目が覚めたら誰もいねええ!?残された第四王子の俺は処刑エンドをひっくり返し、内政無双で成り上がる。戻って来てももう遅いよ?

うみ

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1.目覚めたら一人

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『イル・モーロ・スフォルツァ。喜べ、一番の愚息であるお前が今日から王になるのだ』

 玉座の上にぽつんと置かれた羊皮紙に書かれた文面に向け、こめかみがピクピクする。
 あいつめ。逃げやがったな!
 王族らしくない見た目だからと、事あるごとに俺を隣国への使いとして遠ざけていた父が、今日になって忽然と姿を消していた。
 父だけでなく母も三人の兄も弟さえもおらず、もぬけの殻になっていたのだ。
 一体何が起こったんだと王の間まで来てみたら、この手紙だ。
 無駄に達筆なのが更に俺の心をささくれ立たせる。
 
 まだ政務が残っていたというのに急に本国へ呼び寄せたのは、自分達が脱出するためだったのか。
 鮮やか過ぎて言葉も出ない。俺は昨晩帰ってきたばかりなんだぞ。
 眠気眼を擦り、いつものように朝食を取りにいったら誰もいない。そして、今に至る。
 
「ぐううおおお!」

 両手を頭に当て、力一杯叫ぶ。
 はあはあ。時に声を張り上げるのもよいな。ようやく気持ちが落ち着いてきた。

 一旦王宮にある自室に戻り、パタリと扉を閉める。
 執務机に設置してある簡素な椅子に腰かけ、ふううと長い息を吐く。
 いつかこんな時が来るかもしれないと思って準備はしてきたじゃないか。
 といっても、俺が「残される」のではなく、俺がどこか辺境や最前線に「送られる」という線の心構えだったが。
 あの人たち……いや、奴らとて馬鹿じゃあない。何の考えも無しに逃げるなんてことはありえないのだ。

「となると、既に詰んでいる状況かもしれない。九曜くよう!」

 パンパンと手を叩き、名を呼ぶと天井からすっと黒い影――九曜が降りてきた。
 悩んでいる暇はない。出来る限りはやく動かねば。
 黒い影は片膝を床につけ、頭を下げた姿勢で俺の言葉を待っていた。
 全身黒づくめで目元と豹のような黒い耳以外を黒い布で覆っている。音も立てずに床に着地するところからも、彼が熟練の業を備えていることが見て取れた。
 
「周辺の状況を調べてくれ」
「……中……外……?」
「街の外だ。あいつらが逃げ出したくらいだ。恐らく街の外がとんでもないことになっている可能性が高い」
「……了……」

 すっと立ち上がった黒装束は、俺より頭一つ以上高い。
 羨ましいなんて思っている間にも、彼が一息で天井裏へと消えていった。
 外は九曜に調べてもらうとして、街中も探らなきゃな。
 
「いるか? 桔梗ききょう
「ここに」

 今度は窓から室内に黒い影が入ってきた。
 九曜と同じ黒装束をまとっているが、痩身の彼と比べても更に華奢で背丈も俺より少し低い。
 ロシアンブルーのような青みがかった灰色の猫耳に同じ色の瞳をした影は桔梗ききょう
 九曜と桔梗は、父や家族に見つからないように密かに雇っている俺の手足の代わりとなって動いてくれる者達だ。
 
「市中の様子を探ってくれ。何か大きな動きがないかどうか。あと、『ネズミ』とコンタクトを取って欲しい」
「はい」

 抑揚のない声で応じた桔梗は、窓の外へ消えていった。
 二人が戻るまでの間、俺は俺で動くとしよう。
 まずはここ王宮から。次に王城だな。
 誰が残っていて、誰がいなくなっているのか把握したい。
 
 ◇◇◇
 
 王宮は王族が済むための住居なのだけど、暮らしているのは王族だけではない。
 最も奥まった場所にあるのが王と王妃の居室で、奥から順に社会的地位の高い者の部屋となっている。
 兄弟の中では王位継承権一位の長男、続いて次男……と並んでいて、俺は末っ子の五男より外側だった。
 住む場所から疎外感たっぷりなわけだが、逆に分かりやすくていいと思うまでになっているので、今更どうこう言うつもりはない。
 俺の部屋より奥は全てもぬけの殻であることは先ほど確かめた通り。

