AIN-アイン-【番外編】盲目のクレアビジョン

雅ナユタ

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雨上がりの街③

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しいなが言葉を言い放った瞬間、突如辺りから眩しい光が点灯する

なにがなんだがわからない

ケンタは咄嗟に腕で目を覆い、光から逃れる
その間複数人の重々しい声が聞こえてくる


「……対⚪︎確認……回⚪︎を……実⚪︎⚪︎ます」

「椎⚪︎様、……⚪︎し⚪︎⚪︎た」

「⚪︎⚪︎が…⚪︎⚪︎で……もどり⚪︎⚪︎う…」


激しくなる雨の音に混ざり、なんて言っているかは定かではない

しかし、彼女…しいなを連れ戻しにきたということは話の流れから推測することができた

「…うぅ……しいな、これ…なんかヤバいんじゃ…」

ケンタはゆっくり目を開け少女しいなを見つめる

そこには

何度も見たはずの彼女の笑顔が輝いていた


「しい…な…?」


しいなの周りにはスーツに身を固めた屈強な男達が取り囲んでいる

しかしそんな状況の中、彼女は落ち着いて、笑顔を見せていた


「え~?帰る?いやだよ~!まだ遊びたいもん!せっかくお外に出られたんだし、もっと楽しみたいもん♪」


しいなはケンタの手を握ると指を目に添え、あっかんべぇのポーズで男達に答える


「わたしは"自由"なのだ~♪」


その瞬間ケンタの視界は揺らぐ


「え?」


ケンタは一瞬、浮遊感を感じ、ふと転びそうになる
ふらつき、顔を上げるとそこは先ほどとは違う景色が目に入った


「あれ?さっきの人達は?」


先ほどしいなを囲っていた男達は煙のように消えていた
そしてすぐに男達が消えたのではなく、ことに気がついた


「うふふ♪ひっくりした?」


「しいな…これって…」


「うん!わたしの!だよ♪」


「……しいなも超能力ギフトを使えたんスか…」


ケンタはびっくりして目を見開く
自分以外の超能力ギフト保持者に会うのは珍しかったからだ

そして、その現実離れした体験に心の底から驚いていた


「いたぞ!!あそこだ!!」


「ん~、しつこーい!ケンタ君、鬼ごっこの開始はじまりだ♪」


男達の声が遠くから聞こえてきたが、しいなは再びケンタの手を握り、そのを使う



「うわぁ!!」

「あはは♪それ~!逃げるぞ~♪」

空間が捻じ曲がりケンタ達は空間を跳躍する

次は歩道、その次は雑貨屋の店舗の屋上、さらに次は停止中の車の上


2人はみるみる男達から離れていき、夜の雨の中を文字通り飛んで逃げていく



どれだけ時間がたったのだろう、雨は上がり、風を切る音が、夜の街に鳴り響いていた
 
いつの間にか少女しいなは一人で超能力ギフトを使い、ケンタは息を切らしながら走っていた

隣では、しいなが笑っている


「ねぇ、ケンタ君っ、こっちこっち♪」
「はぁっ……待つッス、少しは休…」


彼女の姿が、ふっと消える
次の瞬間、ケンタの目の前で空気が歪み、しいなが現れた

「あははっ♪すごいでしょ!」

楽しげに笑う声が、雨上がりのアスファルトに跳ねる
 
今もなお追いかける黒いスーツの男たちの姿を、ケンタはちらりと振り返った


「……ッス、限界スよ! こんなのもう……!」
「だいじょうぶ♪ わたしがいるから!」

再び視界が歪む

その瞬間、街灯が、道路が、人が、次々と光の粒に変わっては消えていく

屋上へ、線路へ、雑居ビルの影へ
瞬きする間に景色が変わった

だが、しいなの足取りは徐々に不安定になっていく

彼女の服の裾が揺れるたび、輪郭が揺らぎ、透けるように薄くなっていた

「!?しいな!!なんかおかしいっスよ!一回止まるッス!!」

「あはは……ねぇケンタ君、わたし、どこまで行けると思う?」

「やめるッス! その力……もう無茶だ!」

「やめる?やめないよ~……だって……楽しいんだもん♪」



 その笑顔が、どこか壊れかけていた

 その時ケンタの目がチカッと光る
 ――“視てしまった”



 彼女の体の中、光が膨張していた


 白いエネルギーが心臓の奥でうねり、皮膚の内側を焼いていく
 その歪な輝きが、まるで世界の裂け目のように見えた

「なんだよこれ……お前の中……燃えてるッス!」

「うふふ……きれいでしょ? これが“わたしの中身”なんだって♪」

「違うッス! そのままだと……消えちまう!!」

だが彼女は止まらない
 
ビルのガラスが砕け、電柱が折れ、逃げ惑う人々が空へ弾き飛ばされていく


「ねぇケンタ君、みんなが消えるの、楽しいね♪」

「やめろッス……!!そんなの、楽しくねぇよ!!!」


叫びながら、ケンタは手を伸ばす
でも、その指先は空を掴むだけで、彼女には届かない





 ――“見えないことって、悪いことじゃないよ”




 あの言葉が、脳裏で反響する
 そうだ、見えることで、守れないものがある
 見えなければ、壊れずに済む心もあったのに


「しいな……ッ、もうやめてくれ!」

「……ケンタ君、わたし、やっと“見えた”よ」

「なにがッスか……!」
 

「この世界の、全部が――きれいだね」


 眩い光が、彼女の体から溢れ出す
 世界が音を失い、光の雨が降り始めた

 街が歪み、ビルが白く滲み、空がひらけていく
 ケンタは必死に手を伸ばした
 だが届かない、光の中で、しいなの笑顔だけがぼやけていった


    閃光


    爆風



   そして、静寂




 瓦礫の中で、ケンタは倒れていた
 頭の奥が痛む 視界が霞む
 手のひらには、まだ誰かの温もりが残っているような気がした

 空から、光の雨が降っていた
 それは“記憶”のように、やわらかく、儚く、消えていく

 パンの香り
 笑い声
 夕日の温もり
 小さな手のぬくもり

ひとつ、またひとつと光が消えるたび、ケンタの瞳からも光が失われていく

「……見えないことって、悪いことじゃないよ……」


 最後に、誰かの声が聞こえた
 まるで夢の残響のように、遠くで笑う少女の声だった


「……し…ぃ……な……」


 光の雨がやみ、世界は静かに夜を取り戻した
 雨上がりの匂いが、どこか切なく漂っていた





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