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第41話 妹のことが大好きなお兄ちゃん
しおりを挟む「と、とにかく……外が大変なことになってるなら、とりあえず安全な場所に逃げないとダメってことだよね……?」
フィルは背負っていた師匠を一度そっと床に下ろし、壁にもたれかけさせながら問いかける。
話を逸らす――もとい脱線しつつあった話を元に戻すためだ。
「……そう。だけど、私たちと一緒に行動するのも危ないのよね」
「どうして?」
メノの返事を聞き、フィルは思わず首を傾げる。
「だって、お兄ちゃんが戦女神《ヴァルキュリア》の祝福《グレイス》の新しいパーティメンバーだって噂がもう広まっちゃってるから……私たち全員お尋ね者状態よ。ここに来る途中も知らない女たちからお兄ちゃんの居場所を聞かれたし……」
「えっと……じゃあ、別々に逃げるしかないってこと?」
少しだけ不安な気持ちになりながら問いかけるフィル。仮に先ほどのサキュバスたちのような相手が大勢押しかけていた場合、一人で逃げ切れる自信はなかった。
「ううん、違うよ。こうするの」
そう言って、メノは液体の入った瓶を懐から取り出す。淡いピンク色の液体が入ったそれの蓋を開けると、躊躇なく自分とセレスと師匠にふりかけた。
「えぇっ?!」
あまりにも突然のことに驚くフィル。
「きゃっ!? な、なにをするのですかっ!」
隣に居たセレスは、液体まみれになりながら小さな悲鳴を上げた。
――しかし次の瞬間、辺りに紫がかった煙が立ち込め、何も見えなくなる。
「本当は透明化のポーションを使いたかったんだけど、今はこれしか手元にないの」
「せ、せめてちゃんと説明してから使ってくださいっ! 私に何を使ったのですかっ?!」
「効果はじっとしてれば分かるんだからいいじゃない」
煙の向こう側でメノとセレスの話す声が聞こえた。その声は心なしか高くなっていて、どこか聞き馴染みがあるような懐かしい感じがする。
「あ……!」
徐々に煙が晴れていき、再び現れた妹の姿を目にしたフィルは言葉を失った。
そこには、故郷でお別れをした時にしっかりと目に焼き付けた、あの頃のメノが立っていたからである。
「お兄ちゃんがよく知ってるのはこっちの姿の私だから……久しぶりってことになるのかな?」
少女の姿になったメノは、少しだけ恥ずかしそうにしながら続ける。
「前に間違えてお兄ちゃんにかかっちゃった女の子になる薬……本当はこうやって使うんだよね」
「メノ……っ!」
自分よりも小さく、胸もない。――よく知っている幼い姿の妹を前に、一気に懐かしさと安堵が込み上げてくるフィル。
「えへへ……お兄ちゃんが……私の知ってる大きさになった。……昔は少しだけ私より大きかったもん」
メノは言いながら、恥ずかしそうに笑う。
「メノっ、会いたかったよぉっ! 寂しい思いをさせてごめんねっ!」
妹の姿に感極まったフィルは、たまらず彼女のことをぎゅっと抱きしめるのだった。
「んっ……お兄ちゃん、だいたんだよぉ……っ!」
メノは顔を真っ赤にしながらも、小さくなった腕をそっとフィルの背にまわす。その表情はとても嬉しそうであった。
ちなみに、急激に縮んだので服はぶかぶかである。
「お、お兄さまっ! わ、私もあの頃の私です……っ!」
そんな二人の様子をじっと見つめていた少女のセレスが、たまらずに口を開く。
「私のことも見てくだ――」
「セレスっ!」
次の瞬間、フィルはセレスの方にも腕を伸ばし、しっかりと抱き寄せた。
「あっ、そんな……っ、お兄さまっ、激しすぎますぅ……っ!」
「また……昔のセレスに会えるなんて……嬉しいよっ!」
一瞬にして自分の周囲をとりまいていた何もかもが変わってしまったフィルにとって、昔の姿をした妹たちはそれだけで心の拠り所となるのである。
だからこそ、彼は十年経っても何一つ変わらない師匠のことが好きであった。
しかし――
「う、うぇえ……? なんか……動きずらいっていうか……視点が低いんだけどぉ……?」
肝心の師匠は、青白い肌に紫色の髪をした、知らないエルフの少女と化していた。
変化がないのは、胸の大きさと陰気そうなところくらいである。
「えっと……あの、師匠……ですよね……?」
「あ、フィル……! なんか……ちょっと大きくなった?」
ディアナは言いながら、不思議そうに首をかしげた。
「いえ……師匠が小さくなったんです」
「ど、どういうことぉっ!?」
あまりにも突然の宣告に、目をぱちぱちさせながら困惑するディアナ。
「へー、師匠の小さい頃ってこんな感じだったのかー」
「せ、先生……これはこれで、可愛らしいですね……っ!」
メノとセレスは、そんな彼女の姿を興味津々で見つめていた。
「フィルっ! せつめいを――」
状況を理解できないディアナがフィルに詰め寄ろうとしたその時。
「フィルくーーーーんっ! どこに居るのおおおおぉっ!?」
「あたしと一緒に住もうっ! なんでもしてあげるからぁっ!」
「フィルお兄ちゃんを養うのは私よッ!」
ぞっとするようなお姉さんたちの呼び声が、詰め所の入口の方から聞こえて来た。
「つ、詰め所が突破されてしまったみたいですっ!」
セレスが震えた声で告げると、メノはディアナの腕を引っ張って言う。
「師匠っ! 説明は後っ! とにかく部屋に隠れてやりすごしましょうっ! お兄ちゃんを隠して、窓からこっそり逃げるのっ!」
「ふえぇっ?!」
詰め所の周辺に着々とお姉さんたちの包囲網が形成されていく中、フィルたち四人の逃避行が幕を開けたのである。
――ちなみに、ベルーダとライカについては……ひとまず諦めることにしたようだ。
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