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第73話 デルフォスの帰還

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 窓を突き破り、外へ投げ出されるスティング。

「良い眺めだ」

 デルフォスは、それを優雅に見送っていた。

「………………さて、これで俺の命を狙う邪魔者は始末できたな」
「やったでゲスね旦那!」
「後はお前だけだ」
「だだだっだだ旦那ぁ?!」

 下に敷いていたガスを蹴り転がし、額に手を当てて魔法の詠唱を始めるデルフォス。

「俺の命を狙っておいて無事で済むとは思うなよ」
「お、落ち着くでゲス! そ、そんなにがっつり詠唱したらこの部屋ごと吹き飛んじゃうでゲスぅぅっ!」
「黙れ。情報を聞き出したお前はもう用済みだ」
「げすぅぅぅぅぅぅぅっ!」

 ガスが怯えながら目をつぶった次の瞬間。

「……まったく、いきなり吹き飛ばしてくるだなんて酷いじゃあないかデルフォス君」

 書斎の扉を開けて血まみれのスティングが入って来た。

「死んでいない……だと……?」
「君の攻撃には人を殺すことに対する『迷い』がある。そんなんじゃあ私は殺せないよ」
「迷い……? 冗談でゲしょう……? このイカレ頭にそんものあるわけ――」

 刹那、デルフォスの魔法が発動しガスの顔が爆発した。衝撃で書斎の本がいくつか床へ落ちる。

「痛いでゲスぅ……! このオニ! アクマッ! 親の七光り属性!」
「それはもう聞いた」

 デルフォスは再び魔法でガスを攻撃する。しかし、それでもガスは生きていた。

「――なるほど。確かにそのようだ。今回は本気でこのカスを攻撃したが、殺しきれていない。……フッ、俺も甘いな。優秀な貴族特有の慈悲深さがこんな所で発揮されてしまうとは」
「いやぁ、今のは単純に彼の耐久力が異常なだけだねぇ…………」
「う、うぅ……やっぱり血も涙もないでゲスぅ……」

 ガスは涙目になりながら、チリチリになった自分の頭を触った。

「……迷いというよりは『保身』か。人を殺せば、君は罪人になるからねぇ」
「どうでもいい。そしてもう一度死ね。ヴァレイユ家に盾突く逆賊が」
「まったく……実に血気盛んな若者だ。少し待ちたまえよ」

 スティングはそう言いながらハンカチで額の血を拭い、近くに置いてあった椅子へと腰掛ける。

「ところで……君はそっち側で良いのかなカス君?」「ガスでゲス」
「私がその気になれば、君のお馬ちゃんたちを完全に消滅させる事も出来るんだよ?」
「これを使えば。だろ?」

 デルフォスは、ボロボロに破壊された首輪をスティングの前へ投げ捨てた。

「…………ほう」
「コイツから話は聞いている。貴様はカスの魔獣を馬質にとっていたそうだな。だが、その手はもう通用しない」

 そう言いながら、デルフォスは何度も首輪を踏みにじる。

「まったく……残念だよ、ダークエルフの流れ者カスくん。君の能力は高く評価していたのに」
「お馬ちゃんを人質にとっておいて、ふざけたこと言うんじゃないでゲス!」

 ガスはデルフォスの背後に隠れながら言った。

「…………と、言う訳だ。こんなカスに俺を殺させようとしたのが運の尽きだったな」
「ガス君。私はスケアクロウと協力してここの三姉妹をさらって来いと命令したんだけどねぇ……? 彼には手出し無用だ」

 その言葉を聞いたデルフォスは、振り返ってガスの顔を見る。

「そうでゲしたっけ?」

 沈黙が辺りを支配した。

「……やはり、まずはこいつから殺すか」
「まままま待つでゲスよ旦那ぁ! そ、そんなことしたら一対一であの卑怯者と戦うことになるでゲス! なんにも良いことないでゲスよ!」
「……………………まあいい」

 そう言って、デルフォスは座っているスティングと対峙した。

「とにかく貴様は殺す」
「だから待ちたまえと言っているだろう? 私は君と戦うつもりなんてないよ。……せっかくこうして会えたんだ。取り引きをしようじゃあないか」
「時間稼ぎのつもりか?」
「違う。私は君の能力を高く買っているのだよデルフォス君。この国の国王は君のような人間がなるべきだと思うねぇ…………」
「そんなことを言っていいのか?」
「おっといけない。つい本心が出てしまったよ」
「…………なるほど……では少しだけ話す時間をやろう」

 そう言って引き下がるデルフォス。その姿を見たガスは「マジでちょろいでゲスね旦那ぁ!」と思った。

「賢明で助かるよデルフォス君。私の娘とは大違いだ。――では、単刀直入に言ってしまおう」
「そうだ早く言え。勿体《もったい》ぶるな」
「…………父親と妹と弟――要するに君の家族の命を私に差し出してくれないかい?」
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