超名門貴族の次男、魔法を授かれず追放される~辺境の地でスローライフを送ろうとしたら、可愛い妹達が追いかけて来た件~

おさない

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第9話 アニ、町に到着する

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 僕とオリヴィアが森を抜けて町に着いた時、辺りは既に夜になっていた。

 徒歩だと町へ行くのも一苦労である。

「遅くなってしまいましたね」
「…………………………うん」
「どうかしましたか、アニ様?」
「い、いや、何でもないよ。――やっと町に着いたなと思って」

 僕は路地裏の方から視線を逸らしながら、そう言った。思えばこうして町に来たのは随分と久しぶりかもしれない。

「夜更かしは体に毒です。おまけに冷え込みますし、今日は早めに宿をとって休みましょう」
「う、うん。そうしたいのは山々なんだけど……」
「何か問題でも?」
「僕、お金持ってないんだ。追い出される時に荷物と一緒に処分されちゃたから……」
「ハウラですね。分かりました、今から屋敷に戻ってあの女を仕留めて参ります」

 そう言って、どこからともなく果物ナイフを取り出し、来た道を戻ろうとするオリヴィア。

 あまりの速さに、僕は一瞬反応が遅れる。

「ま、待ってよオリヴィアっ! 色々と無茶すぎるよ!」
「くっ……、アニ様の屈辱は私がいずれ晴らします……っ!」

 悔しそうに歯ぎしりしながら、果物ナイフを懐へしまうオリヴィア。

 あまりこの人の前で迂闊なことは言えないな。

「お金なら大丈夫だよ! だって、こういう時は馬小屋にタダで泊まれば良いんだから! 僕知ってる!」
「一体どこでそんな嘘を教えられたのですか……?」

 僕の言葉に、オリヴィアの目つきが再び険しくなる。

 ……あれ、もしかして僕また何か迂闊なこと言っちゃった?

「ち、違うの?」
「少なくとも私は初めて聞きましたよ」
「そんな…………」

 正直、ちょっとだけ馬小屋に泊まってみたかったのに。ショックだ。

「もちろん、お願いすればタダで馬小屋に泊まらせてくれる所もあるかもしれませんが……アニ様にそんなことはさせられません」
「いや、僕はぜんぜん――」
「させられません」
「は、はい…………」

 オリヴィアって優しい人だと思ってたけど、こういう時は少し怖いな。

「心配しないでください、アニ様。宿に泊まることくらい、私の手持ちでどうにでもなります」

 言いながら、オリヴィアは僕の手を掴む。

 とても温かくて、柔らかくて、握られるのが少し照れくさく感じた。

「アニ様……これからは私が、外の世界の事をいっぱい教えてあげますからね」

 僕のことを見て微笑むオリヴィアは、なぜか幸せそうだった。

 ――あの時。

(僕は……レスター家の人間として、これからどうやって生きれば良いの……?    オリヴィアは僕に何をして欲しいの?)

 僕のそんな問いかけに対して、オリヴィアは「自由に生きてください」と答えた。

(アニ様のお側にこうして居られるだけで、私はこの上なく幸せです)
(本当に……そんな事で良いの?)
(はい。私の――決して叶うことはなかったはずのささやかな夢も、すでに叶ってしまいましたから)
(………………?)
(それに、レスター家の……お父様とお母様の血を引くアニ様であれば、自由に生きているだけで瞬く間に名声を手にしてしまうやもしれません!)
(それはないと思うな)

 自由に生きろ……か。

 例えば僕が「馬小屋で寝泊まりする自由な暮らしがしたい!」と言っても、多分オリヴィアは「させられません」と言って許してくれないだろう。

 自由というものには責任が伴う。

 これからはレスターという姓を名乗る以上、僕はかつて名門であった家の名前にふさわしい振る舞いをしなければいけない。

 興味本位で馬小屋に泊まるような事があってはいけないのだ。

 つまり、オリヴィアはそういう事が言いたいのだと思う。たぶん。

 きっとオリヴィアは、僕に没落したレスター家の立て直しをして欲しいのだ。

 命の恩人であり、僕の姉でもあるオリヴィアの願いを無碍にするワケにはいかない。

 お家再興、これが僕の当面の目標になるだろう。

 よし、頑張るぞ!

 ……と言いたいところだけど、そうもいかなそうだ。

 次から次へと災難が襲ってきて、憂鬱な気分になる。

 の狙いは僕か?

 僕の命をおとなしく差し出せば、オリヴィアには手を出さずに引き下がってくれるだろうか?

「……どうかしましたか、アニ様?」

 僕が心の中で密かにそんなことを考えていると、オリヴィアが不思議そうな顔で見てきた。

「ううん、何でもない。早く宿屋に行こう!」
「そ、そうですね」

 かくして、僕とオリヴィアは町の宿屋へ向かって歩き始めるのだった。
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