拝啓、無人島でスローライフはじめました

うみ

文字の大きさ
3 / 31

3.拝啓、ナイフを手に入れました

しおりを挟む
 バシャバシャとヤカンに入れた水を使って顔を洗う。
 水を入れる容器があるって、なんて便利なんだろうか。昨晩は微妙な反応をしてしまったごめん、ヤカンさん。
 ヤカンを傾けると口から水が出る。これが何ともまあ使いやすくて。ヤカンに直接口をつけてごくごくと水を飲む。
 
「カピーも飲む?」

 カピーが井戸に前脚をつけて背伸びして、機敏な動きで手押しポンプのレバーを上げ下げし始めた。
 間もなく手押しポンプから水が出てくる。
 カピーは落ちてきた水を頭から被りご満悦な様子で目を閉じるのだった。

「器用だなあ」
「きゅっ」

 口を開かずに愛らしい鳴き声を出すカピーに癒される。
 この様子だとカピーに関してはほっておいても単独で餌も含めて生きていけそうだ。
 カピーがいつからこの島にいるのか不明だけど、僕と違って大自然での生きる術を習得している……のだと思う。
 そっか。カピーについていけば食べるものだって手に入るかもしれないぞ。
 
「カピー。お散歩に……あ」

 ブルブル体を揺すって毛皮について水気をきったカピーは、てこてこと歩いて扉の前で寝そべってしまった。
 ひょっとしてこのまま日が暮れるまで寝て過ごすんじゃあ……たらりと額から冷や汗が流れ落ちる。
 数日様子を見てみないと何とも言えないけど、カピーは「何も食べなくても生きていける」のかもしれない。
 僕の無駄知識によると、猫がずっと寝ているのはやることが無いからだと聞く。餌を食べて満腹になったら、体力を温存するために寝て休むのだ。
 カピーも似たようなものだとしたら?
 不可思議な出来事ばかりだから、島にいたカピバラだって特殊な生き物と言うこともあり得る。
 
 カピーに頼るという甘い期待が潰えた僕は、小屋に戻り「島の書」を持って戻ってきた。
 完全に素人である自分では木の実を発見したとしても、食べられるのか毒なのか全くもって分からない。
 指南書やカピーという相棒、体のことから考慮するに、この島へ僕を送り込んだ誰かは島での生活を行えるよう何かと手を焼いてくれている。
 となれば、推奨事項に記載されている項目は全て活用すべきだ。
 
「埋める。埋めるかあ」

 本当に土を掘って本を埋めるかと一瞬考えたが、最後の手段にしようと思い直す。
 あ、そうだ。
 手を伸ばせば届くところに自生していたよく見る雑草をつまんで茎をちぎる。
 緑色のつぶつぶにブラシのような毛が生えた穂を持つこの雑草は、ネコジャラシとか言われていた気がするぞ。
 ネコジャラシの穂を「島の書」の上に置いてみる。
 すると、本からぼんやりとした淡い光が出て、すぐに光が消えた。

「お、おおお」

 本をパラパラめくると、空白だったページに文字が記載されていたじゃないか!

『エノコログサ
 可食:緑の粒』
 
 シンプルだけど、食べられる箇所まで書きこまれていた。
 ネコジャラシの粒を食べることができるなんて初耳だ。だけどまあ、そのまま食べることはできなさそうだな。
 粒をとってすり潰して……なんてことをする必要がありそうだ。

「カピー。出かけてくるよ」

 寝そべるカピーの頭を撫で、島の書を小脇に抱え散策へと出かけることにした。
 まずは竹竿の回収からかな。
 
 ◇◇◇
 
 竹竿は無事回収できた。ブンブンと竿を振ってみたが、浜辺で釣りをすることは難しいとすぐに気が付いた。
 竹竿には糸を巻くリールがなくて、糸をしゅるしゅると伸ばすことができない。
 まあ、もしリールがついていたとしても、僕には投げ釣りなんてできそうもない。無理をしてここで釣りをしなくてもいいだろう。
 ここは島なのだから、糸を垂らすだけで済むちょうどいい岩礁を探せばいいだけの話である。
 
「海の生き物は『海の書』かな?」

 島の書に落ちていた貝殻を当ててみたが光ることはなかった。
 ここに至るまで雑草だけじゃなく、転がっていた石ころでさえ島の書に当てると光ったんだよな。
 落ちているものなら何でも光る島の書が光らないとなると、対応範囲外……つまり、海の書の範囲なのかと考えたわけだ。

「釣りもやってみたいけど、そのまま食べるのは難しいかなあ……」

 そんなわけで泣く泣く釣りを後回しにした。
 右手に島の書、左手に竹竿となったら両手が塞がってしまって……だったので一旦小屋に竹竿を置いてから再び探索に向かう。
 因みにカピーはまだ寝そべって休んでいた。
 
