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「蓮、ほら、前に約束してた花」
丘の上に座ったリアムは、隣りに座る蓮に、手にしていた花を差し出した。それはこの森林の奥にしか咲かない希少な花で、獰猛な獣も多く存在する森の中で探し当てるなど、人狼でもなければほぼ不可能と言っていい代物だった。
「わ。有難う、リアム」
だが、人狼一族最期の純血種であるリアムにとって、森林など子供の遊び場と何ら変わりがない。蓮はそんな彼の大切な番であり、子供の頃から何より大切にしてきた愛すべき人でもあった。
「綺麗だね…あ、嬉しい。根ごと採ってきてくれたんだ?」
「蓮の事だから育ててぇかなと思ってよ…」
男の子だけれど彼専用の雌でもある蓮は、赤ん坊の頃に人里から攫われ、当時3歳だったリアムの番と定められた。
「でっかい目!!ね、これが俺の?」
初めて蓮と会った日の事を、リアムは今でも鮮明に覚えている。
「そうだ。この子がお前の番になるんだ」
まだ当時は生きていた両親と暮らす家に、秘術を施される前の赤ん坊は連れて来られた。
何も解っていない大きな青い目が、覗き込んだ幼いリアムを映して美しく瞬く。赤ん坊は攫われてきた時に包まれていた産着の柄から『蓮』と名付けられ、その日からリアムと共に同じ家で育てられる事になった。
「お前の名前は蓮だ、レ・ン……言ってみ?」
「れ、れ、ん……?」
最初はただ純粋に、同じ家で兄弟の様に育つ小さな蓮が、リアムは可愛くて可愛くて仕方がなかった。だが、大きくなるにつれ彼のそんな感情は、番となる存在への愛しい気持ちへと変わっていったのだ。
その一番大きなきっかけ、岐路となったのが、蓮が雌化の秘術を受けた日であった。
「やだ!!やだよ、リアム!」
「蓮ッ…蓮ッ!!」
蓮が5歳になった年、一族の秘術師によって男の子だった蓮は、リアムの番として人狼一族の『雌』とされた。秘術によって1つの身体に男と女、2つの性を併せ持つ存在へと『転化』させられたのである。
それからすぐに蓮は、村のしきたりによって、長老の家で暮らす事を義務付けられ、リアムとは別々の家で育てられる事となった。
「なんで!?…なんで蓮と一緒に居られねえの?!」
「我慢しろ。リアム、成人して、番の儀式を終えるまでの辛抱だ」
兄弟の様に育ってきた蓮と引き離される事に、リアムは反発し駄々をこねて不満をぶちまけた。嫌だ。嫌だ。一緒に居たい。ずっと蓮と離れたくない。だが、そんなリアムの願いは大人達に聞き入れらなかった。
「これは蓮の為でもあるんだよ…」
「蓮の……?」
後日、それが貴重な雌の1人となった蓮を、万一の事態から保護するためだと、リアムは父から諭された。
ほんの時々いるのだ。満月の夜に、血に狂い、人狼としての誇りも無くし、人としての箍をも外して、手当たり次第に雌を犯し殺す輩が。
そういった者から雌を守る為に、長老の家の近辺には結界が施されていた。
人狼がその本性を、自由に顕現できなくなる呪いが。
「蓮…蓮、会いたかった」
「リアム、俺も」
蓮は10歳になるまでの5年間を、長老の家で軟禁状態のまま暮らし、リアムは長老の家の中でしか蓮と会えないという日々を過ごした。皮肉にもそんな制限された生活が、リアムの中の蓮への想いをより強くしたのである。
「蓮、蓮のはだか、俺好きだ」
蓮か転化した当時、8歳になっていたリアムは、大好きな蓮の身体がどう変わったのか知りたくて、会いに行くたびこっそり隠れて蓮を裸にしたりした。
けれど、見た目には蓮の身体はリアムのソレとまったく同じで、どこが違うのかは表面上さっぱり解らなかった。
「俺もリアムのはだか、好き。凄く、きれい」
それでも、2人は部屋の中で互いに裸になり、触りっこ、見せ合いっこをする。それは、無邪気な子供同士の、好奇心によるじゃれ合いだった。けれど、そうして裸で触れ合う度に、リアムも、蓮も、互いに対する想いが変化していったのだ。
兄弟に対する親愛の情が、男女のそれと同じ情愛へと。
