超名門貴族の次男、魔法を授かれず追放される~辺境の地でスローライフを送ろうとしたら、可愛い妹達が追いかけて来た件~

おさない

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第10話 お姉ちゃん

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 宿屋で受付を済ませた僕とオリヴィアは、ベッドが一つだけ置いてある小さな部屋へ案内された。

「申し訳ありませんアニ様。あのようなことを言っておきながら、今の私の手持ちではこの部屋を取るのが精一杯でした……」
「大丈夫だよオリヴィア。確かに二人で寝るには少し狭いかもしれないけど、僕は屋根の下で寝られるだけで十分だ」
「え……?」

 僕の言葉に対し、突然動揺したような声を上げるオリヴィア。

「どうかしたの?」
「い、今、二人で寝るとおっしゃいましたか……?」
「そうだけど……違うの?」

 そう聞き返すと、オリヴィアの顔が見る見るうちに赤くなっていった。

「わっ、私は野宿で結構ですっ!」

 そして、慌てた様子で叫ぶ。

「だめだよそんなこと。オリヴィアを追い出して僕だけ部屋で寝るなんて、出来るはずがないじゃないか」

特に今は、オリヴィアが外で寝るのは危険すぎる。

「でででで、でしゅがっ!」
「いいから落ち着いてよオリヴィア。他に方法がないんだから、こうするしかないでしょ?」
「そんなことを言われましてもっ!」

 どうしようもないのに、頑なに拒むオリヴィア。

 メイベル達なら喜んで一緒に寝てくれる――というか隙あらば向こうから入って来るのに。

「姉弟で一緒に寝るのに、何か問題があるの?」
「ありますっ!    例えそうだったとしても問題大ありですっ!」

 取り乱すあまり、姉弟であることの方は否定してこなくなるオリヴィア。

押せば意外と姉さん呼びも許してくれるかも……?

 ……でも、今はお互いに色々と複雑な事情を抱えているし、まだまだ溝も深い。

 ここは僕が譲歩すべきだろう。

「……わかったよ。じゃあ僕が外で寝るから、オリヴィアはこのベッドを使って」
「それはもっと駄目ですっ!」
「えぇ……?」
「だめったらだめなんですっ!」

 そう言って聞かないオリヴィア。一体何がそこまで不満なのだろうか。

「もう、わがまま言わないでよオリヴィア」
「私のこれがわがままですか!? アニ様が無防備すぎるんですっ!    寝ている間に私に何かされたらどうするんですかっ!」
「僕に何かしてくるの?」
「しま……しませんっ!」

 今一瞬だけ迷いがあった気がするけど、たぶん気のせいだろう。

「僕はね……前からオリヴィアのこと、家族だと思ってたよ。屋敷に居た間、ずっと僕に優しくしてくれたから……」
「アニ様…………っ!」
「だから、良いでしょオリヴィア。早く寝よう?」
「だめですっ!私は外で寝ますっ!」
「うーん……」

 強情だなぁ。

 後もう少しで納得してくれそうな感じだったんだけど。

 ――仕方がない。

 主に僕のプライドの問題でこの手は使いたくなかったんだけど、使うしかないか。

「お休みなさいアニ様っ!    また明日っ!」
「待って」

 僕は部屋から出て行こうとするオリヴィアの腕を掴む。

「オリヴィアお姉ちゃん……僕、一人で寝るの怖いよ……」
「………………っ!」

 これは、僕がエリーによく使われた手だ。

 これを言われてしまうと、僕はエリーを一人にすることが出来なくなってしまう。

 オリヴィアにも通用すると良いんだけど……よく考えたら男の僕がやるのは流石に無理があるよな。

「ご、ごめん、やっぱり今の忘れてっ!」

 急激に恥ずかしくなった僕は、そう言ってオリヴィアの手を離す。

「変なこと言って……ごめんなさい……」
「――――――ッッ!」

 しかしその時、突然オリヴィアは口元を押さえて膝から崩れ落ちた。

「だ、大丈夫?」
「お…………」
「お?」
「お姉ちゃんが……一緒に寝てあげますからねぇ……えへ、えへへへへへっ」

 あれ、思った以上に効いてる?

「私は……私はオリヴィアお姉ちゃんです。私の大事な大事なアニは……誰にも渡しません……えへへへっ!」

 さっきとはまるで逆のことを言い始めるオリヴィア。

 もはやそこに躊躇いはなく、完全に僕の姉として振舞っていた。

「アニは仕方のない子です。怖くないよう、私が側で守ってあげますからね……」
「う、うん」

 オリヴィアはベッドの中に潜り込んできて、僕のことを抱きしめる。

 ……ちょっと効きすぎかも。

「酷いですよ……こんなの我慢できるわけがありません……」

 僕の隣で横になったオリヴィアは、耳元でそう囁いてきた。

「別に我慢しなくていいんだよ。オリヴィア……姉さん」

 僕は試しにそう呼んでみる。

 だけど、今度は拒絶してこない。

「どうしても辛くて……泣いてしまいそうな時は、いつもあなたとこうして一緒に過ごす日々を空想していました……」

 その代わり、ゆっくりとそんなことを話し始めた。

「私は……ちょっと心配性なお姉ちゃんで、あなたに少しだけ疎ましく思われながらも、ついついお節介してしまうんです」

 確かに、オリヴィアはそんな感じの人だ。

「そしてお父様やお母様は、私たちを遠くから見守ってくださっていて、時々私たちを優しく抱きしめてくれるんです。……そんな風に、叶うはずのない日々を夢見ていました」
「うん……」
「私は……駄目なお姉ちゃんです。泣き虫で、自分勝手で、臆病で、おまけに唯一残されたあなたに縋らなければ生きていくこともできません。……そんなお姉ちゃんでも、本当に受け入れてくれますか……?」

 怯えるような声で問いかけてくるオリヴィア。

「――勿論だよ」

 僕はそう返事をした。

「アニは……優しすぎます……」

 それを聞いて安心したのか、オリヴィアはすやすやと眠り始めるのだった。

よほど疲れていたのだろう。

「……違うよオリヴィア姉さん。僕は優しくなんかない」

 僕はゆっくりと起き上がり、ベッドから這い出す。

「騙すような事して……本当にごめんね」

 そして、静かに宿屋の外へ出た。
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