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第1話 目が覚めたらジャングルにいた
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*じゃんぐるのなかにいる*
余りの非現実的な状況に一周回ってそんな言葉が頭に浮かんでしまう。
俺こと日野良介は、自室のベッドでお気に入りの歌を聞きながら就寝したはずなんだ。それが目を開くと飛び込んできたのは緑、緑、太陽の光だったんだから、混乱するのも分かるだろう?
頭の後ろにあるのは使い慣れた枕ではなく、土と草の感触が広がり鼻孔を青臭い匂いがくすぐってきている。
このまま寝ていても仕方ないな……。
俺は立ち上がり、周囲を見渡してみた。
「何だ……この熱帯雨林……」
分厚い幹に背の高い木が何本も生い茂り、木にはツタやシダが絡んでいる。地面は大量の葉っぱや足首あたりまである雑草が密集していた。
その場で足をあげて踏みしめると、柔らかい地面が沈み込み「おお、腐葉土か」とか呑気なことが思い浮かんでしまう。
「は、ははは……あー、明日の仕事は有給かな……」
キラキラ光る太陽が薄っすらと差し込み、柔らかに目を刺激する。
しかし、俺は乾いた笑い声しか出てこない。
だってそうだろう。目が覚めたらジャングルにいましたとか、現実に起きたら驚愕や恐怖も全て麻痺してしまう。
こういった状況……記憶にないわけではない。
ああ、もちろん物語の中だけの話だけどな。たしか見知らぬ異世界に突如転移した主人公はこう叫ぶんだ。
「ステータスオープン!」
言った後に思わず左右を見渡して誰もいないことを確認してしまった。これ、誰かに聞かれたら恥ずかし過ぎて二日ほど悶える自信があるぞ!
思わず頭へ手を持ってこようとした時に違和感を感じる。
というのは、俺の右手に何かが乗っていたからだ。
何だろうこれ、横長の長方形で俺の両手を合わせたくらいの大きさがある薄い板……これってタブレット?
しかし、画面は真っ暗で何も映っていない。
突如始まった不可思議現象にほんの少しだけ警戒したが、このタブレットが今の状況を打破するものなのだろうと根拠こそなかったが俺はそう確信する。
タブレットならどこかに電源があるはずだけど……俺は右手でタブレットを持ったまま、左手でどこかに電源スイッチが無いか探ろうとしたんだが……
手をかざしただけでタブレットが起動し画面が明るくなった!
もはやいちいち「何で何で?」と驚いていても仕方ないと思った俺は、何事も無かったかのようにタブレットを覗き込む。
画面には真っ青のブルースクリーンに一つだけアプリが入っているようだった。
ええっと……『ブロック作成アプリ』って書いてるな。
操作方法はまるで分らないけど、普通のタブレットと同じような感覚でダブルタッチしてみるとアプリが起動する。
『何も映っていません』
真っ暗な画面に一言そんなメッセージだけが書かれていた。
どこかにヘルプが書いてあるのかなと一度アプリを終了させようと思ったが、カメラマークが右隅の方に描かれているのに気が付く。
お、これにタッチすればいいのかなあ。
タッチするとカメラモードに切り替わったみたいで、俺の手のひらが画面に映し出される。
タブレットをひっくり返すと、カメラのレンズが裏側についていることが確認できた。
とりあえず何か映してみるか……。
俺は目の前にある木にタブレットを向け、画面に目をやる。
『ブロック化したいオブジェクトを選んでください』
なるほど。カメラで映した木や岩をブロックにして遊ぶゲームなのかなあ。
試しに画面の中の木にタッチすると、メッセージが出てくる。
『ブロック 五にしますか? はい/いいえ』
ここでゲームをしてもなあと思いながらも、「はい」を選ぶと、画面の木がキューブ型のブロック五個に変わる。
『位置を決めてください』
指でブロックの一つに触れてつつつーっとスライドさせると、俺の指の動きに合わせてブロックが動く。
うん、こういった操作はゲームでよく見る感じだな。たぶん指を離してタップすると決定なんだろう。
俺が思った通り、指を離すと「この位置でいいか」と聞いて来たので決定をタッチする。
五個全ての位置を決定すると、大きな音が響き渡りバサーと大量に何かが降ってきた!
