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第99話 旅の終わり
しおりを挟むマルクは、ベッドの上で体を起こしている姉に、懐から取り出した小瓶を渡す。
「これがお薬だよ。さあ飲んでお姉ちゃん!」
「……うん。ありがとうマルク……」
「お薬嫌いだからって、飲まなかったら死んじゃうんだからね!」
「わかってる。……マルクがいっぱい大変な思いして持ってきてくれたお薬だもん。好き嫌いなんかしないよ」
「お姉ちゃん……!」
マルクの姉はぎゅっと目をつぶって、手渡された女神の秘薬を飲み干した。
「うぅ……へんな甘じょっぱさ……」
「ちゃんと飲めて偉いよ!お姉ちゃん!」
「え、えへへ……」
マルクに褒められて、嬉しそうに笑う姉。
「偉いのはマルクだよ。ほら、お姉ちゃんがよしよししてあげるからね」
「は、はずかしいよ……」
姉に頭をなでられ、恥じらいつつも満更ではなさそうな様子のマルク。
「何この空気。ちょっとべたべたしすぎなんじゃない……?」
その様子を横から見つめていたリタは、不服そうに呟いた。
「でもこうしてみると、話し方とか仕草とかマルクちゃんにそっくりね」
「ワタクシもそう思います…………ですがマルクさん……なぜワタクシにはそんな風に打ち解けた話し方をして下さらないのですか……?」
「アタシもその点に関しては不満ね。てっきり誰に対してもあんな話し方なのかと思ってたわ。……あんたみたいに」
カーミラとクラリスは、こそこそとそんな話をする。今まで見ていたマルクは、かしこまった姿だったのである。
「順番的に、マルクの方がお姉ちゃん――エルマに似ていると言った方が正しいけどね☆」
「あの人、エルマって名前なんだ。……そういえばボク、マルクからちゃんとお姉ちゃんの話聞いたことなかったな……。まさかこんなに仲がいいなんて…………不覚」
リタはがくりと肩を落とした。
――ちなみにライムは、マルクと非常に親密な圧倒的強者の出現にショックを受け、何も話せなくなっている。
「ええと……皆さん、今まで本当の本当にありがとうございました! これで、お姉ちゃんも良くなります!」
皆の絶望をよそに、マルクは協力してくれた全員に礼をする。
「――向こうでの話は、マルクが私に送ってくれた手紙を読んだのでおおよそ知っています。マルクを助けてくれて本当にありがとうございました」
「マルク、いつの間に手紙を出してたんだね☆」
「師匠と違って、私のマルクはしっかりしてますからね。…………それと、しっかり見守るようお願いしたのにも関わらずマルクとはぐれた件について、今度じっくりとお話を聞かせてください。逃げたら地獄の底まで追いかけます」
「あばばばばばば?!」
全て筒抜けだったことを理解したルドガーは、大量の冷や汗を流して立ち尽くす。
「それとも、何か今すぐに弁明しておきたいことがありますか……?」
「そそそそそそれはだね、あ、そうだ、実はカーミラ達はマルクのこと――」
刹那、何かとんでもないことを暴露しようとしていることを悟ったカーミラは、ルドガーの口を無理矢理塞いだ。
「むぐぐぐぐっ!?」
「と、とにかく、姉弟で積もる話もあるでしょうし、アタシ達はこれで失礼するわ。――町の宿屋に泊まっているからよろしくねマルクちゃん!」
「わ、わかりました……」
かくしてカーミラ達は、ルドガーがこれ以上墓穴を掘らないようにする為に、そそくさと退却したのだった。
✳︎
「――あんた、死にたいのかしら?」
「いやでも……冷静に考えてあの歳の子を追いかけまわす奴らの方が私より以上だろ……☆」
「全くもってその通りだけれど、黙ってなさい。殴るわよ」
「……理不尽☆」
町にある宿屋の大部屋に集まったカーミラ達。その中で、ルドガーは皆からにらまれていた。
「……さて、これからどうしたら良いかしらね。あの子、ちょっと狂気的なくらいマルクちゃんのこと溺愛してるみたいよ」
「そうでしょうか……?ワタクシには普通に中の良い微笑ましい姉弟に見えましたけど……」
「あんたは鈍感すぎるのよクラリス。普通、『私の』マルクなんて言い方しないわ」
そう言って、カーミラは悩ましげに腕を組む。
「ガードは固そうだね……マルクに手を出そうものなら、秘密裏に始末されちゃいそう……! 地獄の底まで追いかけるとかなんとか言ってたし……!」
そう言って身震いするリタ。
「あの様子だとたぶん、ただでさえヤバめだったブラコンを更に拗らせてるね☆」
「やばいのは元からだったんだね……」
リタが言ったその時、ずっと黙っていたライムが突然泣き出した。
「うえええええんっ!」
「ど、どうしたんですかライムさん?!」
「ライムちゃん……邪魔者なのかな……もう、いらなくなっちゃった……?」
「そ、そんなことはありませんよ!」
「でもマルク……ずっとお姉ちゃんのこと見てた……ライムちゃんには、あんな風に甘えてくれない……!」
話しながらむせび泣くライム。マルクをとられたことが悲しいのだ。
「マルクさんも、ライムさんに対してはお兄ちゃんでいたのだと思いますよ……?」
「――そもそも、こんなに年上のお姉さんがいるのにわざわざちっこいライム相手に甘えないでしょ」
リタは、無慈悲にもそう言い放つ。
「ライムちゃんだって大きくなれるもん!」
「あれは魔力吸いすぎただけでしょ? ボクは普段の話をしてるんだよ」
「……いつかなるもん!」
「じゃあその間に、マルクのことはボクが奪っちゃうから」
ライムとリタは、マルクのことを巡ってばちばちと火花を散らす。
「それならいっそ、直接聞いてしまいましょうか。――マルクちゃんはこの中の誰のことが好きなのか。それさえわかれば、こんな争いをしなくて済むわ」
そう発言したカーミラに、その場にいた全員の視線が集中した。
「ほ、本気なのカーミラ?」
「アタシ達全員でいけば、病気のお姉ちゃんも何もできないでしょう。――口でいくら守るだなんて言ってもね」
「発想が悪魔だ……」
「あら、忘れちゃったのかしらリタ?」
カーミラは謎の決めポーズをとって続けた。
「――アタシは悪魔なのよ」
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