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88.厄介な英雄
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稽古つけてやろうって言っても……どう対処する?
「稽古は構わないが……」
「本当か! 強者の子も欲しいのだが……」
吹いた! いや、子供ってのは愛し合う男女から産まれるものですよ。そんな強い奴が種付けするライオンみたいな……あ、そんな考え方なのか。
強い奴の遺伝子を繋いでいく。ハーレムを形成する動物はその発想だな。龍もそうなの? 知的生命体なら他の要素もあると思うんだけどなあ。
「俺は人間なんだけど……子供は不可能じゃないかな?」
「どうだろうか……試してみねば分からぬ。この姿なら試せるだろう」
美女は一歩進み、俺の胸と彼女の胸が触れようかという距離にまで詰め寄って来る。こういうところがとても動物的で、俺は腰が引けるのだけど……
「人間は情緒ってものが必要なんだよ! この場でとか無いから!」
慌てて彼女から離れる俺に、彼女は不思議そうに首を傾ける。
「人間のことはよく分からぬ。そういうものなのか?」
「そういうものなんだよ。あと……いつまでも裸だと目のやり場に困る」
「我々龍は人間のように服は着ないのだが、何も我だけではあるまい。仲間の二体もそうであろう?」
た、確かにそうだけど。龍の姿で服を着ていたら逆に不気味だよ。
「と、とにかく訓練をつけるならローマに来てもらう必要がある。ローマで人型をとるなら服を着てくれ」
「修行の為ならば仕方あるまい……」
そんなに修行がしたいのかよ! ま、まあ服を着てくれるなら良しだ。修行自体は俺がやるわけでは無いし、プロコピウス(本物)がやると言ってるから良いだろう。
服を着てくれると言ってくれた美女だったが、先ほどまで意気揚々としていた顔が曇ってきている。何かあったのか?
「どうした?」
「我ら龍は離れていても互いに言葉をかわすことが出来るのだが……お前達以外の声の元へ向かった者たちから連絡が入ったのだ」
エルラインや風の精霊術みたいに、龍達も遠距離通信が可能なのか。
既に他の英雄とのコンタクトも済んでいたみたいだな……
「出来れば教えてくれないか? 他の英雄達の事を」
「一人は馬に乗った人間達の群れの中にいた。そいつが龍三匹を追い返した」
「龍三匹を……馬の群れか……」
「追い返されたとは言え、多少傷付いた程度。奴らとここはかなりの距離がある。もし近くに来ればその時は……」
「俺も一度そいつに会ってみたい。良ければ案内して欲しい」
「ふむ。お前と龍を追い返した人間との戦いか! 面白そうだ。ぜひ案内させてくれ」
「……あ、ありがとう」
何で戦うって発想しか無いんだよ!
平和的に話し合うだけだよ。いきなり攻撃を仕掛けて来る英雄なんていな……いやいるかもしれない……
「もう一人はお前達と違った意味で規格外だ。龍を恐れず、言葉を尽くし龍を迎え入れてしまった」
「そっちの方が余程厄介だぞ! 何者だよ、そいつは……」
「何やら長い名前だったな……ええと、ガイウス・ユリウス・カエサルだったか」
「何だって!」
俺の声に美女だけでなく、ずっと控えていたエルラインまで少し驚いた表情になる。
カエサルだと! 聖王国には居ないのだろうから、共和国か草原のどちらかに彼はいるのだろう。恐らく共和国。
共和国がどれ程の国力を持つか不明だが、ローマよりはさすがに大きいのは間違い無い。
ダメだ。カエサルは最悪の相手だぞ。敵対しない様に上手く立ち回らないと詰む。
「ピウス。君がそこまで警戒する相手なのかい?」
後ろで控えていたエルラインが興味深げに俺に聞いてくる。
「そうだよ。エル。考えうる限り最悪の相手だよ。勝てない。カエサルには勝てない」
「君にそこまで言わす人間か。興味深い」
エルラインはクスクスと子供っぽい笑い声をあげる。いや、カエサルは本当にしゃれにならんぞ!
