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不幸と幸せの対比
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激痛が駆け抜ける。
地面に転がり、アイナは声を失った喉で叫ぶ。
うるさいからとさっき潰されてしまったのだ。もはやドレスで隠せる部分は傷だらけだ。切り傷、擦り傷、打撲、火傷――。
目も当てられない。
ただ泣き喚く。
必死に動かそうとしても、身体は動かない。
「あははははっ! まるでいもむしだな」
狂ったように嘲笑いながら、辺境伯はまた鞭を振り下ろす。
「苦しめ、泣け、あがけ、もがけ! お前の苦しみは私の悦びだ!」
「…………っ!」
「教えてやろう。お前は最初から、私の奴隷としてやってきたんだ」
辺境伯は面白そうに語る。
「お前、お前と母親か。ずいぶんと横柄なことをしていたそうじゃないか。何度もどうにかしたいと陳情があがってきていたよ。それに目をつけたのさ」
アイナは喉を引きつらせながら、極悪の表情を浮かべる辺境伯を見た。
「お前のワガママでお前の姉は不幸を味わい続け、お前のワガママで何人もの領民が苦しみ、死を迎えた。経済的にも打撃を与えた。お前のやらかした行為を列挙すればキリがないくらいだ」
「……っ!」
「本来であれば、貴族であっても死罪は免れない。それだけのことをしてきたんだよ、お前は」
もはや、名前さえ呼ばれない。
激痛と絶望の中、アイシャはただ首を左右に振る。
「案ずるな。そう簡単には殺さない。そういう約束だ」
辺境伯はまた鞭を持ち上げる。
「たっぷりと楽しませてくれ。さあ、苦しむ姿を見せてくれっ!」
◇ ◇ ◇
その年の秋は大変実りよく、大豊作だった。
たくさん送られてくる実りに、屋敷の倉庫もいっぱいになってしまった。
そうなれば、やることはひとつ。
大豊作祭だ。
町は一気に祭り一色になり、料理に関するフェスティバルも開かれる。
とても賑やかで幸せな祭りだ。
領民たちにも食材が配られ、冬を越せるように手配もしていく。
「ああ、なんて美味しいのでしょう、このシチュー」
「今年のパンプキンは凄く甘い。良い出来だよ」
「ええ、本当に」
「肥料も良いせいか、お肉も上質だね」
「本当に。あっさりと噛み切れてしまいます」
私とチル伯爵は晩餐を共にしていた。
屋敷ではなく、町に出て。
貴族らしからぬ行為かもしれないが、屋台で温かいごはんに舌鼓を打つのも悪くないのだ。それに、今年は大豊作。どこの屋台も新鮮で上質な食材を使っているし、各地から料理人たちもやってきているので、どこも美味しい。
串焼き、シチュー、果物。
ああ、もう何個胃袋があっても足りない!
太らないかちょっと心配だけど。
でも、今はこの幸せを楽しみたい。楽しまなければ。
「メイシャ。君が来て、いろんなアドバイスをくれたおかげだよ」
「いえ、そのようなことは……」
「いやいや、収益が倍増したのは間違いなくメイシャの手腕だよ」
取引、という点では優しすぎるこの国は、商売で損をしていたのだ。
私は自分のツテを使って交渉できる人材を呼び寄せ、公正な取引ができるように手配したまでだ。
でも、役に立てたなら嬉しいな。
「メイシャ。ずっと傍にいてほしい」
ふと、私の手を取ってチル伯爵は甘い言葉をささやいてくる。
「はい。私も傍にいますわ」
「ありがとう。二人で歩いていこうね」
地面に転がり、アイナは声を失った喉で叫ぶ。
うるさいからとさっき潰されてしまったのだ。もはやドレスで隠せる部分は傷だらけだ。切り傷、擦り傷、打撲、火傷――。
目も当てられない。
ただ泣き喚く。
必死に動かそうとしても、身体は動かない。
「あははははっ! まるでいもむしだな」
狂ったように嘲笑いながら、辺境伯はまた鞭を振り下ろす。
「苦しめ、泣け、あがけ、もがけ! お前の苦しみは私の悦びだ!」
「…………っ!」
「教えてやろう。お前は最初から、私の奴隷としてやってきたんだ」
辺境伯は面白そうに語る。
「お前、お前と母親か。ずいぶんと横柄なことをしていたそうじゃないか。何度もどうにかしたいと陳情があがってきていたよ。それに目をつけたのさ」
アイナは喉を引きつらせながら、極悪の表情を浮かべる辺境伯を見た。
「お前のワガママでお前の姉は不幸を味わい続け、お前のワガママで何人もの領民が苦しみ、死を迎えた。経済的にも打撃を与えた。お前のやらかした行為を列挙すればキリがないくらいだ」
「……っ!」
「本来であれば、貴族であっても死罪は免れない。それだけのことをしてきたんだよ、お前は」
もはや、名前さえ呼ばれない。
激痛と絶望の中、アイシャはただ首を左右に振る。
「案ずるな。そう簡単には殺さない。そういう約束だ」
辺境伯はまた鞭を持ち上げる。
「たっぷりと楽しませてくれ。さあ、苦しむ姿を見せてくれっ!」
◇ ◇ ◇
その年の秋は大変実りよく、大豊作だった。
たくさん送られてくる実りに、屋敷の倉庫もいっぱいになってしまった。
そうなれば、やることはひとつ。
大豊作祭だ。
町は一気に祭り一色になり、料理に関するフェスティバルも開かれる。
とても賑やかで幸せな祭りだ。
領民たちにも食材が配られ、冬を越せるように手配もしていく。
「ああ、なんて美味しいのでしょう、このシチュー」
「今年のパンプキンは凄く甘い。良い出来だよ」
「ええ、本当に」
「肥料も良いせいか、お肉も上質だね」
「本当に。あっさりと噛み切れてしまいます」
私とチル伯爵は晩餐を共にしていた。
屋敷ではなく、町に出て。
貴族らしからぬ行為かもしれないが、屋台で温かいごはんに舌鼓を打つのも悪くないのだ。それに、今年は大豊作。どこの屋台も新鮮で上質な食材を使っているし、各地から料理人たちもやってきているので、どこも美味しい。
串焼き、シチュー、果物。
ああ、もう何個胃袋があっても足りない!
太らないかちょっと心配だけど。
でも、今はこの幸せを楽しみたい。楽しまなければ。
「メイシャ。君が来て、いろんなアドバイスをくれたおかげだよ」
「いえ、そのようなことは……」
「いやいや、収益が倍増したのは間違いなくメイシャの手腕だよ」
取引、という点では優しすぎるこの国は、商売で損をしていたのだ。
私は自分のツテを使って交渉できる人材を呼び寄せ、公正な取引ができるように手配したまでだ。
でも、役に立てたなら嬉しいな。
「メイシャ。ずっと傍にいてほしい」
ふと、私の手を取ってチル伯爵は甘い言葉をささやいてくる。
「はい。私も傍にいますわ」
「ありがとう。二人で歩いていこうね」
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