超名門貴族の次男、魔法を授かれず追放される~辺境の地でスローライフを送ろうとしたら、可愛い妹達が追いかけて来た件~

おさない

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第64話 アニ、自分を見失う

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「アニさま……夜ふかしは……いけませんよ。ぐぅ、ぐぅ……」
「……今お昼だよ」
「ねんねん……ころ……り……」
「………………」

 オリヴィアは割とあっさり眠った。

 自分の子守唄で。

 もしかして……オリヴィアってちょっと抜けてるのかな……?

 もっとしっかりしてる人だと思ってたけど……よくよく考えてみると、たまに変なことしてる気が……。

 ――いけない。オリヴィアの名誉のためにも、これ以上はやめておこう。

 僕は、オリヴィアを起こさないようにゆっくりとベッドを抜け出そうとする。

 しかし――

「むにゃむにゃ……お姉ちゃんを置いて行っちゃだめですよ~……」

 オリヴィアに右腕をしっかりと握られ、阻止されてしまった。

「起きてるでしょ……!」
「ぐー……ぐー……すぴー……」

 僕の問いかけを無視し、涼しい顔をして寝息を立てているオリヴィア。

 本当に寝ているのか……?

 少しだけ疑問に思いながらも、どうにかオリヴィアの手を離させようとする。

 だが、予想以上に強く握られていたせいで、その試みは失敗に終わった。

「い、痛いよオリヴィア……離してよ……」
「もう……迷子になっちゃダメですよ~……」
「どこにも行かないからっ!」

 僕は仕方なくベッドに入りなおす。

「これで満足でしょ――っ?!」

 刹那、オリヴィアは僕のことをぎゅっと抱きしめてきた。

「んっ! んーっ!」

 胸の中に顔を埋められ、じたばたする僕。

 すごく柔らかくて、いい匂いがした。頭がぼーっとして、何も考えたくなくなる。

「アニは……良い子ですね……」

 オリヴィアはそう言って、僕の頭を優しく撫でてきた。

「おねえ……ちゃん……」

 懐かしい感じがして、涙が出てきそうになる。

 もう何もしたくない。大変なことばかりで、僕は疲れてしまった。

 の方にも目立った動きは感じられないし、今日はもうずっとここに居ようかな……。

 眠くなってきて、ゆっくりとまぶたが落ちてきた。

「もう……だめだ……」

 全てを諦めて昼寝をしようとしたその時。

((((おにいちゃんっ!!!))))

 妹達に呼ばれた気がした。

 ――そうだ、僕は弟じゃない。お兄ちゃんになると決めたんだ。

 僕はなんとか目を見開き、オリヴィアから離れる。

「っはぁ、はぁ……危うく持っていかれるところだった……!」

 ちなみに、今はベッドの端に両手をついてオリヴィアに覆い被さっている状態だ。

 僕の視線の先には、気持ちよさそうに眠るオリヴィアの顔がある。

 早くベッドから出ないと。

「………………はっ?!」

 ――しかしその時、オリヴィアが目を覚ましてしまった。

「アニ様?! こっ、これは?!」

 慌てふためくオリヴィア。僕は、その目をじっと見据えて言った。

「ごめんね……オリヴィア。僕はいつまでも甘えてるわけにはいかないんだ……弟のままじゃいられないから……!」
「そそそ、それってつまり……そういうことですか?! そういうことなんですかっ?! だ、ダメですっ! そんなの……えっちすぎますっ!」
「お願い……目を閉じて……今だけは僕のことを見逃して……!」
「は、はいぃっ!」

 大きな声で返事をして、ぎゅと目を閉じるオリヴィア。

 どうやら分かってくれたらしい。最初からちゃんと話せば良かったのか。

「わ、私はっ、これから起こることを全て見逃しましゅっ!」
「ありがとう。じゃあね」
「…………あれぇ?」

 僕はベッドから降りて、部屋を抜け出した。

「ふー…………」

 そして深呼吸をする。

 この別荘の主人である三姉妹も、そこそこやばい気配を発していたけど、僕が感じ取ったものとは違った。

 だから恐らく、相手はメイドさんの中に潜んでいると思う。

 だから、僕もこの屋敷に雇われたメイドさんになりきって、不審な動きをしているメイドさんを見つけ出すのだ。

 覚悟を決めろ、アニ・レスター。お兄ちゃんであることを自覚したばっかりだけど、今の僕は新人のメイドさんだ。

 自分にそう言い聞かせ、もう一度深く息を吸い込む。

「――ああ、忙しいですわっ!」

 そして渾身の台詞を叫び、そのまま走り出したのだった。
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