外れスキル「トレース」が、修行をしたら壊れ性能になった~あれもこれもコピーし俺を閉じ込め高見の見物をしている奴を殴り飛ばす~

うみ

文字の大きさ
9 / 39

9.速さこそ正義

しおりを挟む
 着流し、異形の偉丈夫共に不動。
 対する俺も片刃の剣を鞘に納め、いつでも抜くことができる態勢のまま動けずにいた。
 敵は二体で、能力も不明だ。しかし、奴らの発する強者故の存在感が俺を留まらせる。
 ポタリと汗が顎をつたい床に落ちた。
 
 来たぞ!
 焦れたのか着流しが動く。彼は剣の柄から手を離し、両手を上にあげる奇妙なポーズを取った。
 降伏? そんなわけねえな。
 ここで会うモンスターは殆どがアンデッドで、極めて敵対的かつまるで話が通じない。
 話が通じないのではなく、言葉を発しないのでそもそもこちらの意思が全く伝わっていないように思える。
 
 ゾワリ。
 着流しは無表情なまま。しかし、背中にひりつくような悪寒が奔った。

超敏捷速さこそ正義
「っつ。ディフレクト」

 着流しの体がブレたと思ったら、次の瞬間に俺の首元に奴の剣が。
 ディフレクトの超高速自動防御により、何とか難を逃れることができた。
 あ、あれはやばい。
 奴が何をしているのか全く見えなかった。
 ドクドクと背中から汗が流れ、心臓がぎゅっと握りつぶされたように激しい緊張感に苛まれる。

「っつ。今度はあっちかよ」

 首元で打ち合わせた剣を払い、着流しから距離を取った。
 今度は異形の偉丈夫が両手の拳を握りしめ、と動き始めている。あれも何らかのスペシャルムーブだろうな。
 しかし、異形に構っている暇はない。
 着流しが剣を鞘に納めたのだから。来るぞ、さっきのが。
 
超敏捷速さこそ正義
超敏捷速さこそ正義

 発動前の動作は全て「記憶している」。さっきは何が来るか分からずディフレクトで凌いだが、どんな攻撃なのかを把握できれば対応も変えることができるのだ。
 これがトレーススキルの強み。
 発声と共に視界が少し暗くなる。
 着流しは片刃の剣を引き抜き、一歩前に出た。ハッキリと奴の動きがこの目で見えるぞ。
 横目でチラリと異形の方を見た所、拳を握りしめた姿勢から微動だにしていない。
 ハールーンの火の揺らめきも止まったままだ。
 なるほど、これが「超敏捷の世界」か。
 全ての動きがコマ送りで止まっているように感じられる。だが自分は普通に動くことができるのか。
 
 これで着流しの剣を受け止めることもでき、いや。
 片刃の剣を右手のみで握りしめ、前へ踏み出す。
 と同時に背後にナイフを放り投げる。俺の投げたナイフはコマ送りの動きにはならず、俺と同じ速度域にいるのか。
 なるほどな。
 
 着流しが俺の首目掛けて剣を振るった。
 
「ディフレクト。そして、エイミング!」

 キイインと澄んだ音が響き、着流しの全力の振りを片手で握った剣で受け止める。
 ディフレクトの自動防御でこいつの攻撃を片手で受け止めることができることは、実証済み。
 
 クルクルクル。
 階下の食堂へ落ちている途中のナイフが重力に逆らい一息に天井付近まで跳ね上がり、勢いそのままに着流しに向かう。
 グサアア。
 剣を振るい無防備な着流しの額にナイフが突き刺さる!
 ビクリと着流しの体が震え、普通ならこのまま倒れ伏す……のだが、油断はしない。
 
「うおおおお!」

 打ち合わせたままの剣を押すとあっさり着流しの剣を弾き飛ばすことができた。
 弱っている。だけど、完全には倒し切れていない。
 流れるような動作で片刃の剣を薙ぎ、着流しの首を落とす。
 