「順に気配があるか探ってみるか」

 朝食の時間に少なくとも執事・侍女と食事係のメイドは集まっているのだけど、誰もいなかった。
 彼らは王族の生活を支える重要な者達だ。あいつらが逃げ出す時、一緒に連れて出たのだろう。
 メイドはどうだ? 一部のメイドくらいは残っているかもしれない。
 メイドは貴族の令嬢である侍女や、準貴族に属する執事と異なり平民である。
 といっても執事らと同じで、日々王族の生活を支えていることは同じだ。

「大所帯になればなるほど、逃げる資金がより必要になる。あいつらは自分のこと以外に金を使うとは思えない」

 上から順に拾っていった場合、余るのはメイドになる。
 一人でも残っていたら、ここ数日のあいつらの様子を知ることができるかもしれない。
 
 メイドたちの休憩室に入ったが、誰もいない……。

「様子からして、彼女らも逃げてしまったか」

 一人呟きながら、棚の上にひっくり返して並べていたコップの一つを手に取る。
 まだ濡れているな。
 残されたメイドたちは、あいつらとは別に行動していたと見ていい。
 そらまあ、ただ事じゃないことに俺より先に気が付くよな。メイドたちは王族の食事を作る前には既に仕事を始めている。
 朝目覚めて、上司の執事やらがいないときたものだ。彼らから置手紙でもあったのかもしれない。
 きっと血相を変えて逃げ出したのだろう。
 
「一応確かめておくか」

 中庭を抜けメイドの住む一角へ続く回廊に入り突き当りを右へ曲がる。

「きゃ!」

 そこで少女の悲鳴が響き渡り、コロコロと何かが地面を転がり俺の足先に当たった。
 ジャガイモか。
 それを拾い上げ、ペタンと尻餅をつくメイド服姿のオリーブ色の長い髪をした少女へ向ける。
 え、何故彼女がここに。

「ディアナじゃないか」
「イル様! いらっしゃったのですね!」

 慌てて立ち上がったディアナは大きく少し垂れた目をぱちくりさせ、ぱあっと表情を緩ませた。

「君もてっきり逃げたものだとばかり」
「私は今朝まで何が起こっているのか全く存じ上げておりませんでした」
「てことは、今朝になって何が起こっているのか分かったってことかな?」
「はい。私はともかくイル様がここにいては危険です! 一刻も早く遠くへ」
「ただ事ではないことは分かっている。だけど、何も知らぬうちから動くのは得策ではない」

 脱出するだけなら、今すぐにでも脱出することはできる。俺は拘束されているわけでも、軟禁されているわけでもないからな。
 だけど、何も知らず王宮から脱出したとしてより酷い状況に陥る可能性だってあるんだ。
 王宮と隣接する王城は城壁に囲まれており、周囲に掘りまであるのだから。街の中より堅牢である。
 加えて、ここには数十人が三日~四日食べていけるだけの備蓄があるのだ。俺以外に残された数人だけなら、一週間以上籠城したまま暮らしていくことだってできる。
 考えを巡らせる俺に対し、ディアナはぶるぶると首を震わせ目に涙をためて俺を見上げてきた。
 
「ヴィスコンティ伯が挙兵したと聞いております!」
「あの伯爵がか」
「はい。圧政を敷き、領民を苦しめるスフォルツァ王家に天誅てんちゅうを下す、と」
「そういうことか……」

 ヴィスコンティ家は辺境を護る武家の名門だ。当代のグリアーノは義に厚い人物だという噂である。
 圧政、圧政ねえ。確かにここ数年は過酷の一言に尽きる。
 何度か見るに見かねて上奏したが、まるで受け入れてくれなかった。そればかりか、ただでさえすげなく扱われているのにより煙たがられ、一時は王城へ入ることを禁止されたほどだった。
 苦しむ農民たちが反乱を起こしたことも一度や二度じゃない。この噂は辺境のヴィスコンティ伯まで届いていた。
 彼も何らかの進言を父にしたのかもしれない。受け入れられるわけがないのだけどねえ。
 
 悪政を敷く王家を打倒し、自分こそが王になる、か。
 打倒されるべき残された王族は唯一人――。
 ――俺はあいつらから「スケープゴート」にされたのだ!

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