丘の上に座ったリアムは、隣りに座る蓮に、手にしていた花を差し出した。それはこの森林の奥にしか咲かない希少な花で、獰猛な獣も多く存在する森の中で探し当てるなど、人狼でもなければほぼ不可能と言っていい代物だった。
「わ。有難う、リアム」
だが、人狼一族最期の純血種であるリアムにとって、森林など子供の遊び場と何ら変わりがない。蓮はそんな彼の大切な番であり、子供の頃から何より大切にしてきた愛すべき人でもあった。
「綺麗だね…あ、嬉しい。根ごと採ってきてくれたんだ?」
「蓮の事だから育ててぇかなと思ってよ…」
男の子だけれど彼専用の雌でもある蓮は、赤ん坊の頃に人里から攫われ、当時3歳だったリアムの番と定められた。
「でっかい目!!ね、これが俺の?」
初めて蓮と会った日の事を、リアムは今でも鮮明に覚えている。
「そうだ。この子がお前の番になるんだ」
まだ当時は生きていた両親と暮らす家に、秘術を施される前の赤ん坊は連れて来られた。
何も解っていない大きな青い目が、覗き込んだ幼いリアムを映して美しく瞬く。赤ん坊は攫われてきた時に包まれていた産着の柄から『蓮』と名付けられ、その日からリアムと共に同じ家で育てられる事になった。
「お前の名前は蓮だ、レ・ン……言ってみ?」
「れ、れ、ん……?」
最初はただ純粋に、同じ家で兄弟の様に育つ小さな蓮が、リアムは可愛くて可愛くて仕方がなかった。だが、大きくなるにつれ彼のそんな感情は、番となる存在への愛しい気持ちへと変わっていったのだ。
その一番大きなきっかけ、岐路となったのが、蓮が雌化の秘術を受けた日であった。
「やだ!!やだよ、リアム!」
「蓮ッ…蓮ッ!!」
蓮が5歳になった年、一族の秘術師によって男の子だった蓮は、リアムの番として人狼一族の『雌』とされた。秘術によって1つの身体に男と女、2つの性を併せ持つ存在へと『転化』させられたのである。
それからすぐに蓮は、村のしきたりによって、長老の家で暮らす事を義務付けられ、リアムとは別々の家で育てられる事となった。
「なんで!?…なんで蓮と一緒に居られねえの?!」
「我慢しろ。リアム、成人して、番の儀式を終えるまでの辛抱だ」
兄弟の様に育ってきた蓮と引き離される事に、リアムは反発し駄々をこねて不満をぶちまけた。嫌だ。嫌だ。一緒に居たい。ずっと蓮と離れたくない。だが、そんなリアムの願いは大人達に聞き入れらなかった。
「これは蓮の為でもあるんだよ…」
「蓮の……?」
後日、それが貴重な雌の1人となった蓮を、万一の事態から保護するためだと、リアムは父から諭された。
ほんの時々いるのだ。満月の夜に、血に狂い、人狼としての誇りも無くし、人としての箍をも外して、手当たり次第に雌を犯し殺す輩が。
そういった者から雌を守る為に、長老の家の近辺には結界が施されていた。
人狼がその本性を、自由に顕現できなくなる呪いが。
「蓮…蓮、会いたかった」
「リアム、俺も」
蓮は10歳になるまでの5年間を、長老の家で軟禁状態のまま暮らし、リアムは長老の家の中でしか蓮と会えないという日々を過ごした。皮肉にもそんな制限された生活が、リアムの中の蓮への想いをより強くしたのである。
「蓮、蓮のはだか、俺好きだ」
蓮か転化した当時、8歳になっていたリアムは、大好きな蓮の身体がどう変わったのか知りたくて、会いに行くたびこっそり隠れて蓮を裸にしたりした。
けれど、見た目には蓮の身体はリアムのソレとまったく同じで、どこが違うのかは表面上さっぱり解らなかった。
「俺もリアムのはだか、好き。凄く、きれい」
それでも、2人は部屋の中で互いに裸になり、触りっこ、見せ合いっこをする。それは、無邪気な子供同士の、好奇心によるじゃれ合いだった。けれど、そうして裸で触れ合う度に、リアムも、蓮も、互いに対する想いが変化していったのだ。
兄弟に対する親愛の情が、男女のそれと同じ情愛へと。
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