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再教育、開始
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「ちょ、ちょっと待って? アリシャ?」
旦那は私の手を引き剥がそうとするが、ビクともしない。
当たり前だ。
王室でぬくぬく育った線の細いおぼっちゃま程度が、私の腕力をどうにかできると思わないでいただきたい。
こう見えて、私は姫鬼神とまで呼ばれていた女傑なのだ。
いわゆるじゃじゃ馬姫である。
けど、いつまでもそんなんじゃダメだからといわれ、何かのよしみで隣国のこの小さい王国にやってきただけの話だ。
ぶっちゃけていうと、この小さい王国よりも私の実家の方が経済的に太い。
でも立地的な関係や、その他隣国との関係も相まって、お互いに対等であるというだけである。正直に偉そうにされるいわれがない。
ただ、おしとやかに王国の姫として、妃として立派につとめるように、という両親の願いをかなえたくて黙っていた。
それも、もうおしまい。
お父様、お母様。ごめんなさい。
アリシャ、殴ります。
「ちょっと待ってじゃないから。何? こっちの言い分もろくに聞かないで勝手に一方的にうそつき呼ばわりした挙句にあの小娘に謝れって? 誰が、どの口が、そんなことほざいてるんですか?」
早口でまくしたてながら詰めると、とたんに旦那はおろおろする。
ああ、情けない。
その程度で崩れる態度なら、最初からない方がマシ。
「いや、でも、アリシャが泣きながらいうもんだから」
「はっ。それこそ嘘泣きでしょうよ」
「そんなことっ。家族を疑えるワケないだろ!」
「じゃあ私を一方的に嘘つき呼ばわりして決め付けてくるあんたにとって、私は家族じゃないってこと?」
「いや、それは、そんなことないけど、でも、お前はボクの嫁だろう?」
「あのね」
私は笑顔のまま。
握りこぶしをぐりゅっと回転させながら旦那の鳩尾に沈めた。
どすうっ! と鈍い音。
よっしゃイイ手ごたえ。
旦那は思いっきり身体をくの字に曲げた。
「ごええっ」
背中まで衝撃は貫通したはずだ。耐えられるはずがない。
けど、容赦しない。
許せ。これも再教育のためだ。
「嫁だからってなんでもかんでもしてイイわけじゃないし、なんでもかんでもして許されるワケでもないし、私にだって堪忍袋っていうのがあるの。オッケー?」
私は何発も拳を叩き込む。
「で、もう分かってると思うけど。私は今、その堪忍袋の緒がバッチリ切れちゃってるの。オッケー?」
「げほっ、ごほっ、わ、わかった、わかったから、バイオレンスやめて?」
「それはあんたの返事次第ね」
私はハッキリ言ってやってから、おなかを抱えてうずくまる旦那の顔面のすぐ傍に蹴り足を叩き込んだ。
壁ドンならぬ壁ズンである。
私はその蹴り足に肘を乗せつつ、前のめりに顔を詰めた。
「大体ね、おかしいと思わないワケ? あんなオイリーまみれの食事を朝からたっぷり出すとか。健康的な意味合いでもありえないデショ。何? 早死にしたいのかあんたらは」
「そ、そんなわけないだろ。ただ、ベスのリクエストってのもあったし」
「はぁあああ?」
「それに、それにだよっ。お前が体調悪いから、せめて元気になれればって思ってメニューをリクエストしたってぇええっへえええいっ!?」
ふ・ざ・け・る・な。
私はドレスのドレープに隠し持っていた剣を抜き構える。凄まじい殺気がもれてしまったようで、旦那は涙目になって悲鳴をあげた。
「ちょっと待ったどっからだしたの今っ!?」
「乙女であり淑女の秘密でたしなみです」
「そんなのあったっけ!?」
「とにかく」
私は旦那のツッコミを遮る。
「冷静になって考えて? 体調悪かったらあっさりしたものを口に入れたいと思わないかしら? あなたならどうなの?」
「え? それはそうだけど」
「だったらそのあっさりと真逆突っ走るような食事出されるってフツーに考えたらおかしいだろぉがあぁああっ!」
ずどん!
と、私は抜き放った剣を旦那の股の間に突き刺す。「うひゅいっ」と旦那がかなり面白い悲鳴をあげたが、今は追及しない。
「それに、そもそもあんな高級食材をぽんぽん出すのも変でしょ。考えてもみなさいよ。もうこの王国の経済状況はいっぱいいっぱいなのよ? 民も限界なのよ? なのになんで贅沢三昧するわけ」
「贅沢って……王族としての、その、つとめ?」
「そんな甘っちょろいつとめがあってたまるかあああああああっ!」
私は怒号を撒き散らしながら往復ビンタをたたきいれ、さらに胸倉を掴んでぐいっと持ち上げてから壁に叩きつけ、さらにチョーパン――じゃない、頭突きを鼻っ柱に叩き込んだ。
見事なまでの連続攻撃に、旦那は鼻血を出しながら泣く。
「王族は国民を守るのがつとめだろうが、あぁん?」
「そ、そのとおりです……」
「だったら今の王家の状況は明らかにおかしいだろ? 違う?」
「違いません。でも、贅沢をして隣国に権威を見せ付けるのも必要かなって」
口ごたえをした旦那を私は再び持ち上げ、そのままベッドに叩きつけるようにして投げ入れた。
「おう。そんなん言っていられる状況じゃないっていうの、思い知る必要がありそうね」
「ちょっと待って、アリシャ?」
「ベッドの上で愛の語り合いといこうや。何、日が暮れるまでじぃぃっくり時間あるから。悪いことにはならないわよ」
「いやだから待って何その誘い文句ってフツーそれ男のセリフじゃないかな!?」
「うっせぇっ! この国の経済事情がどれだけ悪いか、関節技ぶちかましながら教えてあげるわっ!」
「関節技って必要かな!?」
「問答無用っ! 痛みを伴って覚えるがいいっ!」
「はぎゃああああああああっ!!」
そして、私の愛の講義は始まった。
すべては王国のため。私の精神安定のため。である。たぶん。
旦那は私の手を引き剥がそうとするが、ビクともしない。
当たり前だ。
王室でぬくぬく育った線の細いおぼっちゃま程度が、私の腕力をどうにかできると思わないでいただきたい。
こう見えて、私は姫鬼神とまで呼ばれていた女傑なのだ。
いわゆるじゃじゃ馬姫である。
けど、いつまでもそんなんじゃダメだからといわれ、何かのよしみで隣国のこの小さい王国にやってきただけの話だ。
ぶっちゃけていうと、この小さい王国よりも私の実家の方が経済的に太い。
でも立地的な関係や、その他隣国との関係も相まって、お互いに対等であるというだけである。正直に偉そうにされるいわれがない。
ただ、おしとやかに王国の姫として、妃として立派につとめるように、という両親の願いをかなえたくて黙っていた。
それも、もうおしまい。
お父様、お母様。ごめんなさい。
アリシャ、殴ります。
「ちょっと待ってじゃないから。何? こっちの言い分もろくに聞かないで勝手に一方的にうそつき呼ばわりした挙句にあの小娘に謝れって? 誰が、どの口が、そんなことほざいてるんですか?」
早口でまくしたてながら詰めると、とたんに旦那はおろおろする。
ああ、情けない。
その程度で崩れる態度なら、最初からない方がマシ。
「いや、でも、アリシャが泣きながらいうもんだから」
「はっ。それこそ嘘泣きでしょうよ」
「そんなことっ。家族を疑えるワケないだろ!」
「じゃあ私を一方的に嘘つき呼ばわりして決め付けてくるあんたにとって、私は家族じゃないってこと?」
「いや、それは、そんなことないけど、でも、お前はボクの嫁だろう?」
「あのね」
私は笑顔のまま。
握りこぶしをぐりゅっと回転させながら旦那の鳩尾に沈めた。
どすうっ! と鈍い音。
よっしゃイイ手ごたえ。
旦那は思いっきり身体をくの字に曲げた。
「ごええっ」
背中まで衝撃は貫通したはずだ。耐えられるはずがない。
けど、容赦しない。