 そこで、視界の景色が切り替わり、ハールーンの火の揺らめきが動き出した。
 着流しが床に倒れ込むことを確認する間もなく、異形へと目を向ける。
 
 異形は握った両の拳を打ち鳴らし、ガアアアアアと獣のような咆哮を上げた。
 
超筋力力こそパワー

 異形の動きは目に見えて変わったことが無い。
 一直線にこちらに向かって駆けて来ると同時に長柄の武器を振り上げている。
 あの武器はハルバードというやつだな。冒険者は長柄の武器を使うことが殆どない。
 長柄の武器はリーチという優位性があるけど、取り回しが悪いからな。木々の間とかダンジョンの中と狭いところでも戦うことの多い冒険者には不向きだ。
 そして、この場所もハルバードを振るうには少し狭い。
 天井は高いから問題ないけど、通路の幅が三メートルしかないんだぞ。
 通路の右側に体を寄せ、異形が武器を横に払うと柵にぶつかるように調整し待ち構える。
 
 叫んだ名前から判断するに筋力アップしたとかその変か。元よりあの体格だ。パワーは相当なものだろう。
 それに、速い。
 着流しを除けば俺が今まで見た中で一番速いかも。
 だが、これくらいならハールーンの(半分の速度の)方がまだ速い。
 
 異形は駆けるエネルギーを全てハルバードに伝え、振りかぶったハルバードを俺に向け振り下ろしてくる。
 対する俺はトレースの動作を使って紙一重でハルバードを回避した。正直、異形の迫力に圧倒されて身が竦んでいたのだが、トレースならば俺の精神状態など関係ない。
 俺が先ほどまでいた場所を空振りするハルバード。
 だが、物凄い風圧が床を斬った。
 
「な、なな」

 床だけに留まらず、柵までも風圧だけで切り裂いてしまったじゃないか。
 異形は構わず横凪ぎにハルバードを振るう。
 今度は異形の裏手に回り込むようにして攻撃を回避。
 ガアアアン。
 柵に当たったハルバードは高い音を立てた。金属製の柵がぐにゃりと折れ曲がる。
 二撃目は奴本来のパワーか。
 普通、鉄の塊なんて叩いたら手首がいかれるのだが、奴はまるで平気な様子。
 
 ん、床が傾いて。
 
「ちょ、ま」

 傾きがどんどん大きくなっている。このままだと回廊が食堂まで落下するんじゃないか。
 そんなもの構うものかと異形がハルバードを握りしめたまま拳を握りしめている。
 
「ちいい。超敏捷速さこそ正義!」

 万歳のポーズから体を畳み、剣の柄に手をかけた。
 そのまま剣を抜き放つと同時に下から上で伸び上がる勢いをつけ、剣を振り抜く。
 すうううっと剣が異形の首を真っ二つに分かつ。
 が、首から鮮血が溢れることもなく僅かながら切れ目が動くのみ。
 そろそろ超敏捷の効果が切れる頃か。
 剣を振り鞘に戻しながら、回廊の先にある扉目掛けて駆ける。
 
 ドオオオン。
 扉の前まで来たところで後ろから大きな音が響く。
 
「間一髪……。何とか抜けたな」
『いやあ。回廊ごと破壊されるなんてねえ。すごい力だったね』
「だな。スペシャルムーブ『超筋力力こそパワー』の威力もさることながら、あの敵の素の力もあってのことだろうな」
『まあいいじゃない。次だよ次』
「おう」

 ここは部屋か。大聖堂の規模からすると小部屋と言ってもいい。
 ここもまた奇妙な部屋だな。
 ベッドが整然と並べられているのだが、歩く隙間もないほど敷き詰められている。
 扉からベッドまでの隙間は俺の足がギリギリ入るくらい。そこから右手奥にある扉の前以外は壁とベッドがくっつけられていた。
 これじゃあ、扉は蹴破る以外開く手段がないな。俺の入ってきた方は外開きだったから入れたものの、あちらは内開きぽいから。

