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逆ハーエンドを迎えたその後でモブはしぶしぶ舞台に立ちました②

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 信じる信じないはあなた次第……ではなく、俺が帝国の皇子であることを学園の上層部や王族はもちろん把握している。身分を偽っていた訳ではない。その他大勢に意図的に隠してただけだ。
 分かるだろ、この反応から。え? こいつが皇子? 隣のイケメン(アレク)じゃなくて? って声なき声が聞こえてきてますよ!

 それはともかく、いくらみそっかす皇子でも無闇矢鱈にひっ捕まえることは出来ない。国際問題に発展するし、帝国の軍事力を持ってすればこの国などあっという間に灰燼に帰す。
 俺に対して慎重にならざるを得ないのが王国側の姿勢だ。
 と言っても虎の威を借りるわけでもなく大人しく学園生活を送ってきた俺がいきなりしゃしゃり出てきたのだ。第二王子の不審者を見るような目は甘んじて受けよう。
 

「という訳で、私の友人である彼を捕まえるのはやめていただきたのですが」

「どういった訳か知らないが、私の婚約者に触れている狼藉者であることに変わりはない。こちらに引き渡してもらおうか」

 確かに。どこの誰とも知らない人間が婚約者に触るどころか抱きしめてたら、俺だって物申すわ。婚約者いないけど。
 いやいや。ここで納得したら駄目だ。まだ話は終わってないどころか始まってすらいないのだから。

「ユーステス殿下。庇い立てありがとうございます。私から皆様に説明する機会を頂けないでしょうか?」

 どうやって第二王子を諌めようか考えていると、今の今までアンナ嬢との再会を喜んでいた彼がこっちをまっすぐに見ていた。
 その瞳には迷いもなければ、諦念もない。
 
 強い決意だけが浮かんでいた。

「うん。いいよ」

「……勝手に話を進めないで頂きたいのだが」

 第二王子が右手を額に当てている。
 俺からよりも当事者から説明してもらった方が手っ取り早いと思ったのだが、駄目らしい。

「えーと。まずは彼の紹介を。彼は私の友人であり、母方の縁戚に当たるルート伯爵家の子息リアム・ルート。彼をこの場に連れてきたのはアンナ・ロドリー嬢のためです。他でもないロドリー嬢のために彼の話を聴いてください」

「貴殿は……。まあ、いいだろう。そこまで言うのなら時間を設けましょう。ただし」

 どこか辟易としていた第二王子は勢いを取り戻し彼ーーリアムを睨みつけた。

「アンナを返してもらおう。話はそれからだ」

「お言葉ですが、アンナは物ではありませんのでお返しすることは出来ません」

 第二王子はこめかみをひくつかせ言葉短くガゼル・ロンドに命令した。

「ガゼル。アンナを保護しろ」

「はっ」

 ガゼル・ロンドはどすどすと移動し、アンナ嬢の手を取ろうとした。

「いや! 触らないで!」

 アンナ嬢はガゼルの手をはたき落とし、リアムに力いっぱい抱きついた。

「アンナ、君のためなんだ。大人しくこっちに来てくれ」

「君のため? ふざけないで。わたしの唯一大切なものを奪ったくせに。わたしのためを思うなら、わたしたちのことは放っておいて!」

 アンナ嬢と攻略対象たちの間には共に過ごした時間と絆が確かにあったはずだ。
 少なくともアンナ嬢が一年生の時の卒業パーティーまで彼らは楽しげに過ごしていたと記憶しているし、その後もずっと攻略対象の誰かと一緒にいる姿を見ている。
 なのに今、アンナ嬢が攻略対象たちに向ける感情には憎しみしかなかった。

 ガゼル・ロンドは一瞬怯んだが、今度はリアムに手を伸ばそうとした。アンナ嬢から引きはがすつもりだったのだ。けれど、その行為に激高したのはアンナ嬢だった。

「また、わたしからリアを取り上げるの!? ありもしない証拠を捏造して追い出した挙げ句に今度はどんな罪でリアを捕まえるっていうのよ!」

 
 アンナ嬢はずっとリアムのことをリアと呼んでいる。
 性別の違い、髪色の違いは与える印象を大きく変え、更に成長期を迎えた彼は正しく別人だった。
 ましてや死んだと思っていた人間が再び現れるなど、誰が想像しただろう。

 それでも、会場にいる人間は気づいたはずだ。

 二年前もアンナ嬢は叫んでいた。その声に誰も耳を傾けなかった。

 悪役令嬢リア・ウォールマンの無罪を訴える声を。
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