――ドスン! 足先に何かが落ちる鈍い音も鳴り響く……。
「え。えええええ!」
余りの音と風圧にタブレットから目を離した俺へ飛び込んできた光景へ目を見開く。
な、なんと、先ほどまであった木が一辺一メートル弱ほどのキューブに変わっていたのだ。
先ほどタブレットの画面で見たのと同じように五個のキューブが縦に積み上げられている。
その上から大量の葉っぱが降り積もり、所々に果実らしきものが散乱していた。高いところから落ちたみたいで、果実の中には割れているものもあり、赤い実が見えていた。
さっきの大きな音って……俺が足元に目をやると……割れた赤い果実が転がっていて、中の溢れんばかりの果汁が地面に吸い込まれつつあった。
あ、危ねえ。こ、これが頭に当たっていたら大けがをしていたかもしれない……。
俺は転がる果実を見つめて背中がヒヤリとした。
しっかし、この果実……どう見ても……。
しゃがみこんでつぶさに果実を観察してみると、丸い玉が真っ二つに割れて、外側は地の色が緑で縦にギザギザした黒い線が入っていた。中は鮮やかな赤色でみずみずしい果汁が溢れてきている。
これって、スイカだよな。
俺が思わず頭上を仰ぎ見ると、スイカが木の枝からぶら下がっているのが見て取れた。
ス、スイカが木に成るなんて……さらに荒唐無稽なタブレット……ここって地球じゃないよな……。
ならどうして俺はこんなところへ来てしまったんだ? 疑問は尽きないけど、見知らぬジャングルへ突如転移してしまったことは事実だ。
俺は気持ちを落ち着けようと大きく深呼吸を繰り返す。
非常事態にこそ冷静にならないと……思考力を捨てるな! 状況を整理しろ! 俺は自身を鼓舞するように何度も同じ言葉を心の中で繰り返した。
「ふう、大丈夫。大丈夫なはずだ」
自分の胸に手を当てて目をつぶる。
今どこにいるのかまるで不明。目の前にはジャングルが広がり、謎のブロック作成アプリ機能を持ったタブレットが俺の手にある。
分かることはこれだけ……。
最も楽観的に事が進むとすれば、ここで寝たら元の日常へ戻るってことだけど、俺はそこまで安易に考えることはできない。
ひょっとしたら数日ここですごせば戻れるかもしれないけど、当面このジャングルでサバイバルする覚悟を持つべきだよな。
ジャングルに危険極まりないヒョウのような猛獣が棲息している危険性とかはあるけど、まず人間が生き残るためには衣食住がしっかりしていないといけない。
服はまあ、今着ているジャージの上下とスニーカーでいいとして……食べ物だよな。特に水! 水が無ければ人間すぐに参ってしまう。
しかもここはジャングルだけに、じっとしていても汗ばむくらい気温が高いんだ。放っておいたらすぐに脱水症状で動けなくなってしまうことは明白だ。
水……水かあ……。
俺は足元に転がっているスイカに目を向ける。
うん、スイカが大量に自生しているから急を凌ぐにこれを食べればよいか。未知の食べ物を口にする危険性は十分認識しているけど、この状況ではいずれ何か食べないといけないからな……。
遅いか早いかの違いに過ぎない。
「そうはいっても、水場は探さないとなあ……」
つい口をついて愚痴が出てしまったけど、きっと遠くないところに湧き水とか小川はあるに違いないと俺は確信している。
だって、これほどのジャングルが成り立つためには大量の水が必要だからな。ジャングルのある熱帯雨林って漢字の通り、雨の林なんだぜ。
「タブレットを持っていたら手が塞がるな……」
俺が右手に持つタブレットに目を落とすと、音も立てずにタブレットが霞のように消え去ってしまった!
