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番外編

幸せのピアス~愛と絆とピアスの穴と~(その1)

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今回から予告通りの番外編をお送りします
今回の主人公はユキヤ達に部屋を譲った先輩とその彼氏となります。

***

「確か大沢さんは、春からは地元で就職するんですよね?」
年明けから間もない1月前半。
ユキヤはバイト先の喫茶店で、先輩店員である女性と話していた。
「うん、茶木くんも、来年は頑張らないとね。」
大沢と呼ばれた女性店員はちょっと緊張した面持ちで返す。

「えぇ、まぁなんとかなりますよきっと!
それより、俺、そろそろ上がりなんで、一緒に帰りませんか?」
そう言ってユキヤは自分の勤務時間の終わりを告げる。
「うん、いいけど。その前にトイレ行ってきてもいいかな?」
「はいどうぞごゆっくり~♪俺はここで待ってますんで。」

ユキヤが女性と帰るのは珍しいが、ちょっと相談を持ち掛けられていることがあった。
なので今日はその事を話すために一緒に帰るのだ。
「ふぅー、スッキリしました。じゃあお待たせしてすみませんでした。行きましょう。」
大沢は用を足すと、すぐに出てきてユキヤに声をかけて歩き出す。

「ところで、この前の話だけど・・・どうかな?」
「確かに今の部屋と比べると大学まで少し近くなりますが、俺には広すぎないかなって」
「でも立地条件を考えるとかなりお得よ?それに近くにスーパーもあるから便利だし?」
「う~ん・・・考えてみますね。ありがとうございます。」

相談内容は彼女の住むマンションの話だった。
先述したように就職が決まったことで、彼女は地元に帰ることになっていた。
そこで春から空き部屋になる彼女の部屋を、ユキヤに住まないかと話を持ち掛けていたのだ。
「1LDKであの家賃はまさに運が良かったからね。だから茶木くんにどうかなって思ったの。」
「そうなんですよねぇ、確かに魅力的ではあるんですが、
なんか勿体無い気がするっていうか・・・でも何で俺なんかに?」
ユキヤはちょっと考え込むようにしてから訪ねる。

「私、茶木くんのお陰で男の人と話すの怖くなかったから、ね。そのお礼・・・」
彼女はちょっと照れながら答える。
誰にでも(女性には特に)気さくに話しかけるユキヤの存在は彼女には大きかった。
(・・・あと、そのおかげであの子の告白も受けられたし)
大沢は心の中でそう思ったが口には出さなかった。

「そんな、大したことじゃないですよ。それならむしろお世話になったのこっちの方だし。」
ユキヤはちょっと頭を搔く。
「それでも、お礼したいから。ダメ・・・かな?」
「いえ全然大丈夫っすよ!でも・・・もう少し考えさせてくれませんか。」
ユキヤは少し考えた後、返事をする。
「わかった。良い答えを待ってるね。」
「はい。」

***

「空さん、お帰りなさい。」
大沢空おおさわそらが自宅のドアを開けると、男性が出迎えて来た。
「ただいま。って来てたんだ大ちゃん。」
空は男性の名前を呼ぶ。
「先にご飯作っておきましたよ。」『大ちゃん』と呼ばれた男性はにこやかに言う。
「もうすぐできるから先に着替えちゃってください。」
空はクローゼットをあけて着替えを出し始める。

「ゴメンね、狭くて散らかってて・・・」
デザイン系の大学に通う空の部屋は1LDKでも狭いほど機材であふれかえっていた。
作業用と思われる机の上には、作りかけのジュエリーが数点置かれている。

「別に気にしないで下さい。僕も似たようなものですから。」
「ありがと。」
空はお礼を言いつつ、手早く服を着替えていく。
「空さん、最近何かありました?」
「え?どうして?」
空は不意に聞かれたので、思わず聞き返す。
「だって、空さんなんだかご機嫌ですもん。」
彼は空の顔を見て微笑む。

「そっかなぁ・・・?いつも通りだと思うけど。」
「いーえ、違いますね。ここ最近の空さんは、
すごく楽しげというか、幸せそうな雰囲気が出てます。」
「う~ん・・・それは多分、無事就職も卒業も決まったらかも。」
空は彼に言われて思い当たる節があったのか、そう答える。

