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二章
マアディン卿の独り言。(1)
しおりを挟む「王に異変が!」
その声と共に側近、護衛、侍従などの関係者に緊張が走った。
医師が呼ばれ即座に厳戒態勢が引かれる。
状況把握に人員の配置、人流の停止からの事情聴取。各部署が躍起になって調べ箝口令が引かれた。
調べた結果、毒などではなかった。
どうやら呪術だと言うことで呪術者が呼ばれ、護衛騎士としてやれることは情報収集となった。
王が倒れたなど国の根幹を揺るがしかねないことは当然箝口令だ。流布されては他国への影響が大きい。
呪術者が言うには、呪いの発動は解るが元に戻すのが不明だと言う。発動と発元先がバラバラに設置されており追尾出来ないのだと。
呪術に関しては造詣が深くない自分は守備範囲外だ。専門家に任せるしかないことに歯痒さを感じた。
外からの情報を待てず方々へと足を運び手掛かりがないかと探った。勿論誰かに勘繰られないよう慎重に行動した。同僚と共に秘密裏に探りその中で、ある同僚が持ってきた情報から糸口が掴めた。
王様が意識不明
情報ギルドから齎されたその情報。
ギルド長からは、他に情報は漏れていないとのお墨付きを貰ったが。
「誰だ!箝口令が徹底して引かれた情報をギルドに漏らす愚か者は!!」
そう激怒しながら同僚と共にその人物を調べたら。
なんと、外部の者だ。
しかもデビュタントもしていない小娘。
いや、デビュタントをしに王都に来た小娘だ。
軽く調べても、不審なところが見当たらない一家だ。男爵家であり清貧な領主は領民からは慕われている。領地の災害で財政は逼迫気味だがまだ遣り繰りは出来ている。犯罪に手を染めている気配も感じられない。
娘はどうやら病弱で神殿で育ち、最近デビュタントのために還俗したと言う。俗世とは切り離された世界から、なぜ王の状態を知れるほどの情報網を持っているのか。
怪しすぎて即捕縛することとなった。
逮捕されてもキョトンとしたままの小娘は事の重大きさを理解していないのか。知らずに犯罪の片棒を担いでいるのか。
尋問していくうちに震え出したが、今更だ。
この小娘は幼い頃からこの王都の神殿に預けられていた。ここで育ったなら王都に詳しいはず。神殿を抜け出し、どこかと裏で通じていたのか。ギルドに情報を売るなど迂闊さを考えれば主犯格ではなくとも、確実に事件の関係者だろう。何故身がバレることをしたのかが疑問だ。
王の容体も気になる。
皆が気が急き、小娘を責め立てた。
恐怖か自責の念か。
泣き出した小娘。
一晩怖い思いさせて、明朝優しく絆すのが口を割りやすいのでは?
との案が出て、この場はとにかく小娘が恐怖に慄くように仕向けた。
女性を泣かせるなど騎士にあるまじきことだが。
今は時間がない。
人手も少ない。
情報を知る限られた人員のみで尋問していかなければならない。
一晩待つのも、もどかしかった。
◇◆◇
空が薄らと白み払暁となった頃、同僚が走ってきた。
王が目覚めた、と。
しかも、小娘が王を救ったのだと言う。
王からも丁重に王宮に迎え入れるよう御達しが来た。
泣く小娘を牢屋へと押し込んだ。
泣きながら身を縮ませ震えていた姿が甦る。
同僚達と慌てて牢屋へと向かった。
簡素な寝台と言う板の上で蹲り小さくなって眠る姿。
同僚達と気まずく顔を見合わせ顔を歪めた。
泣き腫らした顔。
眠りながらも流れる涙。
罪悪感に胸が締め付けられた。
眠る彼女をそっと抱えて馬車へと移動し王宮へと急いだ。
心細気に眠り、涙を流す姿が目から離れなかった。
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