無職だと売られて大森林。パンダに笹をやり最強の村ってやつを作るとしようか

うみ

文字の大きさ
27 / 30

27.どろどろの王国派閥

しおりを挟む
 アイテムボックスから出したカルミアの家でテーブルを囲み、大和が持ってきてくれた情報の再確認を行っている。
 その際に彼から飲み物や食べ物を頂いた。
 
「コーヒーまであるのか。うめえ」
「に、苦いです……」
「森エルフ界にはコーヒーがねえのかな?」
「九段様は森エルフの言葉も解するのですね! ご学友の方も!」
『パンダは笹が食べたいようです』

 だああ。一気に喋ると何が何やらになってよくわからんくなってくるな。
 とりあえず、結界を張ってガソリン切れのパンダに笹をやることにした。
 一応補足しておくと、最初にコーヒーうめえと発言したのが俺だ。
 
「ちと話を整理させてくれ。基本的なところからだけど、大和と俺を召喚した張本人が宰相ガルシア一派ってことだよな」
「おう。そうだぜ。あの街はアストリアス王国の王都アストリアで、王国の中枢だったってわけだ」

 メモを見ながら俺の言葉に応じる大和である。王国の名前を記憶していないんだろうな。俺もまるで頭に入ってこないので人のことは言えない。
 噛まなかっただけでも、なかなかやるではないかと思う俺である。

「そんで、ガルシア一派が最大派閥で、その次が王とその信奉者たちだっけ。変な話だけど、王国なのに宰相が一番権力を持ってんだな」
「身分的には王の方が宰相より上だよな? 王国と言う名前だし?」
「実権力が別にあるってのはよくあることだ。まあ、宰相主導で召喚の儀式を行った。そこまではいい」
「ええっと。待て、メモを」

 俺たちに水晶を触らせてきたのがアブラーンという名前で、大和曰くかなりのやり手だそうだ。
 宰相の懐刀といったところ。
 宰相派が王派をも取り込み、一枚岩に見える王国もそうではない。
 女騎士が所属するどの派閥にも組みせず、政治的には完全中立を掲げる騎士団長派とか、宰相派の追い落としを行おうとする伯爵派? だっけか。
 他にも第三グループと呼ばれる商人との繋がりが深いダブランダー一派とか、いろんな派閥が存在する。
 
「要点を絞ろう。召喚を行ったのも召喚の儀式が何たるかを知るのも宰相派。ここは認識の相違がないよな?」
「おう。召喚者はそれなりにありがたがられている? うまくいえねえな。ステータス? になるっていうのか」
「うん。大和の元に毎夜のように美女がやって来るってところから、召喚者を取り込もうと各派閥が頑張っているのが分かった」
「あれ、言ったっけ?」
「いろんな派閥のことを聞いた、美女が来るという事実から容易に推測できる。その裏にあるのは、召喚者そのものと召喚にかかる費用の二つがあるんじゃないか」
「そうなのか?」

 あれ、予想が全然違ったのか……。
 合点がいってない様子の大和に不安になってきた。

「宰相らの思惑は分からん。自分の権力を誇示するためなのか、召喚者の力を借りて成さねばならないことがあったのか、何か聞いているか?」
「んー。宰相派のことは間接的にしか聞けてねえんだよ。その辺探った方がいいか?」
「できるのなら……だが、今の王国は相当乱れているんだよな」
「まあ、な。宰相派に対する伯爵派とダブランダー一派の抗議活動が過激になってきている。治安維持に騎士団まで出動している始末だぜ」
「その理由が『俺』だったんだよな」
「そう聞いている。彼らは召喚の失敗を秘密裡に葬り去ったと騒ぎ立てている」
「それだよ。そこで騒ぎ立てるのだったら、召喚に莫大な費用がかかってんじゃないかってさ」
「そうか!」

 どんと机に拳を打ち付けハッとなる大和に対し、こちらはホッとする。
 よかった、彼と考えがズレてなくて。
 
「大和。この先、どうしたい?」
「どうって。帰る手段を探るんだよな? ええっと。宰相派を調べるのがいいんだっけか」
「俺も同意見だ。この際、俺を攫い、森エルフの村へ売り払った一派のことは捨て置く」
「売り払った一派とは、市ヶ谷殿、それはどういった意味なのですか?」

