人狼

RINFAM

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「リアム……!!」
「蓮…!」
 森林へと通じる小高い丘の上で、黒い髪の少年がその青い目に待ち人を映して走り出す。見ると丘の麓に見える小さな集落を背に、銀髪に黄金色の瞳の少年が彼に向って駆け寄ってきていた。
「リアム…っ」
「蓮、待たせてすまねえ」
 距離が近付くなり黒髪の少年は、銀髪の少年の広い胸へと飛び込んだ。小柄な黒髪の少年は、包み込まれるように背の高い銀髪の少年の腕の中に収まってしまう。
「蓮……ッ」
「ん…ん、リアム…」
 2人の少年はそのまま抱き締め合い、当然の様に唇を合わせ口付けし合った。しかしそのキスはまだどこかぎこちなく、子供のじゃれ合いみたいに可愛らしいものだった。
「…今日は遅かったね。忙しい?」
「また例の如く、だ。長老が煩くってよ…」
 名残惜しそうに唇を離した黒髪の少年、蓮・ルーカスは、彼を抱きしめたまま金色の目を瞑ってみせる銀髪の少年リアム・ノアを、愛しいものを見る目で下から見上げる。

 視線の先には切れ長の涼しげな眼と、少し厚めの大きな唇を笑みの形に歪める少年の顔。
 その眩しい髪の色と瞳の色とが相まって、まるで太陽の様な印象を与えるリアムの姿は、蓮にとって幼い頃から何よりも尊く愛しい大切なものだった。
 そしてそんな彼を上から見下ろすリアムにとっても、吸い込まれそうに大きな青い瞳と、小さな唇で微笑みを彩る蓮の姿とその存在とは、何にも代えがたいこの世で唯一無二の宝物であったのだ。
 
「また、さっさと子供作れって?」
「そういうこと。発情期もまだなのに、無茶言うよな…」
 やれやれと深いため息をついたリアムは、蓮の黒い髪を優しく撫でて、広いおでこに唇を寄せた。そんなリアムのキスを、くすぐったそうに蓮は受け入れる。
「それだけリアムが期待されているんだよ」
「解ってるけどよ…気が重いぜ…」
「ん、大丈夫だよ。リアムなら。俺、待ってるから」
「ああ。そうだな…蓮、ありがとう」
 会話の間、2人は終始抱き合ったままで、一瞬たりと離れまいとするかの様に身を寄せ合っていた。他人から見ると過剰なスキンシップを交わす男同士の2人だが、実をいうと彼らは、幼い頃から番う事を定められた『人』で云う所の『婚約者同士』なのだ。

 互いにとって生涯でただ1人の『つがい

 一見して男にしか見えない、そして正真正銘の男でもある蓮を、同姓のリアムは番として娶り、時を経ていずれその華奢な少年の身体に、自らの血を引く者を孕ませるのだ。
 そんな人間ならば不可能な事を、『彼ら』一族は秘術により可能としている。
 
 そう、彼らは人に見えて人ならざる者。
月夜に野を駆け、血と満月に狂い、人と一線を隔てて密かに存在する、伝説中の生き物。
半人半狼。人と獣の血を持つ者。

そんな彼らを、人間達は『人狼じんろう』と呼んだ。


 欧州にある小さな国の山奥に、彼ら人狼の住む村はあった。
 世界人口の大半を占める人間達に見付からぬよう、正体を知られて狩られぬようにと、人狼達はこの小さな村の中でひっそりと隠れ住んでいる。
 だが、隠れ里などとは言いつつも、この村の所在地は地図にも載っているし、周辺の人間達からも村として認識されていた。何故なら、文明が未熟だった大昔と違って、科学の発展した現在の世界では、国の行政から隠れ住んで生きるのはほぼ不可能だったからだ。
 それ故、この村に住む者は全員、人間世界で生きる者としての戸籍もあるし、村の住人として国の定めた税金も払っている。
 ただし、人とは異なる獣の本性を知られぬよう、一族は一族の者だけで小さな集落を作り、普通の人間達とは離れて暮らしていた。だから村はとても小さくて、余所者を決して受け入れない。
 30戸ほどの家屋が立ち並ぶ村には、全部で50人ほどの人狼一族が住んでいた。昔はもっと沢山居たのだが、数百年の間にこれほどまでに減ってしまっていたのだ。
 元々、人狼は繁殖期間が異常なほど短い。
 平均して150年もの長い寿命があるのに対して、男女ともに子供を埋めるのはその内の12~3年くらいの期間しかなかったのだ。しかも、彼等の生涯に『番』は常にただ1人だけ。相手が死んでしまうと人狼は、次の番を持たずに一生を終えてしまうのだ。
 さらに、重大な問題がある。
 何故かここ百年ほどの間に、雌の出生率が極端に減ったのだ。というか、この時点で、すでに純粋な雌はもう居なかった。最後の雌は最後の純血の人狼を産み落として、10年も前に失われていたのである。
 そのままにしておけば『人狼』という種は、時を待たずに消えてしまっていただろう。いや、正確に言うなら彼等はすでに滅んでしまった種だった。
 だが、彼等は一族に伝わる秘術によって、人里から攫ってきた赤ん坊を一族の『雌』とし、歪でも何でもとにかく希少なるその種を存続させようとしていたのである。
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