……ね?」
「や、やめてよぉっ……!」
「今は女の子同士なんだから、遠慮しないの」
「あうぅ……っ」
泡のついた細くてしなやかな指がフィルの体を這い回り、柔らかい胸が背中に当たる。
「だ、だめぇ……っ」
フィルはびくびくと体を震わせながら必死に抵抗した。
「女の子になったお兄ちゃんも可愛いよ……はぁ、はぁ」
メノが荒い息遣いで囁いた次の瞬間。
「聖なる矢!」
「うっ!」
背後で魔法の詠唱が聞こえ、メノが床に倒れ込む。
「少しの間動けなくしました。これで安心してお風呂に入れますね、お兄さま」
「あ、ありがとう。助かったよセレス――」
言いながら振り返ると、そこには一糸纏わぬ姿のセレスが立っていた。
「わっ……!」
堂々としたその立ち姿は女神の彫刻のように美しく、後光がさしているような錯覚すら覚える。
「さあ、お兄さま。体の洗い方は私が教えて差し上げますから、今のうちに湯浴みを済ませてしまいましょう」
「それじゃあ結局同じ――んむっ! 僕っ、自分一人で――むぐっ!」
フィルはセレスに優しく抱きしめられ、言葉を封じられた。
「今は女の子同士ですから……ね?」
――どっちでもダメだよっ!
というフィルの声は、柔らかい胸に包まれて消えてしまうのだった。
「セレスぅ……ッ!」
「……しつこい人ですね」
その後、驚異的な早さで復活したメノと迎え撃つセレスの熾烈な争いが繰り広げられたことは言うまでもない。
しかし最後は無事に和解し、二人で仲良くフィルのことを綺麗にしたのだった。
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