古代兵器の少女チハルはおっさんに拾われ、人間のフリをする

うみ

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27.異変発生?

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 昼からはソルとスレイプニルを厩舎に預けた後、情報収集に当たる。しかし、この日はハッキリとした情報を聞くことができなかった。
 唯一得た有意な情報は、一日ごとに値上がりしていた魔石の値段が昨日と変わらなかったことくらいだろうか。
 しかし、二日目になるとポツポツとオアシスの噂を聞くことができるようになる。
 
 夕方になり、宿に一旦戻ると店主が嬉しさを抑えられないといった様子だったので、イブロが彼に何があったのか尋ねてみると……。

「湖の温度上昇が無くなって、魔石の値段が暴落しているんですよ。ざまあみろですよね」

 とニコニコと嬉しそうに語ったのだった。
 どうやら、砂時計が温度上昇の原因であったことは確定みたいだなとイブロは確信する。しかし……どこにでも商魂逞しいと言うか、足元を見るというか……売れるのをいいことに値段を吊り上げる輩はいるんだな……。
 いや、商人だって生きていくために物を売らないといけない。魔石が売れるという話を聞きつけて過酷な砂漠を超えて運んでくるのだから、多少は値段を上げてもいいとイブロは思う。
 だが、宿の店主にまで恨みを買うようなやり方は頂けないな……。
 
「店主、魔石を売っている商人は一人なのか?」
「いえ、そうではありませんが。七割ほどの魔石は一つの商会が担っています。大量に外から運んできてくれるのはありがたいんですが……」
「なるほどな。教えてくれて感謝する」
「いえ。こちらこそいらぬ愚痴に付き合っていただきありがとうございます」

 ともあれ、これにて水温上昇騒ぎは収まるだろう。
 イブロはチハルと相談し、明日イスハハンを出ることを決める。アクセルもまた、明日にイブロらと別れ「砂漠の華」を作りに行くことになったのだった。
 
 しかし、翌朝、事態は急展開を見せる。
 
 ◆◆◆
 
 イブロ達が宿の食堂で朝食を食べていると、気落ちした店主の姿が目に入った。

「どうしたんだ?」

 イブロが店主を呼び止めると、彼は「はあ」とため息をつき口を開く。
 
「また水温上昇が始まったというんですよ。せっかく一度は止まったというのに……」
「そうか、情報感謝する」

 イブロは元気付けるように店主の肩をポンと叩き、チハルとアクセルへ目をやる。

「部屋で話そう。人には聞かれたくない」
「うん」
「わかったぜ」

 朝食を食べ終わった後、三人は宿泊している部屋へと向かう。
 
 扉を閉じ、ベッドに腰かけるイブロは渋面を浮かべ腕を組む。

「チハル、砂時計の様子はここからでも分かるか?」
「ううん、見てみないと」

 チハルは首を左右に振り、イブロの真似をして腕を組んだ。
 彼女には似合ってないなあとイブロはクスリと笑みを浮かべるが、すぐにしかめっ面に戻った。

「何者かが、砂時計を再びひっくり返したに違いない」
「え? でも、あの穴はチハルじゃないとじゃないのか!?」
「いや……」

 イブロは砂時計のあった大広間の様子を思い返す。確か、小動物に倒されないようにとチハルは蝋で小さな砂時計を固めていたんだ。
 そこでしっかりと調べておくべきだった。コウモリが大広間で羽を休めていた。コウモリは洞窟の中だけで生活できるような動物ではない。彼らは餌を取りに洞窟の外へ必ず出る。
 つまり、大広間から外へ繋がる道があるってことなのだ。
 
「どうしたの? イブロ」

 腕を組んだまま、表情までイブロの真似をしたチハルが問いかける。

「俺たちが入ってきた穴以外にもあの大広間に繋がる道があるはずだ」
「ええええ!」

 イブロの言葉にアクセルが大きな声を出して驚きを露わにした。
 
「たぶん、遺跡には見張りがいると思う。危険だが……」
「わたしは行きたい。イブロ」
「俺もだぜ!」

 そう言うと思った。イブロは顎に手をやりやれやれと首を回す。
 どんな輩なのか分からないが、そいつらにとって温度上昇が止まることは不都合なのだ。イブロやイスハハンの住民にとってはその逆。必ずまた砂時計をひっくり返しに来ると考えるのが自然だろう。
 だったら、ノコノコとやって来た者を抑え込んでしまおうとなるはず。
 
