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第53話 青春の思い出?
しおりを挟む「思い出したって……カーミラさん、師匠に何か用事があるんですか?」
「ええそうよ。アタシ、あいつには貸しがあるの」
カーミラはそう言うと、皆にルドガーのことを話し始めた。
「魔法学校に居た頃……あいつ――ルドガーには、誰一人として寄りつかなかったわ。……あんな性格だから」
「師匠……可哀そうですね……」
ルドガーのことを哀れむマルク。
「ええ、そうね。おまけに、実力は生徒の中で飛びぬけてたから、めちゃくちゃ嫉妬されていたわ」
「やっぱり、師匠の魔法の腕はすごいです!」
マルクは、目をキラキラさせながらそう言った。どうやら、ルドガーは何とか師匠としての威厳を保つことができたらしい。
「……とにかく、そんなだから、アタシもなるべく関わらないようにしていたのだけれど…………ある日突然、あいつの方から話しかけてきたの。『君、友達いないんだろう? 私が友達になってあげるから、しばらくの間お金を貸してくれ』ってね」
「最低すぎます……」
あまりにも自分勝手な言動に、マルクは思わずしかめっ面になる。
「アタシも、いつもならぶん殴っていたでしょうけど、その時はたまたま魔法の勉強で行き詰まっていたの。だから、あいつに魔法を教えてもらう代わりに、お金を貸してやることにしたわ。――それで、なんやかんやあって一緒に過ごす時間が長くなった」
「あなたにしては、珍しくいい話ですね!」
「一体、今のどの部分から良さを見出したのかわからないのだけど……」
クラリスの言葉に、カーミラは目を細めた。
「……とにかく、話を続けるわね。事件が起きたのは、それからしばらく後のことよ」
*
「ルドガー!」
魔法学校の制服に身を包んだカーミラは、息を切らしてルドガーの元へ駆け寄る。
「……ああ、なんだい君か☆」
そう言いながら振り返るルドガー。彼女が立っているのは校門の前だ。
「――学校を退学になったって、どういうことよ!?」
「そのままの意味だよ。前に面白半分で上級魔法を実行して、設立者の銅像を消し飛ばしたのがだめだったらしい☆」
「……まったく擁護できないのだけれど」
いつものことながら、あまりにもぶっ飛んだ行動に、思わずため息をつくカーミラ。
「…………本当に、ここを出て行くつもりなの?」
「ああ、どうやら、この狭い校舎では私という才能を御しきることが出来ないらしい。もはや、ここに留まる意味なんてないよ☆」
「そうは言っても、あと半年で卒業じゃない。わざわざ、今出ていかなくたって……」
「そうは言っても、退学は決定しているしね☆ 今から上のお堅い連中を説得するのは、いくら君でも無理なんじゃないかな」
「……別に、あんたの為にそこまでするつもりはないけれど」
カーミラは割と本心からそう言ったのだが、ルドガーには照れ隠しとして受け取られたらしい。
(まったく、君は素直じゃないんだから☆)という風に笑うルドガーを見て、カーミラは一瞬だけ殺意が湧いた。
「……なあに、心配ない。私はどこへ行っても上手くやるさ。――君の方も達者で暮らせよ!」
「ルドガー……あの、話が――」
「さらばだカーミラ。またどこかで!」
素早く身をひるがえし、学園を去るルドガー。
その背中へ向けて、カーミラはこう言い放ったのだった。
「……いや、お金返しなさいよ!!!」
*
「と、いうわけで、アタシはあいつと顔を合わせるついでに、貸したお金を返してもらおうと思っているの」
「途中までは良い話になりそうな感じだったんですけどね……」
カーミラの昔話を聞き、苦笑いするマルク。
「そもそも、師匠はどうしてお金に困ってたんですか?」
「カジノで大負けしたらしいわ」
「学生時代からそれですか……」
マルクは、やれやれといった風に肩をすくめる。
「――でも、もう大丈夫です。だって、僕には金貨十万枚分の報酬がありますから!」
「ライムちゃんのもある」
「そうですね。併せたら金貨十一万枚分です! ありがとうございます、ライム!」
「えへへ」
しかし、大金を手にしたマルクはどこか余裕がありそうな表情だ。
「とにかく、まずは師匠を強制労働から助け出さないといけませんね。リタお姉ちゃん、師匠は一体カジノでいくら借金を作ったんですか?」
「に……二十……」
マルクの問いかけに対し、おずおずとそう答えるリタ。
「金貨二十枚ですか? よかった……ぜんぜん払えますね!」
「まん……」
「…………はい?」
「金貨……二十万枚……」
マルクは、一瞬だけ笑顔のまま固まる。
「――わかりました、師匠は置いていきましょう!」
そして、即座にそう決断した。
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