無能はいらないとSランクパーティを追放された魔術師の少年、聖女、魔族、獣人のお姉さんたちにつきまとわれる

おさない

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第11話 儲け話

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「こ、こほん」

 マルクの発言に食いついた後、はっと我に返り咳払いをするクラリス。

 しかし、カーミラは止まらない。

「え、ええと、それじゃあ、まずは金貨を百枚ほどあげるから服を脱い――」
「蒼穹《そうきゅう》を俯瞰《ふかん》せし聖霊よ、その力をもって邪《よこしま》に魅入られし愚者を……」
「じょ、冗談よ! だ、だから今すぐそのヤバそうな詠唱をやめてちょうだい?」

 カーミラは大慌てでそう言うと、クラリスの周囲に展開されていた無数の魔方陣は消え去った。

「――頭を上げてくださいマルクさん。ワタクシも協力するので、なんとかしてお金を稼ぎましょう!」
「……あらあら、そんな安請け合いしてしまっていいのかしら?」
「困っている人を助けるのが聖女の務めですから」
「ふぅん……」

 腕を組みながら、いぶかし気にクラリスのことを見つめるカーミラ。

「協力……してくれるんですか……?」
 
 マルクは顔を上げてクラリスの方を見る。

「はい、もちろんです!」
「あ、ありがとうございます! クラリスさん!」

 マルクは喜びのあまりクラリスの手を取ってそう言った。

「いえいえ、そんな。当然のことですよ……えへへぇ……」

 マルクに感謝され、照れながらにやにやと笑うクラリス。

「感謝してもしきれません! クラリスさんは恩人です!」
「い、いやぁ、そんなに感謝されると弱りますねぇ……!」

 そんな二人のやり取りを、カーミラは恨めし気な表情で見つめる。

「それじゃあ、早速出発しましょう!」
「え? も、もう行くんですか?」
「もちろん。善は急げです!」
「な、何かお金を稼げる当てがあるんですか……?」
「えーっと、そ、それは……」

 マルクに問いかけられ、クラリスは動きを止める。

「あら、マルクくん。そのむっつりさんは聖女よ。そんなカタブツにお金稼ぎなんてできるはずがないでしょう?」
「な、なんですかその言い方は……!」
「違うのかしら?」
「それはー……その通りー……ですけどー……」
「それ見なさい」

 勝ち誇るカーミラ。クラリスは負けじと反撃に出る。

「そ、そういうあなたは、何かいい儲け話でも知ってるんですか!?」
「あるわよ」
「え……?」
「いい儲け話、あるわよ」

 カーミラは、マルクの目をじっと見つめながら言った。

「ほ、本当ですか……カーミラさん?」

 マルクは、恐る恐るそう問いかける。

「あら、アタシの話には尻尾を振って飛びついてきてくれないのね」
「僕、獣人じゃないのでしっぽは生えてません」
「うふふ、そういうことじゃないわ。ただ、もっと勢いよくアタシの手を握って喜んでくれるかと思っていただけ。さっきみたいに、情熱的に」

 その言葉を聞いたマルクは、急にしゅんとしてうつむく。

「……その手の話には……たくさん、騙されてきたんです……たくさん……」
「あら……」
「危険度の割に報酬の多い依頼にはいい思い出がありません……薬草採取の用心棒の依頼のはずなのに……なぜか入信させられそうになったり……町のお掃除の依頼で……下水道の大ネズミの巣を潰す羽目になったり……それからそれから……ゴブリン退治でっ……うぅっ……!」

 過去のトラウマの数々が蘇り、マルクは涙ぐむ。

「本当に……たくさん苦労なさったんですね……っ!」

 ついでに、もらい泣きするクラリス。

 その様子を見て、カーミラは慌てて話を元に戻した。

「ご、ごめんなさいね、辛いことを思い出させてしまったみたい。そ、それじゃあ本題に入りましょうかっ!」
「……はい……お願いします……」
「その儲け話とやらが怪しい話じゃないか、見極めさせてもらいましょう!」

 マルクとクラリスは、カーミラの前に並んで座った。

「安心しなさい。何度も言うけど怪しい話じゃないわ。――だって、単純にこの町にあるカジノでがっぽり儲けましょうってだけだもの!」

 カーミラはそう言ってほほ笑んだ。

「だ、駄目です! マルクさんにいけない遊びを教えるつもりですかこの悪魔!」
「何を言っているの。カジノに行けば遊びながら稼げるのよ。最高じゃない! ……ね、マルクちゃん」
「え、えっと……ぼくは……よくわからないです。その、かじの? とやらに行けば稼げるんですか?」

 首をかしげながら、そう問いかけるマルク。

「すこぉしばかり、リスクを負わないといけないけれど、上手くいけばたんまり稼げるわ!」
「だ、騙されてはいけません! 別の方法を考えるべきです!」
「あ、あうぅ…………」

 二人に詰め寄られ、マルクは困ったように眉をひそめながら後ずさる。

「第一、そう簡単にいくわけがありま――」
「でも、あなたならできるんじゃないかしら。クラリス?」
「…………え?」

 そう言われ、クラリスはきょとんとした顔をする。

「いいかしら、カジノで稼ぐには運を味方につけなければいけないわ。そして、あなたは神の加護を受けた聖女様。その信仰心が本物なら、賭け事にも勝ち続けられるはずよ。たぶん」
「神がそのようなことをお許しになるはずが――」
「あら、だってこれは立派な人助けよ。きっとあなたの神様も許してくださるわ!」
「こ、こんな時ばかり都合の良いことを…………!」
「それとも、あなたの信じる神サマとやらは、お金に困る可哀そうなコ一人助けてあげないような薄情な存在なのかしら?」
 
 クラリスはしばらく何も言わなかった。どうやら、何か考え込んでいるらしい。

「おお、ワタクシの行いをお許しください……」

 それから、不意にそう呟き立ち上がった。

「わかりました! やってやりますよ!」
「あらあら、いいわね。そう来なくっちゃ!」
「ただしお金はあなたが出してください!」
「いいわよ。儲かったら二人で山分けしましょうね。マルクちゃん!」

 マルクは、首を横に振って言う。

「えっと……どう考えても怪しい話なのでいやです……」
「「えっ?」」
「迷惑かけてごめんなさい……ぼく、今まで通り普通に依頼で稼ぎます」
「「えっ!?」」

マルクは二人に頭を下げ、立ち上がる。

「お金、ここに置いておきます……ありがとうございました」

 そして机に宿代を置くと、部屋の外へ出て行ってしまった。
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