10 / 83
第10話 お姉ちゃん
しおりを挟む宿屋で受付を済ませた僕とオリヴィアは、ベッドが一つだけ置いてある小さな部屋へ案内された。
「申し訳ありませんアニ様。あのようなことを言っておきながら、今の私の手持ちではこの部屋を取るのが精一杯でした……」
「大丈夫だよオリヴィア。確かに二人で寝るには少し狭いかもしれないけど、僕は屋根の下で寝られるだけで十分だ」
「え……?」
僕の言葉に対し、突然動揺したような声を上げるオリヴィア。
「どうかしたの?」
「い、今、二人で寝るとおっしゃいましたか……?」
「そうだけど……違うの?」
そう聞き返すと、オリヴィアの顔が見る見るうちに赤くなっていった。
「わっ、私は野宿で結構ですっ!」
そして、慌てた様子で叫ぶ。
「だめだよそんなこと。オリヴィアを追い出して僕だけ部屋で寝るなんて、出来るはずがないじゃないか」
特に今は、オリヴィアが外で寝るのは危険すぎる。
「でででで、でしゅがっ!」
「いいから落ち着いてよオリヴィア。他に方法がないんだから、こうするしかないでしょ?」
「そんなことを言われましてもっ!」
どうしようもないのに、頑なに拒むオリヴィア。
メイベル達なら喜んで一緒に寝てくれる――というか隙あらば向こうから入って来るのに。
「姉弟で一緒に寝るのに、何か問題があるの?」
「ありますっ! 例えそうだったとしても問題大ありですっ!」
取り乱すあまり、姉弟であることの方は否定してこなくなるオリヴィア。
押せば意外と姉さん呼びも許してくれるかも……?
……でも、今はお互いに色々と複雑な事情を抱えているし、まだまだ溝も深い。
ここは僕が譲歩すべきだろう。
「……わかったよ。じゃあ僕が外で寝るから、オリヴィアはこのベッドを使って」
「それはもっと駄目ですっ!」
「えぇ……?」
「だめったらだめなんですっ!」
そう言って聞かないオリヴィア。一体何がそこまで不満なのだろうか。
「もう、わがまま言わないでよオリヴィア」
「私のこれがわがままですか!? アニ様が無防備すぎるんですっ! 寝ている間に私に何かされたらどうするんですかっ!」
「僕に何かしてくるの?」
「しま……しませんっ!」
今一瞬だけ迷いがあった気がするけど、たぶん気のせいだろう。
「僕はね……前からオリヴィアのこと、家族だと思ってたよ。屋敷に居た間、ずっと僕に優しくしてくれたから……」
「アニ様…………っ!」
「だから、良いでしょオリヴィア。早く寝よう?」
「だめですっ!私は外で寝ますっ!」
「うーん……」
強情だなぁ。
後もう少しで納得してくれそうな感じだったんだけど。
――仕方がない。
主に僕のプライドの問題でこの手は使いたくなかったんだけど、使うしかないか。
「お休みなさいアニ様っ! また明日っ!」
「待って」
僕は部屋から出て行こうとするオリヴィアの腕を掴む。
「オリヴィアお姉ちゃん……僕、一人で寝るの怖いよ……」
「………………っ!」
これは、僕がエリーによく使われた手だ。
これを言われてしまうと、僕はエリーを一人にすることが出来なくなってしまう。
オリヴィアにも通用すると良いんだけど……よく考えたら男の僕がやるのは流石に無理があるよな。
「ご、ごめん、やっぱり今の忘れてっ!」
急激に恥ずかしくなった僕は、そう言ってオリヴィアの手を離す。
「変なこと言って……ごめんなさい……」
「――――――ッッ!」
しかしその時、突然オリヴィアは口元を押さえて膝から崩れ落ちた。
「だ、大丈夫?」
「お…………」
「お?」
「お姉ちゃんが……一緒に寝てあげますからねぇ……えへ、えへへへへへっ」
あれ、思った以上に効いてる?
「私は……私はオリヴィアお姉ちゃんです。私の大事な大事なアニは……誰にも渡しません……えへへへっ!」
さっきとはまるで逆のことを言い始めるオリヴィア。
もはやそこに躊躇いはなく、完全に僕の姉として振舞っていた。
「アニは仕方のない子です。怖くないよう、私が側で守ってあげますからね……」
「う、うん」
オリヴィアはベッドの中に潜り込んできて、僕のことを抱きしめる。
……ちょっと効きすぎかも。
「酷いですよ……こんなの我慢できるわけがありません……」
僕の隣で横になったオリヴィアは、耳元でそう囁いてきた。
「別に我慢しなくていいんだよ。オリヴィア……姉さん」
僕は試しにそう呼んでみる。
だけど、今度は拒絶してこない。
「どうしても辛くて……泣いてしまいそうな時は、いつもあなたとこうして一緒に過ごす日々を空想していました……」
その代わり、ゆっくりとそんなことを話し始めた。
「私は……ちょっと心配性なお姉ちゃんで、あなたに少しだけ疎ましく思われながらも、ついついお節介してしまうんです」
確かに、オリヴィアはそんな感じの人だ。
「そしてお父様やお母様は、私たちを遠くから見守ってくださっていて、時々私たちを優しく抱きしめてくれるんです。……そんな風に、叶うはずのない日々を夢見ていました」
「うん……」
「私は……駄目なお姉ちゃんです。泣き虫で、自分勝手で、臆病で、おまけに唯一残されたあなたに縋らなければ生きていくこともできません。……そんなお姉ちゃんでも、本当に受け入れてくれますか……?」
怯えるような声で問いかけてくるオリヴィア。
「――勿論だよ」
僕はそう返事をした。
「アニは……優しすぎます……」
それを聞いて安心したのか、オリヴィアはすやすやと眠り始めるのだった。
よほど疲れていたのだろう。
「……違うよオリヴィア姉さん。僕は優しくなんかない」
僕はゆっくりと起き上がり、ベッドから這い出す。
「騙すような事して……本当にごめんね」
そして、静かに宿屋の外へ出た。
10
あなたにおすすめの小説
戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件
さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。
数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、
今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、
わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。
彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。
それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。
今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。
「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」
「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」
「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」
「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」
命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!?
