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Lady C(レディ・シー)
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リオンとの再会は嬉しかったが――セシリアは、自分の今の状況を彼に打ち明ける気にはなれなかった。
大切な幼なじみだからこそ、みじめな自分を知られたくなかった。
リオンの前でだけは、かつての、前向きで溌剌とした自分でいたかったのだ。
ただ、「わが子に自分の財産を一切相続させたくない」という希望だけを伝えた。背景については説明しなかった。リオンも尋ねなかった。
数日後、連絡を受けて、セシリアはリオンと落ち合った。
王都でも有名なカフェのテラス席だ。セシリアも結婚前、よく友人と利用したことがある。
セシリアは侍女のメアリーを連れている。
リオンも、四十代後半と見える秘書を連れてきていた。大柄で筋肉質、眉の太い男らしい顔立ちをしているので、てっきり男性だと思っていたが。声を聞くと、どうやら女性のようだ。秘書はビビと名乗った。
四人でテーブルを囲む。周りの席から距離があるので、話を聞かれることはないが、とても目立つ席だ。
もし誰かに見られても、「伯爵夫人が男と密会していた」などという噂は立てられずに済むだろう。
「これから商務庁へ行って、君と君の弟のアルを発起人とする商会を設立する。勝手ながら、アルの委任状はすでにもらってきてある」
と、リオンが軽い口調で言った。
まったく思いがけない言葉に、セシリアはゆっくりとまたたいた。
「商会?」
「君は、君の所有する領地と、フォレスター侯爵家での相続権を、その商会に出資する。――自分が発起人として出資する場合に限り、相続権を財産権として譲渡できる、というのがこの国の法律だ。つまり、君のすべての財産と相続権は、商会のものになる。しかし、商会は君のものだから、君が自由に処分できる」
「つまり……どういうことなの?」
「簡単に言うと、君のいま持っている土地と相続権は、君のものだ。しかし、将来君に何かあった場合、君の財産もフォレスター侯爵家での相続権も、君の子には引き継がれない。それは、アルが引き継ぐ。君の子が相続できるのは父親の財産だけ、ということだよ」
セシリアにも徐々に事態がのみ込めてきた。
理解とともに、感謝の念が湧き起こってくる。
父母に心配をかけることなく、希望をかなえることができたのだ。
「ありがとう……助かるわ」
リオンはにっこり笑った。
「君が商会を設立するとフォレスター侯爵に話したら、喜んでおられたよ。侯爵は、女性も積極的に社会で活躍すべきだという考えの人だから」
「ええ……確かにそうね。何もかも、ありがとう」
「せっかく商会を作るんだから……形だけのものにせずに……この機会に、商売を始めてみたらどう?」
「え?」
理解が追いつかず、セシリアはぼんやりとテーブルの向こうのリオンを見返す。
リオンは微笑みながらも、真剣なまなざしでセシリアをみつめていた。
「身もふたもない言い方だけど、世の中の困りごとの大半は、経済力で解決できるよ。それに、お金だけじゃない。商売をすれば、人脈も広がるし……なんといっても、自分の才能を生かして働くのは楽しいことだからね。毎日わくわくできる」
「そんな! 無理よ、私には。何も知らない。どうしたらいいのかわからないし……自由になるお金もそんなにない……」
「僕が、商人として、君の才能に投資する。これは、幼なじみだからじゃない。ビジネスの話だ。僕は君を将来有望だと考えている。事業が軌道に乗るまでサポートするから、任せて」
「私の才能? そんなものないわ。楽器は上手だと言われるけど……」
「何を言ってるんだよ。あるだろ、立派な才能?」
二人の視線がテーブルごしにからみ合う。
セシリアの脳内で、稲妻のようにひらめくものがあった。
「薬草の知識」
二人の声が揃った。
セシリアとリオンは、侍女と秘書を伴って、商務庁の事務所へ移動した。
リオンはすでに、必要な書類をすべて用意していたらしい。係官の前で、セシリアは数枚の書類に署名した。リオンが登録手数料を係官に支払い、手続きはあっさりと完了した。
商会の設立。
発起人であるセシリアによる、財産の出資。
彼らは、新しくできた商会の登録証を手に、商務庁を出た。
「Lady C(レディ・シー)……」
セシリアは、登録証に書かれた商会名を読み上げた。
「どう、その名前? 気に入ってくれた? 気に入らなければいつでも改名できるけど……」
「いいえ、素敵だわ。ありがとう」
セシリアがそう答えると、リオンはほっとしたような笑顔を見せた。