「地元にある小さなデザイン会社だけどね、
私がジュエリーデザインやりたくなったきっかけのところだから、
そこに決まったのがとても嬉しいんだ・・・」
空は就職先について嬉しそうに話す。
「へぇ、そうなんですか。良かったですね。」
「うん!」
空は嬉しそうに笑う。

「・・・だから、耳のピアス増えてるんですね。」「あ、バレた?」
空は舌を出していたずらっぽく笑った。
「そりゃわかりますよ。」
空の耳は地味な外見に似合わず、無数のピアスが付いている。

『大ちゃん』こと柿崎大地かきざきだいちは1学年下の3年生だが、
空と付き合っていた。きっかけは1年前、
柿崎の方から告白して、共通の趣味があるという事で、
付き合い始めたのだ。

そして、空は就職が決まり、後は卒業を待つだけとなっていた。
「空さんの就職先、僕も応募しますから」柿崎はにっこりと笑って言った。
「ほんと!?」
空は驚いて柿崎を見る。
「ありがとう。でも大ちゃん私よりも才能あるから、
もっと大きな会社受けてもいいのに・・・」
空はちょっと申し訳なさそうにしている。

「いえ、僕は空さんと一緒に働きたいと思ってますから。それに・・・」
柿崎は少し恥ずかしそうにしながら続ける。
「空さんのデザイン、大好きなので。」
「大ちゃん・・・」
柿崎の言葉に空は少し感動しているようだ。「じゃあ、一緒に頑張ろうね。」
空は笑顔で答える。
「はい。」
「さ、冷めない内に食べようか。」
二人は食卓についた。

***

夜。二人は寝室のベッドにいた。「今日はどうする?」
「えっと、今日は大ちゃんの好きなようにしてほしいかな。」
空は顔を赤らめて答える。その両胸にはピアスが輝いている。

「あ、そのピアス付けてくれたんですね・・・よかった」
「だって、大ちゃんがくれたピアスたもの・・・」
柿崎は空の胸元に手を伸ばして触れる。
「あっ・・・」
空は小さく声を上げる。
「綺麗ですよ、空さん・・・」
柿崎はそう言って、空の首筋にキスをする。

「ふぅ・・・ん」「大ちゃんのおへそにも付けてくれたんだね・・・」
「はい・・・」
二人の共通の趣味・・・それはピアスだった。
柿崎は空にプレゼントしたピアスを、空は柿崎から貰ったピアスを付けていた。
お互いに相手の身体をピアスで飾っていくのが、
二人にとってのセックスになっていた。

「んっ・・・大ちゃん、好きぃ・・・」
「僕も、空さんが好きです・・・」
(大ちゃんのデザイン・・・やっぱり素敵だな・・・
出来ればもっと大きなところで活躍してほしい)
空は自分のせいで大地の才能を狭めてしまっているのではないかと気に病む。

「空さん、大丈夫ですか?」
そんな空の様子に気付いたのか、大地が心配そうに声をかける。
「え?大丈夫だよ?」
空は慌てて取り繕うが、明らかに無理をしているのがわかる。

「何か悩んでるなら、僕に相談してくださいね。」「うん、ありがと」
大地は優しく微笑みながら、空の頭を撫でた。
空は大地に心を許しているのか、大地には何でも話すようになっていた。

「空さん、僕の事好き?」
「うん、大好き」
空は躊躇なく答えた。
「じゃあ、もし僕と別れたらどうします?」
「え?何それ・・・」
空は戸惑いを見せる。
「もしもの話ですって。」
「う~ん・・・多分落ち込むだろうけど、
でも大ちゃんの夢を応援すると思うな。」

空は苦笑いを浮かべながらも真剣に答える。
「どうしてです?空さんの方が僕よりも優秀なんですよ?なのにどうして・・・」
大地は不思議そうに尋ねる。
「大ちゃんは確かにすごいけど、私は大ちゃんの事が好きだから、
大ちゃんが夢を追いかけてる間は支えてあげたいな」
空は照れ臭そうにしながらも、はっきりと答えた。

「空さん・・・」
空の言葉に、大地はジーンとしているようだ。
「それにね・・・」
空はまだ何か言いたげにしているようだ。

「他にも理由があるんですか?」
大地は気になって尋ねた。
「私ね、ピアス付けるのが好きなんだけど、
大ちゃんからもらったピアス付けてるとね、
なんかすごく幸せな気分になれるんだよね。だからね・・・」
「・・・だから?」
「だから、きっと私の幸せの一部は、大ちゃんと付き合ってる事だと思うんだ。
だから・・・」
「空さん!」「きゃっ!」
大地は突然空に抱きつく。

