無双将軍の参謀をやりながら異世界ローマも作ってます

うみ

文字の大きさ
119 / 167

119.ええい演説だ

しおりを挟む
 強引に演説をさせられることになってしまったが、いざ演説するとなると困るな……何を話せばいいのか。木の板に書いたことなんて一言だしなあ。
 俺はチラリとエルラインに目を向けると、悪戯が成功した時の子供のような笑みを浮かべている。ダメだ。ちょっと捻らないと、別の事をエルラインがやってきそうだぞ。

<トミー。私が代ろうか?>

 困る俺にプロコピウス(本物)が代ってくれるとありがたいことを言ってきてくれるけど、彼に任せたら嫌な空気になりそうな……ええい。思いつかないからもういい。
 ものすごく嫌な予感がビンビンするが仕方ない。時間も押してるし、俺は思いつかねえ。
 
<あまり過激なのはよしてくださいね。お任せします>

 俺が心の中にいるプロコピウス(本物)にお願いすると、体の主導権が彼に移る。
 俺はスウっと息を吸い込み、エルラインとカチュアを順番に一瞥いちべつした後、口を開く。
 
「我らローマへ無謀な挑戦をする愚かな辺境伯よ。いつまでそこに閉じこもっているのだ? 挑戦は口だけなのかな。いつまでたっても挙兵しないではないか」

 俺の皮肉たっぷりの声が街全体へ響き渡る。
 だ、だから過激なのはやめてくれって言ったじゃないか。ま、まだしゃべるの?
 俺の願いもむなしく、プロコピウス(本物)はさらに続ける。

「ならば私から出向こうか? 臆病者でないと言うのならば、そこのテラスまで出て来るがいい。勝利の指揮者たるプロコピウスが相手をしてやろう」

 だー! 城のテラス……確かにある。城にテラスらしきものは。もしノコノコと誰かが出てきたら行くのか? 行くんだよなたぶん。
 やはり任せるべきではなかった。思いつかなかったといって安易に人を頼るものじゃないと俺はこれほど後悔したことは、これまで無かった。いやあったな……誠に残念なことに。
 
「ふうん。やっぱりやる気なんじゃない」
 
 エルラインはケラケラと愉快そうに笑い声をあげる。
 お、俺じゃないんだー。いや、プロコピウス(本物)に任せてしまった俺の責任か。
 エルラインの奴、いい笑顔を見せやがって。恨めしい。

「かっこいい! ピウスさん!」

 カチュアが手を叩いて俺を褒めてくれる。その無邪気さが今は心に突き刺さるよ。
 
「お、ピウス。衛兵かな? テラスに出て来たよ。行くかい?」

「ああ。行こう」

 俺はニヒルな笑みを浮かべ、エルラインの誘いを承諾する。い、行くのか。

<ではトミーよ。体の主導権を返すぞ>

 待て! ここで俺に戻ったら死ぬ! 

<ま、待ってください。戦うんですよね?>

<剣を向けてきたら代ろうじゃないか。それでいいかな?>

<分かりました。それでお願いします>

 俺がプロコピウス(本物)と心の中で会話している間に、エルラインが先端に大きなルビーの付属した杖を一振りすると、俺の体が重力のくびきを抜ける。
 ふわりと浮き上がった俺はエルラインと共にテラスへ向かうのであったが。
 
――炎弾が飛んでくる!

 しかし炎弾は俺へ届く前に見えない壁に弾かれる。

「全く。つまらないことをするねえ」

 どうやらエルラインが魔術で炎弾をはじく見えない壁を張ってくれたみたいだ。
 安心して上空からテラスを眺めると……
 
 ええと、衛兵が十名に衛兵のリーダーらしき全身鎧を着た騎士が一人か。辺境伯らしき人物は見えないぞ。

「エル。辺境伯らしき人物は見えないから、戻る?」

「せっかく面白くなって来たんじゃない。行くよ。ピウス」

 エルラインは俺の前へ出るとどんどんテラスへ近寄っていく。もちろん、炎弾はもう十発以上こちらに飛んできているが、全てエルラインの魔術の障壁に弾かれている……
 あ、これ。エルラインから離れたら、炎弾に当たるじゃないかよ!
 俺は急ぎエルラインの真後ろへ追いつき、彼に隠れるように追随する。
 