至急カエサルとコンタクトを取るべきだ。彼と敵対しない様に。
「龍……何と呼べばいいんだ?」
「私か? 私ならミネルバと」
「ありがとう。ミネルバ。カエサルとは急ぎ会いたい。手伝ってくれるか?」
「お前とは契約したのだ。気にせず頼むといい。喜んで引き受けよう」
契約? あのキスか? どんな契約内容なんだろう……か、確認せねば。ただ、加護って言っていたから一方通行で俺にはデメリットが無いかもしれないけど……
しかし問答無用で契約とかどんなブラック企業だよ……
「ミネルバ、確認だけど俺達を襲う理由は無くなったと思っていいんだな?」
「ああ。そう思ってもらって構わない。ローマとやらを見れば確信出来るだろうが、我個人としてはお前の強さに惚れ込んだからな」
「……ま、まあ。理解してもらえたなら嬉しいよ」
「このまま一度ローマに行きたいのだが良いだろうか?」
「多分大丈夫だと思う。エルに頼んでパオラに連絡してもらうよ」
「ふむ。では待たせてもらおう」
俺はエルラインにパオラへ龍達の事を伝えてもらうように頼む。するとすぐに「了解」の返事が返って来た。
「そういえば、刻印とやらの件はどうする?」
「後ほど、刻印の持ち主と会わせてもらえないだろうか? 遅くなっても構わない」
「その話も後で詳しく教えて欲しい。契約の事もね」
「分かった。ローマへは我一人で行こう」
その後、ミネルバは龍の姿に戻り俺とエルラインを背に乗せローマへと飛行する。
道中契約の事を聞こうと思ったが、龍の飛行速度からしてゆっくり話す暇もないだろうと思い、俺はカエサルについて思案にふけることにしたんだ。
カエサル、カエサルか! 彼こそはローマ最大の英雄にして、地球が誇る最高峰の英雄の一人だろう。
個人戦闘能力や戦術ならベリサリウスの方が明らかに上、戦略なら若干ベリサリウスの方が上。確かに戦闘「だけ」なら、ベリサリウスの方が明らかに上回っていると俺は思う。
しかし、カエサルの凄い所は戦闘だけじゃないことだ。彼の政治、政略は超一級の能力を誇り、更には弁舌もカリスマも同水準にある。文芸の才能まであるのだから、さすが世界の有名人なだけある。
カエサルが政略を巧みに使い俺達に対して来れば、戦闘に入る前に勝敗が決まってしまうかもしれない。
戦場に至る前に、全ての人間の国を俺達へ差し向け、ベリサリウスと俺を分断し、三十倍以上の兵力で攻められたらどうだ?
ベリサリウスがずば抜けた戦術能力を持つとはいえ、カエサルだって歴史に名を残す程の戦術能力を持っている。
そんな相手にこの戦力差。万が一勝てても、次の手を既に打っているのがカエサルだ。
カエサルの事はベリサリウスにすぐ相談しよう。俺の意見は最低でも相互不干渉と彼に進言する。これは譲れない。
まあ、ベリサリウスだってローマの人間だから、過去の偉大なる英雄に理由も無く戦おうなんて言わないだろ。
もう一人の英雄は想像がつかないが、少なくともカエサルのような政治センスは持たないと思う。カエサルは龍の襲来と本来は災害が来たような状況を自分の為の政治ショーにしてしまうような人物だった。
しかし、もう一人の英雄は龍に負けない強さを持つとはいえ単に追い返しただけだ。こと戦闘能力だけに注目するならこちらにはベリサリウスがいる。
俺が想像する限り、個人戦闘能力だけならベリサリウスを凌ぐ人材はいるが、戦術能力まで含めると彼を凌ぐ人材は思い付かない。
そういう意味で危険性はカエサルに比べ遥かに落ちるだろう。だから、こっちは後回しだな。
しかし英雄とは何て厄介なんだ……
魔法も精霊術も無しに巨大な龍を追い返したり、味方につけたり……ほんと厄介だよ。
