超名門貴族の次男、魔法を授かれず追放される~辺境の地でスローライフを送ろうとしたら、可愛い妹達が追いかけて来た件~

おさない

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第8話 オリヴィアはかく語りき2

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「グレッグは……アニ様を養子にする際、二つの条件を提示しました。一つ目が、アニ様をヴァレイユ家の人間として育て、養子であることは本人にも伝えないこと」

 表向きの建前は、僕の命を暗殺者から守るためということになるだろう。

 だがグレッグのことだ。実際は、レスターの名前を完全に消し去りたかったのかもしれない。

 力のあるレスター家の名が消え去れば、ヴァレイユ家は更に勢力を増すことができる。

 ……実際、当事者である僕が今まで何も知らずに生きてきたのだから、グレッグの狙い通りだったということになる。

「そして二つ目は、私がヴァレイユ家に忠誠を誓うこと」

 レスター家の血筋が途絶えていないことを知っているのは、オリヴィアさんだけだ。

 グレッグは、オリヴィアさんが余計な口を滑らさないよう監視する為、自分の支配下に置いたのだろう。

「……他にどうしようもなかった私は、条件を受け入れるしかありませんでした。こうして、アニ様はヴァレイユ家の次男に、私は使用人となってヴァレイユ家に仕えることになったのです……」

 ――そして、僕が魔法を授かれなかった今、レスター家を再び立て直せる者はいない。

 少なくともグレッグはそう判断して、今さら邪魔になった僕を家から追い出した……と、そんなところだろうか。

 そう考えると、グレッグの行動はあまりにも怪しすぎる。もしかすると、暗殺者を仕向けたのはグレッグなのではないだろうか?

 一瞬だけ、そんな考えが頭をよぎった。

 だけど……それなら、僕とオリヴィアさんを始末するチャンスは今までにいくらでもあったはずだ。

 何もしてこなかったということは、違うのかもしれない。

 でも、そんなことより――

「ごめんなさい、オリヴィアさん。その話……すぐには受け入れられないよ……。確かに筋は通ってるけど」

 今はそれが僕の正直な感想だった。

「ええ、それでも構いません。……私はあなたに本当の事を伝えられただけで十分です」

 オリヴィアさんの言っている事が本当か、に聞いてみればわかるだろうか?

 ……だけど、できればあの力は使いたくないな。

「とにかく、僕に教えてくれてありがとう。オリヴィアさん――――オリヴィア……姉さん……」

 僕は試しに、オリヴィアさんのことをそう呼んでみた。

 でもなんだか、背中のあたりがむずむずする。

「ねえ……さん……?」
「……ご、ごめんなさい。今の話が本当なら、オリヴィアさんは僕の家族で……命の恩人ってことだよね……? だ、だから、せめてそう呼ぼうと思ったんだけど……」
「アニ……様っ!」
「わわっ?!」

 僕は再び力強く抱きしめられた。ちょっとだけ痛い。

「私を……そんな風に呼ばないでください……!」
「ど、どうして?」
「私は……私はあなたに何も残せなかった! 家族の思い出も! あなたが貰うはずだった愛情も! 全て独り占めして……何一つ守れず――おまけに家名までアニ様から奪い去ってしまいました……! それなのに……こんな……こんなに嬉しい気持ちになって……許されるはずがないんですっ!」

 オリヴィアさんは大粒の涙を流して泣いていた。

 僕なんかのことで、そんなに気に病んで欲しくない。

「ぼ、僕は奪われたなんて全く思ってないよ……? 何も知らないでのんきに生きてた方だと思うし……だから泣かないで……」
「アニ様っ……アニ様ぁっ!」

 より一層大きな声で泣くオリヴィアさん。

 ――もしかしたら今の言葉は逆効果だったかもしれない。だって、オリヴィアさんは僕が何も知らない事を悔やんでいるわけだから……。

「そ、そうだ。僕のこともアニって呼んでよ。家族なんだから、その方が自然でしょ……?」
「私は……私には……アニ様のお姉様でいる資格なんてありませんっ! ただの……ただの使用人のオリヴィアですっ! そう呼び捨てて下さい……っ!」
「そんな……」

 ……少なくとも今は、僕が「姉さん」と呼ぶだけで、オリヴィアさんは辛い思いをするのだろう。

 それなら、本人の望む通りにするしかない。

「……わかったよ、オリヴィア」
「アニ……様……!」
「だから――もう一つだけ教えて」
「…………はい」
「――――僕は……レスター家の人間として、これからどうやって生きれば良いの……? オリヴィアは僕に何をして欲しいの?」
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