霊感令嬢の視る仕事。〜視るだけの楽なお仕事?視るだけです厄介事はお断りします!〜

たちばな樹

文字の大きさ
17 / 55
二章

6

しおりを挟む
「ここと、ここと、ここです。あとは、ここが多いです」


今、王城のアチラの方々リストを制作してます。

私と一緒に城内を歩いてくれているのは、私を逮捕した騎士の一人。アロイ・マアディン近衛騎士だ。

王側近の近衛に護衛してもらえるなんて光栄なこと!なんて喜べないのは出会いが出会いだからね。
牢屋でこんにちは、な関係なんて笑えない。 

あの状態の王様を知り、事件解決させた関係者の一人だ。王様も幽体離脱中の話しを側近にはしただろう。内情知らなきゃ話しにもならないのも当然だし。あの状態の王様を理解して、私を知らなければ護衛をできないから選ばれたそうだ。


アエス王子からの依頼で、アチラの住人から過去の事件や事故を調べていくつもりらしい。
詳しくは知りませんが、聞き込みもしなきゃならないみたい。じじさまにお願いして代理で聴いてもらう手もあるけど。
ウロウロと王城内を歩きアチラの方々に色々と聞くので特に時間がかかる。


「今は誰でしたか?」
「え?えーと。五年ほど前に病死されたメイドさんですね。流行り病が一時期蔓延して大変でしたから。まだ仕事されてます」

さらりと答えれば、何とも言えない顔をする。嫌なもの見たような苦手な物食べたみたいな時の変な顔。
そんな顔するなら聞かなきゃいいのに。

「王側近近衛でも、苦手なものがあるんですね」
「…っ、そう言うわけではないのですが。剣で斬れない相手は理解しにくいと申しますか」

言い淀む内容が、“斬れるか斬れないか“。流石脳筋。
背後のアチラの方も頷かない。
貴方も斬れない対象でしょ。
これだから脳筋親子は。

「こっちは、……双子は、…双子。しか言わない老婆。ここのは、最後だ。最後。しか言わない老人です。あと浮遊霊がウロウロしてるのですが、背中を斬られた衛士、首吊りした下女、全身火傷の子供、ですかね」
「う、ウム」

若干引き気味なマアディン近衛騎士は手早く地図に書き込んでいく。

「ここには、歌いながら踊っている御令嬢。ごめんなさい先輩と謝る女中さん。あっちは無言な兵士が直立不動のままです。あと文官服の男性が徘徊してます」

私の次々と言う言葉にマアディン近衛騎士の背後の方は、恐々とアチラの方を見送る。なんで?自分も同じアチラの住人でしょうに。このヘタレ脳筋。


マアディン近衛騎士は、ショートヘアーをキッチリと乱れなく後ろに流し、男らしい眉毛に整った顔付きに、形の良い唇。厳つくて強面で強そうでもね。
私から視たらね、親子でヘタレ脳筋なんて威力半減だわ。

「私の背後にもいるのですか?」
「お父上のようですよ。背後で冤罪だ誤捜査だと騒いでました」
「あの時はすみませんでした。緊急事態とはいえ怖かったでしょう?それでなくても厳めしいと言われる顔ですし。さぞかし恐ろしい思いをさせてしまいましたね」
「まあ、確かに怖かったですね。よく分からない事態で突然牢屋行きでしたから」

それを聞いてマアディン近衛騎士が何度も謝罪してくるので大丈夫だと伝えた。

「もっと怖いものがウヨウヨしてたりしますから。マアディン近衛騎士の顔くらい普通ですよ」
「もっと怖いのがどんな物か気にはなりますが、聞かないでおきます。この顔が普通ですか?厳ついとよく言われて女性には嫌煙されることが多いのですが」
「気を追わずに自然体でいたらどうです?お父上が頭かたいとモテないぞと前に言われてましたよ」
「は?!そんなことも言われるのか?なんだか背後で見られているのは恥ずかしいものだな」
「慣れですよ」
「だが、ならばソルシエレ嬢も気をつけなければ。迂闊に情報を漏らすと命取りだぞ」
「出費したくなかったので。タダ働きはできませんし」
「だが、足がつくようなことするから」

マアディン近衛騎士の口調が説教じみてきた。背後の方と同じようになりつつあることに顔を顰めた。

「そこまで頭回らなかったんですよ」
「まだまだ子供か」
「デビュタントの髪飾り買いにきてたんです。無駄な出費は抑えたいんですよ。貧乏男爵家でしたから情報引き換えで、ロハで依頼できるなら経費節約して当然です」
「しっかりしてるんだか抜けてるんだか」
「どうせデビュタントしたての子供ですよー」

呆れた口調で苦言を制するマアディン近衛騎士。私がプンと腹を立てていると、フッと目を細めて笑われてしまった。
大人の余裕か!
夜中にアチラの住人を嗾けちゃうぞ!
やーい!斬れないだろー!