『寝るかい?』
「正直、休まないともう限界ではあるけど……」

 スペシャルムーブを多用したため、もうクラクラしていて朦朧としてきている。
 安全かどうか分からないが……。
 部屋の中央まで移動し、ベッドを横倒しにしてバリケードを作った。
 これでも無いよりはましだろ。
 
メディテーション瞑想

 あぐらをかき、休息に入ることにした。
 何かきたらすぐにディフレクトで防御できるよう、剣は握りしめたままで。
しおりを挟む
感想 21

あなたにおすすめの小説

追放されたS級清掃員、配信切り忘れで伝説になる「ただのゴミ掃除」と言って神話級ドラゴンを消し飛ばしていたら世界中がパニックになってますが?

あとりえむ
ファンタジー
【5話ごとのサクッと読める構成です!】全60話 完結しました。読者の皆様ありがとうございます! 世界を救ったのは、聖剣ではなく「洗剤」でした。 「君のやり方は古いんだよ」 不当な理由でS級クランを追放された、ベテラン清掃員・灰坂ソウジ(38歳)。 職を失った彼だったが、実は彼にはとんでもない秘密があった。 呪いのゴーグルのせいで、あらゆる怪物が「汚れ」にしか見えないのだ。 ・神話級ドラゴン  ⇒ 換気扇の頑固な油汚れ(洗剤で瞬殺) ・深淵の邪神  ⇒ トイレの配管詰まり(スッポンで解決) ・次元の裂け目  ⇒ 天井の雨漏りシミ(洗濯機で丸洗い) 「あー、ここ汚れてるな。チャチャッと落としておくか」 本人はただ業務として掃除をしているだけなのに、その姿は世界中で配信され、人類最強の英雄として崇められていく! 可愛い元ダンジョン・コアや、潔癖症の聖女も入社し、会社は今日も大忙し。 一方、彼を追放した元クランは、汚れ(モンスター)に埋もれて破滅寸前で……? 「地球が汚れてる? じゃあ、一回丸洗いしますか」 最強の清掃員が、モップ片手に世界をピカピカにする、痛快・勘違い無双ファンタジー! 【免責事項】 この物語はフィクションです。実在の人物・団体とは関係ありません。

A級パーティから追放された俺はギルド職員になって安定した生活を手に入れる

国光
ファンタジー
A級パーティの裏方として全てを支えてきたリオン・アルディス。しかし、リーダーで幼馴染のカイルに「お荷物」として追放されてしまう。失意の中で再会したギルド受付嬢・エリナ・ランフォードに導かれ、リオンはギルド職員として新たな道を歩み始める。 持ち前の数字感覚と管理能力で次々と問題を解決し、ギルド内で頭角を現していくリオン。一方、彼を失った元パーティは内部崩壊の道を辿っていく――。 これは、支えることに誇りを持った男が、自らの価値を証明し、安定した未来を掴み取る物語。

最難関ダンジョンをクリアした成功報酬は勇者パーティーの裏切りでした

新緑あらた
ファンタジー
最難関であるS級ダンジョン最深部の隠し部屋。金銀財宝を前に告げられた言葉は労いでも喜びでもなく、解雇通告だった。 「もうオマエはいらん」 勇者アレクサンダー、癒し手エリーゼ、赤魔道士フェルノに、自身の黒髪黒目を忌避しないことから期待していた俺は大きなショックを受ける。 ヤツらは俺の外見を受け入れていたわけじゃない。ただ仲間と思っていなかっただけ、眼中になかっただけなのだ。 転生者は曾祖父だけどチートは隔世遺伝した「俺」にも受け継がれています。 勇者達は大富豪スタートで貧民窟の住人がゴールです(笑)

裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね

魚夢ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。 元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、 王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。 代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。 父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。 カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。 その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。 ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。 「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」 そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。 もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。 

