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第42話 危ない幼女に包囲される少年
しおりを挟む「フィルく~ん……」
「どこに居るのぉ~……?」
「隠れてないで出て来てねぇ~!」
廊下を徘徊するお姉さんたちの、甘ったるくもどこか不穏な声が響く。
詰め所の一番奥にある物置のような部屋に逃げ込んだフィル達は、息をひそめて外の気配を伺っていた。
「フィル……く~ん……」
やがて廊下の声が少しだけ遠のいたその時、ディアナが小さな悲鳴を漏らす。
「あぅ……わ、私のローブがぁ……っ」
メノのポーションによって縮んだ三人の衣服を作るため、背の高いディアナの着ていたローブは分割されてしまったのである。
そして、裁縫の得意なセレスによって幼女三人分のローブへと生まれ変わったのだ。
つまりこの場には、ローブの下に何も着ていない裸の幼女が三人も存在していることになる。
どこへ逃げようとフィルが痴女に囲まれる運命は変わらないのだ。しかし、平らな胸に囲まれている方が彼にとって安心できる環境であることは間違いない。
おそらくこの先、フィルは大きな胸に怯えながら過ごすことになるのだろう。
「でも……可愛いからいいやぁ……布の一枚下が裸って、なんかドキドキするかもぉ……っ!」
「おかしなことを言わないでください、先生……っ!」
ディアナの呟きに対し、セレスは恥ずかしさのあまり顔を真っ赤にして怒る。一応、聖女としての恥じらいは少しだけ残っているようだ。
彼女がおかしくなってしまうのは、お兄さまであるフィルを相手にした時だけなのだろう。
「ねえ……みんな。外の人たちは僕に会いたくて来てくれたんだし、やっぱり出て行って話をした方が――」
状況を少しずつ認識し落ち着きを取り戻したフィルは、皆に向かってそんな提案をした。冷静に考えれば、知り合いのお姉さん達は恐れる相手ではないことに気づいたのである。
「な、何言ってるのお兄ちゃんっ?! 死にたいわけっ?! 私はそんなのイヤっ!」
「外の人たちの声を聞いたでしょうっ?! あれはもはや……まともな人間ではありませんよお兄さまっ!」
「い、今の状況でフィルが出て行ったら…………きっと骨も残らないよぉ……っ!」
しかし三人から一斉に反対されてしまう。
「そんな……大げさだと思うけど……」
「さっきまでサキュバスに襲われかけてたこと、もう忘れちゃったのっ?!」
ぐうの音も出なかった。
「し、知り合いに挨拶するだけだから……」
「絶対にだめッ! とにかく、お兄ちゃんはこれで顔を隠して!」
メノは即座に否定しつつ、ディアナが着ていたローブの余ったフード部分をフィルの頭に被せた。
「うぐっ……!」
少しだけほこり臭いが、今はそんなことを言っている場合ではない。
「ここねぇっ! ここに居るのねフィルくんっ!」
――その時、部屋の扉が勢いよくノックされた。
「何もしないから、外に出てきなよぉ~!」
「ぐへへっ、美味しいお菓子もあるわよ……!」
「私は……っ、フィルくんのせいでおかしくなっちゃったんだから……!」
どうやら、痴女たちに居場所を勘づかれてしまったらしい。このままでは扉が破られるのも時間の問題だろう。
「とにかくっ! あの窓から逃げるわよっ!」
「う、うん……」
メノが叫び、フィル達はすぐに行動を開始する。
一行はSランクパーティとして培った隠密スキルを発揮し、静かに詰め所を抜け出すのだった。
*
フィル達がたどり着いたのは、メノが所有していた隠れ家の一つ――迷宮都市郊外の森の中にひっそりと建つ小さなログハウスである。
ここまでくれば、流石にフィルを狙うお姉さんの気配はなかった。
「ふぅ……小さいとこういう時に便利ですね。普段は狭い場所を通るとつっかえてしまいますから」
言いながら、ほっと胸をなでおろすセレス。
「ぜぇっ、ぜぇっ……歩いても歩いても……ぜんっぜん進まなかったんだけど……っ!」
一方のディアナは、小さくなったせいで更に体力がなくなっていた。
「でも……この後どうするの? ベルーダ達のこともあるし……とりあえずまたパーティハウスに戻る?」
フィルが皆に問いかけると、メノは小さく首を振って微笑む。
「ううん。……しばらく落ち着くまで、私たちの故郷に帰ろっか。家もまだちゃんと残ってるからね」
「故郷に……」
懐かしい気持ちになり、じんわりと心が温かくなるフィル。
「お兄ちゃんも一回くらいは帰りたいでしょ?」
「そう言われると……帰りたいかも……!」
昔の妹を見ていると、のどかな村の自然が浮かび上がってくる。
「――じゃあ、どうにかしてベルーダとライカも呼んであげないといけないね!」
ごく当然のように言うフィルだったが、対するメノの反応は冷たかった。
「あの二人は……まあ、諦めて罪を償ってもらえばいいんじゃない? Sランクだし、特権ですぐに出て来れるでしょ」
「だ、だめだよメノっ! 二人とも僕の大切な仲間なんだから……っ!」
必死になって抗議するフィルの肩に、メノはそっと手を置く。
「お兄ちゃん。人はね……十年も経てば変わるのよ。……今のあの二人は、もうただの危ないお痴女なの」
真っすぐな瞳で、淡々と現実を告げるメノ。
「うぅ……っ! な、何も言い返せない……!」
今のフィルは、かつての同じ志をもつ仲間だった二人の姿をあまり思い出せなくなってきている。
日々の生活の中で何度も何度も大きな胸にうずめられ続けれたので、無理もない話だった。
「では、そうと決まればまずは馬車の手配をするべきですね!」
今後の方針が決まり、セレスは立ち上がって入口の扉を開ける。
するとそこには――
「……おい、誰が痴女だ。聞こえたぞ」
「ちょっと聞き捨てならないよね~」
詰め所を抜け出してきたベルーダとライカが立っていた。
「………………」
――バタン。
セレスは笑顔のまま、何も言わずに扉を閉めるのだった。
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