大草原の小さな家でスローライフ系ゲームを満喫していたら、何故か聖女と呼ばれるようになっていました~異世界で最強のドラゴンに溺愛されてます~

うみ

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1.ドラゴンさんに出会った

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「あ、あの……どちら様でしょうか……」

 お話しができるのか分からないけど、ビルのように大きな恐竜に向け声をかけた。
 ううん。これは恐竜じゃなくて、ドラゴンというモンスターだと思う。
 もふもふ生活の平和な世界だと思っていたのに、こんなお方がいたなんて。
 真っ黒なドラゴンが僅かに翼を動かしただけで、私の髪がぶわあっと揺れる。
 逃げないの? と思うかもしれないけど、腰が抜けちゃって膝が笑っているから動けない……。
 
『人の子よ。愚かにも我に挑戦しようとは片腹痛い。人の世で勇者や英雄だとて、我が力は次元が異なることを知らぬとみえる』
「ま、待って。待ってください! わ、私、あなたと戦おうなんて気はこれっぽっちもありません。本当です! 本当なんです!」
『ぬ? 結界を敷いておきながら、我を油断させようとしているのだろう』
「そ、そんなことありません! ほ、ほら。銃も持ってません!」

 立ち上がってくるりと回り、何も持っていないことをアピールしようとしたけど、た、立てない。
 仕方ないから両手を開いて精一杯上にあげる。
 だけど、ドラゴンは無言でこちらを睨みつけるばかり。
 う、ううう。な、何かしなきゃ。
 そ、そうだ。膝上まであるコートを脱ぎ、パンパンと叩く。
 そのままコートを自分の後ろに投げ捨てた。
 ど、どうかな。コートの中に銃なんて隠し持っていませんアピール!
 
「ま、まだ私を疑っていますか……?」
『……』
「じゃ、じゃあ。ちょっと恥ずかしいけど……」

 スカートを捲し上げ、太ももにナイフなんて隠していないことを示してみた。
 ほ、ほら、よくあるじゃない。美人でスラっとたアサシンみたいな人が太ももからナイフを抜いて投げるとか、そういうのが。

「ダ、ダメですか……?」
『戦意がまるでない。我を騙そうとしているのなら、もう少しやりようがある。余りにも滑稽だ』
「だ、騙そうなんてしてません! ほ、本当に何も知らないんです。と、突然、ここに放り出されて、家を建てたばかりなんです」
『家? お主の後ろにある小箱みたいなものか?』
「そ、そうです。最初は小さな家しか建てることができないんです。で、でも。私一人ですし」

 見逃して欲しかったらドラゴンに家を建てろ、と言われても困る。

『カッカッカッカ。お主も一人か。我もだ。我を打倒しようというわけではないのだな?』
「は、はい」

 ドラゴンの笑い声で体が浮きそうなほどの突風が、で、でもここは満面の笑みで。
 私に敵意はないって示さないと!
 少しだけ安心したのも束の間、すぐにドラゴンの纏う空気がピリリと緊迫感に包まれる。
 
『我と交渉しようというのか? ここ数百年、我と対話しようなどとした者はいなかった。そやつらは我を打倒し、財宝を得ることが名誉だと言っておったな。お主は何を望む。財宝か? 我の鱗か?』
「な、何も……い、いえ」

 きゃああ。無欲は逆に不信感を募らせてしまったみたい。
 ドラゴンの真っ赤な瞳が炎のように揺らめいたのよ!
 こ、これはマズイと、慌てて首を振り何を望むか考える。
 私の欲しいもの、今、欲しいものって何だろう? 
 
『どうした?』
「あ、あの。ほ、本当にここがどこか分かってなくて。一人ぼっちで、食べ物も住む家もなくて、誰もいなくて……ドラゴンさんはとても怖くて、でも、それでも。私、誰かと会話ができて、嬉しかった……と思う」
『ほう?』
「だ、だから、ドラゴンさん、私とお友達になってください! それが私の望みです!」
 
 自然にぽろぽろと涙が出ていた。
 一人ぼっちがこんなに寂しくて、辛いものだなんて思ってなかったの。
 生きるために必死になっていたけど、ドラゴンと会話することで本当に自分が一人ぼっちだったんだって気が付いた。
 それがどれほどのことか、やっと私は理解したんだ。

『我と友垣ともがきになろうと言うのか。我が邪黒竜ファフニールと分かってのことか?』
「すいません。すいません。そんな偉いお方だとは」
『まあよい。こうして言葉を交わすこと、久しく忘れておった。我は邪黒竜。それでも良いのだな?』
「もちろんです! よ、よろしくお願いします!」

 両手を差し出したけど、山のように大きなドラゴンとは握手できないか。
 どうしようとドラゴンを見上げた時――。
 
「きゃ! 眩しい!」

 突如ドラゴンの全身から眩い光が溢れ出し、閃光となって目を焼く。
 反射的に目を閉じたけど、視界が真っ白になってぐらんぐらんしてしまう。
 
『こ、これは……』

 驚くドラゴンの声に恐る恐る目を開く。まだチカチカしていてハッキリと見えないけど……え?
 