 大和と俺の会話に女騎士ロザリオが口を挟む。
 彼女とカルミア、パンダはそれぞれ言語が異なり、言葉が通じない。
 しかし、俺と大和の言葉は全員に伝わるのだ。他の三人の言葉も俺と大和には日本語で伝わる。
 これが言語能力の力なのだ。
 こっそり日本語で大和と会話したり、なんてことはできないけど、便利な能力である。
 
「ロザリオさんは召喚の儀式とか召喚者について、どのように聞いてますか?」
「宮廷魔術師が相当な時間をかけ、魔力を注ぎ込み、召喚の儀式が執り行われると聞いております」
「召喚者についても教えていただけますか?」
「もちろんです。召喚者とは異界から招かれし英雄と聞いております。この世の物とは思えぬ素晴らしい力を秘めていると。ここにおられる九段様や貴殿のように」
「俺は失敗召喚者だったということなのでしょうか?」
「分かりません。失敗など青天の霹靂です。召喚者とは異界から呼ばれるのです。無事、王国に降り立つお方が凡庸であるはずがありません」

 ロザリオは武闘派の騎士団長派だっけか。彼女の召喚者に対する認識が騎士団の認識と同じと見ていいだろう。
 何しろ大和の世話役となるくらいだ。騎士団長派の中でも召喚者に対する造詣が深いはず。そんな彼女の認識が今聞いた通りである。
 
「ロザリオさん、貴重なご意見ありがとうございます」
「いえ。ですので、私には何が何やら想像もつかないのです」
「俺と大和が召喚された際、ぞろぞろに人がやってきたんです。その全てが宰相派だったとは限らないと見てます」
「はい。その場に騎士団の者も控えておりました。宰相派以外の者、または他の派閥に情報を伝える者がいるやもしれません」
「そこで俺の『無職』という情報が伝わった。無職となれば、何も知らぬ者からすれば『使えない』と喧伝することができる……と考えた」
「喧伝……適当にでっち上げたわけじゃなかったのですか!」
「俺の考えですが――」

 そう前置きして、自分の予想をロザリオに説明し始めた。
 正直なところ、無職であっても言語能力とアイテムボックスがあるだけで役には立つ。大車輪の活躍とまではいかないにしてもね。
 宰相派としては、莫大な資金を投入して召喚したわけなのだから、少しでも回収しなきゃいけないと考える方が自然だ。
 懐柔し、できぬなら無理やりにでもアイテムボックスを使わせるとか、いろいろ手はある。
 調べれば俺のアイテムボックスが規格外だってすぐに分かるだろうし、ね。
 そうなりゃ、いろいろ便利に使うことができるぞ。商売をすれば莫大な資金を回収することだって夢ではない。
 でも、現実は違った。
 寝ている間に攫われ、売り払われたのだ。
 下手人が宰相派の可能性が極めて低い。彼らは俺がいなくなると困るからね。そら、アブラーンがガッカリした態度を取ることは頷ける。
 水晶玉の判定によると、召喚特典という最低限の能力は持っていたが、プラスアルファが一つもないように見えたからな。
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

おっさん武闘家、幼女の教え子達と十年後に再会、実はそれぞれ炎・氷・雷の精霊の王女だった彼女達に言い寄られつつ世界を救い英雄になってしまう

お餅ミトコンドリア
ファンタジー
 パーチ、三十五歳。五歳の時から三十年間修行してきた武闘家。  だが、全くの無名。  彼は、とある村で武闘家の道場を経営しており、〝拳を使った戦い方〟を弟子たちに教えている。  若い時には「冒険者になって、有名になるんだ!」などと大きな夢を持っていたものだが、自分の道場に来る若者たちが全員〝天才〟で、自分との才能の差を感じて、もう諦めてしまった。  弟子たちとの、のんびりとした穏やかな日々。  独身の彼は、そんな彼ら彼女らのことを〝家族〟のように感じており、「こんな毎日も悪くない」と思っていた。  が、ある日。 「お久しぶりです、師匠!」  絶世の美少女が家を訪れた。  彼女は、十年前に、他の二人の幼い少女と一緒に山の中で獣(とパーチは思い込んでいるが、実はモンスター)に襲われていたところをパーチが助けて、その場で数時間ほど稽古をつけて、自分たちだけで戦える力をつけさせた、という女の子だった。 「私は今、アイスブラット王国の〝守護精霊〟をやっていまして」  精霊を自称する彼女は、「ちょ、ちょっと待ってくれ」と混乱するパーチに構わず、ニッコリ笑いながら畳み掛ける。 「そこで師匠には、私たちと一緒に〝魔王〟を倒して欲しいんです!」  これは、〝弟子たちがあっと言う間に強くなるのは、師匠である自分の特殊な力ゆえ〟であることに気付かず、〝実は最強の実力を持っている〟ことにも全く気付いていない男が、〝実は精霊だった美少女たち〟と再会し、言い寄られ、弟子たちに愛され、弟子以外の者たちからも尊敬され、世界を救って英雄になってしまう物語。 (※第18回ファンタジー小説大賞に参加しています。 もし宜しければ【お気に入り登録】で応援して頂けましたら嬉しいです! 何卒宜しくお願いいたします!)