「仕方ない。三人で行くか……」

 イブロが観念したようにそう言うと、二人は満面の笑みを浮かべて頷きを返したのだった。
 
 ◆◆◆
 
 すぐに必要な道具を見繕って準備を終えたイブロ達は再び遺跡に向かう。チハルの力で大広間まで落下し、穴の中から外を伺うイブロ。
 砂時計の周囲には誰もいないか……先に穴から外に出たイブロが周囲を伺うが人影は見えない。砂時計の様子はどうだろうか。砂は流れ続けており、一見したところ何事も起こっていないように思えるが……彼は後ろを向かずにチハルらを手招きする。
 
「誰もいねえな」

 アクセルが呟き、きょろきょろと左右を見渡した。
 砂時計の様子はどうだ? イブロはチハルが蝋で固めた小さな砂時計の前にしゃがむとすぐに動かされた後があることが分かる。何者かが小さな砂時計をひっくり返したんだな……。

「チハル、これはやはり」
「うん、逆向きになってるよ。イブロ」

 砂時計へ触れた者は近くにいるのか、それとも……。このまま穴の中で待ち構えるべきか、それとも別の道を探すか……どちらにするか一瞬迷うイブロだったが、彼はすぐに結論を出す。
 穴の中で待ち構えたとして、飛び道具を持たないし奇襲できるとしてもイブロ一人だ。それなら、様子を伺うより別の道を発見しそれがどこに繋がるのか見定める。
 誰でも入ってこれるような道だろうから、これを街の人に報告し後は彼らに任せるのが一番だろう。こちらに危険もないしな……。
 もちろん、チハルが開いた穴のことは秘匿する。
 
「今の内に道を探そう」
「イブロ、それなら任せて」
 
 チハルが手をピシっとあげ、その場でぴょんぴょん跳ねる。
 アクセルの真似だろうか……イブロは自分の真似をされるより余程こちらの方がいいと感じたのだった。

――チハルが両手を開き頭上に真っ直ぐと腕を伸ばす。彼女は目を瞑り、何かを探っているようだ。

「探知開始。微風感知。方向……特定完了」

 無機質なチハルの声が大広間に響く。

「どうだ? チハル?」
 
 イブロが問いかけると、チハルに表情が戻りてくてくと数歩前に歩く指を指した。
 
「あそこ」
「あ、あれは無理だな……」

 大広間の天井付近にぽっかりと空いた穴が確認できる。大きさは人の頭二つ分くらいで子供でも通るには厳しいサイズだ。
 何より、あれほど高い位置に登るのは足掛かりがないこの壁では難しい。
 
「チハル、他にもありそうか?」
「うん、あそこ」

 次にチハルが指し示した場所は、床から手が届く位置にあった。
 近くによって隙間を確認すると、イブロの頭の上あたりの高さに横一メートルくらいの穴が確認できる。しかし、上腕部くらいの縦幅しかないためここから中へ進むことはできないだろう。

「おっちゃん、これって」
「そうだな。これは」

 イブロは腰のダマスク鋼の棒を引き抜き「伸びろ」と念じる。身の丈ほどのサイズになったダマスク鋼の棒を両手で構えたイブロは、大きく振りかぶって隙間の下を勢いよく叩いた。

「お!」

 アクセルが喜色をあげる。
 叩かれた壁はあっさりと崩れ去り、イブロが更に二度ほど叩くと隙間は人が通ることができるくらいの穴となる。
 隙間に見えた場所は、誰かが簡易的に岩で塞いでいただけに過ぎなかったのだ。小石を積み上げて壁を偽装していたのだろう。一目見れば分かるほど雑な作りではあったが……。
 
「よし、進もう」

 イブロが先頭に立ち、穴の中へと進む。
 中は曲がりくねった道になっていて、大広間と違い真っ暗闇の空間だった。このことから、この道から先は古代遺跡ではないとイブロは気が付く。
 一時間もたたないうちに、彼らは人の手が入った空間にたどり着くのだった。
 
「ここは、坑道か?」

 魔石で光るランタンで照らしながら、イブロが呟く。
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