「稽古は構わないが……」
「本当か! 強者の子も欲しいのだが……」
吹いた! いや、子供ってのは愛し合う男女から産まれるものですよ。そんな強い奴が種付けするライオンみたいな……あ、そんな考え方なのか。
強い奴の遺伝子を繋いでいく。ハーレムを形成する動物はその発想だな。龍もそうなの? 知的生命体なら他の要素もあると思うんだけどなあ。
「俺は人間なんだけど……子供は不可能じゃないかな?」
「どうだろうか……試してみねば分からぬ。この姿なら試せるだろう」
美女は一歩進み、俺の胸と彼女の胸が触れようかという距離にまで詰め寄って来る。こういうところがとても動物的で、俺は腰が引けるのだけど……
「人間は情緒ってものが必要なんだよ! この場でとか無いから!」
慌てて彼女から離れる俺に、彼女は不思議そうに首を傾ける。
「人間のことはよく分からぬ。そういうものなのか?」
「そういうものなんだよ。あと……いつまでも裸だと目のやり場に困る」
「我々龍は人間のように服は着ないのだが、何も我だけではあるまい。仲間の二体もそうであろう?」
た、確かにそうだけど。龍の姿で服を着ていたら逆に不気味だよ。
「と、とにかく訓練をつけるならローマに来てもらう必要がある。ローマで人型をとるなら服を着てくれ」
「修行の為ならば仕方あるまい……」
そんなに修行がしたいのかよ! ま、まあ服を着てくれるなら良しだ。修行自体は俺がやるわけでは無いし、プロコピウス(本物)がやると言ってるから良いだろう。
服を着てくれると言ってくれた美女だったが、先ほどまで意気揚々としていた顔が曇ってきている。何かあったのか?
「どうした?」
「我ら龍は離れていても互いに言葉をかわすことが出来るのだが……お前達以外の声の元へ向かった者たちから連絡が入ったのだ」
エルラインや風の精霊術みたいに、龍達も遠距離通信が可能なのか。
既に他の英雄とのコンタクトも済んでいたみたいだな……
「出来れば教えてくれないか? 他の英雄達の事を」
「一人は馬に乗った人間達の群れの中にいた。そいつが龍三匹を追い返した」
「龍三匹を……馬の群れか……」
「追い返されたとは言え、多少傷付いた程度。奴らとここはかなりの距離がある。もし近くに来ればその時は……」
「俺も一度そいつに会ってみたい。良ければ案内して欲しい」
「ふむ。お前と龍を追い返した人間との戦いか! 面白そうだ。ぜひ案内させてくれ」
「……あ、ありがとう」
何で戦うって発想しか無いんだよ!
平和的に話し合うだけだよ。いきなり攻撃を仕掛けて来る英雄なんていな……いやいるかもしれない……
「もう一人はお前達と違った意味で規格外だ。龍を恐れず、言葉を尽くし龍を迎え入れてしまった」
「そっちの方が余程厄介だぞ! 何者だよ、そいつは……」
「何やら長い名前だったな……ええと、ガイウス・ユリウス・カエサルだったか」
「何だって!」
俺の声に美女だけでなく、ずっと控えていたエルラインまで少し驚いた表情になる。
カエサルだと! 聖王国には居ないのだろうから、共和国か草原のどちらかに彼はいるのだろう。恐らく共和国。
共和国がどれ程の国力を持つか不明だが、ローマよりはさすがに大きいのは間違い無い。
ダメだ。カエサルは最悪の相手だぞ。敵対しない様に上手く立ち回らないと詰む。
「ピウス。君がそこまで警戒する相手なのかい?」
後ろで控えていたエルラインが興味深げに俺に聞いてくる。
「そうだよ。エル。考えうる限り最悪の相手だよ。勝てない。カエサルには勝てない」
「君にそこまで言わす人間か。興味深い」
エルラインはクスクスと子供っぽい笑い声をあげる。いや、カエサルは本当にしゃれにならんぞ!