「何をするにしても、火とナイフの代わりになるものがないと厳しいな」

 てくてくと道なき藪の中をおっかなびっくり歩きながら、考えを巡らせる。
 お、白い花が綺麗だな。この草。

『ドクダミ
 可食:葉を乾かし煎じて飲む』
 
 島の書の解説はシンプル過ぎて食べられると表示されていても、どうやって食べりゃいいのか分からないのが玉に瑕だな。
 それでも、可食なのかどうかが分かることは非常に大きい。
 っつ。
 ドクダミの草を抜いて持って行こうかと前に踏み出したら、何かに引っかかってつんのめる。
 何だと思って目をやると、グレープフルーツより一回り大きいくらいの岩に引っかかったようだった。
 ゾッとして思わず首を左右に振る。
 もしこけて、頭にこいつがぶつかっていたら……。慎重に歩いて行かないとな。
 ゴクリと生唾を飲み込み、僕のつま先を引っかけた憎き黒っぽい岩へ島の書を当ててみる。
 転んでもただは起きぬってね。
 
『黒曜石
 古来から愛されている石器』
 
「お、おおお!」

 思わず大きな声が出た。恥ずかしくなって左右を見渡すも、もちろん誰もいない。
 名前だけは聞いたことがあるぞ。石器時代の英雄「黒曜石」さんだ。
 黒曜石から石器を作ることができる。
 それはいい。だけど、どうやって作るんだろう?
 石器時代の人だって、素手から黒曜石を加工して石器にしたわけだろ。だったら、僕にもできるはず。

「よっと。案外重たいな」

 黒曜石の塊を両手で掴み土で埋まった部分ごと引っこ抜く。
 その場であぐらをかき、じーっと黒曜石の塊を見つめてみるも名案は浮かばない。
 黒曜石を撫で繰り回し、「石器にするには」と考えていたら突如、両手が緑色の光を放つ。
 すると、黒曜石の塊が勝手に動き出したのだ!
 浮かび上がったかと思うと近くの岩とぶつかり、パカンと割れる。
 割れた黒曜石が打ち付けあい、持ち手がついたナイフのようになった。

「これってクラフト?」

 魔法のようで年甲斐もなく子供のようにワクワクしてきたぞ!
 きっと僕の目はキラキラと輝いているに違いない。
 出来上がった黒曜石のナイフを手にとり近くの草に向け斬りつけてみる。
 スパッと茎が切れ、雑草が地面に落ちた。
 
 せっかくなのでこれも島の書へ。
 
『葦
 水辺の友達。茎が加工しやすい』
 
 葦って確かすだれの材料だったっけ。
 僕の技術じゃとてもじゃないけど、葦から簾も籠も作ることなんてできない。
 しかし、ふ、ふふ。
 
 スパスパっと葦を集めて束にして両手で握る。
 籠をイメージして念じてみるが、先ほどのように手が光らなかった。
 何か足らないものがあるのか、熟練度なるものが足りないかのどっちかだな。
 条件だとすれば乾燥していないからかも?
 木材だって木を切り倒したらそのまま使えないと聞くし、葦も同じことなのかもしれない。
 
 黒曜石のナイフを腰にさし、葦の束を抱えて小屋に戻る。
 リュックサックみたいな入れ物がないといちいち小屋に戻らなきゃならないのが大変だよな。今は小屋から徒歩10分以内の場所を探索中だから戻るのもすぐだ。
 島全体を探索するとなるといちいち戻ってられないものなあ……。葦に期待しよう。
 
 葦の束を小屋の屋根から吊るしてふうと息をつく。
 カピーはまだゴロゴロしていた。
 
「食べ物をまだ見つけてない……」

 自分の言葉に反応するかのようにお腹が盛大な音を立てる。
 
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

猫好きのぼっちおじさん、招かれた異世界で気ままに【亜空間倉庫】で移動販売を始める

遥風 かずら
ファンタジー
【HOTランキング1位作品(9月2週目)】 猫好きを公言する独身おじさん麦山湯治(49)は商売で使っているキッチンカーを車検に出し、常連カードの更新も兼ねていつもの猫カフェに来ていた。猫カフェの一番人気かつ美人トラ猫のコムギに特に好かれており、湯治が声をかけなくても、自発的に膝に乗ってきては抱っこを要求されるほどの猫好き上級者でもあった。 そんないつものもふもふタイム中、スタッフに信頼されている湯治は他の客がいないこともあって、数分ほど猫たちの見守りを頼まれる。二つ返事で猫たちに温かい眼差しを向ける湯治。そんな時、コムギに手招きをされた湯治は細長い廊下をついて歩く。おかしいと感じながら延々と続く長い廊下を進んだ湯治だったが、コムギが突然湯治の顔をめがけて引き返してくる。怒ることのない湯治がコムギを顔から離して目を開けると、そこは猫カフェではなくのどかな厩舎の中。 まるで招かれるように異世界に降り立った湯治は、好きな猫と一緒に生きることを目指して外に向かうのだった。

