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第11話 厨二病は一家に一人まで
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巨大なハエの悪霊を退散させた翌日、いつものように学校へ登校すると前の席の女子が欠席していた。
先生の話によると、昨日一緒に帰っていた友達と交通事故に遭い、大怪我をして入院したらしい。
……なんてことだ。
帰る方向が一緒だったし、タイミングが違えば事故に遭っていたのは僕の方だったかもしれない。
おそろしや。
……あれ、でも僕には超能力があるから万が一自動車とかが突っ込んできてもたぶん怪我しないな。むしろ自動車の方が危ないかも。
もしかして僕が身代わりになった方が良かった……?
大いなる力には、大いなる責任が伴うって言うし……結果的に僕のせいなんじゃ……?
なんかごめんなさい、前の席の人。名前は……覚えてないけど。
僕は心の中で無意味に謝罪するのだった。
*
その日の夜。僕は渚や湊と三人で食卓を囲んでいた。
今日は両親の帰りが遅くなるのだそうだ。割といつものことだけど……。
「……ところでお兄ちゃん。おとといの夜中、どこ行ってたの?」
そんな時、不意に湊が言った。
「えっ…………?」
僕の箸からピーマンの肉詰めが滑り落ち、元の皿におさまる。セーフ。
「おととい、こそこそ出かけてたじゃん」
「えっ、ぁ、え……?」
僕は言葉に詰まる。
あれは夢の中の出来事だったはず……!
「……気のせいだろう。引きこもりの兄者が外へ出るはずがない。しかも宵闇に」
すると今度は渚がそう言った。
「たしかに、引きこもりのお兄ちゃんが外に出るのはおかしいか。しかも夜中に」
それに同調する湊。実に酷い言われようである。
「……ボクの勘違いだったのかも」
そんな納得のされ方はいやだ!
「ふ、二人とも! お兄ちゃんは友達がいないだけで別に引きこもりなんかじゃないよ! 毎日学校に行ってるからね!」
僕は抗議した。
「うぅ……兄者……かわいそうに……」
すると、なぜか泣き出す渚。
「――じゃあ、学校に行く時以外は?」
「…………引きこもっていますね」
「でしょ」
「………………はい」
「普通は友達とかと――」
「うぐっ!」
「……ごめん。なんでもない」
秒速で言い負かしてくる湊。我ながら口論に弱すぎる。僕も泣きたくなってきた。
「そ、それより湊! 僕が夜中に出かけてたって……本当なの?」
話をそらす――ではなく元に戻すため、僕は問いかける。
「うん。だってトイレ行こうとしたときに、不審者みたいな格好したお兄ちゃんがカサカサ階段降りてくの見たもん。ボクは嘘つかないよ!」
「そ、そっか……」
僕の歩く音ってそんな感じなの……? アレと同じ……?
「まあ、いくら引きこもってるからって、お兄ちゃんが悪いことするとは思ってないけどね!」
「あ、あはは……ありがとう……」
でもそうなるとやっぱり、おとといの出来事は全て現実か……。
受け入れたくはないが、そんな気はしていた。
そうか、僕は超能力に加えて、変な化け物を視る霊能力まで手にしてしまったのか……!
「……はぁ」
僕は深いため息をつく。どこかでお祓いでもしてもらった方がいいかもしれない。僕に霊媒師の人と会話できるコミュニケーション能力ないけど……。
「あれ、もしかして言っちゃいけないことだったの? ご、ごめんねお兄ちゃん!」
「ふっ、我には分かるぞ兄者よ。お主は毎夜、選ばれし戦士――ノワールシュヴァリエ・シュヴァルツリッターとして、世界を滅ぼさんとする我ら闇の軍勢――ダークネスイリュージョンと戦っているのであろう?」
渚は世界を滅ぼす側の設定だったんだ……。それだと敵になっちゃうじゃん……。
「………………ぁ」
そういえば、僕もおとといの夜同じようなことを妄想していた記憶がある。恥ずかしい。
「いい加減、白状したらどうなのだ兄者!」
「渚……変なノリでお兄ちゃんを困らせるのはやめてあげなよ……」
「やだ!」
――僕はふと、二人になら超能力や化け物のことを打ち明けても問題ないかもしれないと思った。
たぶん、口止めしておけば言いふらしたりとかはしないだろうし、家族の絆があるから突拍子もない話でも信じてくれるはず……!
「……そう、渚の言う通りだよ」
僕は覚悟を決めて言った。
「えっ」
「うん?」
きょとんとした顔をする渚と湊。
「落ち着いて聞いて欲しい、二人とも。……僕は……世界を命運を左右する超能力に目覚めてしまったんだ!」
静まりかえるリビング。刺すような二つの視線。
「家に厨二病が二人もいたらやってらんないんですけど!」
「そうだぞ兄者。お主が正気を失ったら、我らは終いだ!」
「………………」
ぜんぜん信じてくれないどころか、僕の正気を疑われるだけだった。
「これからは、お兄ちゃんのこともそっとしておいてあげるよ……」
「友のいない孤独に耐え、正気を保つのだ兄者!」
「………………」
二人の前で超能力を使って浮いてみせようかとも考えたけど、拗ねたのでやらない。
家族の絆……崩壊!