許せ。これも再教育のためだ。
「嫁だからってなんでもかんでもしてイイわけじゃないし、なんでもかんでもして許されるワケでもないし、私にだって堪忍袋っていうのがあるの。オッケー?」
私は何発も拳を叩き込む。
「で、もう分かってると思うけど。私は今、その堪忍袋の緒がバッチリ切れちゃってるの。オッケー?」
「げほっ、ごほっ、わ、わかった、わかったから、バイオレンスやめて?」
「それはあんたの返事次第ね」
私はハッキリ言ってやってから、おなかを抱えてうずくまる旦那の顔面のすぐ傍に蹴り足を叩き込んだ。
壁ドンならぬ壁ズンである。
私はその蹴り足に肘を乗せつつ、前のめりに顔を詰めた。
「大体ね、おかしいと思わないワケ? あんなオイリーまみれの食事を朝からたっぷり出すとか。健康的な意味合いでもありえないデショ。何? 早死にしたいのかあんたらは」
「そ、そんなわけないだろ。ただ、ベスのリクエストってのもあったし」
「はぁあああ?」
「それに、それにだよっ。お前が体調悪いから、せめて元気になれればって思ってメニューをリクエストしたってぇええっへえええいっ!?」
ふ・ざ・け・る・な。
私はドレスのドレープに隠し持っていた剣を抜き構える。凄まじい殺気がもれてしまったようで、旦那は涙目になって悲鳴をあげた。
「ちょっと待ったどっからだしたの今っ!?」
「乙女であり淑女の秘密でたしなみです」
「そんなのあったっけ!?」
「とにかく」
私は旦那のツッコミを遮る。
「冷静になって考えて? 体調悪かったらあっさりしたものを口に入れたいと思わないかしら? あなたならどうなの?」
「え? それはそうだけど」
「だったらそのあっさりと真逆突っ走るような食事出されるってフツーに考えたらおかしいだろぉがあぁああっ!」
ずどん!
と、私は抜き放った剣を旦那の股の間に突き刺す。「うひゅいっ」と旦那がかなり面白い悲鳴をあげたが、今は追及しない。
「それに、そもそもあんな高級食材をぽんぽん出すのも変でしょ。考えてもみなさいよ。もうこの王国の経済状況はいっぱいいっぱいなのよ? 民も限界なのよ? なのになんで贅沢三昧するわけ」
「贅沢って……王族としての、その、つとめ?」
「そんな甘っちょろいつとめがあってたまるかあああああああっ!」
私は怒号を撒き散らしながら往復ビンタをたたきいれ、さらに胸倉を掴んでぐいっと持ち上げてから壁に叩きつけ、さらにチョーパン――じゃない、頭突きを鼻っ柱に叩き込んだ。
見事なまでの連続攻撃に、旦那は鼻血を出しながら泣く。
「王族は国民を守るのがつとめだろうが、あぁん?」
「そ、そのとおりです……」
「だったら今の王家の状況は明らかにおかしいだろ? 違う?」
「違いません。でも、贅沢をして隣国に権威を見せ付けるのも必要かなって」
口ごたえをした旦那を私は再び持ち上げ、そのままベッドに叩きつけるようにして投げ入れた。
「おう。そんなん言っていられる状況じゃないっていうの、思い知る必要がありそうね」
「ちょっと待って、アリシャ?」
「ベッドの上で愛の語り合いといこうや。何、日が暮れるまでじぃぃっくり時間あるから。悪いことにはならないわよ」
「いやだから待って何その誘い文句ってフツーそれ男のセリフじゃないかな!?」
「うっせぇっ! この国の経済事情がどれだけ悪いか、関節技ぶちかましながら教えてあげるわっ!」
「関節技って必要かな!?」
「問答無用っ! 痛みを伴って覚えるがいいっ!」
「はぎゃああああああああっ!!」
そして、私の愛の講義は始まった。
すべては王国のため。私の精神安定のため。である。たぶん。
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