至急カエサルとコンタクトを取るべきだ。彼と敵対しない様に。
「龍……何と呼べばいいんだ?」
「私か? 私ならミネルバと」
「ありがとう。ミネルバ。カエサルとは急ぎ会いたい。手伝ってくれるか?」
「お前とは契約したのだ。気にせず頼むといい。喜んで引き受けよう」
契約? あのキスか? どんな契約内容なんだろう……か、確認せねば。ただ、加護って言っていたから一方通行で俺にはデメリットが無いかもしれないけど……
しかし問答無用で契約とかどんなブラック企業だよ……
「ミネルバ、確認だけど俺達を襲う理由は無くなったと思っていいんだな?」
「ああ。そう思ってもらって構わない。ローマとやらを見れば確信出来るだろうが、我個人としてはお前の強さに惚れ込んだからな」
「……ま、まあ。理解してもらえたなら嬉しいよ」
「このまま一度ローマに行きたいのだが良いだろうか?」
「多分大丈夫だと思う。エルに頼んでパオラに連絡してもらうよ」
「ふむ。では待たせてもらおう」
俺はエルラインにパオラへ龍達の事を伝えてもらうように頼む。するとすぐに「了解」の返事が返って来た。
「そういえば、刻印とやらの件はどうする?」
「後ほど、刻印の持ち主と会わせてもらえないだろうか? 遅くなっても構わない」
「その話も後で詳しく教えて欲しい。契約の事もね」
「分かった。ローマへは我一人で行こう」
その後、ミネルバは龍の姿に戻り俺とエルラインを背に乗せローマへと飛行する。
道中契約の事を聞こうと思ったが、龍の飛行速度からしてゆっくり話す暇もないだろうと思い、俺はカエサルについて思案にふけることにしたんだ。
カエサル、カエサルか! 彼こそはローマ最大の英雄にして、地球が誇る最高峰の英雄の一人だろう。
個人戦闘能力や戦術ならベリサリウスの方が明らかに上、戦略なら若干ベリサリウスの方が上。確かに戦闘「だけ」なら、ベリサリウスの方が明らかに上回っていると俺は思う。
しかし、カエサルの凄い所は戦闘だけじゃないことだ。彼の政治、政略は超一級の能力を誇り、更には弁舌もカリスマも同水準にある。文芸の才能まであるのだから、さすが世界の有名人なだけある。
カエサルが政略を巧みに使い俺達に対して来れば、戦闘に入る前に勝敗が決まってしまうかもしれない。
戦場に至る前に、全ての人間の国を俺達へ差し向け、ベリサリウスと俺を分断し、三十倍以上の兵力で攻められたらどうだ?
ベリサリウスがずば抜けた戦術能力を持つとはいえ、カエサルだって歴史に名を残す程の戦術能力を持っている。
そんな相手にこの戦力差。万が一勝てても、次の手を既に打っているのがカエサルだ。
カエサルの事はベリサリウスにすぐ相談しよう。俺の意見は最低でも相互不干渉と彼に進言する。これは譲れない。
まあ、ベリサリウスだってローマの人間だから、過去の偉大なる英雄に理由も無く戦おうなんて言わないだろ。
もう一人の英雄は想像がつかないが、少なくともカエサルのような政治センスは持たないと思う。カエサルは龍の襲来と本来は災害が来たような状況を自分の為の政治ショーにしてしまうような人物だった。
しかし、もう一人の英雄は龍に負けない強さを持つとはいえ単に追い返しただけだ。こと戦闘能力だけに注目するならこちらにはベリサリウスがいる。
俺が想像する限り、個人戦闘能力だけならベリサリウスを凌ぐ人材はいるが、戦術能力まで含めると彼を凌ぐ人材は思い付かない。
そういう意味で危険性はカエサルに比べ遥かに落ちるだろう。だから、こっちは後回しだな。
しかし英雄とは何て厄介なんだ……
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