刷り込みで竜の母親になった私は、国の運命を預かることになりました。繁栄も滅亡も、私の導き次第で決まるようです。

木山楽斗
ファンタジー
宿屋で働くフェリナは、ある日森で卵を見つけた。 その卵からかえったのは、彼女が見たことがない生物だった。その生物は、生まれて初めて見たフェリナのことを母親だと思ったらしく、彼女にとても懐いていた。 本物の母親も見当たらず、見捨てることも忍びないことから、フェリナは謎の生物を育てることにした。 リルフと名付けられた生物と、フェリナはしばらく平和な日常を過ごしていた。 しかし、ある日彼女達の元に国王から通達があった。 なんでも、リルフは竜という生物であり、国を繁栄にも破滅にも導く特別な存在であるようだ。 竜がどちらの道を辿るかは、その母親にかかっているらしい。知らない内に、フェリナは国の運命を握っていたのだ。 ※この作品は「小説家になろう」「カクヨム」「アルファポリス」にも掲載しています。 ※2021/09/03 改題しました。(旧題:刷り込みで竜の母親になった私は、国の運命を預かることになりました。)

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

【完結】使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます

腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった! 私が死ぬまでには完結させます。 追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。 追記2:ひとまず完結しました!

うちの孫知りませんか?! 召喚された孫を追いかけ異世界転移。ばぁばとじぃじと探偵さんのスローライフ。

かの
ファンタジー
 孫の雷人(14歳)からテレパシーを受け取った光江(ばぁば64歳)。誘拐されたと思っていた雷人は異世界に召喚されていた。康夫(じぃじ66歳)と柏木(探偵534歳)⁈ をお供に従え、異世界へ転移。料理自慢のばぁばのスキルは胃袋を掴む事だけ。そしてじぃじのスキルは有り余る財力だけ。そんなばぁばとじぃじが、異世界で繰り広げるほのぼのスローライフ。  ばぁばとじぃじは無事異世界で孫の雷人に会えるのか⁈

【完結】貧乏令嬢の野草による領地改革

うみの渚
ファンタジー
八歳の時に木から落ちて頭を打った衝撃で、前世の記憶が蘇った主人公。 優しい家族に恵まれたが、家はとても貧乏だった。 家族のためにと、前世の記憶を頼りに寂れた領地を皆に支えられて徐々に発展させていく。 主人公は、魔法・知識チートは持っていません。 加筆修正しました。 お手に取って頂けたら嬉しいです。

不倫されて離婚した社畜OLが幼女転生して聖女になりましたが、王国が揉めてて大事にしてもらえないので好きに生きます

天田れおぽん
ファンタジー
 ブラック企業に勤める社畜OL沙羅(サラ)は、結婚したものの不倫されて離婚した。スッキリした気分で明るい未来に期待を馳せるも、公園から飛び出てきた子どもを助けたことで、弱っていた心臓が止まってしまい死亡。同情した女神が、黒髪黒目中肉中背バツイチの沙羅を、銀髪碧眼3歳児の聖女として異世界へと転生させてくれた。  ところが王国内で聖女の処遇で揉めていて、転生先は草原だった。  サラは女神がくれた山盛りてんこ盛りのスキルを使い、異世界で知り合ったモフモフたちと暮らし始める―――― ※第16話 あつまれ聖獣の森 6 が抜けていましたので2025/07/30に追加しました。

異世界もふもふ食堂〜僕と爺ちゃんと魔法使い仔カピバラの味噌スローライフ〜

山いい奈
ファンタジー
味噌蔵の跡継ぎで修行中の相葉壱。 息抜きに動物園に行った時、仔カピバラに噛まれ、気付けば見知らぬ場所にいた。 壱を連れて来た仔カピバラに付いて行くと、着いた先は食堂で、そこには10年前に行方不明になった祖父、茂造がいた。 茂造は言う。「ここはいわゆる異世界なのじゃ」と。 そして、「この食堂を継いで欲しいんじゃ」と。 明かされる村の成り立ち。そして村人たちの公然の秘め事。 しかし壱は徐々にそれに慣れ親しんで行く。 仔カピバラのサユリのチート魔法に助けられながら、味噌などの和食などを作る壱。 そして一癖も二癖もある食堂の従業員やコンシャリド村の人たちが繰り広げる、騒がしくもスローな日々のお話です。

処理中です...