これはリオンからの贈り物なのだ、と強く感じる。
商会名を見ると、リオンに名前を囁かれているような気がして、くすぐったかった。
大切な幼なじみだからこそ、みじめな自分を知られたくなかった。
リオンの前でだけは、かつての、前向きで溌剌とした自分でいたかったのだ。
ただ、「わが子に自分の財産を一切相続させたくない」という希望だけを伝えた。背景については説明しなかった。リオンも尋ねなかった。
数日後、連絡を受けて、セシリアはリオンと落ち合った。
王都でも有名なカフェのテラス席だ。セシリアも結婚前、よく友人と利用したことがある。
セシリアは侍女のメアリーを連れている。
リオンも、四十代後半と見える秘書を連れてきていた。大柄で筋肉質、眉の太い男らしい顔立ちをしているので、てっきり男性だと思っていたが。声を聞くと、どうやら女性のようだ。秘書はビビと名乗った。
四人でテーブルを囲む。周りの席から距離があるので、話を聞かれることはないが、とても目立つ席だ。
もし誰かに見られても、「伯爵夫人が男と密会していた」などという噂は立てられずに済むだろう。
「これから商務庁へ行って、君と君の弟のアルを発起人とする商会を設立する。勝手ながら、アルの委任状はすでにもらってきてある」
と、リオンが軽い口調で言った。
まったく思いがけない言葉に、セシリアはゆっくりとまたたいた。
「商会?」
「君は、君の所有する領地と、フォレスター侯爵家での相続権を、その商会に出資する。――自分が発起人として出資する場合に限り、相続権を財産権として譲渡できる、というのがこの国の法律だ。つまり、君のすべての財産と相続権は、商会のものになる。しかし、商会は君のものだから、君が自由に処分できる」
「つまり……どういうことなの?」
「簡単に言うと、君のいま持っている土地と相続権は、君のものだ。しかし、将来君に何かあった場合、君の財産もフォレスター侯爵家での相続権も、君の子には引き継がれない。それは、アルが引き継ぐ。君の子が相続できるのは父親の財産だけ、ということだよ」
セシリアにも徐々に事態がのみ込めてきた。
理解とともに、感謝の念が湧き起こってくる。
父母に心配をかけることなく、希望をかなえることができたのだ。
「ありがとう……助かるわ」
リオンはにっこり笑った。
「君が商会を設立するとフォレスター侯爵に話したら、喜んでおられたよ。侯爵は、女性も積極的に社会で活躍すべきだという考えの人だから」
「ええ……確かにそうね。何もかも、ありがとう」
「せっかく商会を作るんだから……形だけのものにせずに……この機会に、商売を始めてみたらどう?」
「え?」
理解が追いつかず、セシリアはぼんやりとテーブルの向こうのリオンを見返す。
リオンは微笑みながらも、真剣なまなざしでセシリアをみつめていた。
「身もふたもない言い方だけど、世の中の困りごとの大半は、経済力で解決できるよ。それに、お金だけじゃない。商売をすれば、人脈も広がるし……なんといっても、自分の才能を生かして働くのは楽しいことだからね。毎日わくわくできる」
「そんな! 無理よ、私には。何も知らない。どうしたらいいのかわからないし……自由になるお金もそんなにない……」
「僕が、商人として、君の才能に投資する。これは、幼なじみだからじゃない。ビジネスの話だ。僕は君を将来有望だと考えている。事業が軌道に乗るまでサポートするから、任せて」
「私の才能? そんなものないわ。楽器は上手だと言われるけど……」
「何を言ってるんだよ。あるだろ、立派な才能?」
二人の視線がテーブルごしにからみ合う。
セシリアの脳内で、稲妻のようにひらめくものがあった。
「薬草の知識」
二人の声が揃った。
セシリアとリオンは、侍女と秘書を伴って、商務庁の事務所へ移動した。
リオンはすでに、必要な書類をすべて用意していたらしい。係官の前で、セシリアは数枚の書類に署名した。リオンが登録手数料を係官に支払い、手続きはあっさりと完了した。
商会の設立。
発起人であるセシリアによる、財産の出資。
彼らは、新しくできた商会の登録証を手に、商務庁を出た。
「Lady C(レディ・シー)……」
セシリアは、登録証に書かれた商会名を読み上げた。
「どう、その名前? 気に入ってくれた? 気に入らなければいつでも改名できるけど……」
「いいえ、素敵だわ。ありがとう」
セシリアがそう答えると、リオンはほっとしたような笑顔を見せた。
これはリオンからの贈り物なのだ、と強く感じる。
商会名を見ると、リオンに名前を囁かれているような気がして、くすぐったかった。
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