「嬉しいよ!僕も、空さんの幸せの一部になれたらいいなって思ってました!」
「あはは、大袈裟だなぁ」
空は困ったように笑う。

「でも、ありがとうございます。そう言ってもらえてとても嬉しかったので。」
大地も恥ずかしそうにしながら答える。
「でもね、私が就職決まったら大ちゃんは
もっと大きなところでやっていけるよ。だから・・・」
「僕は空さんと一緒に居たいんです。それに、
僕は空さんのデザインが好きで、ずっと見ていたいと思ったんです。」
大地の言葉に空は目頭が熱くなる。「あ、ありがとう・・・」
空は感極まって涙を零していた。
そして、そのまま唇を重ねた。

***

数日後。
バイトが終わった後、空はユキヤと一緒に帰っていた。
マンションの事を相談するためだ。
「ねぇ茶木くん、この前の話、考えてくれた?」
「えーっと・・・」
ユキヤは少し困惑した様子を見せた。

「やっぱり俺には広すぎないかなって・・・」
「ええ?私には狭すぎるぐらいだけど・・・?」
「大沢さんは荷物が多すぎるんですよ。」
「え?そんなことないと思うけどなぁ。」
空の部屋には、様々なデザインのアクセサリーや機材や
原材料となる石などが所狭しと置かれていた。
「う~ん・・・」
空は考えている。

「じゃあいっそ彼女さんと同居しちゃうとか?」
「え!?それはちょっと・・・」
ユキヤは顔を真っ赤にして慌てる。
ユキヤとしてはそれは願ったり叶ったりだが、
すみれがどういうか分からない。
「そ、それは彼女にも聞いてみないと・・・」
ユキヤはしどろもどろになりながら答えた。

「まぁそうだよね。」
空はあっさりと引き下がった。
「でも俺の部屋も4月には更新しないといけないんで、
もし引っ越すとしたらそのあたりかなと。」
ユキヤはちょっと照れながら返す。

「うん、分かったわ。3月に入ったら、荷造りとか始めちゃうから
できれば2月までに決めてほしいかな。
それまでに彼女との同居の事も考えておいてね」
「お願いだからからかわないでくださいよ・・・」
ユキヤは苦笑いを浮かべる。

「ふふ、ごめんなさいね」
空は悪戯っぽく笑った。
(あれ?大沢さん、ピアス増えてる?)
地味な彼女に似つかわしくない複数のピアスは普段黒髪の下に隠れているが、
ユキヤは見逃さなかった。

(なんだろう、今までよりキラキラして見えるな)
そう思った矢先、ピアスに目をやったのがばれてしまった。
「あっ、ピアス増えた事気付いた?」
空はユキヤの表情を見て、いたずらっぽい笑顔になった。
そして耳を指差す。

「ふふ、実は最近ちょっとずつ増やしてるの。どう?綺麗でしょう?」
確かに以前の物と比べると色も鮮やかで、大きさも増していて、
デザインも変わっていた。

「はい、素敵だと思いますよ」
(しかし大沢さんとピアスって意外な組み合わせな気がする)

「ふふん、でしょでしょ!彼氏からのプレゼントなの」
ユキヤが肯定すると、空は満足げに微笑んだ。
大地を褒められた気分になったからだ。
「茶木くんはこういうのあんまりしないよね?」
「あ、俺痛いの苦手なんで・・・」
ユキヤは少し恥ずかし気に言った。
「そうなの?勿体無い。せっかくの美形なのに・・・」
空は意外といった感じで驚いている。

「コツを掴めばあまり痛くなく出来るんだけどね。」
空は自分の右耳に付けた小さなダイヤのピアスを触りながら答える。
「へぇ、凄いんですね」
ユキヤは感心した様子で呟いた。
「学校の課題とかで色々手製してるからね。そのあたり詳しくなっちゃった」
まぁ尤も、それ以前にもともと趣味であったけど・・・と言いたいのを我慢する。

「すごいですね。俺は不器用ですし。」
「茶木くん、アクセサリーに興味あるなら、私が何か作ってあげるよ。
ピアス以外も色々と作れるし、今なら材料費だけで作るよ」
「へぇ、何かあったらお願いしようかな。」
「任せて!」
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