順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場――
ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。
これは――
【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と
【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、
“甘くて逃げ場のない生活”の物語。
――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。
※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。
友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。
石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。
だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった
何故なら、彼は『転生者』だから…
今度は違う切り口からのアプローチ。
追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。
こうご期待。
痩せる為に不人気のゴブリン狩りを始めたら人生が変わりすぎた件~痩せたらお金もハーレムも色々手に入りました~
ぐうのすけ
ファンタジー
主人公(太田太志)は高校デビューと同時に体重130キロに到達した。
食事制限とハザマ(ダンジョン)ダイエットを勧めれるが、太志は食事制限を後回しにし、ハザマダイエットを開始する。
最初は甘えていた大志だったが、人とのかかわりによって徐々に考えや行動を変えていく。
それによりスキルや人間関係が変化していき、ヒロインとの関係も変わっていくのだった。
※最初は成長メインで描かれますが、徐々にヒロインの展開が多めになっていく……予定です。
カクヨムで先行投稿中!
うちの冷蔵庫がダンジョンになった
空志戸レミ
ファンタジー
一二三大賞3:コミカライズ賞受賞
ある日の事、突然世界中にモンスターの跋扈するダンジョンが現れたことで人々は戦慄。
そんななかしがないサラリーマンの住むアパートに置かれた古びた2ドア冷蔵庫もまた、なぜかダンジョンと繋がってしまう。部屋の借主である男は酷く困惑しつつもその魔性に惹かれ、このひとりしか知らないダンジョンの攻略に乗り出すのだった…。
俺の好きな人は勇者の母で俺の姉さん! パーティ追放から始まる新しい生活
石のやっさん
ファンタジー
主人公のリヒトは勇者パーティを追放されるが別に気にも留めていなかった。
ハーレムパーティ状態だったので元から時期が来たら自分から出て行く予定だったし、三人の幼馴染は確かに可愛いが、リヒトにとって恋愛対象にどうしても見られなかったからだ。
だから、ただ見せつけられても困るだけだった。
何故ならリヒトの好きなタイプの女性は…大人の女性だったから。
この作品の主人公は転生者ですが、精神的に大人なだけでチートは知識も含んでありません。
勿論ヒロインもチートはありません。
他のライトノベルや漫画じゃ主人公にはなれない、背景に居るような主人公やヒロインが、楽しく暮すような話です。
1~2話は何時もの使いまわし。
亀更新になるかも知れません。
他の作品を書く段階で、考えてついたヒロインをメインに純愛で書いていこうと思います。
俺が死んでから始まる物語
石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていたポーター(荷物運び)のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもないことは自分でも解っていた。
だが、それでもセレスはパーティに残りたかったので土下座までしてリヒトに情けなくもしがみついた。
余りにしつこいセレスに頭に来たリヒトはつい剣の柄でセレスを殴った…そして、セレスは亡くなった。
そこからこの話は始まる。
セレスには誰にも言った事が無い『秘密』があり、その秘密のせいで、死ぬことは怖く無かった…死から始まるファンタジー此処に開幕
【本編45話にて完結】『追放された荷物持ちの俺を「必要だ」と言ってくれたのは、落ちこぼれヒーラーの彼女だけだった。』
ブヒ太郎
ファンタジー
「お前はもう用済みだ」――荷物持ちとして命懸けで尽くしてきた高ランクパーティから、ゼロスは無能の烙印を押され、なんの手切れ金もなく追放された。彼のスキルは【筋力強化(微)】。誰もが最弱と嘲笑う、あまりにも地味な能力。仲間たちは彼の本当の価値に気づくことなく、その存在をゴミのように切り捨てた。
全てを失い、絶望の淵をさまよう彼に手を差し伸べたのは、一人の不遇なヒーラー、アリシアだった。彼女もまた、治癒の力が弱いと誰からも相手にされず、教会からも冒険者仲間からも居場所を奪われ、孤独に耐えてきた。だからこそ、彼女だけはゼロスの瞳の奥に宿る、静かで、しかし折れない闘志の光を見抜いていたのだ。
「私と、パーティを組んでくれませんか?」
これは、社会の評価軸から外れた二人が出会い、互いの傷を癒しながらどん底から這い上がり、やがて世界を驚かせる伝説となるまでの物語。見捨てられた最強の荷物持ちによる、静かで、しかし痛快な逆襲劇が今、幕を開ける!
最上級のパーティで最底辺の扱いを受けていたDランク錬金術師は新パーティで成り上がるようです(完)
みかん畑
ファンタジー
最上級のパーティで『荷物持ち』と嘲笑されていた僕は、パーティからクビを宣告されて抜けることにした。
在籍中は僕が色々肩代わりしてたけど、僕を荷物持ち扱いするくらい優秀な仲間たちなので、抜けても問題はないと思ってます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる