拝啓、無人島でスローライフはじめました

うみ

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15.はや一週間

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 ――七日目。
 朝日はまだ昇っていないけど、空が白みはじめている。もうすぐ朝かなあ。夜に止んだ雨も再び振り出すことなくこの分だと晴れ間が見えそうだ。
 謎の転移でこの島に来てからはや一週間になる。はじめはどうなることかと思ったけど、一応生きていくことができているのだから、今のところ順調と言えるだろう。
 季節があるのか不明だけど、寒い冬になれば魚だけが頼りになるかもしれない。果物はともかく、どんぐりとか保管しておける木の実は集めておくとしようか。
 
 再び寝るのも微妙な時間だ。ニーナは横向きになって体を丸めスヤスヤと眠っている。
 はだけていた布団を彼女にかけようとして、ふと思い立つ。
 腰から下を隠すようにして布団を被せてみると、ほお、なかなか良いじゃないか。
 こうして寝ていると女優顔負けの整った顔立ちをしているよな。薄紫の髪も人間だと有り得ない色なのだけど、彼女の可愛さを損なうどころか引き出させている。
 スレンダーな体つきは僕好みだ。貝殻ブラジャーしか纏っていないので、肩口なんて丸見えだ。
 意識するとうなじから鎖骨にかけてのラインにドキリとする。僅かながら膨らんだ胸が目に入り、思わず視線をそむけた。
 そこで、昨日の儀式の時の彼女を思い出し、さっきまでのドキドキとした気持ちが完全に萎えてしまう。
 これで、あの性格じゃあなければなあ。天は二物を与えずと言うが、残念でならない。
 
 いたたまれない気持ちになった僕は気分転換に顔を洗おうと外に出る。
 ヤカンに水をくべて、土鍋に移してバシャバシャと。冷たいな! 朝だからか、寝起きだからかこの冷たさが気持ちいい。

「くあ」
「お、パックもはやいな。水を使うか?」

 首をハトのように上下に振るったカモメは僕の使っていた土鍋にどぼんと入る。
 そのまま翼をバシャバシャやるもんだから、雫が顔に当たる当たる。

「そうだ。せっかくの時間だし」

 どうせこの後朝食で火を使うわけだ。だったら、手間だけど火起こしをしてしまおう。
 100円ライターではなくクラフトの特性を使って昨日使った焚火の跡を再利用して火をつける。
 クラフトでやるとかなりラクチンなんだよね。コンロに火をつける……とまではいかないけど、燃やすものさえあれば大丈夫なんだ。
 明るくなったところで、小屋の中に――。
 戻ろうとしたらカピーの鼻先が扉から見えた。
 
「カピー。すごいな。僕のやろうとしていたことが分かっていたの?」

 カピーは指南書を口に挟んでのたのたと外に出て来たのだ。
 僕に渡すでもなく、地面に本を置くと顎をつけ寝そべってしまった。この辺はカピーらしい。胸がきゅんとする。

「あんちゃん、本を読むのか? おいらにも聞かせてくれよ」
「お、戻ったの?」

 焚火の傍で本を開いたところ、後ろから少年姿のパックに声をかけられる。
 彼はそう言って、僕の隣であぐらをかく。どこぞの人魚と違ってちゃんと服を着ているから大したものだ。
 カモメの時は裸なのだけど、どうやって服を着ているのだろう? 魔法的な何かかも?

「どっちもおいらだよ」
「そっか。人型になったの? と言えばいいのかな?」
「うん。そんなところ。長い間は人型になっていられないんだ。お腹がすくし」
「それじゃあ、声に出して読むから一緒に読もうか」
 
 こくりと頷き、白い歯を見せるパックは無邪気な少年のそのものだ。
 どこぞの人魚にペースを乱されたが、本来、僕の暮らしはこんなノンビリした空気が流れていた。
 上品な茶色の装丁そうていがなされた指南書の表紙を撫でる。触れた感じ革ぽいのだけど、ザラザラしていなくてツルツルしているのだよな。
 一体どんな素材でできているのだろう。
 ペラリと表紙をめくり最初のページから読みあげ始める。
 
「『名もなき島へようこそ。白夜さん――』」
「あんちゃんの名前が書いているんだな! あんちゃんの知り合いが書いたの?」
「いや、誰なのか分からないんだよな」
「ふうん。そうなんだ。ごめん、いきなり止めちゃって!」

 はははと笑い合い、再び最初から音読を始めた。
 2ページ目までは前回読んだ時と同じ記憶だ。ところが、3ページ目に変化があった。

『現在のところ、本島にいる「人間族」はあなた一人ですが、「他にも知的種族が」住んでいます。
 本島の初期配置は絶海の孤島状態になります。
 
 ですが、本島は移動できます。
 七つの海を制覇し、あなたの願いを叶えてください。
 その時まで首を長くしてお待ちしております。
 ボンボヤージュ』
 
 内容が書き換わっていることに対し、今更驚かない。海の書と島の書はリアルタイムで書きこみがされるものな。
 定期的に指南書も確認した方がいいか。新たな発見だぞ。

「他にも……ってパックとニーナのことだよな」
「そうなのかな? すごいじゃないか! あんちゃん。おいらも七つの海を旅したいぜ」
「先に住環境とか日用品とかを揃えようと思ってさ。まだ浜辺と磯、あとは昨日行った辺りしか探検してないんだよ」
「そうなんだ! おいら、空から見て来てもいいよ。でも、あんちゃんと一緒に歩くのもいいな」
「空を飛んでここまで来たんだよな?」
「うん。そうだけど、ちゃんと見てはいないよ。浜辺が見えて、これなら魚でもとれるかなってすぐに降りちゃったんだ」
「へえ。じゃあ、一緒に探検しようか。空からも頼むかも」
「任せて! どこにあるんだろうな。そのレバーってやつ。島が動くなんてワクワクする!」
「よっし、それじゃあ、食べながらいつもと違う方向に行ってみようか」
「うん!」

 籠に詰め込んだままだったコケモモとクルミをカピーに与え、自分はスモモをかじる。
 パックは釣りで獲れた15センチくらいのマハゼとメゴチの丸焼きを頭からむしゃむしゃと食べていた。
 せっかくなので、ガチャでゲットした石鹸で手を洗い、カモメの姿に戻ったパックと共に小屋を離れることにしたのだった。
 
「おっと。忘れてた。カピー。行ってくるね。夜までには戻るよ。お腹がすいたら籠の中のものを食べていいからね」
「もぐもぐ……きゅ」

 しゃがんでカピーの頭を撫で、今度こそ動き出す。
 ちょうどその頃、朝日が昇り始めていたのだった。
 
「小屋を背に真っ直ぐ進むと浜辺。右手に行くと採集場所だから、左手に行ってみようか」
「くあ」

 ん、カモメ姿のパックが僕のズボンをツンツンしている。
 何だろう。
 
「大丈夫だよ。パック。ちゃんと焚火は土をかけて消してきた」
「くああ」
 
 声をかけるとパックは前を向き、のっしのっしと僕のすぐ前を歩きだす。
 火事になったら大変だものな。火元には細心の注意を払わないとね。忘れ物はないぜ。
 島の書に籠にズタ袋まで用意している。中には黒曜石のナイフとロープもちゃんと持ってきているさ。
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