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第20話 お兄ちゃんを取り合う妹(年上)
しおりを挟む「お帰りなさい、戻って来ていたのねセレス」
メノは腕を組んだまま、お兄ちゃんに膝枕されるセレスに対し鋭い視線を向ける。
「ええ、先生からお兄さまのことを教えていただいたんです」
一方、セレスは澄ました顔で起き上がって言った。今まで十歳も年下の少年に膝枕をさせていた人間とは思えない気品と風格に満ち溢れている。
「……まあいいわ。――そんなことより」
メノは扉から離れ、髪を整えてからこう続けた。
「ただいま、お兄ちゃんっ! おしごとちゅらかったよぉーーっ! うええええんっ!」
――まともな精神状態の人間がする振る舞いではない。
「お、お帰りなさい、メノ。……おつかれさま」
フィルは妹の行く末が心配であった。
「後ね、お兄ちゃん。――お部屋の準備は私がするつもりだったんだから、無理しなくてよかったんだよ? 何だったら、ずっと私の部屋を使ってくれてもいいのに……」
「そ、そんなこと言われても……」
メノの口ぶりからして、フィルをずっと自分と同じ部屋に住まわせ続けるつもりだったことは想像に難くない。
「――だって、お兄ちゃんと私はずっと一緒に暮らしてきたんだからねっ!」
続く彼女の発言は、妹としての圧倒的な優位性をセレスに対してアピールするものだった。
「あの、今は私がお兄さまと大切なお話をしているので……しばらく外で待っていてもらえますか?」
対してセレスは聞くに耐えかねたらしく、フィルのことを守るようにしてメノの前へ立ちはだかる。顔はほほ笑んでいたが、明らかに怒っていた。
「はぁ。……あのね! お兄ちゃんの妹は今までもこの先もずーっと私ただ一人なんだから、そうやって妹ぶらないで!」
「いいえ、お兄さまが私のことを大切な妹だと認めてくださったのですから、あなたにそれを覆す権利はありませんっ!」
互いに睨み合い、バチバチと火花を散らせるメノとセレス。
「あ、あれ……? 二人ともすっごい仲悪い……!」
フィルは思わずそんなことを呟いた。
似た者同士の二人であればきっと仲のいい友達になれるという彼の考えは、完全に的外れだったようだ。
「だいたい結婚するってなによ? お兄ちゃんのお嫁さんになるのは私なんだから、勝手に手を出そうとしないで! 赤の他人のくせに!」
「血の繋がりがないからこそ結婚できるのですが……ご存じありませんか? あなたはお兄さまと血の繋がりがあるのですから、それで満足してください! わがままでお兄さまを困らせるのは良くないと思いますっ!」
そうこうしている間にも言い合いはどんどんと激しさを増していく。
「ワガママなのはそっちでしょ! いい子ぶってるだけで本当は腹黒なくせにっ! 早く私のお兄ちゃんを返しなさいこの泥棒猫っ!」
「なっ、なんですかその言い方は……っ! いい子ぶっているのはあなたの方でしょうっ!」
このままでは取っ組み合いに発展してしまいそうな様子であった。
「まあまあ二人とも……け、喧嘩は良くないよ? 似た者同士なんだから仲良くしよう……?」
フィルは仕方なく荒ぶるお姉さん二人の仲裁に入る。
「じゃあお兄ちゃんはどっちと結婚するのっ?!」
「え」
しかし、メノから予想外の問いかけをされ完全に固まってしまった。
「あまりお兄さまを困らせるようなことを言わないでくださいっ!」
「お兄ちゃんを困らせてるのはそっちでしょっ! 本当は選ばれないのが怖いだけのくせにっ!」
「そもそもお兄さまと結婚できるのは私だけですっ! いつまでも子供みたいなことを言わないでくださいっ!」
「どっちが子供よっ! お兄ちゃんに膝枕なんかさせちゃってさっ!」
「どうせあなたもしてもらったのでしょうっ?!」
「うん! だから何っ?!」
この場で最も不憫なのは、二人の間に挟まれているフィルだろう。
「――お兄ちゃんは私と結婚してくれるんだもんねっ!? 約束したもんねっ!」
「け、結婚するなら私を選んでくださいっ! お兄さまのことっ、幸せにしてみせますっ!」
必死にお兄ちゃんを取り合う妹たち。
小さい女の子同士であれば微笑ましい光景だったのだが、成人女性二人が十一歳の少年を結婚相手として奪い合うその光景は――まるで地獄絵図であった。
この場面を誰かに目撃されたら、即座に衛兵を呼ばれてしまうことは確実である。
「まあ……これはこれで、一周まわって仲が良いってことなのかなぁ……? うん……そうだよね……」
追い詰められたフィルは目の前の現実から目をそらすことで心を守る。
「よかった……あはは……」
「お兄ちゃんっ! 私、血が繋がってても気にしないからっ! 私と結婚しようねっ!」
ヒートアップしたメノは、そう言ってフィルに掴みかかった。
「ひっ」
「気にするしないの問題ではなく、できないんですっ! お兄さまが怖がっているので離してくださいっ!」
次に、それを見たセレスが慌ててメノの腕を引き剥がそうとする。
「離しなさいよ……っ!」
「お兄さまは……私が護りますっ!」
「違うっ! お兄ちゃんを護るのは私なのっ!」
そうして、結局は掴み合いの喧嘩に発展してしまう二人。
おそらくは兄に対する積もりに積もった十年の想いが暴走した結果、こんなことになってしまったのだろう。原因の一端はフィルにも存在する。
「まあまあ、二人とも落ち着いて。そこまで言うなら僕がどっちとも結婚してあげるから――」
見かねたフィルがそう言って場を収めようとしたその時――事件は起きた。
「あっ」
メノの着ていたローブの内側から滑り出した試験管が、そのままフィルの頭上へと落ちてくる。
「お、お兄さま危ないっ!」
叫びながら手を伸ばすセレス。
次の瞬間、ポーションが使用されたと判定され、魔術的な処理によって試験管だけが消え去る。
結果的に中身の液体だけが解放され、フィルの身体に降りかかることとなった。
「うわっ!?」
薄ピンプ色の謎の液体でびしょ濡れになり、その場で尻もちをつくフィル。
「い、いたた……」
「お兄ちゃんっ!?」
「お兄さまっ!?」
先程まで言い争っていた二人は、血相を変えてフィルの元に駆け寄ってきた。
「だ、大丈夫っ?! 身体に異変はないっ?!」
「う、うん。特に何とも――」
そこまで言いかけて、フィルは自身が大切なものを失っていることに気づいてしまう。
「……ないっ!」
「良かった、何ともないのですね!」
「違うっ! あるっ! ない!」
「あの、どちらでしょうか……?」
涙目になっているフィルを見て、セレスは不思議そうに首をかしげるのだった。
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