S級パーティを追放された無能扱いの魔法戦士は気ままにギルド職員としてスローライフを送る

神谷ミコト
ファンタジー
【祝!4/6HOTランキング2位獲得】 元貴族の魔法剣士カイン=ポーンは、「誰よりも強くなる。」その決意から最上階と言われる100Fを目指していた。 ついにパーティ「イグニスの槍」は全人未達の90階に迫ろうとしていたが、 理不尽なパーティ追放を機に、思いがけずギルドの職員としての生活を送ることに。 今までのS級パーティとして牽引していた経験を活かし、ギルド業務。ダンジョン攻略。新人育成。そして、学園の臨時講師までそつなくこなす。 様々な経験を糧にカインはどう成長するのか。彼にとっての最強とはなんなのか。 カインが無自覚にモテながら冒険者ギルド職員としてスローライフを送るである。 ハーレム要素多め。 ※隔日更新予定です。10話前後での完結予定で構成していましたが、多くの方に見られているため10話以降も製作中です。 よければ、良いね。評価、コメントお願いします。励みになりますorz 他メディアでも掲載中。他サイトにて開始一週間でジャンル別ランキング15位。HOTランキング4位達成。応援ありがとうございます。 たくさんの誤字脱字報告ありがとうございます。すべて適応させていただきます。 物語を楽しむ邪魔をしてしまい申し訳ないですorz 今後とも応援よろしくお願い致します。

最上級のパーティで最底辺の扱いを受けていたDランク錬金術師は新パーティで成り上がるようです(完)

みかん畑
ファンタジー
最上級のパーティで『荷物持ち』と嘲笑されていた僕は、パーティからクビを宣告されて抜けることにした。 在籍中は僕が色々肩代わりしてたけど、僕を荷物持ち扱いするくらい優秀な仲間たちなので、抜けても問題はないと思ってます。

追放された回復術師は、なんでも『回復』できて万能でした

新緑あらた
ファンタジー
死闘の末、強敵の討伐クエストを達成した回復術師ヨシュアを待っていたのは、称賛の言葉ではなく、解雇通告だった。 「ヨシュア……てめえはクビだ」 ポーションを湯水のように使える最高位冒険者になった彼らは、今まで散々ポーションの代用品としてヨシュアを利用してきたのに、回復術師は不要だと考えて切り捨てることにしたのだ。 「ポーションの下位互換」とまで罵られて気落ちしていたヨシュアだったが、ブラックな労働をしいるあのパーティーから解放されて喜んでいる自分に気づく。 危機から救った辺境の地方領主の娘との出会いをきっかけに、彼の世界はどんどん広がっていく……。 一方、Sランク冒険者パーティーはクエストの未達成でどんどんランクを落としていく。 彼らは知らなかったのだ、ヨシュアが彼らの傷だけでなく、状態異常や武器の破損など、なんでも『回復』していたことを……。

収納魔法を極めた魔術師ですが、勇者パーティを追放されました。ところで俺の追放理由って “どれ” ですか?

木塚麻弥
ファンタジー
収納魔法を活かして勇者パーティーの荷物持ちをしていたケイトはある日、パーティーを追放されてしまった。 追放される理由はよく分からなかった。 彼はパーティーを追放されても文句の言えない理由を無数に抱えていたからだ。 結局どれが本当の追放理由なのかはよく分からなかったが、勇者から追放すると強く言われたのでケイトはそれに従う。 しかし彼は、追放されてもなお仲間たちのことが好きだった。 たった四人で強大な魔王軍に立ち向かおうとするかつての仲間たち。 ケイトは彼らを失いたくなかった。 勇者たちとまた一緒に食事がしたかった。 しばらくひとりで悩んでいたケイトは気づいてしまう。 「追放されたってことは、俺の行動を制限する奴もいないってことだよな?」 これは収納魔法しか使えない魔術師が、仲間のために陰で奮闘する物語。

処理中です...