無能はいらないとSランクパーティを追放された魔術師の少年、聖女、魔族、獣人のお姉さんたちにつきまとわれる

おさない

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第16話 命乞いスライム

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「おお、なんて冒涜的な姿なんでしょう…………! 神よ……!」

 まがまがしいスライムの姿に、動揺を隠せない様子のクラリス。

「ぐおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」

 その時、スライムが雄たけびを上げた。

「こいつ……発声器官までもってるの……?」

 明らかに普通ではないそれを見て、カーミラの動きが鈍る。

 その瞬間、スライムの体の一部が鋭い針のように変形し、カーミラの頭目掛けて勢いよく突き出た。

「しまっ――「プロテクトシールドッ!」

 マルクはとっさに、カーミラの前方に魔法の障壁を展開し、スライムの攻撃を防ぐ。

「ああ、本当に素敵よマルクちゃん!」

 その間に体制を立て直し、スライムに一撃を加えるカーミラ。そこにクラリスの攻撃も合わさり、大きなダメージを負ったスライムは悲鳴のようなものを上げながら苦しむ。

「や、やりましたね……! 浄化用スライム、浄化完了です!」
「いいえ、まだよ!」

 その時、苦しみのたうち回るスライムの体表から、人間の手が突き出してきた。

「――こいつ、なにか吞み込んでるわ!」
「は、早く引っ張り出しましょう!」

 カーミラとクラリスは、力を合わせて呑み込まれている人間を助け出そうとする。

「マナドレインッ!」

 マルクは、暴れまわるスライムから魔力を吸い上げ、動きを鈍らせた。

「うぅっ……けほっ、けほっ!」

 そうして二人によって引っ張り出されたのは、小人族と思しき女――救助を依頼された人物だった。

「あなた、大丈夫?」
「今すぐ治療しますね!」

 そう言って屈みこみ、女の治療を始めるクラリス。

「あ……ぁあ……うぅ……」

 マルクたちに攻撃されたスライムは、瀕死の状態でほとんど動かない。

「ファイア――「たす……けて……ぇ」

 マルクがとどめを刺そうとしたその瞬間、そのスライムはか細い声でそう言った。

「――――っ!」

 突然のことに攻撃をためらうマルク。その隙に、スライムはマルクの体へまとわりついた。

「マルクちゃん!」
「こっ、攻撃しちゃだめですっ!」

 マルクは、武器を構え直したカーミラを制止する。

「僕は……大丈夫ですから」
「何言ってるのマルクちゃん? そいつは、ついさっきまで人を一人呑み込んでいたのよ?」
「それは……そうですけど……この子、助けてって……!」
「スライムが命乞い……? 聞き間違いじゃないかしら」

 首を傾げながらそう呟いた後、カーミラは続ける。

「――どちらにせよ、今のままだとマルクちゃんが危ないわ。できないのならアタシがとどめを刺すから、じっとしていてちょうだい」

 そう言って、じりじりとにじり寄ってくるカーミラにマルクは思わず後ずさる。

「うぅ……カーミラさんのわからずや……!」

 その時だった。

「やめてっ! そのスライムに攻撃をしてはだめっ!」

 クラリスに治療されていた小人族の女が、立ち上がってそう叫ぶ。

「次から次へと……一体どういうことなのかしら?」

 頭を抱えて困惑するカーミラ。

「……とりあえず、詳しい話を聞かせてください」

 クラリスに促され、小人族の女は話を始めた。

「その子――スライムに吞み込まれた時、私の中に直接その子の意識が流れ込んできたの!」
「あなた大丈夫? 頭打った? それとも酸素不足でおかしくなってしまったのかしら?」

 小人族の女はカーミラの言葉を無視して、話を続ける。

「その子は……すごく苦しんでいたわ。必死に助けを求めていたの。……私のことを吞み込んだのも、傷つけてしまわないようにするため。そのスライムは、本当はとっても優しい子なのよ!」
「ごめんなさい…………ころさないで……」

 その時、スライムが怯えたような声でマルクにそうささやいた。

「どうして暴れたりしたんですか?」

 マルクはスライムにそう問いかける。

「したから……たくさんまりょくでてきた…………それで、からだおかしくなった」
「確かに、ここに入った時から異常に魔力の量が多いのは感じていましたが……」
「みんなおかしくなった……いつもより、いじめてきた……こわかった……」

 そう言いながら、ぷるぷると震えるスライム。

「案外よくしゃべるスライムね」

 カーミラはぼそりとそんなことを呟いた。

「わたし……ずっとひとりだった。からだがちがうから……いつもなかまはずれ……だれかと……はなしたかった」

 そう話すスライムの声は、心なしか震えているような感じがした。

「赤いスライムなんて、肉塊みたいで気持ち悪いものね」
「カーミラさん! デリカシーがなさすぎます!」
「だ、だってぇ、所詮はただの魔物じゃない」
「僕、いい加減怒りますよ!」
「もう怒ってるわよ……」

 珍しくマルクに怒られ、カーミラはがくりと肩を落としてうなだれた。

「ごめんなさい……ごめんなさい……」
「安心してください。キミが攻撃しなければ、僕たちももう何もしません」

 マルクは、怯えるスライムに優しくそう言った。

「と、とりあえず、依頼されていた冒険者さんの救助もできましたし、一度ギルドへ戻った方がよろしいのではないでしょうか。そちらのスライムさんには、一度こちらの瓶の中へ入ってもらいましょう」

 懐からガラスでできた瓶を取り出し、そう提案するクラリス。

「戻ることには賛成だけれど、あなたどうして空の瓶なんか持っているの?」
「ひっ、秘密です!」

 カーミラの問いかけに、クラリスは顔を真っ赤にして叫んだ。

「…………? 意味がわからないわね」

 かくして、下水道の異常の原因はどこかからかあふれ出した魔力ということがわかった一行は、ひとまずの調査を終えるのだった。
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