ちょ、ちょっと待て。タブレットがあると無いじゃ生存難易度が大きく変わってくる。
さっきは自然に出たんだ。タブレット……。
なんて考えていると、再びタブレットが手のひらの上に出現したのだった。
なるほど……俺が出て欲しいと考えれば出てくるのか。これは便利だぞ。落とすこともないし、荷物にもならない。
「じゃあ、水場を求めて歩くとするか!」
俺は自身を鼓舞するために、ことさら明るい声で一歩踏み出す。
余りの非現実的な状況に一周回ってそんな言葉が頭に浮かんでしまう。
俺こと日野良介は、自室のベッドでお気に入りの歌を聞きながら就寝したはずなんだ。それが目を開くと飛び込んできたのは緑、緑、太陽の光だったんだから、混乱するのも分かるだろう?
頭の後ろにあるのは使い慣れた枕ではなく、土と草の感触が広がり鼻孔を青臭い匂いがくすぐってきている。
このまま寝ていても仕方ないな……。
俺は立ち上がり、周囲を見渡してみた。
「何だ……この熱帯雨林……」
分厚い幹に背の高い木が何本も生い茂り、木にはツタやシダが絡んでいる。地面は大量の葉っぱや足首あたりまである雑草が密集していた。
その場で足をあげて踏みしめると、柔らかい地面が沈み込み「おお、腐葉土か」とか呑気なことが思い浮かんでしまう。
「は、ははは……あー、明日の仕事は有給かな……」
キラキラ光る太陽が薄っすらと差し込み、柔らかに目を刺激する。
しかし、俺は乾いた笑い声しか出てこない。
だってそうだろう。目が覚めたらジャングルにいましたとか、現実に起きたら驚愕や恐怖も全て麻痺してしまう。
こういった状況……記憶にないわけではない。
ああ、もちろん物語の中だけの話だけどな。たしか見知らぬ異世界に突如転移した主人公はこう叫ぶんだ。
「ステータスオープン!」
言った後に思わず左右を見渡して誰もいないことを確認してしまった。これ、誰かに聞かれたら恥ずかし過ぎて二日ほど悶える自信があるぞ!
思わず頭へ手を持ってこようとした時に違和感を感じる。
というのは、俺の右手に何かが乗っていたからだ。
何だろうこれ、横長の長方形で俺の両手を合わせたくらいの大きさがある薄い板……これってタブレット?
しかし、画面は真っ暗で何も映っていない。
突如始まった不可思議現象にほんの少しだけ警戒したが、このタブレットが今の状況を打破するものなのだろうと根拠こそなかったが俺はそう確信する。
タブレットならどこかに電源があるはずだけど……俺は右手でタブレットを持ったまま、左手でどこかに電源スイッチが無いか探ろうとしたんだが……
手をかざしただけでタブレットが起動し画面が明るくなった!
もはやいちいち「何で何で?」と驚いていても仕方ないと思った俺は、何事も無かったかのようにタブレットを覗き込む。
画面には真っ青のブルースクリーンに一つだけアプリが入っているようだった。
ええっと……『ブロック作成アプリ』って書いてるな。
操作方法はまるで分らないけど、普通のタブレットと同じような感覚でダブルタッチしてみるとアプリが起動する。
『何も映っていません』
真っ暗な画面に一言そんなメッセージだけが書かれていた。
どこかにヘルプが書いてあるのかなと一度アプリを終了させようと思ったが、カメラマークが右隅の方に描かれているのに気が付く。
お、これにタッチすればいいのかなあ。
タッチするとカメラモードに切り替わったみたいで、俺の手のひらが画面に映し出される。
タブレットをひっくり返すと、カメラのレンズが裏側についていることが確認できた。
とりあえず何か映してみるか……。
俺は目の前にある木にタブレットを向け、画面に目をやる。
『ブロック化したいオブジェクトを選んでください』
なるほど。カメラで映した木や岩をブロックにして遊ぶゲームなのかなあ。
試しに画面の中の木にタッチすると、メッセージが出てくる。
『ブロック 五にしますか? はい/いいえ』
ここでゲームをしてもなあと思いながらも、「はい」を選ぶと、画面の木がキューブ型のブロック五個に変わる。
『位置を決めてください』
指でブロックの一つに触れてつつつーっとスライドさせると、俺の指の動きに合わせてブロックが動く。
うん、こういった操作はゲームでよく見る感じだな。たぶん指を離してタップすると決定なんだろう。
俺が思った通り、指を離すと「この位置でいいか」と聞いて来たので決定をタッチする。
五個全ての位置を決定すると、大きな音が響き渡りバサーと大量に何かが降ってきた!