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

三歳で婚約破棄された貧乏伯爵家の三男坊そのショックで現世の記憶が蘇る

マメシバ
ファンタジー
貧乏伯爵家の三男坊のアラン令息 三歳で婚約破棄され そのショックで前世の記憶が蘇る 前世でも貧乏だったのなんの問題なし なによりも魔法の世界 ワクワクが止まらない三歳児の 波瀾万丈

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

『異世界庭付き一戸建て』を相続した仲良し兄妹は今までの不幸にサヨナラしてスローライフを満喫できる、はず?

釈 余白(しやく)
ファンタジー
 毒親の父が不慮の事故で死亡したことで最後の肉親を失い、残された高校生の小村雷人(こむら らいと)と小学生の真琴(まこと)の兄妹が聞かされたのは、父が家を担保に金を借りていたという絶望の事実だった。慣れ親しんだ自宅から早々の退去が必要となった二人は家の中で金目の物を探す。  その結果見つかったのは、僅かな現金に空の預金通帳といくつかの宝飾品、そして家の権利書と見知らぬ文字で書かれた書類くらいだった。謎の書類には祖父のサインが記されていたが内容は読めず、頼みの綱は挟まれていた弁護士の名刺だけだ。  最後の希望とも言える名刺の電話番号へ連絡した二人は、やってきた弁護士から契約書の内容を聞かされ唖然とする。それは祖父が遺産として残した『異世界トラス』にある土地と建物を孫へ渡すというものだった。もちろん現地へ行かなければ遺産は受け取れないが。兄妹には他に頼れるものがなく、思い切って異世界へと赴き新生活をスタートさせるのだった。 連載時、HOT 1位ありがとうございました! その他、多数投稿しています。 こちらもよろしくお願いします! https://www.alphapolis.co.jp/author/detail/398438394

少し冷めた村人少年の冒険記

mizuno sei
ファンタジー
 辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。  トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。  優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

異世界に召喚されて2日目です。クズは要らないと追放され、激レアユニークスキルで危機回避したはずが、トラブル続きで泣きそうです。

もにゃむ
ファンタジー
父親に教師になる人生を強要され、父親が死ぬまで自分の望む人生を歩むことはできないと、人生を諦め淡々とした日々を送る清泉だったが、夏休みの補習中、突然4人の生徒と共に光に包まれ異世界に召喚されてしまう。 異世界召喚という非現実的な状況に、教師1年目の清泉が状況把握に努めていると、ステータスを確認したい召喚者と1人の生徒の間にトラブル発生。 ステータスではなく職業だけを鑑定することで落ち着くも、清泉と女子生徒の1人は職業がクズだから要らないと、王都追放を言い渡されてしまう。 残留組の2人の生徒にはクズな職業だと蔑みの目を向けられ、 同時に追放を言い渡された女子生徒は問題行動が多すぎて退学させるための監視対象で、 追加で追放を言い渡された男子生徒は言動に違和感ありまくりで、 清泉は1人で自由に生きるために、問題児たちからさっさと離れたいと思うのだが……

才がないと伯爵家を追放された僕は、神様からのお詫びチートで、異世界のんびりスローライフ!!

にのまえ
ファンタジー
剣や魔法に才能がないカストール伯爵家の次男、ノエール・カストールは家族から追放され、辺境の別荘へ送られることになる。しかしノエールは追放を喜ぶ、それは彼に異世界の神様から、お詫びにとして貰ったチートスキルがあるから。 そう、ノエールは転生者だったのだ。 そのスキルを駆使して、彼の異世界のんびりスローライフが始まる。

処理中です...