不貞腐れていると目的地に着いた。

「ここですね」
「ここですか」

なんの変哲も無いただの袋小路の壁を見つめた。

王様のあの事件の夜、不審者がここら辺で消えた。

どうやっても足取りが掴めず困っているそうだ。視えないものを視る私の眼を頼ってこの仕事が来た。


『じじさま。どう?』
〈うむ。隠し通路だが、一回使ったら二度と使えない仕様だのう。見た目もそうだが、仕掛けも二度と作動しないから開かぬし、絶対に気付かないじゃろうな〉

じじさまの言葉をそのまま伝えた。マアディン近衛騎士は紙に書き留めると神妙な面持ちで紙をしまった。

「君は背後の方を使ったら色々なものを診れたり知ったりできるのかい?」
「そうですね。じじさまから精霊や妖精を視る方法も教えてもらいましたから。違う角度からも知ることはできますね」

「地の中とか、水の中とか」と言うと、マアディン近衛騎士の表情に緊張感が感じられた。


「少し付き合ってくれ」

そのまま無言で歩くマアディン近衛騎士の後ろをとぼとぼと着いて行った。


なんかまずいこと言ったかなぁ。


しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

笑い方を忘れた令嬢

Blue
恋愛
 お母様が天国へと旅立ってから10年の月日が流れた。大好きなお父様と二人で過ごす日々に突然終止符が打たれる。突然やって来た新しい家族。病で倒れてしまったお父様。私を嫌な目つきで見てくる伯父様。どうしたらいいの?誰か、助けて。

安らかにお眠りください

くびのほきょう
恋愛
父母兄を馬車の事故で亡くし6歳で天涯孤独になった侯爵令嬢と、その婚約者で、母を愛しているために側室を娶らない自分の父に憧れて自分も父王のように誠実に生きたいと思っていた王子の話。 ※突然残酷な描写が入ります。 ※視点がコロコロ変わり分かりづらい構成です。 ※小説家になろう様へも投稿しています。

どうぞ、おかまいなく

こだま。
恋愛
婚約者が他の女性と付き合っていたのを目撃してしまった。 婚約者が好きだった主人公の話。

この闇に落ちていく

豆狸
恋愛
ああ、嫌! こんな風に心の中でオースティン殿下に噛みつき続ける自分が嫌です。 どんなに考えまいとしてもブリガンテ様のことを思って嫉妬に狂う自分が嫌です。 足元にはいつも地獄へ続く闇があります。いいえ、私はもう闇に落ちているのです。どうしたって這い上がることができないのです。 なろう様でも公開中です。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

いつかの空を見る日まで

たつみ
恋愛
皇命により皇太子の婚約者となったカサンドラ。皇太子は彼女に無関心だったが、彼女も皇太子には無関心。婚姻する気なんてさらさらなく、逃げることだけ考えている。忠実な従僕と逃げる準備を進めていたのだが、不用意にも、皇太子の彼女に対する好感度を上げてしまい、執着されるはめに。複雑な事情がある彼女に、逃亡中止は有り得ない。生きるも死ぬもどうでもいいが、皇宮にだけはいたくないと、従僕と2人、ついに逃亡を決行するのだが。 ------------ 復讐、逆転ものではありませんので、それをご期待のかたはご注意ください。 悲しい内容が苦手というかたは、特にご注意ください。 中世・近世の欧風な雰囲気ですが、それっぽいだけです。 どんな展開でも、どんと来いなかた向けかもしれません。 (うわあ…ぇう~…がはっ…ぇえぇ~…となるところもあります) 他サイトでも掲載しています。

とんでもない侯爵に嫁がされた女流作家の伯爵令嬢

ヴァンドール
恋愛
面食いで愛人のいる侯爵に伯爵令嬢であり女流作家のアンリが身を守るため変装して嫁いだが、その後、王弟殿下と知り合って・・

転生皇女はフライパンで生き延びる

渡里あずま
恋愛
平民の母から生まれた皇女・クララベル。 使用人として生きてきた彼女だったが、蛮族との戦に勝利した辺境伯・ウィラードに下賜されることになった。 ……だが、クララベルは五歳の時に思い出していた。 自分は家族に恵まれずに死んだ日本人で、ここはウィラードを主人公にした小説の世界だと。 そして自分は、父である皇帝の差し金でウィラードの弱みを握る為に殺され、小説冒頭で死体として登場するのだと。 「大丈夫。何回も、シミュレーションしてきたわ……絶対に、生き残る。そして本当に、辺境伯に嫁ぐわよ!」 ※※※ 死にかけて、辛い前世と殺されることを思い出した主人公が、生き延びて幸せになろうとする話。 ※重複投稿作品※

処理中です...