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第19話 勇者パーティの崩壊 その3
しおりを挟む「なるほど、つまり我々はこのダンジョンを攻略すればいいわけだ」
ルドガーが、洞窟の入口を覗き込みながらそう言った。
「ああ、そうだ。ダフニの外れにある洞窟――ここの奥で、古代遺跡が発見された。現在、俺たちは既に遺跡の十階層までの探索を終えている。今回の探索の目的は十一階層目に続く道を守る三つ首の番犬、ケルベロスの討伐だ」
それに答えるようにして、説明をするエルネスト。
「わざわざ長々と説明ご苦労。一体誰に説明したんだろうね☆」
「……無駄話は生産性がない。さっさと行くぞ」
「めんどーだし、早いとこ済ませちゃいましょ」
こうして、一行は洞窟の中へ足を踏み入れたのだった。
隊列は、前衛がエルネスト、ゴルドム、シリル、後衛がエイラ、ルドガー、リタと三人ずつに分かれている。
「今日も楽勝だろ」
「そうね、シリル」
シリルとエイラは、早くも余裕のありそうな振る舞いをする。
「さすがSランクパーティ、すごい自信だね☆」
――しかし、探索は予想以上に難航した。
「いやあああああああああああああっ!」
エイラは魔物の攻撃を受け、悲鳴を上げる。一行は遺跡の五層目で、早くも魔物の群れに襲われ苦戦を強いられていた。
「くそっ……魔物ばっかり出てきやがって、一体どうなってやがんだ!」
シリルは手に持った槍を構え直しながら文句を言う。
「F**king B**ch!」
ゴルドムも苛立っているようだが、彼に関して言えばいつものことだ。
「苦境は成長するチャンスだ。苦境を楽しめ。常識を覆せ。物事をポジティブに捉えろ。ステイ・ハングリー 、ステイ・フーリッシュ!」
「Eat sh*t and die!! F**k off!!!!!!!!!!!!!!」
「このパーティ、色々とヤバすぎないかい? 特に前衛二人が☆」
「あんたもねッ!」
――ボク、どうしてこんなパーティに居るんだっけ?
荒ぶる三人を見て、ドン引きするリタ。そのせいで隙が生じ、魔物の放った魔法が彼女直撃しそうになる。
「うわあっ!」
「ファイアボールッ!」
しかし、ルドガーがそれを防いだ。
「大丈夫かい☆」
「う、うん。ありがとう……」
「よそ見はダメだよ☆」
「ごめんなさい。……気を付ける」
ルドガーはそれ以上は何も言わずにウインクした。
「その程度はかわせ、リタ」
「今はそんな話をしている場合じゃないだろう? 生産性が低いよ☆」
「…………ッ!」
エルネストは額に青筋を立てながら目の前の魔物を剣で切り裂いた。
そうして、時間をかけてやっとの思いで魔物を退けた後、エルネストは疲弊しきった様子で言う。
「……先に、進むぞ」
「おいおい、今日は魔物が多すぎないか?」
「ったく……どうなってんのよ……!」
「FU*K」
すでに隊列も乱れ、全員かなり消耗している様子だった。
「ねえ、このパーティっていつもこんな調子なのかい?」
Sランクパーティにしては散々な有様を見たルドガーが、小さな声でリタに耳打ちしてそう問いかける。
「ううん。いつもはもうちょっと連携が取れてるんだけど…………もしかしたら――」
「もしかしたら?」
「……なんでも、ないよ。気にしないで」
リタは、何かを言いかけてやめた。
――もしかしたら、いつもボク達が楽に探索を進められたのはマルクのおかげだったのかな……?
そして、心の中でそんなことを考え、一人で沈んだ気分になる。
――それなのに……ボクはマルクが追放された時に何もしてあげられなかった……。本当に……ボクは何をやってるんだろう……?
「ぱちん☆」
「きゃあっ!?」
突然、ルドガーに指で額を弾かれ、痛みのあまり悲鳴を上げるリタ。
「随分と調子が悪そうだけど、大丈夫かい? 今ので頭が冴えただろう☆」
「あ、ありがとう。二度としないでね……!」
リタは引きつった笑みを浮かべつつ、そう言って立ち上がった。
「――大丈夫ですかリタさん? 調子が悪かったら僕に言ってください!」
「じゃあ、一回ぎゅってさせて。そしたらたぶん元気になる!」
「そ、それはちょっと……」
「……ふふ、冗談だよ。マルクは可愛いね!」
「うぅ、からかわないでください……」
その拍子に、マルクがいた時のことを思い出し、現在との落差に泣きそうになる。
「おいおい、いくら私が美人だからって、そんなに見つめないでくれよ。照れるだろう☆」
「ちょっとだけでいいから……黙っててくれないかな……!」
「ふっ、照れるなよ。私がよしよしモフモフしてあげるからさ☆」
「やったら噛むね」
そう言われて、ルドガーはリタの獣耳の側まで伸ばしかけていた手を引っ込めた。
――マルク……ボクはキミと一緒がいいよ……。
リタは探索中ずっと上の空で、時々ルドガーにデコピンされながら、しきりにそんなことを思うのだった。
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