――ドスン! 足先に何かが落ちる鈍い音も鳴り響く……。
「え。えええええ!」
余りの音と風圧にタブレットから目を離した俺へ飛び込んできた光景へ目を見開く。
な、なんと、先ほどまであった木が一辺一メートル弱ほどのキューブに変わっていたのだ。
先ほどタブレットの画面で見たのと同じように五個のキューブが縦に積み上げられている。
その上から大量の葉っぱが降り積もり、所々に果実らしきものが散乱していた。高いところから落ちたみたいで、果実の中には割れているものもあり、赤い実が見えていた。
さっきの大きな音って……俺が足元に目をやると……割れた赤い果実が転がっていて、中の溢れんばかりの果汁が地面に吸い込まれつつあった。
あ、危ねえ。こ、これが頭に当たっていたら大けがをしていたかもしれない……。
俺は転がる果実を見つめて背中がヒヤリとした。
しっかし、この果実……どう見ても……。
しゃがみこんでつぶさに果実を観察してみると、丸い玉が真っ二つに割れて、外側は地の色が緑で縦にギザギザした黒い線が入っていた。中は鮮やかな赤色でみずみずしい果汁が溢れてきている。
これって、スイカだよな。
俺が思わず頭上を仰ぎ見ると、スイカが木の枝からぶら下がっているのが見て取れた。
ス、スイカが木に成るなんて……さらに荒唐無稽なタブレット……ここって地球じゃないよな……。
ならどうして俺はこんなところへ来てしまったんだ? 疑問は尽きないけど、見知らぬジャングルへ突如転移してしまったことは事実だ。
俺は気持ちを落ち着けようと大きく深呼吸を繰り返す。
非常事態にこそ冷静にならないと……思考力を捨てるな! 状況を整理しろ! 俺は自身を鼓舞するように何度も同じ言葉を心の中で繰り返した。
「ふう、大丈夫。大丈夫なはずだ」
自分の胸に手を当てて目をつぶる。
今どこにいるのかまるで不明。目の前にはジャングルが広がり、謎のブロック作成アプリ機能を持ったタブレットが俺の手にある。
分かることはこれだけ……。
最も楽観的に事が進むとすれば、ここで寝たら元の日常へ戻るってことだけど、俺はそこまで安易に考えることはできない。
ひょっとしたら数日ここですごせば戻れるかもしれないけど、当面このジャングルでサバイバルする覚悟を持つべきだよな。
ジャングルに危険極まりないヒョウのような猛獣が棲息している危険性とかはあるけど、まず人間が生き残るためには衣食住がしっかりしていないといけない。
服はまあ、今着ているジャージの上下とスニーカーでいいとして……食べ物だよな。特に水! 水が無ければ人間すぐに参ってしまう。
しかもここはジャングルだけに、じっとしていても汗ばむくらい気温が高いんだ。放っておいたらすぐに脱水症状で動けなくなってしまうことは明白だ。
水……水かあ……。
俺は足元に転がっているスイカに目を向ける。
うん、スイカが大量に自生しているから急を凌ぐにこれを食べればよいか。未知の食べ物を口にする危険性は十分認識しているけど、この状況ではいずれ何か食べないといけないからな……。
遅いか早いかの違いに過ぎない。
「そうはいっても、水場は探さないとなあ……」
つい口をついて愚痴が出てしまったけど、きっと遠くないところに湧き水とか小川はあるに違いないと俺は確信している。
だって、これほどのジャングルが成り立つためには大量の水が必要だからな。ジャングルのある熱帯雨林って漢字の通り、雨の林なんだぜ。
「タブレットを持っていたら手が塞がるな……」
俺が右手に持つタブレットに目を落とすと、音も立てずにタブレットが霞のように消え去ってしまった!
ちょ、ちょっと待て。タブレットがあると無いじゃ生存難易度が大きく変わってくる。
さっきは自然に出たんだ。タブレット……。
なんて考えていると、再びタブレットが手のひらの上に出現したのだった。
なるほど……俺が出て欲しいと考えれば出てくるのか。これは便利だぞ。落とすこともないし、荷物にもならない。
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