「戻らないんだ。やっぱりピウスも楽しみたいんだね」

「……もう何とでも言ってくれ……」

 俺は憮然ぶぜんとした顔でエルラインへ言葉を返す。し、仕方ないんだこれは。
 
 
 テラスは城の二階部分にあり、外側は木と石で出来た柵。城の中へ続くであろう大きな両開きの扉があった。床は城の外壁と同じ石を四角に切りそろえたものになっている。
 広さは衛兵が三十人居ても狭さを感じないほどに広い。
 
 降りて来た俺達を衛兵が襲い掛かろうとするが、リーダーらしき騎士が手で彼らを制する。リーダーは俺くらいの身長に茶色の長い髭と禿げ上がった頭が特徴の、筋肉質な体をした三十代半ばほどの男だった。

「ローマのプロコピウスと言ったか? たった二人で降りて来たことに免じて話だけは聞いてやろう」

 一歩前に出たリーダーは俺へ#居丈高(いたけだか)に言葉を投げる。

「君たちこそノコノコ出てきて、相手の実力も分からないのかい?」

 エルラインは口調こそいつもの彼らしく淡々としているが、内容はとても挑発的なものだった。もうどうにでもしてくれ。

「貴様!」

 衛兵が思わず叫ぶが、リーダーの男が手をあげると彼は引き下がった。すぐに激高しないあたり、この禿げ上がった頭のリーダーは侮れない人物かもしれない。

「上空に何がいるか君たちは分かるのかい?」

 エルラインの言葉に呼応するように、ミネルバが少しづつ高度を落としてくる。
 ミネルバの姿がハッキリと確認できた衛兵から驚きの声があがる。
 
「あ、あれは龍!」

 衛兵が口々に「龍だ!」と叫ぶことを満足そうな顔で見渡したエルラインは彼らへ言葉を続ける。

「飛龍だと思ったのかい? ここにいるプロコピウスは龍を従える程の人間なんだよ」

「なるほど。貴殿らの実力、たった二人で乗り込んでくるだけのことはあるのだな」

 リーダーのハゲ頭は納得したように頷くがミネルバに委縮した様子はない。
 
「僕らと戦うかい? それとも話を聞いてみるかい?」

 エルラインの質問という名の脅しに、リーダーは肩を竦める。
 
「ここで、龍と戦うわけにはいくまい。話を聞こうか」

「ピウス。要求をどうぞ」

 エルラインが突然俺に話を振って来る。
 俺は慌てて彼に目くばせした後、リーダーへ向き直る。

「さっき空から言った通りだ。攻める気があるならすぐに攻めて来い。それを辺境伯へ伝えてくれ」

「分かった。辺境伯へしかと伝えよう」

「用事はそれだけだ。エル。戻ろうか」

 偉そうに話をしているけど、内心心臓はバクバクいっている……早くこの場から立ち去りたい。
 エルラインは頷くと、杖を一振りする。
 
 俺とエルラインの体が浮き上がり、衛兵たちは茫然と俺達を眺める。俺達がミネルバの元へ戻る際には炎弾は一発たりとも飛んでこなかった。きっとあのハゲ頭のリーダーが制止したんだろう。
 あのリーダー。龍を前にしても、少なくとも表面上は落ち着き払った態度で応対していた。あれは手ごわいかもしれないぞ……厄介だな。
 
 ミネルバに戻り、炎弾が届かない距離まで上空へ登っていくとようやく俺は一息つく。

「残念だったね。ピウス。暴れたかったんだよね?」

「……」

 エルラインが肩を竦めるが、俺は大きなため息をついたのだった……
しおりを挟む
感想 20

あなたにおすすめの小説

おばちゃんダイバーは浅い層で頑張ります

きむらきむこ
ファンタジー
ダンジョンができて十年。年金の足しにダンジョンに通ってます。田中優子61歳

異世界に召喚されたが「間違っちゃった」と身勝手な女神に追放されてしまったので、おまけで貰ったスキルで凡人の俺は頑張って生き残ります!