先生の話によると、昨日一緒に帰っていた友達と交通事故に遭い、大怪我をして入院したらしい。
……なんてことだ。
帰る方向が一緒だったし、タイミングが違えば事故に遭っていたのは僕の方だったかもしれない。
おそろしや。
……あれ、でも僕には超能力があるから万が一自動車とかが突っ込んできてもたぶん怪我しないな。むしろ自動車の方が危ないかも。
もしかして僕が身代わりになった方が良かった……?
大いなる力には、大いなる責任が伴うって言うし……結果的に僕のせいなんじゃ……?
なんかごめんなさい、前の席の人。名前は……覚えてないけど。
僕は心の中で無意味に謝罪するのだった。
*
その日の夜。僕は渚や湊と三人で食卓を囲んでいた。
今日は両親の帰りが遅くなるのだそうだ。割といつものことだけど……。
「……ところでお兄ちゃん。おとといの夜中、どこ行ってたの?」
そんな時、不意に湊が言った。
「えっ…………?」
僕の箸からピーマンの肉詰めが滑り落ち、元の皿におさまる。セーフ。
「おととい、こそこそ出かけてたじゃん」
「えっ、ぁ、え……?」
僕は言葉に詰まる。
あれは夢の中の出来事だったはず……!
「……気のせいだろう。引きこもりの兄者が外へ出るはずがない。しかも宵闇に」
すると今度は渚がそう言った。
「たしかに、引きこもりのお兄ちゃんが外に出るのはおかしいか。しかも夜中に」
それに同調する湊。実に酷い言われようである。
「……ボクの勘違いだったのかも」
そんな納得のされ方はいやだ!
「ふ、二人とも! お兄ちゃんは友達がいないだけで別に引きこもりなんかじゃないよ! 毎日学校に行ってるからね!」
僕は抗議した。
「うぅ……兄者……かわいそうに……」
すると、なぜか泣き出す渚。
「――じゃあ、学校に行く時以外は?」
「…………引きこもっていますね」
「でしょ」
「………………はい」
「普通は友達とかと――」
「うぐっ!」
「……ごめん。なんでもない」
秒速で言い負かしてくる湊。我ながら口論に弱すぎる。僕も泣きたくなってきた。
「そ、それより湊! 僕が夜中に出かけてたって……本当なの?」
話をそらす――ではなく元に戻すため、僕は問いかける。
「うん。だってトイレ行こうとしたときに、不審者みたいな格好したお兄ちゃんがカサカサ階段降りてくの見たもん。ボクは嘘つかないよ!」
「そ、そっか……」
僕の歩く音ってそんな感じなの……? アレと同じ……?
「まあ、いくら引きこもってるからって、お兄ちゃんが悪いことするとは思ってないけどね!」
「あ、あはは……ありがとう……」
でもそうなるとやっぱり、おとといの出来事は全て現実か……。
受け入れたくはないが、そんな気はしていた。
そうか、僕は超能力に加えて、変な化け物を視る霊能力まで手にしてしまったのか……!
「……はぁ」
僕は深いため息をつく。どこかでお祓いでもしてもらった方がいいかもしれない。僕に霊媒師の人と会話できるコミュニケーション能力ないけど……。
「あれ、もしかして言っちゃいけないことだったの? ご、ごめんねお兄ちゃん!」
「ふっ、我には分かるぞ兄者よ。お主は毎夜、選ばれし戦士――ノワールシュヴァリエ・シュヴァルツリッターとして、世界を滅ぼさんとする我ら闇の軍勢――ダークネスイリュージョンと戦っているのであろう?」
渚は世界を滅ぼす側の設定だったんだ……。それだと敵になっちゃうじゃん……。
「………………ぁ」
そういえば、僕もおとといの夜同じようなことを妄想していた記憶がある。恥ずかしい。
「いい加減、白状したらどうなのだ兄者!」
「渚……変なノリでお兄ちゃんを困らせるのはやめてあげなよ……」
「やだ!」
――僕はふと、二人になら超能力や化け物のことを打ち明けても問題ないかもしれないと思った。
たぶん、口止めしておけば言いふらしたりとかはしないだろうし、家族の絆があるから突拍子もない話でも信じてくれるはず……!
「……そう、渚の言う通りだよ」
僕は覚悟を決めて言った。
「えっ」
「うん?」
きょとんとした顔をする渚と湊。
「落ち着いて聞いて欲しい、二人とも。……僕は……世界を命運を左右する超能力に目覚めてしまったんだ!」
静まりかえるリビング。刺すような二つの視線。
「家に厨二病が二人もいたらやってらんないんですけど!」
「そうだぞ兄者。お主が正気を失ったら、我らは終いだ!」
「………………」
ぜんぜん信じてくれないどころか、僕の正気を疑われるだけだった。
「これからは、お兄ちゃんのこともそっとしておいてあげるよ……」
「友のいない孤独に耐え、正気を保つのだ兄者!」
「………………」
二人の前で超能力を使って浮いてみせようかとも考えたけど、拗ねたのでやらない。
家族の絆……崩壊!
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