「ドラゴンさん! 色が変わってます!」

 そう。カラスの羽のようにテラテラした漆黒だったドラゴンの体表が、青みがかった白色に変わっていたのだ。
 ドラゴンは私以上に驚いているようで、自分の指先や翼を確認するかのように動かしていた。
 
『お主。聖女だったのか。我の元に来るとは。これも導きか』
「違います。私、聖女という名前じゃありません。私、佐枝子さえこ小鳥屋佐枝子ことりやさえこというんです」
『サエという名なのだな。改めて名乗ろう。聖女サエよ。我は天空竜ファフニール』
「よろしくお願いします。ファフニールさん」
『うむ。ところで、お主、先ほどから手を前に出して何をしておるのだ?』
「こ、これは。お友達になった時の儀式と言いますか。握手をと思ってたんです。でも、大きさが違い過ぎて」
『儀式か。友垣になると契りを交わした。ならば、我が何とかせねばならぬな』
「え、えっと」

 そうは言ってもドラゴンのファフニールと私じゃ、大きさが違い過ぎるよ。
 彼? でいいのかな。彼の爪の先ほどでも私の手より大きいんだもん。
 オロオロしているとぼふんとドラゴンが煙に包まれ、私より少し年上くらいの青年が姿を現した。
 バサバサの短い髪の色はドラゴンと同じ青みがかった白色で、目の色はスカイブルー。
 細身だけど、しっかりと筋肉はついているように見える。
 
「これで握手ができるだろう?」
「え、誰……?」

 青年が手を差し伸べてきたけど、目をぱちくりとさせてしまった。
 あ、あと。お恥ずかしい話、私はまだ尻餅をついたままである。
 腰が抜けてて、立てない……。
 小さくため息をついた青年が私の腕を掴み立たせてくれた。

「安心しろ。我……俺だ。ファフニールだ」
「ドラゴンさん?」

 コクリと頷きを返す青年ことドラゴンことファフニール。
 まさかドラゴンが人間に変身するなんて、と思っていたけど、よく見てみたら人間と少し容姿が異なる。
 彼のお尻からは髪の毛の色と同じ尻尾が伸びているし、額の左右に角が生えていた。
 推測だけど、ファフニールは自由に姿を変えることができるってわけじゃないみたい。
 
「よろしくお願いします。ファフニールさん」
「改めて、よろしく。サエ」

 ガッチリと握手を交わし、にこおっと満面の笑みを浮かべる。
 対するファフニールはくすりと口端だけで笑い、握った手を離す。
 
<初めての住人を獲得しました。
 地形:池 が解放されました。
 家畜:牛 が解放されました。
 アイテムボックスにプレゼントが届いています。
 ミッションクリアボーナスが送られます。
 ショップに並ぶアイテムが増えました。>
 
 脳内に一気にメッセージが流れる。
 ファフニールとお友達になったことで、ミッションなるものをクリアしたことになったらしい。
 どんなものが追加されたのか見てみたい気持ちがあるけど、その前にファフニールに聞かなくちゃ。
 
「ファフニールさん、ここはファフニールさんのお家だったんですか?」
「俺の領域だが、特に使っていたわけじゃない。好きにするといいさ」
「あ、あの。毎日とは言いません。たまにだけでいいんです。ここでお茶でもしながら、お喋りして頂けませんか」
「むろんだ。俺からも頼みたい。さっそく茶会にするか?」
「はい! 聞いて欲しいことがあるんです」
「お前がここに来たことか?」
「どうしてここに来たのかは分からないです。ですが、来てからのことを聞いてもらいたくて。ファフニールさんなら何か分かるかもと」
「俺に分かることなら、答えよう」

 そう言って片目をつぶるファフニールの仕草は人間と全然変わらない。
 私がこの不可思議なところにきてから、まだ一日も経っていないんだ。そう、まだ一日も。
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