無能はいらないとSランクパーティを追放された魔術師の少年、聖女、魔族、獣人のお姉さんたちにつきまとわれる

おさない

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第55話 馬車に揺られて

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 旅の準備を済ませたマルク達は、冒険者ギルドで手配した馬車へ乗り込み、キーアへ向けて出発した。

 座る席は二列になっていて、一列目にマルク、クラリス、ライム、そして二列目にカーミラとリタが乗っている。

 元々四人乗り用の馬車だったが、マルクとライムが二人合わせて大人一人として数えられ、強引に詰め込まれたのである。

「お二人とも狭くはありませんか?」

 クラリスは、自身の両脇に座るマルクとライムへ交互に目をやりながら、そう言った。

「ライムちゃんはだいじょうぶ」
「僕も……平気です」
「そうですか。安心いたしました!」

 その様子を、後ろから羨ましそうに眺める二つの影がある。

「……どうしてボクがマルクの隣じゃないの」
「乗る前にコイントスでそう決まったからでしょう。気持ちは分かるけれど、諦めなさい」

 そう言って、カーミラはリタの肩を優しく叩いた。

「うぅ……仕方ないからカーミラで我慢するぅっ……!」
「少し気にかかる言い方ね。――ってちょっと、どこ触ってるのよ?」
「…………大人しく、ボクに舐めまわされてね……カーミラは甘い匂いがするから、美味しそう……」
「それは香水の匂いよ? だ、だからやめなさい? ね? ――――い、いやああああああああああっ!」

 かくして、馬車はキーアへ向けてゆっくりと走り始めるのだった。



 出発してから、少し経った頃。

「うぅ…………」

 馬車に揺られていたマルクは、具合の悪そうな表情をしていた。

「……気分が優れないご様子ですが、大丈夫ですか?」

 それに気づいたクラリスが、心配そうな顔をしながら問いかける。

「はい、だいじょうぶ……です……」

 ぼーっとした目をしながらそう答えるマルク。

「そうですか……それなら良いのですが……。もし、具合が悪いのでしたら遠慮せずワタクシに言って下さいね」
「はい、ありがとうございます……」

 その時はそう答えたマルクだったが、がたんと馬車が大きく揺れた瞬間、隣に居たクラリスの膝の上に倒れ込んでしまった。

「わわわわ!? ほ、本当に大丈夫なんですかマルクさん?!」

 突然のことに顔を赤くしながらあたふたするクラリス。その拍子に、かけていた眼鏡がずれる。

「どうしたのマルク?」

 ライムは、マルクの顔を心配そうに覗き込みながら言った。

「思い出しました……僕、乗り物だめなんです…………頭がぐわんぐわんします……」
「……なるほど、そういうことでしたか。それなら、しばらく横になっていた方がいいですね」
「いえ、そんな……悪いです……」

 クラリスは、起き上がろうとしたマルクを手で制する。

「わぶっ――!?」
「無理をしてはいけませんよ。ワタクシの膝の上でお休みになってください」
「く、クラリスさん、ぼ、僕の頭に何か当たって――」
「ワタクシの胸です」
「あ――――――――――」

 マルクは、クラリスの胸と太ももの間に挟まれ、人知れず意識を失った。

 先ほどまで、馬車で酔って青ざめていた顔は、何故か真っ赤だった。

「ところで、ライムさんは大丈夫ですか? 子どもは乗り物酔いしやすいと聞きますが……」
「……そういえば……ライムちゃんも……揺れるのだめかも……」

 すると、今度はライムがクラリスの膝の上に倒れ込む。

「ふふふ、仕方がありませんね。かなりの長旅になりますから、しっかり休んでください」
「うん。……ありがとう、クラリス……」

 クラリスは、ライムに頭が落ちてしまわないように、自分のお腹の方へ引き寄せた。

「あ…………おっぱい、すごい……」

 突然柔らかい胸と太ももの隙間に挟まれたライムは、最後にそう言い残して眠りにつく。

 ――かくして、あどけない少年少女は聖女の聖域に踏み入り、その意識を刈り取られてしまったのだった。

「天使に挟まれ膝枕……」

 クラリスは、眠りに落ちた二人の体を、若干危ない手つきでなで回しながら呟く。

「ああ、幸せとはこういうことなのですね神よ! はぁ、はぁっ……ワタクシ……昇りつめてしまいそうですぅっ……!」

 マルクとライムに膝枕をして興奮するクラリスを止められる者は、もはや誰もいなかった。
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