椿紅颯
ファンタジー
神乃勇人(こうのゆうと)はある日、女神ルミナによって異世界へと転移させられる。 しかしまさかのまさか、それは誤転移ということだった。 身勝手な女神により、たった一人だけ仲間外れにされた挙句の果てに粗雑に扱われ、ほぼ投げ捨てられるようなかたちで異世界の地へと下ろされてしまう。 そんな踏んだり蹴ったりな、凡人主人公がおりなす異世界ファンタジー!

地味な薬草師だった俺が、実は村の生命線でした

有賀冬馬
ファンタジー
恋人に裏切られ、村を追い出された青年エド。彼の地味な仕事は誰にも評価されず、ただの「役立たず」として切り捨てられた。だが、それは間違いだった。旅の魔術師エリーゼと出会った彼は、自分の能力が秘めていた真の価値を知る。魔術と薬草を組み合わせた彼の秘薬は、やがて王国を救うほどの力となり、エドは英雄として名を馳せていく。そして、彼が去った村は、彼がいた頃には気づかなかった「地味な薬」の恩恵を失い、静かに破滅へと向かっていくのだった。

【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます

まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。 貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。 そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。 ☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。 ☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。

最上級のパーティで最底辺の扱いを受けていたDランク錬金術師は新パーティで成り上がるようです(完)

みかん畑
ファンタジー
最上級のパーティで『荷物持ち』と嘲笑されていた僕は、パーティからクビを宣告されて抜けることにした。 在籍中は僕が色々肩代わりしてたけど、僕を荷物持ち扱いするくらい優秀な仲間たちなので、抜けても問題はないと思ってます。

ダンジョンでオーブを拾って『』を手に入れた。代償は体で払います

とみっしぇる
ファンタジー
スキルなし、魔力なし、1000人に1人の劣等人。 食っていくのがギリギリの冒険者ユリナは同じ境遇の友達3人と、先輩冒険者ジュリアから率のいい仕事に誘われる。それが罠と気づいたときには、絶対絶命のピンチに陥っていた。 もうあとがない。そのとき起死回生のスキルオーブを手に入れたはずなのにオーブは無反応。『』の中には何が入るのだ。 ギリギリの状況でユリアは瀕死の仲間のために叫ぶ。 ユリナはスキルを手に入れ、ささやかな幸せを手に入れられるのだろうか。

Sランクパーティを引退したおっさんは故郷でスローライフがしたい。~王都に残した仲間が事あるごとに呼び出してくる~

味のないお茶
ファンタジー
Sランクパーティのリーダーだったベルフォードは、冒険者歴二十年のベテランだった。 しかし、加齢による衰えを感じていた彼は後人に愛弟子のエリックを指名し一年間見守っていた。 彼のリーダー能力に安心したベルフォードは、冒険者家業の引退を決意する。 故郷に帰ってゆっくりと日々を過しながら、剣術道場を開いて結婚相手を探そう。 そう考えていたベルフォードだったが、周りは彼をほっておいてはくれなかった。 これはスローライフがしたい凄腕のおっさんと、彼を慕う人達が織り成す物語。

僕の秘密を知った自称勇者が聖剣を寄越せと言ってきたので渡してみた

黒木メイ
ファンタジー
世界に一人しかいないと言われている『勇者』。 その『勇者』は今、ワグナー王国にいるらしい。 曖昧なのには理由があった。 『勇者』だと思わしき少年、レンが頑なに「僕は勇者じゃない」と言っているからだ。 どんなに周りが勇者だと持て囃してもレンは認めようとしない。 ※小説家になろうにも随時転載中。 レンはただ、ある目的のついでに人々を助けただけだと言う。 それでも皆はレンが勇者だと思っていた。 突如日本という国から彼らが転移してくるまでは。 はたして、レンは本当に勇者ではないのか……。 ざまぁあり・友情あり・謎ありな作品です。 ※小説家になろう、カクヨム、ネオページにも掲載。

処理中です...